235.おこなの!? 激おこなの!?
お待たせしました。
ではどうぞ。
「あっ、律氷ちゃんとか椎名さんにはアタシがメールしとくからさ。新海はかおりんにメールしといて?」
隣では、物凄い速度でスマホに文字を打ち込む逆井の姿が。
一瞬その光景に圧倒され、何を頼まれたかを聞き漏らす。
「え? すまん、えーっと何だって?」
ここに椎名さんか空木がいなくて良かったと安堵する。
あの二人、多分今の一言だけで“……鈍感系主人公スキルですか?”とか言ってくるだろうからな……。
逆井は純粋に自分の言葉足らずだと思ったのか、スマホから顔を上げて謝ってくれる。
「あはは、ゴメン、えーっとね……」
そうして既に文を打ち終えたスマホ画面をコチラに向けた。
スマン、俺が聞き逃したのが悪いのに……。
申し訳なさを覚えながらも、その逆井の書いた文章を見せてもらう。
『しばらく花壇にお花摘み行ってきま~す! そこんとこよろしくね!』
そのメールの宛名にはさっき名前が挙がった皇さんだけでなく。
赤星や桜田、それに白瀬を含め5人が載っていた。
「…………」
コイツ、なんて軽い文章を送ってやがる……。
これ、一斉送信すんの?
しかも末尾には逆井のいつもの謎絵が付いていると来た。
火炎放射器を持ったカエルが周囲を焼き払っているものだ。
……お花摘む気0なのん?
ってか良く毎回毎回こんな絵見つけて来るな。
先程抱いた罪悪感が一気に霧散していくのを感じる。
「これからダンジョン行くっしょ? で、アタシら、個人でダンジョン行く場合はこんな感じで教え合ってるからさ……」
逆井は俺のジト目には気づいておらず。
楽しそうに説明を続けていた。
……こういう他人の目に鈍感な部分、ある意味じゃ織部と通ずる所あるよな……。
願わくばアイドルをしている逆井には、もう少し“恥”という概念には敏感で有って欲しいものだ。
「……要するに、心配させない様に俺も志木に似たような文面送っとけばいいんだな?」
「そうそう! 今日確か、かおりんだけは単独行動だったからさ。誰かと仕事の人はアタシから送っとくから」
なるほど……。
皇さんに送っておけば、一緒に行動している椎名さんにもその意図は伝わると。
同じように、今日誰かと行動している人達の最低一人に送れば良いってことか。
俺も今後ダンジョンに潜っていてメール・電話が通じないこともありうる。
思い立ったが吉日。
マネできる内に、同じやり方を志木だけにでも周知しておこう。
「“今からしばらく旅に出てくる。探さないでくれ”っと……それと……」
一応逆井のマネということで、謎の絵文字も付しておく。
カエル繋がりで、蛇の口に丁度カエルが飲み込まれる寸前の絵を見つけた。
謎っぽさでは俺も負けてないぜ、逆井!
変な対抗意識を燃やしつつ、メールを送信。
逆井も送り終えたということで、改めてダンジョンに向けて出発しようとする。
が、そこでスマホが鳴った。
――かおりん、かおりん、かおりんりん! かおりん、かおりん、かおりんりん!
あっ、やべっ……。
「えっ、新海、それ――」
「…………」
恥ずい……。
サイレントモードにしとくの忘れてた。
電車内でアニソン聞いてたら、イヤホンが外れて音ダダ漏れの時ぐらいの恥ずさだ。
「えっと……まあ志木の目覚まし音だな、うん」
貰った目覚まし時計は未だ、全て箱の中に仕舞われたままだった。
だがそれを何故か惜しいと思ったのか、リヴィルが音声データとして録音し、俺のスマホに入れてくれたのだ。
それをどうせサイレントだから誰にも聞かれないだろうと高を括っていたのだが、よりにもよって逆井に聞かれるとは……。
「……ケッ、笑いたければ笑え! どうせ俺は偶に一人でこれを聞いてはツボに入ってるおかしな奴だよ!」
「いきなり何の自白だし!? ってかファンとして和むとか笑顔浮かべるとかじゃなくてツボに入ってんの!? いや、それは別にどうでも良いって! そうじゃなくて! スマホ、ずっと鳴ってる! かおりんからじゃないの!?」
そう指摘されてハッとする。
うわっマジだ!
ずっとスマホから白かおりんの声で“かおりん、かおりん、かおりんりん!”と鳴り続けているのはある意味怖い状況だった。
「えっ、何で!? 志木から電話来てんだけど!?」
「今メール送ったっしょ!? 絶対それじゃん!!」
「あ、そうか……」
意外に逆井のツッコミ適性があるのを知りながらも、俺は落ち着きを取り戻す。
そうして冷静になった頭で改めて着信に出た。
「はい、もしもし――」
しかし、全て言い切る前に、耳に音声が届いて来て遮られる。
『――ちょっと! どういうことなの!? “旅に出る”って! まさか、また貴方、危険なことを一人でやろうとしてるとかじゃないでしょうね!?』
声も早口で、それだけ焦っているのが伝わってくる。
驚いてスマホを耳から一瞬遠ざけてしまう。
更に逆井にも多分届く程の大きさだった。
えっ、かおりんどしたし!?
「えっ、かおりんどしたし!?」
あっ、逆井と被った。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『……はぁぁ。つまり、梨愛さんとこれからダンジョンに向かうのね? 特にこれから危ない所に向かうとかじゃないってこと?』
「えと、その、そうです、すんません、逆井が似たようなメールを今まで送ったことがあるっていうから、俺の文面でも行けるだろうと、はい……」
経緯を説明した上で平謝り。
気分は取引先に誤メールを送ってしまった後始末をする平社員の様だ。
とりあえず逆井の口添えもあり、誤解だったと分かってもらえた。
「でも、アタシもかおりんなら分かると思ったけどな……え、別に変な内容は送ってないよね?」
逆井にそう確認され、一瞬ドキっとする。
が、別にやましい内容を書いたわけでもない。
ただ、最後の謎絵だけはノリで付けたので、そこだけは非難されるかも……。
「……うん、別にアタシと変わんないと思うけどな~?」
あ、良かった!
逆井に送信済みメールを見せると、お墨付きを貰えた。
と、同時に、あの絵文字で良いらしい。
やった~!
俺は今、ようやく女子高生の意味不明さを解明したんだ!
『…………』
内心でクラッカーを鳴らしながら喜んでいると、電話向こうからの声が途切れたことに気付く。
……え、どしたん?
別に、通話自体が切れたわけではないし……。
『――心配した、だけだから……』
「え、何だって?」
別に難聴系スキルを発動したわけじゃなく、本当にか細くて聞こえなかった。
だよな、という視線を逆井に向けると、自分も聞こえなかったと頷き返してくれる。
すると、今度はハッキリと聞き取れる声が返って来た。
『――もう! 私が早とちりして、貴方がどこか遠くに行っちゃうかもって勝手に心配しただけです! 私が悪かったです、どう、これで満足ですか!?』
「いや何でそんな早口だし!? えっ、どしたし、キレてんの!?」
かおりんおこなの!?
激おこなの!?
「いや、これは怒ってるってか……」
逆井が何かに気付いて口にしようとする。
が、それがあちらに伝わったのか、志木がすぅっと息を呑む音まで耳に届いてきた。
『っっ!! と、とにかく! 無理は禁物です、二人とも無事帰ってきてください! 私からは以上です、じゃあまた――』
「えっ、あっ、お、ちょい!? ……切りやがった」
最後、凄い勢いで捲し立ててたぞ……。
さっきようやく解明したと思ったのに。
女子高生の謎が、また俺の目の前に立ちはだかった気分だった。
「かおりんが、ねぇぇ……ニシシッ」
「……何だよ逆井、キモい笑い声出して」
「キモい!? はぁ!? ちょ、ラノベばっかし読んでてエロ本の一つも読まない新海に言われたくないし!!」
何故に!?
エロ本読まないのを何で責められてんの俺!?
いいじゃんラノベ、ヒロインとか皆可愛いくて、偶にえちぃんのも良いしさ……ぐすん。
ラティア達も、自分は読む癖に俺の部屋にラノベ有るのをあんまし良くは思ってない節あるからな……。
やっぱり文庫本とかハードカバー本とかの方が高尚みたいな意識でもあるんだろうか。
クッ、俺だけでも、ラノベ文化を守らねば!!
「はぁぁ……かおりんもラティアちゃんも柑奈も、そりゃ苦労するって……」
むむっ。
確かに志木やラティアに苦労を掛けている部分も無くはないことは認めよう。
が、織部に一方的に苦労を押し付けている認識は全然ないぞ。
むしろ、8:2、下手したら9:1で俺が苦労させられているまである。
何で別世界にいてこれだけ振り回されるのかと思う毎日だ。
それを指摘しようとするが、逆井は取り合ってくれない。
「はいはい……ほらっ、柑奈のためにDP貯めるんでしょ? さっさと行こ?」
むぅぅ……。
「……正確には、狐の女の子救出に役立てるため、だ。さっき話しただろう?」
「えーっと? ああ、そうそう! モフケモちゃんね!」
モフモフケモノ少女ちゃん、略してモフケモちゃんらしい。
「お前のその略語、何とかならないのか……」
溜息を吐きながらも、俺はそんな逆井を連れてDP貯蓄を増やすためにダンジョンへと向かったのだった。
一応次も逆井さんとのダンジョン攻略に関する話で……。
で、それが終わったらようやくまた異世界側の話、つまり織部さん達との話に戻るって感じですかね、予定的には。
ですので、次1話で何とかダンジョン関連の話を終わらせる……ように頑張ります。




