221.模擬戦!
お待たせしました。
ふぅぅ、1日お休みして、グッスリと休めました。
お話は修学旅行から帰ってからのスタートです。
ではどうぞ!
「レイネッ! 少し出過ぎです! リヴィルに任せて一旦下がってください!」
俺の真反対、相手パーティーの最後尾にいるラティアから鋭い声が飛ぶ。
「分かった!」
素直に言葉を受け止め、3度のバックステップでほぼラティアの真ん前へ。
「Gigiii!!」
それを追いかけようと拳を振り上げるのはゴーさんだ。
最近更にスリム化に拍車がかかり、レイネを追撃しようとする。
が――
「行かせっ、ない!!」
「ギシッ!?」
今までゴブリン――ゴッさんの相手をしていたリヴィルが突如、ゴーさんへと方向転換。
上手くゴッさんの攻撃をいなした後、レイネの追撃で隙だらだったゴーさんの横っ腹を叩く。
チッ、流石に場面場面での戦闘センスがズバ抜けてる。
リヴィルの攻撃で守りの盾だったゴーさんが遂に揺らぐ。
俺達の態勢に風穴が開いてしまった。
仕方ない――
「“ワっさん”! ブレス用意!」
「クニュッ!」
俺の声に合わせ、幼竜――ワっさんがその小さな口を目一杯大きく開いた。
そこへ、空気がどんどん集まっていく。
筒の役割をする体が小さいため、風の弾丸は直ぐに装填完了。
威力はこの際気にしない。
「――発射っ!!」
「クゥゥゥ……――ニュッ!!」
狙うは敵を仕留めた直後のリヴィル。
その時だけ、さしものリヴィルにも僅かだが、隙が生じる。
これで態勢を立て直せれば――
風の銃弾は狙い逸らさず、真っ直ぐリヴィルへと突き進んでいった。
直撃コース!
が――
「――シィッ!!」
レイネの短剣が、それを完璧なタイミングで打ち落とした。
ついさっき、ラティアの元まで戻ったはず。
なのに、いつの間にかリヴィルの側にいたのだ。
「あっ、クソッ――」
目を凝らすと、ラティアの斜め上辺りに“闇の精霊”が漂っていた。
それで察する。
位置を入れ替えたのだ!
あのラティアの指示はフェイク。
あえて隙を作って、タイミングを見計らい、コチラの態勢を崩したのか!
「ゴッさん、戻れ! ゴーさんが崩れた今――」
「――遅いよ」
俺の咄嗟の指示も空しく、既にゴッさんの喉元にはリヴィルの指先が突きつけられていた。
これ以上動いたらブスリと刺す、そんな鋭さがリヴィルの構えからは感じられた。
視線を動かすと、レイネがもうその場から消えていて……。
「クニュゥゥゥ……」
「ヘヘッ、隊長さん、あたし達の勝ち、だな?」
降参だという風に翼を真上に掲げたワっさん。
そして双剣を、その手前で寸止めするレイネの姿があった。
……はぁぁ。
「ああ……――残念だがこの模擬戦、俺達の負けだな」
俺の敗北宣言を受け、全員が一気に緊張感を解く。
「Gi---,gii,gigigi……」
立ち上がったゴーさんは申し訳なさそうに俺に頭を下げる。
いや、気にするな、流石にこの戦力差は仕方ないさ……。
今回俺は指揮だけの参加となったが、勝たせてあげられなかった申し訳なさを少なからず感じる。
「ギシッ……ギシッ、ギシッ!」
リヴィルの手槍から解放されたゴッさんは、悔しさのあまり雄たけびを上げながら地面を叩いていた。
……いや、そこまで悔しがる?
「フフッ……」
そんなゴッさんを見下ろすラティア。
敗者への弁は口にせず、ただただとても嬉しそうな笑みを浮かべ、ゴッさんを見ていたのだった。
「ギシィィィ、ギギャ!」
そんなラティアへ、ゴッさんは泣きながらも指を突きつけ何かを言っていた。
“こ、これで勝ったと思うなよ~!!”と負け惜しみを言っているように見える。
ただ、その姿は一瞬だけ、涙で目を潤ませながらも必死にそれを堪える、八重歯が可愛らしい少女のように映って――
……はっ!?
な、何か変な幻覚が見えたような……。
修学旅行から帰っても、まだあのキツネどもの影響が抜けないのかね……。
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「ゴクッ……ゴクッ……ふぅぅ。甘くて、でもお茶の風味もあっておいしいね」
リヴィルは勝利の余韻を味わうように、お土産の一つであるグリーンティーでその喉を潤す。
「あぁ……んくっ……ふぅ、ルオも一緒にいられれば良かったんだけどな……」
「ですがレイネ、それだと模擬戦、人数配分できなかったのでは?」
ラティアの言うように、今回は形式上は3対3ということで行った。
ルオの用事が無くてこの場にいたら、そもそも模擬戦をしようとはならなかったかもしれない。
そうすると、多分こうして体を動かした後の格別の一杯にもならなかった、かも。
「まあまた帰ってきたら、その時考えれば良いさ、急ぎじゃないし」
それに……今回のルオの用事は、あまり深くはツッコんだらマズい奴だからな。
「それでさ――」
気付かれないよう、話の方向転換を図ろうとするも上手く行かなかった。
「――そうだね、“シイナ”の姿でのラジオ、収録もそう時間はかからないだろうし、ルオも直ぐ帰ってくるよ」
Oh……。
「? ご主人様、どうかなさいましたか?」
俺の様子の変化を敏感に察してくれたらしい。
が、ラティアのそんな気遣いも空しく、話題はそのことに集中してしまう。
「――それにしても、結構急だったよな~リツヒの修学旅行に付いて行ったんだっけ? それも本人には内緒で」
「だね。流石に私も帰ったばっかりだったからビックリした。まさかシイナが土下座で待ち構えてるなんて、思いもしなかったからさ」
俺もっスよ、リヴィルさん……。
要するに欧州の方に修学旅行に行った皇さんを見守るため、椎名さんも日本を離れることになったのだ。
でも、それは皇さん自身には内緒で。
しかもタイミングが悪いことに椎名さん、前回のラジオが大好評だったために緊急であのラジオ出演が入ってしまったのだ。
椎名さんは日本にいることになっている。
だから出ないといけない。
でも本物は皇さんへと付いて行くことに。
そこで頼まれたのがルオだった。
「あ、あはは……」
ラティアでさえも苦笑いで返すのには、それ相応の理由があるのだ。
だって、断腸の思いを滲ませるかのような凄まじい顔で“今後……ルオ様が演じた私には……二度と否は、唱えません……”と言い切ったのだから。
特に俺とルオへ、額を地に擦りつけんばかりの勢いで頼んで、だ。
流石にそれだけ皇さんのことを想っていると分かれば、ルオも俺も断れない。
……まあ今後、危ない時はうっかり口が滑って“メイドアイドルだよ~きゃぴ☆”と言ってしまうかもしれないがな。
……うぉっ!?
今何か体がブルっと来た!?
えっ、何、椎名さんどっかから見てるの!?
ここダンジョン内だよ!?
「え、えーっと……そ、そうだ! 目覚まし時計以外にも何か郵便が来てたんだっけか?」
これ以上この話題は俺の寿命を縮める気がして、改めて違う話題を取り上げる。
「あっ、はい! 申し訳ありません、お渡しするのが遅れてしまって……」
ラティアが申し訳なさそうに胸の谷間に挟んでいた封筒を取り出す。
俺は気にするなと手を横に振りながらも、それを受け取る――瞬間、ピタッと手を止めた。
「……いやラティア、どこから出してんの?」
そのツッコミに、一瞬だけラティアの表情が悔し気に歪んだ気がした。
だがそれも一瞬のことで、直ぐにニコニコと笑顔を浮かべる。
そして薄い白シャツを引っ張り、胸元を強調して見せた。
「えっと、ご主人様にお渡しする大切な物だと思いましたので、無くさないよう肌身離さずにいられる場所に、と」
あくまでもその建前は崩さないらしい。
「…………」
リヴィルは聞いているだろうに、関係ない第三者を決め込んでいる。 ……果汁3%な。
「うわっ……ってことはそれ、直にラティアの胸に触れてんのかよ……」
一方のレイネは、それを俺がどうするのか、野次馬根性を丸出しで様子を窺っていた。
はぁぁ……。
「――そうか、まあ……うん、ありがとう、受け取るよ」
とはいえ、受け取らないと話が進まない。
今の俺は、あの時の椎名さんみたく苦渋の表情をしていただろう。
「はい!」
封筒を渡せたラティアは、しかし、その瞬間だけはとても純粋な笑顔を浮かべていた。
誰かの、とりわけ久し振りに俺の役に立てたことを素直に喜ぶように。
……むぅぅ。
受け取った封筒は、しばらく外気に晒したからかほんの僅かな熱だけを帯びていた。
これが、胸の肌の、体温……。
……今年の冬、草履ではなくて靴下とか手袋とか、勝手に温かくなってたら要注意だな。
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「およっ? カードか……うわっ――」
さっきのやり取りに気を取られ、無警戒だった。
開けた封筒の中から出てきたのは、とても身に覚えのある感触をした、とある1枚のカード。
そしてそこに書かれていた文字も、一部を除いて既視感しかない一文が書かれていたのだった。
『空木美桜公式ファンクラブ会員番号:0 新海陽翔』
「で、隊長さん、中身は何だったんだ? ……おお、美桜じゃん!」
「へぇぇ……しかも、可愛らしいメイド服姿だね」
左右からレイネとリヴィルが俺の手元を覗き込み、カードの内容を確認する。
二人の言う通り、カードに映っていたのはメイド姿の空木だった。
とても丈の短く、太腿が覗くミニスカート。
胸元の大きく開いたワンピースと、白のエプロン。
空木は真っ直ぐ前を向きながらも、羞恥に悶える表情を浮かべていた。
その両手はぎこちないながらもハートの形を作っていて……。
この状態の空木のセリフを当てるとするなら“もっ、萌えぇ~、萌えぇ~、きゅ、キュンッ!! う、うぅぅ……”が正解だろう。
「……フフッ、ミオ様の着ていらっしゃる衣装。とても高価な物のように見えます」
俺の前、上下逆になるようにカードを覗き見たラティアがそう推測する。
「そうなのか?」
「はい、おそらくは……」
ラティア曰く、三井名さんにお呼ばれしたあの簡易のモデル会以来、より衣装やコスプレに対する関心が高まっているそうだ。
ラティアが地球のことにより興味を持ってくれていることに喜ぶべきなのか、一歩踏みとどまって首を捻るべきなのか、悩むところだ……。
「ミオ様……恥ずかしいながらも、頑張ってこの衣装に袖を通した――そんな気がしますね」
ラティアはそれ以上は告げず。
しかし、言いたいこと・伝えたいことは確かに俺へと届いたように感じた。
……はぁぁ、まあ、カード、しっかり財布内に保存しておこうか。
「――へぇぇ……何かレイネみたいだね、ミオ」
今の話はこれで終わり、そう思っていた所に、リヴィルの一言がいきなり振って来た。
「はぁぁ!? ちょ、それどういう意味だよ!?」
当然言われたレイネは納得できず、顔を赤らめて反論する。
……あんまり反応しすぎると図星っぽくなるよ?
「いや、だってミオもレイネもメイド服、嫌々、恥ずかしがりながらも着てるでしょ? で、そこがまたツンデレっぽくて……」
「あ、あ、あたしは! あたしはツンデレなんかじゃないんだからな!」
レイネの声が、辺りに虚しく響いた。
残念ながら、それを真に受けてくれる者はここにはいないからな……。
その後も色々と騒がしさが続き。
何となく帰って来たんだな、ということを少しずつ実感していったのだった。
後はルオがいれば、もっとそう感じるんだろうな……。
次に、多分前話のあの狐の鏡に触れると思います。
大体どういう性質の物かもそれで分かるかと。
まあだからと言って、あのケモ耳少女が誰かは……直ぐには分からないかも。




