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214.オリヴェア

お待たせしました。


ではどうぞ。


「た、隊長さん……その、ど、どうかな?」



 織部からの連絡を待つ間。

 遅れて部屋に来たレイネが、恐る恐る自分の姿を披露してみせる。



「おぉぉ……」


 

 思わず声が漏れる。

 


 昨日に約束した通り、自らメイド服に袖を通したようだ。



 床にまで付くのではないかというくらい長いスカート。

 白いエプロンは染み一つ付いていないもので、清潔さを感じさせた。


 グローブを纏った手で、心細そうにその服をキュッと握っている。

 体を小さくソワソワと動かし、こちらの返事を待っていた。


 

 

「……まあ、似合ってるんじゃないか? うん」


「良かったですね、レイネ。私もとても良く似合ってると思います!」



 ラティアも太鼓判を押すように、レイネを手放しで褒め称えた。

 


「あ、うっ、その…………うん」



 長い沈黙の後、一言、消え入るような声でそう頷いた。



 顔を思い切り俯かせ、その表情は窺い知れない。


 ……が、何となく照れてるというか、恥ずかしがっているらしい。



「フフッ、これで後ドジっ子属性が付加されれば文句無しなんですが」


 それをフォローするように、ラティアが冗談交じりに笑ってみせる。



「スカートの端を踏ん付けて盛大に転んだり、誤ってご主人様に下着を見せつけたり……」


 

 ……フォ、フォローだよね?

 流石のラティアもマジで言ってたりはしない、よね?





 そんな軽い(?)雑談をしているうちに、ようやく織部からの連絡が来た。

 DD――ダンジョンディスプレイの通信を繋ぐ。


 

 先ず画面に映し出されたのは、既に陽が落ち始めた町の様子だ。

 赤に染まった街路ではしかし、まだまだ活発に動き回る人々が見て取れた。


 ……しかし、何か、どこかに違和感を覚える。



『遅くなってすいません。ようやく“オリヴェア”さんとの会談が整いまして……』


「あ、いや、それはいいんだが……」

     


 申し訳なさそうに語りながらも、DDに映る景色はどんどん後ろへと流れていく。

 織部やシルレ、それにカズサさんも見えることから、あちらのDDを持っているのはサラらしい。

 

 少し時間でも押しているのか、歩きながら連絡を繋いでくれたのだろう。


 ……おかげでツッコミのタイミングを失ってしまったけどな。


 

 昨日以来、織部の口から聞かされた“オリヴェア”さんなる名前が、ずっと頭から離れないんだよ……。


 でもこの俺の悶々とする違和感・懸念を共有してくれる人は誰もおらず。



 

「……何だか、女性が多い気がしますね?」


 

 一人、誰にも言えない気持ちを抱えていると、横でラティアがグッと画面に寄った。


 その言葉に同意するように、メイド服姿のレイネも顔を前に突き出す。



 ……あの、ちょっと二人とも、近いんすけど。



「確かにな……“リリアスの町”だっけか? あたしが異世界(あっち)にいた時も、あんまり耳にしない町だったが……」



 今正に両隣にいる女子から香る、女子特有の良い匂いに悩まされながらも、同じように画面を注視することに。


 ラティアが“多い”と表現したが、今の所俺が見る限りは……。



「……女性しかいない、ように見えるが?」


『……私も、この町に入ってからは女性しか見かけていません』



 俺の言葉に答えるように、織部がそう口にする。

 門番も、出店の商人も、そして領主も。


 この町にいる人は皆女性なんだと語った。

 Oh……。

 

 

『まあ……“リリアス”は特殊だよ。――“オリヴェア”は元々貴族で、領地を持っている家系だった』  


  

 そう語ってくれているのは、足取り重そうに進んでいるシルレだった。



『一度没落してしまったが、五剣姫になって戻って来た時。彼女が求めたのは具体的な領地ではなく“獲得した領地を自分好みにすること”――つまりある程度の自治の承認だった』



 その話を補足するように、カズサさんが後を継ぐ。



『自分で土地を切り開きここに新たな町を作った……他の領地はともかく、ここは女性だけが暮らす町。“オリヴェア”は私達と変わらない年にも関わらず、非常に優秀な女性なんですよ』


『エルフの中でも、彼女の名前だけは畏怖の対象としてよく知られていました。まさか“オリヴェア”さんがあの“吸血姫(きゅうけつき)オリヴェア”だったなんて……』


「…………」



 サラにまでそんな風に言われたら、もう流石にツッコめない。

 いや、その“オリヴェア”さんなる人が凄いのは良いよ?



 でもさ……。

 


 ……“織部(おりべ)”と“オリヴェア”、音が被るんだよ。


 織部本人ですらスルーしてるけど。

 ……このそこはかとない違和感、誰か一緒に理解してくれる人、いないのかね?

 


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 経緯から、ここは比較的新しい町のはず。

 にもかかわらず、織部達が入った領主の家はとても古風な外観をしていた。


 おとぎ話で魔女なんかが住処(すみか)にしていそうな、そんな薄気味悪さ漂う洋風の館。




 少し空気がピリピリしている。

 俺はサラに頼み、邪魔にならない場所に荷物の一つとしてDDを配置してもらった。


 織部達が話している間は、様子だけ眺めてこちらは口を挟まず、静かにしているつもりだ。


 上手く画面から距離を置けば、多分あちらからは俺達の姿は見え辛いはず。

 

 


『――お待たせしましたわ……それと、お久しぶりですわね、シルレさん、カズサさん』



 織部達が待つ会談場所に入って来たのは、一人のスラッとした女性だった。


 綺麗な淡い桃色をしたストレートの長髪。

 今のレイネのように長いスカートを履き、それにもかかわらず足取りは優雅でとても軽やか。


 服の上から覗く腕も、そして体全体もとても細く見えた。

 だが隙などどこにもなく、彼女が攻撃を受ける姿が全く想像できない。

 そんな不気味な雰囲気を、この一瞬にしてありありと感じ取れた。



 そして何より、その瞳に宿る絶対的な自信。

 その美しい少女は自分の容姿、能力、その他全てのことに対して、揺るぎない芯を持っているように思えた。




 …………。



『……ああ。で、彼女が紹介したいと言った“カンナ”だ』


『どうも。カンナ・オリベと言います。初めまして』

              


 シルレに促され、織部はあちら側での自己紹介を流暢(りゅうちょう)に済ませる。



『そうですか……カズサさんから伺いましたわ。先の“大森林”でのダンジョン攻略、貴方が助力下さり成し遂げられたとか。ありがとうございます』



 織部をじっくりと眺めた後、姿勢を正してお辞儀する。

 礼儀正しく、そこには織部への純粋な感謝と敬意が込められていた。


 …………。


 

 とても短い間でのやりとりだが、それでもこの“オリヴェア”という女性がまともな人物だということが分かった。

 

 確かに雰囲気は底が知れない不気味さがある。

 だが挙動や仕草、言葉遣いなどどれを取っても、上流階級の令嬢のそれを想起させるものだった。

  


 何だ、俺の懸念や漠然とした不安も、単なる妄想だっただけか……。 







『――あのダンジョンは他の領地との境にあるので、手出しをし辛かったのです。だというのにこの時期になるとモンスターが溢れてくる。頭痛の種でしたの』



 お互い挨拶を済ませ、簡単な雑談へと入っていた。

 織部は自身が“勇者”であることには触れなかったものの、ちゃんと会話自体は成り立たせている。

 


 オリヴェアの方も、自領の内実や近頃あった笑い話など、豊富な話題を交えて織部達をもてなしていた。



 ……が、俺達は第三者として見ているから分かったのかもしれない。



『それは良かった。“協力者”もいるにはいたが、あのボスの大蜘蛛は特に大変だったからな』


 

 シルレが俺達の存在を匂わせるような言い方をする。



『そうでしたのね。なら重ねてお礼を申し上げませんと』


『ああ』



 通り一遍の言葉を口にはするが、それ以上の深い話にならない。 

 やはり……。

 


 ――多分、オリヴェアは特に、シルレとカズサさんには心を開いていない。

 それに、シルレとカズサさんもそれを分かった上で、受け入れている。

 


 ……聞いていたように、彼女ら3人は同じ“五剣姫”とはいえ、あまり仲はよろしくないようだ。





『……恩に思ってくれるというのなら、一つ聞きたいことがあります』



 カズサさんが満を持して、静かに口を開いた。

 


『? あら、何ですの? (わたくし)に答えられることでしたらお答えしますが』



 オリヴェアは余裕を崩さない。

 何を聞かれても問題ない、何でもどうぞと、その表情が語っていた。


 五剣姫の間で個人の好き嫌いはあるのかもしれないが、あの大蜘蛛ダンジョンの件は、実際に借りのようには思っているらしい。 


 筋は通す、みたいな人なのかな……。



 

『では……あなたの副官――天使族の女性の件をお聞きしたい』  


『…………』 

   


 初めて、オリヴェアの表情が曇った。

 何でも淀みなく答えていた彼女が、どう答えるべきかという間を置いたのだ。



「――っっ!!」



 そのことに驚いていると、隣のレイネが息を呑むのが分かった。

 俺達から事情を話していたわけではないが、今までのこと、そしてカズサさんの質問で全てを察したらしい。


 

 思わず言葉が出かけた所を、咄嗟に俺の手で口を塞ぐ。



「んっっ! んん、んん!?」


「…………」

 


 多分“大丈夫だから! は、離してくれ!?”的なことを言いたいんだろう。

 それは良いんだが……ダイレクトにレイネの唇が動くのが掌に伝わってくる。


 薄っすらと唾液が付くのも感じて……くすぐったい。


 念のため、もう片方の手を自分の口の前へと持っていく。

 人差し指だけ立て、“静かにな?”というアイコンタクトと共に、レイネの口から右手を解放した。




『……“ルーネ”のこと、ですか。――はぁぁ、なるほど、どうりで五剣姫が2人も揃っていらっしゃるわけですわね』



 俺達がコソコソとやり取りをしている間に、状況が進んでいた。

 オリヴェアは観念したというように息を吐く。



「っ!!」


 

 その名前が出たことも、そして“天使の少女”という前提を認めたことも。

 レイネを驚かせるには十分なことだった。


 


 ――レイネの妹はやはり、ここで生きていたんだ!




『まああながちお二人も無関係、という訳ではないですしね……良いでしょう、お話ししますわ――』



 独りでブツブツ呟いたかと思うと、また直ぐに何かを決断したかのように大きく頷いてみせる。



『私が何年も前に出会った天使の少女……ルーネには、生き別れたお姉さんがいらっしゃるんだそうです』


「…………」


 

 またドキッとする話が飛び出した。

 ただレイネはもう動じない。

 

 生きていると確信できた今、レイネは全てを聞く覚悟で画面を見据えている。


 オリヴェアはそして、織部やサラをも含めた全員に聞かせるように、ハッキリとした声で告げたのだった。



『――“闇市(アンダーマーケット)”。腐敗した貴族も御用達の何でも市場。ルーネはお姉さんを探すために、そこへ潜入捜査をしておりますわ』  

皆さん、オリヴェアさんはとてもまともな人なんです!

ただ発音が似ているだけです!


織部さんとは関係ありません。


良いですね!?


織部さんみたいに、元々はとても周囲から人気があって、一見するととてもまともな人に見える。

でも実はあんな本性が……なんてこととは今の所は全然違うんですよ!

そこのところ、しっかりとお願いしますね!(目逸らし)


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― 新着の感想 ―
[一言] ニイミさんそろそろ 全国の紳士淑女の祈りを受けて 爆発すれば良い。 先生!オリヴェアさん凄く良い人そうですね 多少癖はありそうですが!! 。。。あれ?ブレイブセンサーが異常数値を示してる…
[一言] なんか女性だけの町と聞いた時点で・・・IFルートの変態趣味が全面にでなくて百合に目覚めめた織部さんのルートかとかおもってしまった。 オリベェアさん・・・織部A、アナザー織部さんですし(
[気になる点] >  礼儀正しく、そこには織部への純粋な感謝と敬意が込められていた。。 →  礼儀正しく、そこには織部への純粋な感謝と敬意が込められていた。 [一言] >  思わず言葉が出かけた所を、…
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