240.このままじゃ……!
お待たせしました。
どうもここ近頃、体調が優れず。
執筆に限らず、日常やらないといけないことにも全く力・やる気が入らない日々でして遅くなりました。
ではどうぞ。
『……やはり先程の騒動で、警備が更に厳戒態勢になっている。ただでさえ厳重だったのに、これでは……』
外の見回りから再び戻って来たシルレの報告を聞き、重苦しい雰囲気が流れる。
この件で一番関心が高いだろうタルラの判断を、皆が見守り待った。
『――変更。仕方ない、実力行使で、ロトワ、の救出、諦める』
その言葉に、衝撃が走る。
苦渋の表情を浮かべるタルラはしかし、異論が出そうなのを感じ取ってか素早く首を振った。
『誤解。何も救出そのもの、を諦める、わけじゃない。出品前に連れ出す、のが難しい、以上は正攻法、で行く』
『……つまり、“買いに行く”と?』
織部の言葉を受け、タルラはその通りだとコクっと頷く。
『正面突破。“闇市”、のルール。“欲しい物は、金で買え”。それでロトワ、を助ける』
なるほど……。
目玉商品となるだけあって、ロトワを競り落とすのは並みの資金力では難しい。
お金を掛けずに連れ戻せるならそれに越したことはなかったんだろうが、こうなっては仕方ない、ということか。
『わっかりました! 任せてください! この織部柑奈、伊達に一女子高生だったのに勇者として異世界に来てませんよ!』
“一女子高生”……内側にあんな本性が潜んでいた奴の使う言葉かね……。
ギロッと鋭い視線が飛んできたので、話を逸らすべく違うことを尋ねた。
「……本当に大丈夫なのか? 裏の世界の競売・オークションって法外な金を使うんだろ?」
『フッフッフ! 新海君、私が今まで単に異世界での生活を満喫していただけだと、いつから錯覚していましたか?』
うわぁぁ……。
自分から振っといてあれだが、やっぱ面倒臭ぇぇ。
それっぽい聞いているフリをして、適当にうんうんと頷いておく。
『“異世界に勇者として召喚されたけど、気分が乗らないので辺境でスローライフを謳歌します!”ってなっても行けるくらいのお金を稼いでますよ、私!』
へぇぇ、凄ぇ。
そんな人気ラノベのタイトルみたいな生活を送れる程に、織部の奴は金持ってんのか……。
もういっその事、世界を救った後もそっちで暮らしてみては?
『まあカンナ様は、曲がりなりにも最近Sランク冒険者になりましたからね……』
……サラ、俺達の知らない間に相当な苦労をしてるんだろうな。
悟った表情で“曲がりなりにも”なんて告げるサラが何とも不憫に思えてならない……。
「まっ、じゃあ分かった。何かあったら言ってくれ。惜しまず物資は転送するから」
『ありがとうございます! 絶対に救い出して見せますよ!』
それで俺達を交えた作戦会議は終了となった。
オークションで購入することによって助け出すとなれば、本格的に俺達の出る幕は無さそうだからな……。
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「……大丈夫でしょうか? 無事に成功すると良いのですが」
「だなぁ……」
ラティアの言葉に答えながらも、どこか引っ掛かりを覚えて仕方がない。
ロトワのその特殊な力からすれば、確かに競合相手は大勢いるだろう。
でも織部は勇者だ。
勇者でなければできないような依頼をこなして得た蓄えも、あの自信だ、きっと沢山あるんだろう。
そこには、単なる金持ちとは一線を画す資金力があるはずなのだ。
加えて、金がありそうなシルレ達五剣姫の4人もが共同戦線を張っている。
だから勝算は十分にある……と思うのだが。
「まあもう直ぐオークションも始まる。後は織部達に任せて、何かあったらメッセージを送ろう」
「ですね……」
…………。
「……リヴィル、どうした、何か気になることでもあるのか?」
俺と同じ様に、何か引っかかる部分でもあるのか。
織部との通信が終わってから、リヴィルはずっと無言が続いていた。
「……うん、ちょっとね」
俺の目をじっと見て来たリヴィルは、そこから上手く言葉に出来ない引っ掛かりを汲み取ったように頷いた。
「ねぇ……――オークション、競りってさ、要は一番高いお金を払うって言った人が買うってことだよね?」
「ああ……それが?」
認識が間違っていないことを確認すると、リヴィルはその表情を険しくさせた。
そしてもう一度、今は何も無くなっている、あの鏡があった場所へと視線を移す。
「カンナ達だけじゃ……もしかしたら競り勝てないかも」
「嘘っ――」
「えっ――」
リヴィルの言葉に、ラティアと揃って驚きの声を上げる。
だが内心、俺も理由は分からないがその懸念を共有していた。
何故か、そこは分からない。
だが、織部達の障害となる何かが出てきて買えないんじゃないか、というモヤモヤとした違和感があったのだ。
その正体を掴もうと記憶のあちこちを探していく……。
が、そこで出てくるのは何故かこの場には居ない“ルオ”と“レイネ”の二人ばかりで……。
……どういうことだ?
「……“勇者”として稼いだ資金力を武器に買おうとするんならさ。さっき、カンナ自身が言ってたよね。もう一人、明確な対抗馬が出てきたってこと」
そのリヴィルの言葉で、今まで抱いていた違和感の正体を掴んだ気がした。
――そうだよ、“勇者”だ!
俺はそれに気づくや否や、ラスト1回しか残っていない“鏡”の使用を躊躇わなかった。
500DPを注入する間すら惜しく感じる。
「くっそ、そうだ……ルオやレイネの話に出る奴ともし同じ“勇者”なら、そりゃ何が何でも手に入れようとしてくるだろっ!」
自分で呟きながら、その言葉を自分で聞いて更に確信を強めた。
わざわざ厳重な警備がされている牢獄まで出向いたんだ。
“勇者”本人がその騒動で動けないにしても、オークション参加は別に勇者本人でなくてもいい。
協力者――勇者御一行なるものがあるのかは知らんが、織部と同じく“勇者として稼いだ資金”を預けて、そいつに参加して貰えば事足りる。
強硬手段に打って出たからと言って、正攻法を取れないとどうして決めつけたのか!
「……心配が杞憂だったらいいけど」
隣で同じように思い過ごしを願うリヴィル。
だが半ばその表情は、自分の想像が当たっているだろうことを確信しているようにも見えた。
……俺も多分、そんな感じの顔をしていたと思う。
「……あっ、出ました!」
俺達のやり取りで不安を覚えたのだろうラティアが、前方を指差す。
放たれた光の眩さに目を細めつつも。
少しでも雰囲気を良くするためか、明るい声を努めて出しているようだった。
光の収束した後の鏡を3人で注視する。
この鏡は別に、俺達が望むようなロトワの光景を映してくれるものではない。
その時々によって過去・現在・未来、ランダムにロトワに関連した映像が流れるだけだ。
そう把握していた通り、当初はおそらくロトワの過去、幼い頃の様子が映し出された。
「……この国――日本に似た雰囲気の場所だね」
「……ええ。噂程度ですが聞いたことがあります。私達がいた大陸の遥か東――“ヒノモトクニ”なる島国がある、と」
鏡に現れたロトワは更に幼い少女で、どこかの神社らしきところにいた。
両親と思われる狐人と幸せそうに暮らしている。
「…………」
確かにこの光景、“日本”と類似した異世界の地の情報は知りたい。
が、それは今ではなかった。
今欲しいのはそうじゃなくて、現在進行形、あるいは未来のロトワだ。
「――っっ!! これっ!!」
鏡面が変化する。
リヴィルが叫んだ。
そこは、大勢の人が詰めかける、どこかの会場。
その中央に、ロトワがいた。
手足を鉄錠で拘束され、首輪に通った鎖でその場に繋がれている。
「オークション会場です! えっ、これ、もう始まってますか!?」
ラティアの声に答える前に、俺はDDでメッセージを飛ばす。
既にオークションが始まっていれば、通話は難しいだろうが……。
「返信来たぞッ!」
俺達の切迫した状況などお構いなしに、鏡面ではオークションが進んでいた。
大勢が手を挙げ、指を動かし、ロトワの競りが進んでいく。
中でも仮面を付けた織部と一人の女性が争っていた。
「カンナ、何てっ!?」
珍しく焦ったリヴィルに急かされながら、俺も急いでメッセージを開く。
『何かありましたか? 正に今からオークション開始ですよ?』
その一言を見て、思わず3人でホッと胸を撫で下ろす。
「……ということは、これはつまり近い“未来”を映してる、ということですね?」
ラティアの言葉に引っぱられるように、DDから鏡へと視線を移す。
その“近未来”を表した鏡は、丁度オークション佳境へと入っていた。
最終的に、織部と一人の女性との一騎打ち。
織部は懸命に値上げを叫ぶも、女性の最後の吊り上げに、惜しくも屈してしまう。
ロトワは織部ではなく、その女性に買われてしまったのだった。
「つまりこの先。今のままだとこうなる……ってことだよね?」
「…………」
リヴィルの言葉に、答えることが出来ない。
俺達がそのまま眺め続けた鏡は更に。
その先のロトワの行く末を描いていた。
同性であるその購入者に買われるのなら、そこまで悲観することもないのでは……そう思ってしまう程、ロトワは絶望に染まった表情を浮かべている。
そしてそのロトワが女性に連れていかれたのは……。
「――“勇者”……かよ」
欲しいモノが手に入って野心が一つ満たされたというような、そんな下卑た笑みを浮かべたあの“勇者の男”の下だった。
多分、次に第三者視点を入れて、ロトワの過去も語った後、本当の現在のオークションが佳境となります。
何とか1話で終わらせられるように頑張りますが、念のため2話あるかもと見ておいてください。
感想の返しは……すいません、また時間を見つけて、その時にさせてください。
うーん、まだクーラーは使ってないから夏バテ、なのかな……?




