22.お前かぁぁぁぁぁ!!
度たび日を跨ぐことになり申し訳ありません。
最近、どうしても始めるのが遅くなるもので……。
「――おっらっ!!」
フワッと宙を浮く、テルテル坊主みたいな幽霊モンスターを殴りつける。
物理攻撃は効かない――なんてことはなく。
『――!?』
触れれば、ちゃんとダメージを与えた手応えを覚える。
そして、このモンスターは殆ど戦闘能力がない。
なので、2,3発攻撃を加えれば、それで力尽きてくれる。
『――――』
耳で聞き取れないような声を上げ。
ユラユラっと重力に引っ張られる羽のように。
力尽きた布は、地へと落ちていく。
ただ、それと一緒に――
「――チッ!! “呪い”か!?」
体からエネルギーが抜き取られたような感覚が、俺を襲う。
コイツ等、やられてくれるのは早いが、物理接触をすると状態異常を食らうのだ。
俺は、すかさず覚えたての詠唱を唱え、完成させる。
「≪身を包む呪いよ、その縛を解き放て――≫【解呪】!!」
白く温かな光が、俺へと降り注ぐ。
纏わりついていた体の怠さが、一瞬にして抜けていくのが分かった。
“呪い”の状態異常が、回復したのだ。
「ふぃぃぃ……」
戦闘を終え、そして自らの体のケアもこなし、一息つく。
≪ダンジョン鑑定士≫のジョブのおかげで、この先に出てくるモンスターもどういう敵かが分かっている。
今後も、出てくるのはあのゴーストモンスター“ゴースト”。
何の捻りもないが、まあよくゲームでも見るようなモンスターだ。
それが後3回、合計5体。
まあ何とかなるだろう。
「…………」
特に意味はないけれども、後ろを振り返る。
そこには、勿論、俺以外には誰もいない。
そう――
「――ラティア、大丈夫かな……」
ラティアは留守番をしている。
というか、あの少女の面倒を見ているのだ。
『彼女の――“リヴィル”のことは、私に任せてもらえませんか!?』
名前だけを告げ、それ以外は一切の口を閉じてしまった彼女を見て。
どうすべきか考えあぐねていた俺に、ラティアは率先してそう言ってくれた。
「まあ、俺は相当に嫌われてるっぽいからな……」
なんせ『殺すかもしれない』なんて言われてるし。
それに、見た所、ラティアと年も近そうだった。
「女子同士にしかできない話もある、か……まあ一人で試したいこともあったし、丁度いい」
俺は、そう独り言ちた。
そしてしばらく休んだ後、この墓地へと続く道にあったダンジョン探索を再開した。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――おお、織部の言っていた通りだな」
今、俺の視界は薄い灰色一色に塗りつぶされている。
その中で見えているゴーストは2体とも、何か警戒しているような動きを見せるものの――
「目の前にいんのに、なっ!!」
相手に姿を捉えられずに、相手を害する。
まるでゴーストたちのお株を奪うかのような状況に、俺は気をよくする。
単なる蹴りを受けたゴーストは、完全に不意を突かれた形になって、一撃で力尽きた。
「うっ、“呪い”か……詠唱詠唱……」
そして物理攻撃に伴う状態異常が、俺の体を襲う。
ただ、それを回復するために詠唱に入っても――
『――!? ――――!?』
キョロキョロと右往左往するばかりで。
目の前で詠唱を続ける俺を見つけることができないでいる。
物凄いスリルはあるが、これで、詠唱中も認識されないということが確認できた。
しかも、ゴーストに目は無い。
つまり音は分からんが、“視覚”以外の感覚器官にも引っかからないのだ。
「――ふぅぅ……マジでこれ、使えるな」
相手を倒し切り、重ねて【解呪】を使った後。
俺は、かけていた灰グラスを外す。
織部が言う通りに、ダンジョン内に入ってまず装備した。
最初は電池切れみたいに、ただの伊達メガネ以外の意味はない。
だが暫く経つと、視界が灰色に一変。
そしてそれからは、今の通りだ。
「時間は……1分か」
ストップウォッチで測った結果。
それが、効果の凡その持続時間。
30分くらいは中にいるはずだ。
若干、充電時間が長い気もするが。
でも、30分待てば1分間、相手からは見られないようになると考えると。
「……十分アリだな」
その後、かけた状態だけじゃなく、手に持った状態で30分待機してみる実験もした。
すると、あることに気づく。
「――なるほど……このサングラスの縁の部分が、バッテリー量を表してんのかな」
最初は左半分が白。
右半分は黒色だった。
だが使い切るとそれが透明になるのだ。
30分間見続けていると、どんどんバッテリーが貯まっていくみたいに。
縁の先から白と黒がレンズ部分へと迫っていき。
そうして混じり合って灰色になると、充電完了というわけだ。
「もうモンスターは片付けたが……一応つけて行くか」
このかけた状態に慣れる意味もあって。
俺はまた装着して、先を進むことにした。
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「……何だ、織部、テンション低そうだな」
もう直ぐで、いつもの台座の間にたどり着くため。
今回はDPか、それともダンジョン捕獲か、どちらにしようか――そう考えていた時だった。
『――そう見えますか……』
織部から、メッセージが届いたのだ。
何だ何だと思って開くと、“愚痴を聞いてくれませんか”と簡潔にそれだけが書かれていた。
事情は分からないが、流石に気になったので、俺はすぐさま通信を繋いだ。
もう後はGradeをどうするかという段階まで進めていたことが、決断を早くした。
いつもDPが消費されることを気にする織部が、こう言ってきたんだ。
それに、“相談事は、されたら真摯に向き合う”――それが俺たちの関係の暗黙の決まりだったから。
「ああ、前に連絡取りあった時は、あんなにテンション上がってたのに」
画面越しの織部は、明らかに落ち込んでいた。
何か壁にぶつかったというか、上手くいかないことがあったみたいな、そんな感じ。
俺は地べたに腰を下ろして落ち着かせる。
『そう、ですね……でも、物事、全部が上手くいくわけではないんですね』
そうして溜息をつく。
……これは、結構重症かも。
何か別の話をして、無理にでも織部の気を紛らわせた方がいい、か?
「まあ世の中そんなもんだろ――そういえば、織部。今度の注文のやつだけど……」
俺がそう話を変えると、織部はスッと顔を上げた。
『え? ……ああ。それはお願いした通りで、変更は何も――』
そこまで織部が言ったところで。
俺は内緒話をするようにして、片手で口を半分覆う。
そして、声を落として――
「――パッドも、あの店で買えばいいのか?」
――ピキッ
『――えっ、何ですって?』
「え……何でキレてんの?」
『えっ、新海君、何ですって?』
何で繰り返すの!?
鈍感系主人公かよ、お前は!?
「いや、えっと……織部、サイズ、4つも上の物、書いただろう……あれ、パッド詰めてつけるんじゃ、ないのか?」
恐る恐る趣旨を説明すると――
『――何でそんな不要なところで変な気を使ってるんですか!!』
激おこ織部が降臨した。
『っていうか前々から言おうとしてたんです!! 新海君って変な気遣いが多過ぎます!!』
「えっ……」
『あれは私が着ける物じゃないですよ!! 何が悲しくて4つもサイズ上の下着つけてパッドで盛らないといけないんですか!?』
驚くべきことに……あれは織部が装着するものではないらしい。
『私だって好き好んで掌サイズ胸を装備してないんです!! 成長鈍足のデバフなんてかかってません!! ってか誰がカタツムリ胸ですか!?』
「いや、誰も言ってないけど……」
“掌に収まる”と“鈍足”、そして“カタツムリの丸いイメージ”と“胸の丸み”を掛けているらしい。
暴走した織部は変なところで頭が回る。
『――あの、“カンナ”様!! お気を確かに……』
――そこに、一人の少女が、入って来た。
「え……」
少女は、纏っているシスター服の上からでも分かる、その大きな胸を弾ませて。
流れるような金糸を振り乱しながら、暴走する織部を宥める。
『むぅっ!! “サラ”は豊満バストだから余裕なんです!! 持たざる者の気持ちなんて――』
『いえ、この場合持つ持たないは関係なくですね……』
必死になって落ち着かせようとした際、その顔が画面に映る。
あどけなさを感じさせながらも、知的な印象を損なわない凛々しさも併せ持っていた。
そして、チラッと覗く横顔。
そこには、普通の人にはない、長く尖った耳が。
『ふんっ、やっぱりいいですね……“エルフ”は種族的にナイスバディな遺伝子が――』
「――お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
収拾のつかなそうな状況を終わらせたのは、俺の心からの叫びだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「はぁぁ……まさか織部が“奴隷”を購入していたとは」
大人しくなった状況の中。
改めて整理する。
まさか、買っていたのが織部だったとは。
てっきり地元の私腹を肥やした太鼓腹のオッサンに買われたものだと。
それこそ寝取られっぽいダメージを勝手に感じていたので、織部で良かったと納得できる部分もある。
『あの、申し遅れました。私、エルフで、“サラ”と申します』
「ああ、これはどうもご丁寧に。新海ッス」
『むむ……新海君、私とで態度が違います』
いや、変なところで突っかかってこなくていいから。
「――それで、織部が奴隷を買ったのはどういうわけだ?」
改めて問うと、流石に空気が引き締まったのを感じる。
「というか、あの『会って欲しい人がいます』ってのは――」
『はい……それはこの“サラ”のことです』
織部は自分の右に座らせたサラを見た。
『新海君の反応からすると……私が他にも奴隷を買ったということは、察しがついてますよね?』
「ああ……“1人”を除いて、な」
俺がそう言って頷くのを見て、二人の体が強張る。
『……買ったサラ以外の奴隷は、解放しました』
一段階、声のトーンが落ちたように感じる。
それこそ、元気を取り戻す前の織部に戻ったように。
「……愚痴を聞いてくれってのも、そこと、関わってんのか?」
無言で頷く織部。
『――私とサラは……ある“取引”をしました』
織部は、心底悔しそうに、語る。
『私がすることは、ある“試みを行うこと”でした……失敗して、しまいましたが』
織部は、俺を見る。
『そこで、新海君に何か知恵を借りられないか、相談しようと思って連絡したんですが――』
『……もう、いいんです』
サラが、織部の言葉を遮る。
『勇者であるカンナ様で救えないなら、あの子は、もう――』
『――た、大変だぁぁぁぁ!!』
別の女の子の、叫ぶ声が近づいてきた。
『え!? どうしたの!?』
一気に慌ただしくなる。
何やら猫耳の少女が、織部とサラに話しかけていた。
『――ちょっとすいません、新海君、後でかけ直します』
それだけ言って、通信が切れた。
……なんだったんだろう、一体。
――と、不思議に思っていると、直ぐにまた通信を告げる音がした。
「――どうした、何か急ぎ事か?」
再び画面上に現れた織部は見るからに深刻そうな表情になっていた。
少し離れたところでは、サラが何人かの人に指示を飛ばしている。
『すみませんでした。彼女たちは解放した元奴隷なんですが、報告があったみたいで』
話からすると、その解放した彼女たちとは、普通に協力関係を築けているようだ。
『……私が買わなかった奴隷が“1人”いる、という話が出ましたよね?』
「……ああ」
『それ、“買わなかった”んではなく。買おうとしたのに“買えなかった”んです。でも、それが――』
織部の口から出る言葉を、漠然とではあるが、予想できた俺は――
「――……誰かに買われた、のか?」
先取りして、そう告げた。
『――――』
絶句。
なぜそれが分かったのか。
どうして、新海君がそれを。
そう言わんばかりに、織部は固まっていた。
『…………フードを被った、謎の男に、買われた、らしいんです。私達が、買おうとした、その奴隷を』
何となく大体の状況を掴めた俺は、その言葉を聞き終え。
そして――
「――“リヴィル”を買ったのは、俺だ。織部」
そう告げた。
『――新海君だったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
今度は、織部の叫び声が轟く番だった。
伸ばしてもフラストレーションが溜まるだけですし、私もしんどいですから、“リヴィル”関連の話は最長でもあと3話。
予定では2話以内に終わるつもりです。
3話目は保険ですね。
次話はラティア視点か、あるいは第三者視点が入ると思います。
後、感想は読んでいるのですが、明日以降にまとめて返信等は行おうと思います。
流石に眠くて眠くて……。
折角送ってくださった方には本当に申し訳ありませんが、ちゃんと読んではいますので!
評価やブックマークなどは……おお。
454人の方に、ご評価いただいて。
ブックマークも4771件、シナナイ!
ランキングが落ちても、未だにご声援を頂けていることに感謝しかありません。
本当に、読んでくださって、ご声援を送ってくださって、ありがとうございます!
…………何か変なこと書いてませんよね?
多分真面目にちゃんとしたこと書けてると思うんですが、今は自信ないです……。




