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241.ロトワとタルラ。

お待たせしました。


やっぱり丸々一話、ロトワの過去話になりました。

ただこの一話だけで第三者視点も終わらせましたので……ご勘弁を!






□◆□◆Another View ◆□◆□ 



『――さぁ! 私の未来はどんなものだった!? どうすれば成功出来る!? 教えてくれ!!』



 10年後の未来のロトワを呼んだ時。

 そのロトワにかけられる第一声は、殆どがこれだと言っていい。


 勿論、細部の表現、言葉遣いはそれぞれ異なる。

 しかし、ロトワはタルラ以外から、これと違う趣旨の声を掛けられた記憶がなかった。



時神(ときがみ)様が授けて下さったのね……フフッ、ロトワ。私達の可愛い可愛いロトワ……』 



 ロトワは大陸の遥か東にある島国で生を受けた。


 時の神を祀る神社。

 そこの神職を務める狐人(フォクスト)の両親から生まれ、愛された。


 ロトワも巫女としての才を見出される。

 両親や地域の住人の期待に応えるべく、幼く右も左も分からないなりに精一杯に頑張った。




『いいかい、ロトワ……巫女は未来の自分を呼ぶことで、時神様の御意思を、代わりに皆へお伝えするんだ――』

 

『“みらい”の……じぶん? “みらいのロトワ”?』 



 当時のロトワも、そして10歳になった今のロトワも。

 膝上に自分を乗せて語ってくれた父の言葉の意味を、正確には理解できていなかった。



『ああそうだ。“未来は未来。道標にはなるが絶対じゃない”時神様の言い伝えだ……でも、まだ流石に難しかったかな? ……ロトワにもいずれ分かる時が来るさ』



 だがそれでもいいんだと、ロトワの父は優しく笑んだ。

 ロトワもそんな優しい父や、温かく見守ってくれる母が大好きだった。




 ロトワを取り巻く状況が一変したのは、そんな穏やかな記憶の日々からそう遠くないとある日。


  

『ロトワを連れて行く……ということですか?』


『ああそうだ。何も特別なことをせよと申している訳ではない。ただ付いてくるだけでいいのだ』



 当時、国内は戦乱の真っ最中だった。

 ロトワの住む地域の統治者は、内外の政争を有利に進めるため海を渡ることを決める。

  

 渡った先にある大陸の大国と手を結ぶ、その方策を探るためだ。

“付いてくるだけでいい”とは言うものの、ロトワの力を利用するつもりなのは明らかだった。

    


『しかし……』



 代官が引き連れて来た大勢の兵が見えていても、ロトワの父は何とか抵抗の意思を示す。

 だが、そこで声を挙げたのはロトワ本人だった。

 


『――ちちうえ、ロトワはいってまいります』


 

 ここで自分が断れば、両親だけでなく周辺に住む親しい住民たちにも危害が加わるかもしれない。

 具体的にそうした想像が出来たわけではないが、何となく周囲のピリついた雰囲気からそんな未来を察したのだ。

 


『……そう、か。ロトワ、すまない――』 



 他にも別れの挨拶などはあったが、ロトワが覚えている父の姿は、それが最後だった。





 それから使節団と共に海を渡ったロトワは、未だ故郷の土を踏むことは出来ないでいる。



 上陸して王都を目指すまでは何事も無きを得た。

 しかし、そこからまた不運が続いた。

 


 今も当時も大陸の大国として大きな存在感を示している王国。

 その足下を盤石のものとするために、毎年頭を悩ませていた異民族の征伐が行われていた。


 それに巻き込まれたのだ。

 

 そこからは生きるために、各地を転々とした。

 勿論、ロトワの能力に気付いてそれを利用しようと近づく者とも多数出くわし。



『……過去(いま)(ロトワ)。これからどうすべきかは、未来(さき)(ロトワ)が教えるから……頑張って』



 乱発できるわけではない、“未来”の自分を呼ぶことによって、事前に生死の危機を回避したりもした。



 そして時は巡り、再び王国と異民族の同じような戦闘が近くで行われた。



 未だ自分の役目・果たすべきことも具体的に分かるわけではない。

 そんなロトワでも、その激しい戦いを直に目の当たりにした時は死を覚悟した。




「――危険、ここは。巻き、込んだ……どう、すれば……大、丈夫?」




 そんな不幸中でも。

 幸いと言えたのは、その後、今まで続く仲となるタルラと出会えたことだった。

  


 当時、タルラの出身部族はこの討伐対象の異民族とは別で、既に王国へと併合されていた。


 新入り・外様(とざま)が戦場にて前線近くに立たされるは世の常。


   

 だがそれが、ロトワとタルラの出会いを生んだのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「タルラちゃん、メッ、ですよ! 良くないです! ロトワ、怒っちゃいますよ!」 


「ムっ……理不尽。落ちた、としても、食料は食料。食べない、ともったいない」


「むわぁぁ!! それは“落ちた”で済ませていいレベルじゃないです!! もう泥んこ塗れじゃないですか! 食べたらお腹痛い痛いですよ!?」



 タルラに拾われ、(かくま)われる形になったが、二人は直ぐに意気投合し、やがて無二の親友となった。



 タルラは異民族の中でもとりわけ強く。

 子供ながら、その異常な戦闘能力の高さが目立って、孤立していた。



 ロトワも知らない異国の地で、同郷の使節団も散り散りになり。

 そんな中、自分と変わらない年頃、そして境遇に共通点を持つタルラに親しみを覚えた。


  


「……うぐっ、ひっぐ……ロトワは、ロトワは感激です……タルラちゃん、大手柄を立ててのご帰還ですよ……」 


「ムゥ……大袈裟(おおげさ)。相手、はただの魔物の群れ。魔族、が率いてるわけでもない、ただの雑魚、の集まりなのに……」

  

 

 タルラは軍に従事し、ロトワはその帰りを甲斐がいしく待つ。

 幼いながらも圧倒的な力を持って戦果を挙げ、必ず自分の下に帰ってきてくれる。


 そんなタルラを、ロトワはとても信頼し。

 家族同様の愛情を持つのに時間はかからなかった。




「不安……ロトワ、タルラ、のこと、怖くない? 王国の市民、同族も、皆、タルラ、怖いって言う。タルラの強さ、力、怖く、ない?」


「……全然、全く、これっぽっちも。――タルラちゃんは凄いんです! ロトワをいつも守ってくれて、それに……ロトワの“力”を知っても、変わらずにいてくれて……」



 タルラも、自身の存在そのものに苦しんでいた。

 周りを傷つけ、そして時には簡単に命を奪う力を秘めた、その小さな身に。


 心無い言葉を投げかけられ、恐れられたことも数えきれない。

 そんな中、ロトワは自身を恐れず、そして家族同然に接してくれたのだ。

 

 幼い頃に家族、親しい者から与えられるはずの温かみが得られず、凍えるその心に。

 ロトワが与えた優しさの温もりは、タルラにとってどれ程その心を溶かし温めたことか……。



 また物心ついたロトワにとって、タルラは初めて自分自身を見てくれた人物だった。


 この大陸に来て、いや、来る前からでも。



『――さぁ! 私の未来はどんなものだった!? どうすれば成功出来る!? 教えてくれ!!』



 ロトワの能力に気付いた者がかける言葉は、この一通りだけだった。

 ロトワを見ているようで、実はその奥にある未来の知識・情報しか見ていない。


 そんな欲に突き動かされた人間を何度も見て来た。



 大陸に来て以来、人間不信になってもおかしくない経験しかしてないロトワに。

 信じるべき純粋な心があることを示して見せてくれたのがタルラだったのだ。

  

 

 互いに互いの空いた隙間を埋めるように、二人は支え合ってきた。

 ……その守るべき温かな日常も、永遠には続かなかった。 





「――えっ、“五剣姫”就任、ですか? おめでとうございます! ロトワ、嬉しいですよ!!」


「……う、ん」



 その凄まじい戦場での活躍振りを評価され、タルラは名誉ある“五剣姫”へと抜擢(ばってき)される。 

 

 当初は気が乗らなかったタルラも、ロトワの喜び様、勧めを受け就任を決めた。



 ……だがそこから、一気に日常は音を立てて崩れ始める。

 

 

 戦闘においては他の追随を許さない程の実力者であるタルラ。

 しかし、殊に“政争”においてはからっきし能力が無かった。



 政務に時間を削られ、心身共に擦り切れる毎日。

 それに伴って、二人が擦れ違うことも増えていった。


 五剣姫に貸し与えられる特殊な“剣”の能力により、何とか体の自由が出来る目途を付けたものの、時既に遅かった。



 日々増えた政務も、何故か頻繁に王都へ呼び出されるのも全て、他者から仕掛けられた政争。

 成り上がり・異民族出身ということが気に入らない、そんなことで知らず知らず敵を作ることも多かったのだ。


 

 それに巻き込まれる形で、タルラが疲弊しきった隙を付かれ。


 ロトワは攫われてしまったのだった。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「…………」

 

 

 ――ロトワはこのまま、“あの女性”に買われてしまうのでしょう。



 そうして現在。

 オークション会場袖、待機場所で拘束されているロトワはそんな未来を悲観していた。



 視界には入っていなくても、ロトワは“未来の自分”を呼んだ際、そんな未来を既に見て知ってしまっていた。


 フードを被った若い女性。

 その女性が買い取った先、連れていかれるのは“勇者の男性”の下。 

 

 だがそこに、ロトワにとっての明るい未来はなかった。



『へへっ、ロトワ。未来が見えんだろ? マジでチートだよな! ガンガン教えてくれよ、俺が異世界で無双して、チーレム築けるように! 勿論、ロトワもその内の一人だからな!』


 


 ロトワの能力は、蓄積した魔力を消費して、10年後の自分を呼ぶことだ。


 未来の自分がどれだけ細かい未来の知識を持って来られるかは、その魔力量に依存する。


 ただ、未来のロトワを構成する体、能力、そして知識の順に未来から連れて来ることになる。 


 なので、未来の知識を欲するなら、幼く魔力量の少ないロトワは相当の長期間に渡って魔力を貯蓄しないといけない。



「タルラちゃん……」


 

 最後の希望をと、誘拐されてからずっと使わなかったその能力を使った。

 貯めに貯めた魔力を消費しきって。


 そして、未来の自分が教えてくれた未来。

 それは、勇者に飼い殺され、その欲求を満たす道具になり果てる未来――タルラとの永遠の別れを示していたのだ。



 

 ロトワの胸中を絶望が埋め尽くす中、オークションが始まりを告げたのだった。




□◆□◆Another View End◆□◆□ 

ロトワはこのまま勇者(男)に連れていかれる未来となるのか!?

織部さんが奮闘してそんな未来を否定するのか!?


目が離せない『勇者少女ブレイブカンナ』第242話!

“そんな未来認めない、私がブレイブだぁぁぁぁ!!”



……ごめんなさい、冗談です!

ちょっとストレス感ある内容が続いたのでね、うん。


次話でオークション、そしてロトワを狙う様々なしがらみからも決着を付けましょう!


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― 新着の感想 ―
[一言] やはり、勇者とブレイブって 意味が違ったんですね 広辞苑を修正せねば_φ( ̄ー ̄ ) しかしながらまぁしょせんは、俄か勇者 真の訓練された勇者織部卿には敵うまい そして、それを裏で元締める…
[一言] 様々なしがらみから決着をつけるなんてやっぱり新海さんにしか出来ませんよね! ブレイブカンナ?知らない子ですね。
[気になる点] ちょっとメタいけどロトワのためにまるまる一話を使うなんてやっぱり……… 異世界にも三秒ルールみたいなものってあるんですね……
2020/07/20 01:50 え~シィー
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