219.2日目……。
お待たせしました。
やっぱり3話じゃキツかったです。
無理して書くと、詰め込み過ぎになるし、そもそも今日そこまでの時間が取れず……。
すいません、明日の分ではちゃんと終わりますので。
ではどうぞ。
『せーんぱい! 起きてください、可愛い可愛いチハちゃんですよ~! むぅぅ……起きてくれないと、私も一緒に布団、入っちゃいますよ~?』
「…………」
あざとウザ可愛い。
桜田の奴、中々攻めたボイスを入れたな……。
「あ、あのさ新海君、ちょっと僕らラウンジに行ってくるから」
同じ班の男子が、恐る恐る俺に声をかけて来る。
……別に俺に断り入れなくても、好きに行けばいいじゃん。
一応イヤホンを外し、頷きで返事をする。
2人組が出て行ったのを見送り、俺はまたイヤホンを付けた。
部屋には後もう一人の班員、立石もいない。
実質俺一人なので、誰に気兼ねなく聞ける状況だった。
「……っと、次は逆井のか?」
ラティアがわざわざ3人の分を録音して、メールで送ってくれたのだ。
もう既に温泉も入り終えたのに、夜の今、朝の目覚ましボイスを聞くというのも何だか変な感じがする。
修学旅行に来てまで、俺は一体何を聞いてるんだと虚しい気持ちにさえなるしな……。
データを再生させると、秒針が時を刻む音が聞こえてくる。
そして10秒程すると、逆井の声がした。
『ほらっ、もう朝! 早く、起きて起きて! あっ……べ、別の所がお目覚めしちゃってるじゃん。全く……アタシの夢見て、そういう風になったの、かな? ああもう、バカッ!』
「…………」
何これ。
コイツ俺のこと起こす気ないだろ……。
これだと、まだ桜田の奴の方が可愛げがあるな。
逆井の奴、この内容を演じて入れたんだろ?
何を考えてるんだ、アイツは……。
はぁぁ……何か良く分からないが、赤星とは違う意味で、逆井と顔を合わせ辛くなった。
「最後は、そう、だよな……」
桜田、逆井と聞いてきて。
残ったのは勿論、赤星の音声だ。
と、丁度その時、電話が来た。
相手は……赤星だった。
流石にドキッとして出るかどうか迷う。
が、出ないという選択肢は流石にないだろう。
タイミング良く、部屋には誰もいない。
「……もしもし?」
警戒するような間が空いてしまう。
が、声を聞いて俺は更に驚かされた。
『あっ、もしもし、マスター? 私、リヴィルだけど』
「リヴィル!? 何だ、ビックリした……」
息を吐くと、あからさまに向こうから楽しそうな笑い声がした。
『フフッ、ハヤテと思った?』
「いや思うだろ。赤星の電話からかかって来たんだから」
一応念のため、スマホの画面を見直す。
……うん、赤星の電話からだな。
『うん、そうだね。――え、何? 大丈夫、別にマスター普通だよ? ハヤテのこと? 悪く言ってないって、うん、いや本当だって、嘘じゃないから……』
リヴィルの声がしばし耳元から離れる。
持ち主の赤星もやはり側にはいるらしい。
そしてその赤星から何か言われているという状況か……いやどういう状況だよ。
「……で? どうした、何か問題事か?」
俺が話すと、リヴィルの声が戻ってくる。
『ゴメン、えっとそうじゃなくて。私とハヤテ、今日も泊ることにしたから』
「え、あ、そうか……」
本来俺が聞いていたのは、1泊2日、つまり今日には帰るということだった。
が、要するに1日延長して明日帰ることにする、ということか。
ただ、赤星は今日までが学校の代休日だと聞いていた。
つまり明日は普通に授業があるんじゃないかと……。
…………。
「まあ、分かった。繰り返しになると思うがゆっくり休んで、羽を伸ばしてくれ」
『…………』
リヴィルが言葉を切り、考えるような間が生まれる。
そして見えないのに律義に頷くような音が聞こえた。
『分かった。ハヤテにもそう言っとくね』
「おう、リヴィルも、気を付けてな?」
『はーい』
それで通話は終わった。
……何故か持ち主は一度も出ることは無かったが。
まあ、原因は……あれだよな。
あのシルフの贈り物、そして変身。
それがやはりまだ尾を引いていた。
「誠意ある対応……その前提として会う機会が、なぁ……」
そんなことを思っていると、メールが届く。
正に今さっきまで電話していた相手と同じ人物だった。
そのメールの最初に、有名な神社の名前が記してある。
そして続きには、文面からリヴィルが打ったのだと分かることが書かれていた。
『――明日、私達ここに行くから。もし時間が合えば……会える、かも。自由時間、行けそう? ハヤテ、多分会いたがってると思うけど』
「…………」
なるほど。
そうか、今ようやく、リヴィルがいきなり赤星と旅行に行くと言い出した訳を理解した。
しかも行先は俺の修学旅行先と同じ、京都だ。
要するに……。
「仲直りの仲介役を、買って出てくれてるってこと、かね……」
俺と赤星は別に喧嘩をしているわけじゃない。
が、それでもお互いとても気まずい状況であるのは確かだ。
「“できるだけ時間作る。まあ多分、大丈夫だと思うぞ”っと……」
メールを送った後、俺は改めて赤星の目覚まし時計の音声を聞くことにした。
イヤホンを付け直して、データを再生する。
『……おはよう。もう、朝、だね。起きないと……でも、もう少しだけ君の隣で寝てても、良いかな? 君の隣にいても良いのかな? いさせてくれるなら……うん、嬉しいな』
赤星らしい、押しが強いわけではなく、かといって存在感がないわけでもない、そんな音声だった。
そしてその内容が、今の状況と若干重なるような、そんな様にも思えて……。
「明日……ちゃんと時間、作らないとな……」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
2日目の目玉である自由時間。
昨日のイレギュラーで生まれた物とは違い、朝から夕飯までかなり長い時間を確保されていた。
「ふぃぃ……ようやく着いた」
他の班員はアニメの聖地へと向かったり。
あるいは立石君だいしゅきメンバーと行動を共にすることになったり。
なので俺も大手を振って単独行動を出来ていたのだ。
階段を上り、額に浮いた汗を手の甲で拭う。
かなり上まで登って来た。
「へぇぇ……良い景色だな」
そこから見晴らす光景は、絶景、かどうかは分からんが心に響くものがあるのは確かだった。
京都の古き良き街並み、景観を大事にするためか、高い建物は比較的少ない。
そのため、多くの町や家々が見渡せる。
今いる神社自体も勿論、とても由緒ある伝統的な物なのだろう。
だがここから見られる景色だけでも、この場所まで来た甲斐があったというものだ。
「さてっと……二人はどこだ?」
足を休めながらも、周囲に目的の人物がいないかどうかを探す。
自分以外で同年代の観光客は沢山見かけるが、それらしい二人は見当たらない。
「……ってかアイツら、変装してるんだよな?」
ただでさえ今大人気のアイドルと、誰もが目を惹くような美貌を持つリヴィルだ。
変装してないのなら人垣ができてるだろうし、むしろそっちの方が見つけ易い。
「ま、時間はあるから地道に探すか……って、ん?」
こんな時にDD――ダンジョンディスプレイに反応があった。
これはメッセージ受信を知らせる音だ。
流石にいきなり来たのでビビる。
「……まあ織部、だよな……」
あくまで堂々と座りながら、しかしコッソリとDDを取り出し、確認する。
やはり相手は織部だったようだ。
通信ではなくメッセージということは緊急性はないらしい。
……が。
『新海君、私、血、求! 吸血姫、叫、血、懇願!』
読み辛っ!
漢字ばっかじゃねぇか……。
ただ多分、織部的には長文になってDPを浪費したら、という配慮があったんだろう。
「それはいいが……」
これで意味が通じずに、2文,3文とやり取りすることになったらそれこそ無駄になるだろうに。
……まあ、今回は意味は分かるけど。
「はぁぁ……」
俺は慣れた手つきで、筆記具に仕舞っているカッターナイフを取り出す。
そして未だ開封していなかった500mlの水の蓋を開けた。
「……よし」
俺は誰も見ていないタイミングを見計らい、カッターの刃を指先へと滑らせる。
コツは怖がらずに一気に行くこと。
皮膚を浅めに割き、そこから血液が小さな玉となって浮かび上がった。
それを一滴、ペットボトルの中へと滴らせる。
「……はぁぁ」
蓋をして、カバンの中に戻す。
流石にDDで転送するのはもっと人気のないところでしよう。
さっ、二人探しを再開だ。
「ええっと……あれ、人、何か少なくない?」
再び2人を探しに奥まで進むことに。
メールにも出ないし……中々出会えない時間が続いていた。
電話も……圏外なんだよな。
鳥居を潜っていくと、何故かどんどん人気が無くなっていることに気付く。
後ろを振り返ると、他に人はおらず。
いきなりのことで面食らい、首を傾げる。
ちょっと怖くなりかけた時、なだらかな斜面から何か生き物が駆け上がって来た。
「うわっ!? って……え、キツネ? え、こんな野生でいるもんなの?」
キツネは小さいながらも5,6匹いて、どんどんと集まってくる。
そして俺を囲むと、俺の指に飛びつき始めた。
「ちょっ、お前ら、え、何!? 痛い痛い! あっ、舐めんなバカッ!」
どうやらさっき切って血が出た所を舐めているらしい。
血を欲するのは吸血姫だけで十分だっつうの!
「――ああっ、こら、ダメだよ!」
「ハヤテ、いた! ……あれ、マスター!?」
そこに現れたのは何と、探していた赤星とリヴィルの二人だったのだ。
織部さんがなんて言ってるか、分かりました?
要するに『新海君っ、血を! 血を送ってくださいませんかぁぁぁ!? オリヴェアさんがぁぁぁぁ!!』
ってことです……。




