21.2人目も一筋縄ではいかなそう!!
お待たせしました。
名前まではまだですが、2人目の少女の購入回です。
――ジャンジャンジャン、ジャジャーン
テンポのいい音楽が終わると同時に。
目の前で踊っていた少女たちが決めポーズをとる。
何かを狙い撃つように指を銃に見立てて。
それぞれ別の方を向いているのに、それがちゃんと揃っていて。
とても綺麗に映った。
『――どうどう? アタシらの曲、イケてるっしょ!?』
少し息が上がりながらも、期待に満ちた表情で感想を求めてくる逆井。
「あーそうな、イケてるイケてる。イケ過ぎてマジイケイケって感じ」
『ちょ!? 適当過ぎだし!! 何言ってるか意味不明なんだけど!?』
え~。
普段からお前みたいなギャルっぽい奴らだって、何語話してんのって言葉使うじゃん。
俺の返答が不満なのか、逆井は頬を膨らませて画面から離れていった。
ペットボトルの蓋を開ける逆井と入れ替わるように、小柄な少女が近づいてきて――
『えっと……あの、陽翔様!! あ、あ、“愛してる”!!』
少女は顔を真っ赤にして、目をギュッと瞑りながら、そんなことを口にした。
「…………」
『え、え!? あの、えっと……“愛してる”!!』
「皇さん……それは俺と“シイナ”さんがやり取りする際の合言葉だから」
俺はさっとレッスンスタジオの端にいた、スーツ姿の女性に視線を移す。
おい、何すました顔してんだ、あんただよあんた。
主人に変な風に教えんな。
『え、え!? ち、違うのですか!? ――もう、椎名!!』
熟したリンゴみたいな赤い顔をして、従者の方へと駆けていった。
――“チッ、根性なしめ”
「おい」
今声には出さなかったのに。
明らかにあの従者の女性が口にした言葉が読み取れた。
あの従者、俺に喧嘩売ってんのか。
「はぁ……」
『――それで、貴方から見て、私達の歌の出来はどうだったかしら?』
「……いや、志木、そもそも俺に見せていいの? これまだ発表前だろ」
画面の右端に、俺に見せるようにして立てられている一枚の紙に目をやる。
“キミの心、探索者!!”という曲名が大きく記載されていた。
今度、また新たに制度が追加されることに合わせて。
ダンジョン探索士からなるアイドルグループのお披露目も兼ねて歌うことになるらしい。
今目の前にいる志木が、どちらにも裏で大きく関わっているとあって。
俺も慎重な発言にならざるを得ない。
……まあ、もっとヤバい、ダンジョンを攻略したという秘密を共有している以上、それを漏らす心配はないという信頼感はあるんだろうが。
『だからこそよ。一般の人の感想を事前に聞いておきたいの。それにあなた、漏らす相手でもいるの?』
レッスン着の志木は汗一つかかず、挑発するような笑みを浮かべてそう聞いてくる。
クッ……。
「……まあ、いいんじゃねぇの。人気が出るかは知らんが」
実際、逆井と皇さん、それに志木の3人だけのダンスだが、随分と完成度は高かった。
一体いつ練習してたんだというくらい。
それに歌もまあ意外と悪くない。
少女が初めての恋をして、そのことにドキドキしながらも楽しんでいく気持ちと。
ダンジョンに潜り、未知へと挑んでいく気持ちを上手く掛け合わせた歌詞になっていた。
好きな君の心が、一体どうなっているのか。
自分のことを少しでも気にしてくれているのか。
それとももっと可愛いクラスのあの子に夢中なの?
そんな不安を覚えながらも、好きな君へと向かっていくよ。
君の心、探索して見せる!!
――詳細な歌詞は覚えていないが、まあそんな感じの、明るいポップな歌だった。
『そう。それが聞ければ十分だわ。――じゃあ、また椎名さんを通して連絡するから』
「おう」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
逆井達との慣れないテレビチャットを終えて。
後少しの夏休みの課題を終わらせる。
面倒臭かったが、何とか少しずつやっておいた。
なので、今日中に終わらせることができたのだ。
逆井達も、こんな朝っぱらから、ご苦労なことで。
「というか、アイツらはこの時間しか空いてない、のかもな……」
ダンジョン探索士としての実地講習もある。
それに加えていきなりアイドルやれって言われたんだ。
志木なんかは個人で会社経営とかもしてるって言ってたし。
それに皇さんと定期的に、無事だったあの少女の自宅へも足を運んでいるらしい。
「大変だね……」
完全に他人事の気分で、俺は伸びをして凝り固まった体をほぐす。
そして――
「今日は『Isekai』にお世話になりますからね……グヘヘ」
悪徳商人っぽい声を出しながらも。
俺はDD――ダンジョンディスプレイを出して操作を進めていく。
昨日、あの後ラティアと検討を重ね。
前衛を務められる奴隷か、あるいはエルフの少女を買おうという結論に達した。
前衛は言わずもがな。
エルフの少女は“神官”というジョブが、決める大きな要素となった。
前衛でなくとも、回復魔法を使える可能性がある。
そうすれば、俺がタンクを務めても怪我を治せるからだ。
決して俺がエルフを推したわけではない。
むしろエルフの少女についてはラティアの方が強く推していた。
前衛で良い奴隷がいなければ、最有力候補はそのエルフだ、と。
「何であんなにラティアがエルフを推していたかは分からんが……」
まあ俺としては何方でも構わないんだが。
さて――
「『奴隷少女』の購入をっと……――え?」
俺は、目を疑った。
「あれ……そんな、はずは――」
『Isekai』のサイトを閉じて。
もう一度立ち上げる。
だが――
「……な、い」
何度見返してみても、ないのだ。
「――6件あった、はずなのに……1件しか、ない」
――つまり、エルフ神官も含め、5人の奴隷の少女は、売れてしまっていた。
項目には、ポツンとそれ一つだけが、掲げられていた。
『戦闘専門 奴隷少女:2万2000DP 詳細:スキル所持。特殊なジョブを保有。※価格理由:若く、容姿は極めて優れているものの、奴隷経緯が非常に複雑。また、扱いが非常に難しい。ジョブ自体も死にジョブと化している。本人も売られること自体を拒んでおり、長期間売れ残り』
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「あぁぁぁぁぁぁ……」
ベッドにダイブした後、枕に顔を埋めて声を上げる。
俺は今、物凄い後悔に襲われていた。
「何でもっと早く決めなかったんだぁぁぁぁぁ……」
いや、ラティアへ確認を取る必要はあったんだ。
だから仕方ないといえば仕方ない。
でも、でもなぁ……。
「何で1日2日で一気に10人も買うんだよ……」
確認してみると、男性の方の奴隷に至っては5人丸々が売れてしまっていた。
“SOLD OUT”となっていて閲覧さえできなくなっている。
異世界で売っている品を、そのまま俺が“DP”を使うことによって買うことができる。
そういう効果だから、確かに異世界側で買われてしまうということもあり得たんだ。
でも、まさか自分がそれにあうことになるとは……。
――ビビッビッ
「あん? ――ああ、織部か」
丁度DDを出していたので、直ぐに織部からのメッセージが届いたのだとわかった。
「…………は?」
メッセージを開いてみると、まあ内容自体はなんてことはない。
また、衣服、特に下着・肌着類を買って送って欲しい。
そういうものだった。
だが――
「……織部、それは流石に無理があるだろう」
俺は以前、織部の下着等を買う羽目になったので、本人からサイズを聞いていた。
そしてサキュバスであるラティアじゃないんだから、1日2日であの発展途上が巨大化するわけがない。
――胸のサイズが、4つも上の物を注文してきやがった。
「……これは、あれか。パッドも買えってことか」
異世界で、何か見栄を張らないといけない依頼にでもあたったのだろうか。
それか潜入捜査的な?
「それでも4つはキツイと思うんだが……」
でもまあ、本人も気にしているだろう。
俺は、掃除中に息子のエロ本を見つけた母親の如く優しい気持ちで。
「『分かった。後、俺は詰まってても気にしない。どんな織部でも受け入れるからな』っと」
温かみに溢れるメッセージを送っておいた。
直ぐに返事が来る。
『? ありがとうございます。送ってくださるのであれば、詰めていただいて構いません。よろしくお願いしますね』
「えっ、俺がパッドを詰めた下着を送れってことか!?」
織部の奴、それだけ余裕がないのだろうか。
いや、それだったら通信くらい使ってくるはず。
「……まあ、本当に何かあれば、言ってくるだろう」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「では、こちらの奴隷をご購入されてはいかがでしょう?」
「え? でも、本当に?」
その後。
ラティアに事の次第を説明すると、そんな答えが返って来た。
「はい。見た所……」
俺が見せていたDDの『Isekai』の画面を見て。
ラティアはすんなりと頷いて返す。
「“戦闘奴隷”ということですね。基本的にこういう表現は荒事を担っていた者に対して使われます」
その説明を聞いて、一瞬考え込む。
「ってことは……前衛を担える可能性があるってこと?」
「はい。戦士系統か、格闘家系統かなどまでは分かりませんが」
「ふーむ……」
問題はそれだけではないんだが。
でもなぜかラティアは乗り気だ。
「ご主人様が気にされているのは、従うかどうかわからない、という点ですか?」
「ん~……」
ラティアの問いかけに、頷くかどうかに迷う。
「最悪……奴隷は購入の際に“奴隷契約”の魔法を更にかけられるので、ご命令いただければご主人様に従います」
「え、そうなの?」
何か購入の際に、そんな感じの文章を読んだ気はする。
でも、実際に使う機会なんてなかったから完全に忘れてた。
普通にラティアが良い子だったからな。
「はい……いかがでしょう?」
そのラティアは、この奴隷を買う方向にかなり積極的だ。
勿論、懸案だった前衛を担える存在である可能性が高い、という点も大きいが。
……まあ、ラティアなりに、何か俺のためになると思ってくれてるんだろう。
「――もしご購入されるのであれば、私がご主人様の指示に従うように説得します!!」
強い意志を感じさせる瞳で、ラティアは俺にそう言った。
……うん、やっぱり何か思う所というか、考えるところがあるようだ。
「ジョブもあればそれに越したことはありませんが……」
そこはラティアの前例があるから、大きな問題にはならないだろう。
ジョブが無くても、ラティアのように立派に戦ってくれることもあるからな。
「――分かった。じゃあ、買うか」
「ぁぁ!! はい!!」
「――……確かに、息をするのも忘れちゃうくらい、綺麗な子ですね」
隣で見守っているラティアが、はふぅと感嘆の息を漏らす。
「……そうだ、な」
ラティアの時と同じように。
『Isekai』で手続きを進めていくと、画面内の商人がその女の子を連れて戻って来た。
今回は建物内で、別に奴隷の待機部屋のようなものがあり、そこに向かったようだ。
そして見るからに悪そうな顔をした商人ですら、連れて来た少女を横に置き――
『……本当にご購入されるんですか、お勧めはしませんよ?』
と親切に教えてくれるのだ。
……余程問題があるんだろうな。
ラティアの言った通り。
商人に連れられてきた少女は、一目見たら決して忘れないだろう恵まれた容姿をしていた。
ラティアも綺麗で、誰もが振り返るようなくらいに優れた容姿だが。
ラティアのそれは、可愛さ・愛らしさが同居したものだ。
この少女は、綺麗さ・美しさそれだけが突き抜けたようなものだった。
腰まで届く程の長い髪は、その凛とした姿を映すように綺麗な藍色を帯びていて。
先に言われてなければ戦闘専門などと思えないような程に手足は細い。
ただそれはか弱さを連想させるものではなく。
モデルみたいに芯の強さみたいなものを感じさせた。
背もラティアくらいにはあるし、スラッとしている。
「じゃあ……購入するぞ」
「はい……」
何故か、二人して何かの合格発表でも待ち受けているかのように、ゴクリと唾を飲む。
そして、購入手続きを完了し――
「来ました!! ご主人様、来ましたよ!?」
「お、おお!! 来るぞ!!」
光の収束に合わせて、先ほどまで画面内にいた少女が。
今、目の前に姿を――
「――ふぅ……そっ。アンタが、私を買ったマスター?」
少女は、一切表情を変えず、俺へと視線を固定して。
「――不快。どうして、私を買ったの?」
そう問いかけた。
続けて。
少女は初めて、感情を見せる。
衝撃的なことを、告げながら。
「――ゴメン、私は、アンタを、殺すかもしれない」
――それは、全てを諦めてしまったかのような、そんな悲しみに満ちていた
はい、ということで、エルフ神官ちゃんは追加メンバーではありませんでした!!
すいません、あ、痛い、石は投げないで――
とまあ冗談は置いといて。
感想でエルフ少女の人気が想像以上に高かったので内心ヒヤヒヤでした。
ただ、主人公は買えませんでしたが、逆に他の“誰か”はこの子を買っているわけです。
……これ以上は、口を噤んでおきますね。
最初の3人の歌・曲については専門的な考えとか知識を持って書いたというわけではないので。
そこのところは深くはツッコまないでください。
話は変わりますが、総合評価が13000ポイントを超えました!
評価していただいた方が昨日から40人も増え、400人を超えております。
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