244.ようこそロトワ!
お待たせしました。
問題が一応片付いたので、のんびり日常回みたいな感じですね。
ロトワが家に来ての話となります。
ではどうぞ
「ご主人様、どうぞ」
両手が買い物袋で塞がっている俺に代わり。
ラティアが家のドアを開けてくれる。
「ありがとう――ただいま~っと……」
玄関に入ると、元気な声と共に。
パタパタと駆ける足音が近づいてきた。
「――あっ、お館様!! お帰りなさいませ!!」
「おうロトワ、ただい……ま!?」
出迎えに来てくれたロトワの姿に驚き、思わず二度見してしまう。
が、直ぐに目を逸らした。
……そう、二度見するのがマズいような服装をしていたからだ。
具体的には下着姿で。
しかもその下着の内容がまた酷い。
「――お帰りご主人、ラティアお姉ちゃん!」
「隊長さんもラティアも、お帰り」
遅れてルオとレイネが玄関に。
二人の髪が若干濡れていることから、犯人はどちらか、あるいは両人だと察する。
「これ、他の無かったの!? 完全にラティアが着けるような下着じゃないか!?」
そう、ロトワが身に纏っていたのは、明らかに年齢の幼さとは不釣り合いなほどアダルティな肌着だった。
黒く扇情的で、ただでさえ生地面積が小さいのに。
胸やお尻に何用に使うのか分からない穴が開いているのだ。
……ええい、ラティアは今の発言を意味深な笑みで吟味しない!!
「え? うん。だってずっと尻尾をパンツに入れっぱなしも可哀そうでしょ? だから、ボクがラティアお姉ちゃんの【影絵】の時に使う奴、あげたんだ!」
欠片も問題など無いというようなその反応に、思わずがっくり来る。
レイネは……。
「いや~! 風呂で触らせてもらったけどさ、凄いフワフワなんだよ、ロトワの尻尾!」
「えへへ、あんまり言わないでレイネちゃん、照れますです……――あっ! お館様、お風呂、凄かったです! お湯も沢山で、ふわぁぁってなりましたです!!」
……そう、早くも仲良くなってくれたんだね、うん、俺も嬉しい。
「はぁぁ……そか。分かったから、ちゃんと服着てきなさい。風呂上りなんだろ? 風邪ひくぞ」
うん、俺が気にし過ぎたんだ、やめだやめ。
俺の言葉を受け、ロトワはまるで秘密厳守の重要な命令でも聴いたかのように表情を硬くする。
「わ、分かりましたです……。ロトワは、ロトワは……! お館様の御言いつけ通り、服を着てきますです!」
お前、今からどこかの生存率1%くらいのダンジョンにでも挑むの?
生死を賭けた闘いにでも向かうような表情してんぞ……。
「ああ、はいはい。行ってらっしゃい。――レイネ、頼むな?」
「ああ! 任せてくれ隊長さん。――うっし! じゃあロトワ、着せてやるから、脱衣所にもっかい行くぞ?」
敬礼姿勢のロトワ、そしてそんなロトワを歓迎するかのようにはしゃぐルオを連れ。
レイネは再び脱衣所へと戻って行った。
「はぁぁ……帰って早々にドッと疲れたぞ」
今夜の夕食、ロトワの歓迎会用の食材等を冷蔵庫に詰めながら溜め息。
「フフッ、お疲れ様です。でも凄いですよね、ルオもレイネも。もうロトワと仲良くなってて……」
脱衣所へと視線を向けつつ、俺に買った物を手渡しながらラティアはそう口にする。
「だな……――俺達が買い物してる間に、何かあったのか、リヴィル?」
一人ソファーで寛いでいるリヴィルに話を振ってみた。
あの後、俺とラティアは買い物をし。
一方ロトワを先に家へと向かわせるために、リヴィルとは別れたのだった。
「うーん……まああったと言えばあった、かな?」
珍しく疲れを滲ませた表情で、リヴィルは言い渋る。
というか、脱衣所の方向を気にしていた。
「……? リヴィル?」
心配したラティアが呼びかける。
するとリヴィルは声を抑えて、手短に告げた。
「……簡単に言うと、“反勇者同盟”に一人新入りが加入、かな」
「あぁぁ~……」
「なるほど……」
それだけで、ロトワとリヴィルが先に帰った後、どういう状況だったかが想像できた。
まあ、思ってた以上に早く打ち解けてくれたんならいいけど……。
「ただ、カンナの評価は一気に上がってたから、何とも言い辛いな、と思って」
「へぇぇ……」
要するに、今回の一件で織部がロトワ救出に大きく尽力したことが評価されたってことか。
ならそれは良かった、かな。
レイネに関しては、妹さんがもう織部の事情を知ってくれている。
意外に織部の事情をルオやレイネに話せる日も、そう遠くないのかもしれないな……。
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「ふぁっ!? ふぁぁぁぁ!! なっ、何ですか!? この豪華なお料理の数々は!? 今日、ロトワは死んでしまうのでしょうか!?」
「フフッ、死にません。ロトワ大袈裟ですよ? 今日はロトワの歓迎会ですからね、ちょっと頑張っただけです」
ラティア含め、皆でロトワの反応に笑みをこぼす。
皆、家に来た当初は同じ様な道をたどって来たからな……。
「まあでもさ。誰かさんも似たこと言ってなかったっけ? ねぇレイネ?」
「はぁ!? んなっ、だっ、誰が!?」
また笑い声が起きる。
ロトワだけは何のことか分からず、視線を右へ左へとさせていた。
でも……それでいいんだ。
「……これからだ。ロトワも、沢山思い出作ってけばいいんだよ。未来なんてそうやって作ってくもんだ」
「お館、様……」
――ブワッ
「ちょっ!? 何でまた泣くの!? えっ、これおめでたい席だから!! 俺だけ一人肩身狭くなるから、ね!? だから泣き止んで!!」
「うぐぅ、ひっぐ……お館様、ロトワ、ロトワ……今日の、こと、お館様、から頂いたお言葉も全て、一生忘れない所存で、あります!」
じゃあお願いだから泣き止んでぇぇぇえ!!
「もう……ご主人は全く……」
「ああ、隊長さんは本当にもう、仕方ないよな……へへ!」
君らも嬉しそうに笑いながら放置してないで、一緒に宥めてぇぇ!!
「むぐっ、もぐっ、んぐっ――美味しい! 凄く美味しいです、どれもこれも!! やはり今日ロトワはこのまま天に召されるのでしょうか!?」
そんなことを言いながらも、食べ物を口に運ぶフォークを止めない。
リスみたいに頬一杯になるまで詰めては、至福の時を味わうみたいに噛み締める。
フフッ、だから言ったろ?
幸福攻撃が早くも効いておるわい。
食べ過ぎて腹痛でも起こすがいい!
「ほれっ、まだまだあるからたーんと食べな?」
特にロトワが一口で“人生最上の好物”だと言ったいなり寿司を取り分けてやる。
俺の分もどんどんロトワの取り皿に移すと、それだけでロトワは目を一杯に見開いた。
「んぐっ――お、お館様、よ、宜しいのですか!? これほどのおいなりさんを、ロトワに!?」
“いなり寿司”を“おいなりさん”と呼ぶことに一瞬、疑問符が浮かんだがスルーした。
「ああ、しっかり食べないと、大きくなれないからな?」
フフフッ、お腹がはち切れんばかりに食いまくって、腹痛になって後悔するがいい!
「で、ですが……」
「ほらっ、ご主人様がこう言って下さってるんです」
迷っているロトワに助け舟を出すように、ラティアが微笑みかけた。
……今一瞬、その目に怪しい光が走ったような。
「それに……フフッ、ご主人様のおいなりさんは他より美味しいかもしれませんよ? 何と言ってもご主人様のおいなりさんですから」
「お、お館様の、おいなりさん……ゴクリっ」
……うん、ラティア、そこに違うニュアンス混ぜ混ぜしてる?
チラッと他の反応を窺うと――
「……まあ、良いんじゃない?」
「? えっ、ご主人のとボクらのって、そんなに味違うの?」
「ばっ、バカッ、ラティアお前、しょ、食事中に、何言ってんだ!?」
ですよね!
多数決でラティア、アウト!!
「……ラティア、ケーキの準備・切り分け役な」
「ウフフ……分かりました。では早速準備いたします」
不満も抗議の声もなく、ラティアはすんなりと受け入れた。
やはり確信犯か……。
これから大丈夫か?
ロトワの情操教育に、ラティアが悪影響を及ぼさないか心配になってきた……。
「? “けぇき”? お館様、まだ何かあるのですか?」
可愛らしい発音で尋ねてきたロトワに、笑顔で返しておいた。
「まあ後のお楽しみだな。さっ、俺のやるから、好きなだけ食べるんだぞ?」
「? はい!」
「――ご主人様、用意できました」
少し経ち、ラティアが戻って来た。
上手くホールのショートケーキが切り分けられ、皿に盛られている。
それを盆に乗せ運び、各自の前に置いていく。
全てを配り終えると、ラティアも再び席に着いた。
「……こ、これは、何ですか!? この面妖な白い物体は!?」
「ははっ、だから、これが“ケーキ”だって。食べてみ、美味しいぞ?」
俺に促され、ロトワはゴクリと唾を飲み込む。
しばし目の前に置かれたケーキとにらめっこを続ける。
そして意を決し、フォークで一欠片ほど掬い上げ、口に運ぶ。
すると――
「――はぅわっ!? はわぁぁぁんっ!!」
どこからそんな声出してんの!?
えっ、ロトワって10歳だよね、なのにケーキ食べてその色っぽい声が出るの!?
凄いね!?
しばらく蕩けた顔をしていたロトワは我に返り。
首をブンブン振って、今度は体をブルブルと震わせた。
「こ、これは……いけません!! 食べてはいけないものです!!」
「えっ、ロトワ、大丈夫? これ、ケーキだよ?」
ルオが手本を見せるように、自分もケーキを一口食べる。
「……うん、甘くて美味しいね!」
「行けませんよルオちゃん! ――皆、お館様も、これは口にしてはいけません! 人をダメにする食べ物です!!」
凄い言い様だな……。
「ケーキが、人をダメに……フフッ、フフフ……」
「お、おいバカリヴィル、止めろって、ロトワだって真面目に言ってくれて――あっ、ダメ、笑いが……」
「も、もう……レイネだって笑っているじゃありませんか……フフフッ」
普通にケーキを食べているルオを除いて、ロトワのリアクションがあまりにも可笑しく、皆笑いを堪えるのに必死だった。
「えーっと……どうダメなんだ?」
「お館様、これは魔性の食べ物です! 人の舌に触れたが最後、いきなり得も言われぬ甘さで脳を攻撃してきます! 食べてはいけません、きっと人を堕落に導く毒物なのです!!」
要するに、あまりの美味さに舌が蕩けそうだった、と?
……フッフッフ。
「あっ、ご主人、悪い顔してる」
こらルオよ、人聞きの悪い。
俺はあくまでもロトワに少しでも幸せになってもらいたくてだね……。
アレルギーとか苦手だとかなら勿論引いたさ。
だがロトワのさっきの、そして今の顔が。
言葉よりも雄弁に語っているのだ。
“ケーキ、美味しすぎる!!”と!!
「――そうかそうか~じゃあロトワ、俺のケーキ食べてみてくれないか?」
「え゛」
俺は笑顔を浮かべながら、自分の皿のケーキにフォークを入れる。
そして半分に切った物を、ロトワの皿へと移した。
「そ、それは……その……」
ロトワ、饅頭怖いならぬケーキ怖いでも、俺は良いんだぜ?
「ロトワが食べたのが特別甘かっただけかもしれないぞ? ほらっ――」
俺はそう言って、自分の残り半分をパクっと一口で食べた。
「……ゴクッ――うん、普通に美味しいけど? 少なくとも、俺の奴は大丈夫だって。ほらっ食べてみな?」
「う、うぅぅ……」
何のリアクションも示さず食べられる光景を見せられ、ロトワは窮地に陥る。
フフッ、もう食べる以外、選択肢はないんだよ。
甘い物の魅力に嵌って、さっさと普通のどこにでもいる女の子女の子しちまいな!!
「……はぐっ!!――んんん~~~!! ふわぁぁぁぁ!! お、お口、とろけちゃうですぅぅぅぅ!!」
「フフ、ロ、ロトワ、大丈夫、ですか?」
「ロトワ、何、それ、可笑しい」
「クスッ、ロトワ、顔まで蕩けちゃってるよ?」
「あは、あははは!! やめてくれロトワ! ああ可笑しい、お腹痛い!!」
家の中は笑いに包まれた。
ロトワのおかげで、更に賑やかさが増したみたいだ。
最初はどうなることかと思ったが。
どうやらこれから6人でも、ちゃんと上手くやって行けそうだ。
これで5章は終了ですね。
次話から、あるいは1つ閑話か何か挟んで6章開始ということになります。
どうするかは……ちょっと考え中です。
もしかしたら1日休んで、直ぐ6章行くかも。
まだ分かりません!
ふぅぅ。
キリの良いここまで書いたので、多分感想の返しの時間も取れると思います。
明日から少しずつ返していける……はず!
 




