237.論点が違う!
お待たせしました……。
ちょっとやることが多くて、近頃書く時間が午後と午前で逆転しつつあります。
今後も更新頻度は維持できるよう頑張りますが、更新の時間帯についてはもしかしたらバラバラになるかもしれません。
ではどうぞ。
「えっ、もうレイネ、先に行ってるってこと!?」
「うん、最初は待ってたけど、丁度ご主人達が戻ってくる……10分くらい前、かな?」
ルオの視線を受け、桜田と飯野さんも同意するように頷く。
「大体それくらいですね……」
「うん。でも凄かったよね……これと同じ数のおサルさん達が、いきなりどワワーっと出てきたんだもん!」
飯野さんは独特の表現を口にしながらも、待機していた手デカザル達をさして説明してくれる。
ルオの報告とも併せて考えると要するに。
あのアルラウネのダンジョンから、応援としてここに集結したということらしい。
「……ならアタシらの出る幕無いかもね。レイネちゃんだけじゃなくてゴブゴブもいるんでしょ? ならもうゴブゴブにレイネちゃんじゃん!」
「?……えっとどういう事です? ちょっと意味不明なんですが……」
桜田が答えを求めて俺に視線を投げてくる。
いや、お前、逆井と同じ現役の女子高生でしょ?
JK語って言うの?
桜田の方が、そういう意味不明なニュアンスだけでのやり取り、詳しくないの?
そんな想いを込めて目を合わせる。
が、自分はお手上げだというように、桜田の首は左右に振られた。
……はぁ。
「つまり……ゴブリンって“小鬼”っていうじゃん? だから逆井としては“鬼に金棒”的な意味で言ったんじゃね? レイネは金髪でもあるし」
「あ~なるほど……」
納得してくれたところ悪いが、心底どうでもいい話だけどな。
……ってかゴッさんなのに、“ゴブゴブ”ってなんだ。
俺も大分適当だったけど、逆井のネーミングセンスも相当あれだと思う。
「――とにかく、レイネと合流しよう。まあ逆井の言う通り、無駄足になるかもだけどな……」
皆の同意を得て、改めてダンジョン攻略へと出発することになった。
「――うわっ、えっ、これ、何ですか!?」
視界に入った物に、桜田が真っ先に驚きの声を上げる。
俺達もそれに気づいて思わず足を止めた。
「凄いね……これ皆モンスターがやられた跡?」
「うっわ……おサル軍団が一方的にボコったのかもね」
逆井の言葉を受け、改めて地面に視線を落とす。
そこにあったのは、数々の骨だ。
付近に血液や腐臭がない所を見ると、どうやらこれらの骨自体がモンスターだったらしい。
ゴースト系統でも有名な“スケルトン”なるモンスターが想像された。
が、通路に落ちている骨はどれもこれも半ばから折れていたり。
あるいは粉微塵になっていたりと、先にあった戦闘が一方的な展開だったことを思わせた。
「まるで嵐でも去った後だな……」
「凄いね……これが“ダンジョン”と“ダンジョン”の戦いなんだ……」
ルオはそれを怖がったり恐れたりするでなく。
力と力、数と数のぶつかり合い、それのもたらす結果を冷静に見ているように思えた。
桜田や飯野さんは……。
「本当に不思議ですね~。こんなに相手を圧倒する力があるのに、このモンキーの群れ、今は普通に梨愛先輩の恰好に鼻の下伸ばしまくりですよ」
「でも、知刃矢ちゃん、それも仕方ないよ~。梨愛ちゃん、凄く露出多いもん。おサルさん達だって、魅力的な女の子を見たらエッチな気分にだってなっちゃうよ」
そんな会話を交わしながら、普通に手デカザル達と交流していた。
“人”対“モンスター”しか経験していない彼女らが、生々しい“モンスター”と“モンスター”の生存闘争を見て。
何かトラウマを抱えるとか、ショックを受けるみたいにはならなかったらしい。
良かった……。
むしろこの場で一番深刻な被害を受けているのは――
「ちょっ!? あっ、コラッ、おサル軍団! 必死に息を揃えてフーフーするなし! これ、別に捲れたってあんた達の望むものなんて何もないから!」
興奮しているサル達に、いやらしい視線を送られている逆井だった。
股間を抑えるようにして、逆井はあのヒラヒラと揺れる前掛けを必死に押さえつけている。
その仕草がまた、風で捲れそうになるミニスカートを抑えるような動作に見えて、サル達の劣情を掻き立てたのだった。
「キィッ、キキッ!!」
「キッキッキィィ!!」
「うわっ、喜び過ぎ!? ちょ、このエロザルども!! マジふざけんなし!」
そんなやり取りを見て、桜田も飯野さんも、そしてルオも。
皆が思わず笑顔を零す。
ああ、なるほど……。
この無残な骨の道を一方的に作っただろう、同じサルでも。
桜田や飯野さんは無意識的に、奴らでは逆井には敵わないということを分かっているのだろう。
そこら辺のことが安心に繋がり、多分こうして今も無理せず笑えてる理由なんだと思う。
「もう~! 何でサルにだけ人気なんだし!」
逆井と共にモンスターを倒したり、あるいはあの防具もそうだ。
強くなってもらうために、色んな協力をしてきた。
具体的な形で報われたという訳ではないが、それでも。
逆井に努力して強くなってもらって良かったと、そう思えた瞬間だった。
逆井……。
お前は桜田や飯野さん、それにもしかしたらルオの笑顔までも守ったかもしれないんだ、胸を張っていいんだぞ!
「うぅぅ……で、でも雄ザルにはエロく映ったってことは、同じ哺乳類の人間の男相手にも……ワンチャン、ある?――」
…………。
うん。
ワンチャンありません。
やっぱりそのビキニアーマーをまずは着替えようか。
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更に10分程、ボロボロになった骨が散らばる道を、駆け足で進む。
前方から戦闘の激しい音が聞こえてきて、更にレイネの後姿を認める。
「――おっ、隊長さん、皆もお疲れ。こっちはもう終わりそうだから、もうちょっとだけ待っててくれるか?」
俺達に気付いたレイネが、前を指差してそう告げる。
今まさに戦いが行われている最中で、その奥には開けた空間、台座のあるゴールが見えていた。
「ギシィ! ギシシ、ギシャ!!」
「キキッ!」
「キィッ!」
「――!!――!?」
そのレイネとゴールとの間で、一方的な展開が繰り広げられていた。
レイネに付いて行ったサル達の半分のそのまた半分。
15匹程が代わる代わる、残った1体のスケルトンに攻撃を仕掛けていたのだ。
「うっわ、おサル軍団すごっ! 四方八方から突っかかってるじゃん!」
「うげぇ……意外にあの骨のモンスター、デカくて薄気味悪いんですね……お化けっぽいも雰囲気ありますし」
「それを圧倒してるおサルさんの迫力も相当だけどね……」
スパイダー達が四方から放つ糸に絡めとられ、そこからサル達に痛打される。
長身の大人くらいの大きさがある骨モンスターは、事態をどうにかすることも出来ず一方的な攻撃にさらされていた。
サル達は攻撃の手を緩めず。
時には疲れた者と控えとが入れ替わり、怒涛の攻めを継続する。
そこに正々堂々、数の対等さなどというものはない。
勝った者・生き残った者が正義なのだと、そんないっそ清々しいまでの強者の理論が体現されていた。
「ゴッさん……最後の1体だからって油断すんなよ? こういうのは締めが大事なんだぜ?」
「ギシッ!」
その上、実質この攻略を担ってくれたレイネとゴッさんは戦闘に加わらず指揮するだけにとどまっていた。
レイネが異世界で培った戦略的な視点を必死に学ぼうと、ゴッさんは素直にレイネの指示に従っている。
しかし、一度この二人が直接的な戦闘に加われば、また更にこの状況の一方的な勢いを確かなものにしていただろう。
“ダンジョン間戦争”……。
戦力の数や質が露骨に物を言うんだな。
〈Congratulations!!――ダンジョンLv.13を攻略しました!!〉
目の前で、スケルトンを構成する骨が崩れ去る。
重力に抗っていた生命の力が消え去り、砕けた骨がバラバラと地に落ちて行った。
それと同時に、攻略を告げるアナウンスが響く。
〈Congratulations!!――“ダンジョン間戦争 攻略戦・防衛戦 1回ずつ 最速勝利”しました!! 100000DPを進呈します〉
初めての“ダンジョン間戦争”の攻略戦。
俺達人が一切手を出さずとも完勝するという、一方的な終わりとなったのだった。
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『――敵陣への潜入です、新海君っ! これ、絶対捕まったらダメな奴ですね!』
「やるなよ!? 絶対やるなよ!? これフリじゃなくてマジな奴だからな!!」
既に“闇市”の中に入り込んでおいて、そんな興奮しながら言うセリフじゃねえよ……。
先日あった“ダンジョン間戦争”の総括も未だ出来ていないのに。
画面向こうの織部のテンションに、早くも頭痛がする……。
――あなたの風邪はどこから? 私は織部から。
……対織部用のベンザブ〇ックはまだ開発されてないのか、製薬会社さん、頑張って!
『カンナ様、もうちょっと静かにしてください! ただでさえ通信できる場所を探すのにも苦労したんですから!』
声を抑えながらも、何とか織部を大人しくさせようと必死のサラ。
その姿を見て、苦労しているのは俺だけじゃないんだな、とサラへの感謝の念が生まれる。
と同時に、同じ苦しみを味わうサラへの共感からか、何だかそんなサラを愛おしいとすら思えてくる……勿論、親愛の情的な奴ね。
『むぅぅ。分かってますよぅ。梨愛のニュー装備の件もありましたからね、今回も大人しくしてますって』
今回“も”ってなんだ……普段もヒッソリと慎ましやかに生きてますよみたいに言いやがって……。
そう言いながらも不満げに唇を尖らせる織部に、疑念を抱かずに入られない。
何しろ……。
「――なあ織部、仮面の調子はどうだ? もし着け心地とかあれなら、コッチの送ってもいいけど……」
俺は手元にある“マスク”を掲げ見せる。
それは息が出来るよう口だけが開いたマスク。
頭を丸ごとレザー生地がスッポリと覆い隠し、頭部は黒一色に染まる。
そんな釣り餌をぶら下げると――
『えっ、良いんですか!? いやぁ、この蝶の形もTHE仮面って感じで良いんですが、そっちの方が顔バレし難いですもんね! 是非ッ!!』
「食い付くなよバカッ! んなもん、不審者・悪人だらけのそこでも浮くわ!」
自分から“不審者の中でも真の不審者です、捕まえてください!”って言ってるようなもんだぞ!
『なっ!? に、新海君さては嘘なんですか!? くれるって言って、実はあげないって……そんな子供みたいな嘘ってありますか!?』
論点が違う!
悟りに悟って、最悪送ってもいいが、そこで、その場所に限っては身に着けんなって話だよ!
お前の性癖・好みのシチュエーションに俺は一切介入しないから!
それとは全く関係ない話だから!
『――ただいま戻りました! 合流して“タルラ”様をお連れ……あれっ? サラさん、カンナちゃんどうしたの?』
妹さんが織部達の隠れ場所に戻って来た。
そこでようやく、互いに言葉が途切れる。
この状況に至って、遠慮ない言葉を飛ばし合う程、俺も織部も弁えてない訳ではない。
……うん、“織部”もそこは、多分、きっと、メイビー。
『――喧噪。タルラ、出直す?』
その後から入って来たのは、俺の見知らぬ少女。
自身のことを自分で“タルラ”と呼んだ、五剣姫の女の子だった。
特典としてゲットしたポイントは“10万”で、桁を間違ったわけではありませんので、ご安心を。
規模が個人でなくダンジョンですからね……。
織部さんはもうちょっと自重(×自嘲)しても良いと思う今日この頃……。
感想の返しは……すいません、時間が取れる時に行いますのでもうしばらくお待ちください。




