238.鏡に映るのは……誰?
お待たせしました。
本当にすいません、更新がドタバタして。
今後も似たようなことが続くと思いますので、気長にお待ちいただければ助かります。
ではどうぞ。
『……理解。ルーネ、から聞いている。カンナ・オリベ、協力者と』
あちらでは手短に互いの紹介を済ませていた。
『わぁ、嬉しい! ですです、“協力者”です! “協力者”!』
“協力者”というワードを繰り返し。
そうしてこちらに意味ありげな視線を向けてくる。
恰も“どうです! 私は一見すると変態でもなんでもなく、まともな協力関係を築ける相手に見えるんですよ!”とでも誇るように。
……それを胸を張って見せつけてくる所が、既に織部の普段の行いの酷さを表している様に思えるのは気のせいだろうか……。
……まあいい、このSM上級者しか使わなそうなマスクは流石に憚られる。
もっと普通に世間様へ胸を張って生きられる様に、という願いを込めてパッドでも送ろう、うん。
『……新海君? 今とても失礼なことを考えていませんでしたか? 怒りません、絶対怒りませんから、何を考えていたか教えてくれませんか?』
これ絶対言ったら怒られる奴!
光を失った目で笑ってるじゃん、もう既に怒りのボルテージせっせと充填中じゃん!
「……はて? 何のことかな? 今はそんなことよりも、大事な話の最中なんだろう? もっと真面目なことに時間を割こうぜ?」
『嘘です……新海君のあの目は絶対に嘘の目です! どうせ“織部は社会に顔向けできない立派な変態だからな。もっと胸を張れるようパッドでも送ってやろうか”みたいなことでも考えてた目です……』
エスパーかお前は!!
ってか自己分析そこまで適切に出来てるんなら、どうしてそうなった!?
引き返せる場面が幾つもあっただろう!
本当、どうしてああなっちゃったんだろうね……。
『……不知。彼は?』
『あっ、えっと、ご主人さん――私の姉を助けてくださった、カンナちゃんの協力者です』
妹さんにそう紹介され、織部との言葉の応酬を打ち切る。
『…………』
五剣姫の少女の視線が突き刺さる。
織部のDD――ダンジョンディスプレイその物には全く興味を示さず
ただ一点、俺だけを見つめてくる。
その目から、今すぐ視線を逸らしたいと思うような威圧感を覚えた。
見た目はルオとそう変わらない10代前半の女の子。
少し焼けた肌をした、細い小柄な少女に、だ。
それは最初に出会った頃の壁のあったレイネや、あるいは全力を解放した時のオリヴェアのどれとも違う。
まるで自身自身が相手を殺す・制する武器そのものであると信じているような……。
とても無機質で、純粋な力を込めた目だけで威圧された、そんな感じがしたのだった。
「えーっと……そうそう、そこにいる織部の協力者、新海ッス。……OK?」
視線は逸らさなかったものの、長い沈黙を嫌いそう話しかけてみる。
しかし回線の繋がりが悪いテレビチャットのように、あちらの反応は直ぐにはなかった。
静かにただそうあり続ける海面のように、彼女の瞳は平坦で揺るがない。
そして長い無言の後、ようやく見定めは終わったというみたいに目を瞑って、画面から一歩後ろに下がった。
『……理解、そして謝罪。不躾、だったかもしれない、けどもタルラ、は、こうすることしか知らない』
……ああ、今の?
「いや、気にしてない。普段からもっと酷い不躾を経験してるから、うん、大丈夫」
……こらこら、織部さん、別に貴女とは言ってないでしょ?
だからそんな相手に呪術でもかけようとするみたいな顔はやめなさい。
お前、“光属性”使いの癖に、普段から“闇”が深すぎない?
そのうち闇堕ちしたりしないよね?
『感謝……』
さっきの印象や聞いてた話だと、もうちょっと怖い子かと思ってたが。
案外と普通で、真っ直ぐな子なのかもしれない。
『――“ロトワ”の場所、分から、なかった。やはり警戒、も厳重。一目姿だけでも、見たかった……』
所々、言葉の音というか、区切り方に引っ掛かりを感じる。
ただ彼女が異民族出身だと聞いていたので、そこまで違和感を持たずに聞けた。
苦し気に、辛そうに彼女表情が歪む。
初めて見せたその変化に、本当に件の少女――“ロトワ”が大事だと思っているということが伝わってくる。
そこで一つ、提案をすることにした。
「えっと……その、“タルラ”でいいか?」
遠慮がちに話しかけると、少女はその小さな身体で大きく頷いた。
「織部もそうだが、タルラ。少し時間あるか?」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『おぉっ! ここが新海君が言ってた例の“鏡”のある場所ですね?』
「そうそう。ちょっと待っててくれ……」
織部の言葉に答えながら準備を進める。
付いて来てくれたラティアが、DDを胸に抱えるようにして持っていてくれていた。
チラッと映るその画面は、これから何が起こるのかと見定めるような目をしたタルラの姿もある。
出来れば彼女が望むものが、あの鏡に映ってくれればな……と願う。
「……どう、マスター、大丈夫そう?」
リヴィルが珍しく心配そうに聞いてくる。
以前に赤星と合わせて3人で見た時から、日が経っていた。
そこら辺が気になっているのだろう。
まあ大丈夫だと思う……多分。
頷き返しながらも、500のDPを注入。
「――よし……行くぞ?」
本当なら梓辺りにも同席してもらいたかったが、仕方無い。
前の時同様、残り回数が1つ減ったことを感覚的に理解する。
それに合わせて、強い光が辺り一帯を照らした。
「うぅっ――」
『眩しっ――』
ラティアや織部達が眩いばかりの光量に思わず声を漏らす。
一度経験している俺とリヴィルでも、反応が少し遅れそうになったくらいだ、そうもなろう。
それが消え、あの鏡――姿見が出現した時。
『――ッ!! “ロトワ”っ!!』
真っ先に声を上げたのは、DDの向こう側にいるタルラだった。
俺達もその声に反応するように鏡面へと視線を集中させる。
「……あの狐の子、だね」
「……だな」
リヴィルと互いに記憶が正しかったことを確かめ合う。
そこに映っていたのは、以前見た少女と同一人物、狐人の少女だった。
ただ今回も、鏡が映す光景は常に変化し続けていて――
「あれ? これは……」
ラティアが何かに気付いたというように声を上げる。
そして抱えていたDDの画面を上から覗き込むようにして見た。
それと鏡を見比べて、自分の考えが正しいのだということを察する。
「……“タルラ”様?」
ラティアの言う通り。
鏡が表した一場面には、タルラと少女――“ロトワ”が二人で映っていた。
膝を抱えて涙を流すタルラ。
そこに、狐耳をした可愛らしい少女が話しかけている。
『――過去。タルラは、戦争、のための道具だった』
DDの画面内にいるタルラがそう呟く。
鏡が映し出す光景は、タルラとロトワの過去の出会いなのだと。
俺達は鏡の映像に目を向けながら、彼女の言葉に耳を傾けた。
『何、も考えず。何、も感じず。そうして生きる意味、すら分からなくなっていたタルラに……ロトワは意味をくれた』
鏡は絶えず変化を繰り返す。
それは、タルラが徐々に人間味を得ていく過程を表した映像でもあった。
これはおそらく狐に縁のある者を映し出す鏡――つまりロトワを映すのが主なはずだ。
なのにタルラも一緒になって鏡面に出続けている。
それだけ短くない時間、タルラとロトワが一緒にいたということを意味していた。
『あっ、変わっちゃいました……あれ? えっ、これは、誰ですか? ロトワちゃんのお姉さんみたいですが……』
場面が移り変わる。
織部が鏡に出た新しい状況を見て、思わずといった感じで口を挟んだ。
今度出てきたのは、先程の楽し気な様子とは打って変わり。
絶望した表情を浮かべた狐の少女だった。
ただこの少女は、今まで見て来た“ロトワ”よりも年が幾つか上に見える。
織部の言うように別人の誰かなのだろうと、俺達も思った。
「……コイツは? 不愉快な顔してるけど――っ!!」
リヴィルが指差した別の登場人物――卑しい表情をした男。
そいつが、狐の少女を殴った。
思わず皆が息を呑む。
どこかの国のお偉いさんか官僚なのだろうか、異世界で言う所の高級な服装を身に纏っていた。
そいつが少女を殴り、蹴り、暴行を加え続ける。
とても胸糞悪くなる光景だった。
そこで意外にも、タルラが波打たない平坦な声で説明を加える。
『死人。大丈夫、安心して、良い。コイツ、は既に死んでる。ロトワを苦しめた罪、タルラ、がちゃんと償わせた』
タルラ自身が手を下したという物騒な話も確かに驚きではある。
が、しかし。
そっちよりも気になる情報が告げられた。
「やっぱりこのちょっと大人びた感じの子も“ロトワ”なのか!?」
今まで見ていたのはせいぜい10歳前後の身体つきだった。
が、今見ているのは多分、15歳かそれ以上の体格をしている。
タルラは頷き、ただどう説明したものかと悩むような仕草を見せる。
『複雑。これ、も確かに“ロトワ”。でも、今、から5年前の“ロトワ”。つまり過去の映像』
『え? じゃあ今まで見ていたあの小学生くらいのロトワちゃんは? えっと……んん??』
織部でなくても頭がこんがらがってくる。
俺達も同じように混乱しそうになったところで。
タルラは思い切って決断したというように、衝撃の内容を端的に告げたのだった。
『……巫女。ロトワ、は“時”を司る神、の巫女。ロトワは――“未来”にいる10年先の自分、を“現在”の自分を依り代に、連れてくることが出来る』
ちょっとドタバタ続きで体調も微妙な期間が続いてます。
頭が回らず、タルラ・ロトワちゃん関連に限らず、全般的に時系列がちょっと怪しい……。
感想の返しも、すいません、また時間が取れたらその際に行いますので、もうしばらくお待ちください。




