222.フッ……勝った。
お待たせしました。
ちょっと日中にイレギュラーが重なり、書き始めが遅くなりました。
ではどうぞ!
『陽翔くーん! やっほーです! うわっ、これ、ちゃんと陽翔君に見えてるのかな!?』
『ちょっ美洋さん、狭っ――先輩、先輩! 可愛い後輩、チハちゃんですよ~! どうですどうです、見えてますか~?』
画面の向こうから、飯野さんと桜田の賑やかな声が届く。
PC前の狭いスペースを取り合うようにして、二人は楽しそうにこちらへと手を振っていた。
「うぃーっす……見えてる見えてる」
この二人のテンションに合わせるのは大変だと、適度にダラけつつ返答。
手を上下に動かしただけであちらはお祭り騒ぎだ。
……このコンビ、こんなことで盛り上がれるなんて随分エコだな……。
『――その、二人とも? 私もちょーっと彼と、挨拶をしたいのだけれど?』
ヒェッ!
『あ、あはは……ゴ、ゴメンね花織ちゃん! うん、直ぐ退くね!』
『い、いやだな~花織先輩、そんな怖い笑顔でおっしゃらなくても、普通に言ってくれれば下がりますよ、あはは……』
それぞれ程度の差こそあれ、引き攣った笑みを浮かべて画面前の場所を空ける。
その様子が何とも言えず恐怖心を煽るので、思わず俺も声が裏返ってしまう。
「あは、あはは!……何なら俺も、席を外そうか?」
それに対して飛んできたのは、“何を言ってるんだコイツ”的な半目の視線だ。
『……貴方がいなくなったら、このビデオ通話の意味ないじゃない』
「そ、そうですね! 俺ってばついうっかり!」
『…………』
ジーっと向けられる視線に耐えかねて、思わず桜田と飯野さんに助けを求める。
が、二人は息ピッタリで。
ササっと俺から視線を逸らした。
うわっ、くっそ……!
『はぁぁ、まあいいわ。さっ、早速話を始めましょう?』
志木の溜め息と同時に、空気が一気に弛緩するのを感じた。
こ、怖かった……。
『……やっぱりもう少し無言の時間、続けましょうか?』
『――先輩ぃぃぃ! 今すぐ謝ってください!! 土下座、いえ土下寝を花織先輩に捧げるんですぅぅぅ!!』
『陽翔君っ、花織ちゃんを怒らせたらダメだよ! あぁぁ、でも庇えなくてゴメン! だってどうせお父さんに泣きついても、直ぐに親子揃ってクビになっちゃうから! それくらい花織ちゃんは強者だからぁぁぁ!』
な、なんと……。
やはり怒ったかおりん、略して怒りんを鎮めることは不可能だというのか!?
『いや私、どんな人間だと思われてるのよ……』
疲れた顔をしながら深く溜息を吐く志木が目に映った。
ああ、よかった、かおりんもやっぱり疲れるってことは人なんだね……。
「――ってわけだ。まあ赤星とリヴィルが二人で攻略してくれたから、俺は大したことはしてないかな」
『……そう』
以前の修学旅行の際の報告を聞いて、志木は静かに頷いただけだった。
それ以上は特に言ってこない。
赤星からもちゃんと話は行っているはずだ。
だから、まだ必要以上には聞いてこない、ってことかな?
特に……あの“鏡”、そして“狐の少女”の話。
あれは多分、地球でどうこう議論したところで、答えは出ないだろう。
餅は餅屋。
異世界に関係ありそうなことは、異世界の住人に聞いた方がいい。
「勿論、そのダンジョンについてもっと詳しいことが分かったら、出来るだけ耳に入れるようにするよ」
この後も、織部と連絡を取るつもりだ。
何かしらヒントくらいは得られるだろう。
『……分かったわ。その時は、よろしくお願いします』
画面向こうの志木は姿勢を正して、深く頭を下げた。
……こういう場面を偶に目にする。
志木なりに、丁寧にする時と。
あるいは普段通りに振舞う時の基準みたいなものが、ちゃんとあるんだろう。
……黒かおりんと白かおりんの境界線か、ふむ。
『今……何か変なこと、考えた?』
「いえ、何も!」
こっわ……。
少なくとも……俺が変なことを考えた時は間違いなく黒かおりんになるな、うん。
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『――お話、終わりました!? 私、話してもいいですか!?』
俺の報告が終わったのを見計らい、桜田が待ちに待っていたというように飛び跳ねて挙手する。
志木は俺を睨みつけていた視線を緩め、苦笑しながらも桜田へと頷いた。
『先輩、先輩! 私の目覚まし時計、届きましたよね! 聞きました!?』
今までの少し締まった空気から一転、明るく楽し気な雰囲気へとガラッと変わった。
俺もそんな桜田のムードメーカー的な立ち振る舞いに、思わず小さな笑みがこぼれてしまう。
「ははっ、ああ、聞いた聞いた。何だろうな……あざといしウザいし、でも可愛い路線もちゃんと入ってる……ウザと可愛いっていうのか?」
『ウザと可愛い!? ウザくてあざと可愛いの略ですか!? っていうかそれ褒められてます!? 貶されてませんか!?』
打てば鳴るように、面白いリアクションを取ってツッコんでくれる。
うーん……流石だな。
そんなやり取りを、志木は一歩引いたように見ていた。
楽しそうに笑っている……と思ったら。
『……フフッ』
目が合うと、ニヤニヤし出した。
……これは、あれか。
話題があの目覚まし時計に移ったからか。
やっぱり志木の奴、まだあの惨事を知らないんだな……。
『うぅぅ……良いなぁ知刃矢ちゃん達。私、まだ目覚まし時計、完成すらしてないから……』
そんな中、飯野さんだけが一人、置いてけぼりだと言わんばかりに肩を落として沈んでいた。
だが、飯野さんの豊かな双丘は関係ないと言わんばかりに弾む。
……本当、この人、背の低さの割にデカくない?
しかも今の小さな動作一つでバインッと揺れる程。
うーん……。
織部とラティアとは、あまり会わせたくない人だな、それぞれ別の意味で。
「えーっと……ちなみに、飯野さんはどんなセリフを入れる予定なんです?」
『プフッ――』
俺の質問を聞いて、桜田がバカにしたような二ヤ付き顔で噴き出す。
聞かれても、それは教える分けないだろう……そう思っていそうな顔だ。
『え? “起っきろー! 起きないと、無理やり起こすよ~! えっと……こ、この胸で! 息苦しくなっても知らないんだからね!”』
『教えちゃうんですか美洋さん!? しかも内容が意外にデンジャラスです! その大きなお胸だと先輩死んじゃいますって! “乳圧死”って不名誉な内容ニュースで流れますよ!?』
豊かな想像力の展開からの流れるようなツッコミ……見事!
『フフッ……まだ彼には死んでもらっては困るわ。美洋さん、内容、お手柔らかにお願いしますね?』
楽しそうに注文する志木。
飯野さんはプクーっと不満そうに頬を膨らませたが、直ぐにそれは萎み。
『うぅぅ……分かりました。陽翔君が死なないような内容で考えます』
いや、まあ実際の飯野さんに起こされる訳じゃないから別に何でもいいんだが……。
そんな思考を見透かしたように、志木は笑って俺を見た。
『フフッ。一応貴方には教えておくけれど、この目覚まし時計、単にファンクラブ会員の人に送ってる、という訳ではなくってね?』
「ああ……まあ、“試供品”って書いてあったしな」
また楽しそうに笑って、今度はそうじゃないと首を振った。
『まあそれもあるのだけれど、私の意図は別にあって……』
それから飯野さん、そして桜田を見て、また画面の方を向いた。
『最近、増々忙しくなって、一人でいられる機会というのも随分減っているの』
『あぁ~花織先輩、確かに多忙ですよね』
『うん、いつも誰かと一緒にいて、どこかへと駆けずり回ってる感じだもん、花織ちゃん』
二人の相槌を受け、志木は頷きで肯定する。
『だから、特に貴方と。もしかしたら思った様に連絡が取れないことも出てくるかもしれない』
志木はそのことに関しては深くは語らない。
が、多分色んな目が更に志木へと集まっている、ということだろう。
裏でリーダーとして暗躍する赤星を動きやすい様に、その策がはまっているとはいえ。
やはり志木本人が、動き辛さを今の時点でも感じているのか……。
『まあ原始的な方法だとは思うんだけど、実験的に試してるの。何か伝えたいことが出来た時に、どうにかして伝える手段が無いかって』
「なるほど。それで会員だけが入手できる商品、しかも本人音声付の目覚まし時計に目を付けたってわけか」
満足そうに頷く志木。
その表情は自信に満ちていて。
それでいてまた揶揄うような、悪戯が成功したことを確信しきっているような物になっていた。
『――フフッ、それで……どうだったかしら? 私のプレゼントは? 知刃矢さんのみたく、楽しんでいただけたかしら?』
……やはりそうらしい。
俺は……立ち上がる。
「……ああ、今まで送ってもらった中では、一番驚いたんじゃないかな?」
志木の笑みが深まるのを横目にしながら、俺は少し断りを入れ席を離れる。
勿論、あの目覚まし時計を取りに行くためだ。
志木のあの笑い……絶対俺が“後ろ! 後ろよ! 椎名さんが鬼の形相で貴方に迫ってるわ!”で驚いたと思い込んでいる。
だが真実は当然違う。
俺が驚いたのは……。
「――悪いな、持ってきたぞ」
そう言いながら、目覚ましのタイマー機能を弄る。
今か今かと、俺だけでなく志木までも、その時が来るのを待ち構えていた。
志木の方も、種明かしの時が待ち遠しいのだろう。
カチッ、カチッ、カチッ……。
時が、来た。
“――かおりん、かおりん、かおりんりん! こ~らっ、朝、だぞ! 一緒に登校、するんでしょ? 置いて行っちゃうぞ。もう~……ばか”
「…………」
『…………』
無言。
圧倒的無言。
誰もがこの沈黙を破れないでいた。
が――
『っっ~~!!』
何も言わない。
だが。
とても珍しく頬を紅潮させた志木の表情が、全てを物語っていた。
……フッ、勝った。
いや何にだよ、と思わなくもないが、俺は確かに何かに勝ったのだった。
その後、“……今のことは皆忘れ、ましょう? そ、そうだ! 急に私に出来ることなら一つだけ、何でもしたくなりました……はい”との申し出がなされ。
俺はキチンと照れかおりんを脳内フォルダに保存し、その申し出を受け入れたのだった。
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話を終えた、その1時間後ぐらいだった。
『以前話してくれた“狐のお礼鏡”でしたっけ? あれに似たマジックアイテムを、オリヴェアさんやカズサさんが知っているそうです』
織部から、そんなことを記したメッセージが届いたのだ。
また後で時間を合わせて通信を繋ぐことは打ち合わせた。
が、それでも話を進める上で必要な事項は、同じようにメッセージへと書き記して送ってくれたのだ。
『“妖精のお礼鏡”だったり、後は“精霊のお礼鏡”とか言うらしいですよ? 恩を感じる相手に送る物で、色々それによって違った効果があるとか』
ふ~ん……。
そうなのか。
でもやっぱり織部達を頼って正解だったな。
こんなにも早くヒントが得られるとは……。
『妖精だったら、鏡を通して魔力の流れを視認出来たり。精霊は……どうなんでしょうね? カズサさん曰く“おそらく一般人でも精霊の居場所が分かる”と』
ただ精霊に関しては、梓に聞いた方がいいと補足もされている。
そして織部のしたためた文章は、他にも気になることを書いていたのだった。
『何となく共通項としては、その鏡を利用できる人に力を貸してくれる、という感じでしょうか。――ですから、その狐の鏡に映った少女、というのも。案外、新海君に力を貸してくれる存在なのかもしれませんね』
次に具体的な内容に入って……後、レイネの妹、ルーネのこともちょっと触れたりするかな?
うーん……まだちょっと未定な部分がありますので、考えておきます!
すいません、感想の返しは午後に時間を取りますので、その際にさせてください!




