213.え? オリベさん!?
お待たせしました。
早めにゆっくりと休んで、頭もスッキリしました。
ではどうぞ!
『……ハヤちゃんさんへは、誠心誠意、真摯に対応するということでいかがでしょうか?』
再び繋がったDD――ダンジョンディスプレイの画面が織部を映す。
何故か地べたに正座していて、こってりと絞られた様子が見て取れた。
「…………」
「…………」
逆井と俺は、それには直ぐに答えず、しばらく無言でいた。
“同じようなこと、言わされたんだろうな……”
この沈黙からして、逆井も多分こう思っているはず。
「……えっと、それはうん、分かった。赤星とはちゃんと真面目に向き合ってみるよ」
「うん、そうしてみたら? あっ……でも、何かハヤちゃんが伏兵から昇格しないか心配だ……」
何だ、赤星は他にも潜在能力を隠し持っているのか?
アイツ、ただでさえ陸上でも凄い成績出したことあんだろ?
なんかの主人公かよ……。
「えっと……今は何時だ?」
赤星の転生チート主人公説が急浮上したところで、俺は時間を確認する。
最初に繋いだ時からざっと30分ってところか……。
俺達側ばかりが話を聴いてもらうのも悪い。
「で、そっちはどうなんだ? 何か話しておくこととか、聞いておきたいことってあるか?」
『? うーん……突然そう言われても……』
織部は顎に人差し指を当て、うんうん唸りながら考え込む。
いや、別に無理して何か質問を捻り出さなくてもいいんだが……。
『あっ、そうです! 今ですね、道沿いに出来た村で宿を取ってるんです――よいしょっと……』
そう言って立ち上がり、自分のDDを手に取った。
画面の視点が動く。
窓からの景色が見えるように、織部が移動したのだ。
『今は暗いからあんまり見えないかもしれませんが……もう直ぐで次の町なんです。で、そこが次の“五剣姫”の方がいらっしゃる町なんですよ』
宿の2階からの光景は、ずっと遠くに多くの光が灯っている様子を映し出していた。
何kmも先だろうが、織部曰く明日には着く距離にあると。
「五剣姫って、あれだよね? 柑奈が一緒に行動してる、シルレんとかカズちんとかみたいな、メチャ強女子のことだよね?」
「……いや、まあそうなんだろうけど……」
逆井の認識自体は間違ってない。
が、シルレとカズサさんを、そんなあだ名で呼ぶのに物凄い違和感を覚える。
本人たちがそれで良いんなら、別に良いんだけどさ……。
「その町は要するに……レイネの妹がいるかもしれないんだよな?」
自分の中の感情を整理するように、ゆっくりと織部に確認する。
『……はい。ですので、レイネさんには念のため、明日の予定を聞いておいて欲しいな、と』
なるほど……。
だとすると、やはりこの場にレイネを呼ぶよりは、俺が聞いておいた方がいいかな。
「うわっ、そか……ルオちゃんだけじゃなくて、レイネちゃんも“勇者”ってダメなんだもんね」
『うぐっ!?』
「…………」
逆井の言葉に織部も俺も、揃って苦い反応。
そりゃぁ、“勇者絶対許さない同盟”の二人だからな……。
織部がその勇者とは違うとはいえ、出来る限り気づかれるのは避けたい。
「――予定の方は、まあ後でレイネにはそれとなく聞いておくよ……じゃあちょっとルオでも呼びに行ってくるわ」
俺は立ち上がり、自室を出ようとする。
『…………』
「…………」
が、何故か二人が無言でいるのがとても気になる。
まるで俺が自分の部屋から出るのを今か今かと待ち構えているような、この何とも言えない独特の空気。
…………。
「1時間くらい空けるかもしれないな……暇だったら適当にマンガとか、ゲームとか、遊んでてくれ。――あ、あとDPが減るから、流石にDDの通信は一旦切っとくな」
そう告げて一度自分のDDの下まで戻ってくる。
すると、正反対の反応が返って来た。
「う、うん! る、留守はアタシに任せて! こう見えてアタシ、暇潰しにはうるさいんだ! 1時間とか余裕っしょ!」
親指を立て、満面の笑みで答えて見せる逆井。
……コイツ大丈夫か?
ルオを呼んでくるのに1時間もかかるかよ。
『…………』
対する織部は先程サラが現れた時の如く、まるでこの世の終わりに直面したような表情だ。
悲壮感が漂う織部は、無二の親友のはずの逆井を親の仇を見るように睨んでいる。
……お前ら、俺がいない間に何しようと考えてたんだよ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「おーい、ルオ、いるか~?」
とりあえず逆井は泳がせておくことにして、ルオの部屋の前に来た。
ノックをして呼びかけると、ガチャっと扉が開く。
が、出てきたのはリヴィルだった。
首にヘッドホンを下げて、手には読みかけの本を持っている。
……よく俺が来たことに気付いたな。
流石、気配とかを察知するのに長けているだけある。
が、どうやら楽しんでいた時間を邪魔してしまったようだ。
「ルオならいないよ?」
「そっか悪い。……ラティア達の部屋か?」
「うん……」
ってことは3人でなんかしてるのかな?
リヴィルは混じらなくてもいいのか……。
と、聞こうとしたが、それを先読みして制するようにリヴィルが口を開く。
その視線はラティア達の部屋の方へと向けられていて……。
「今頃は……レイネが遊ばれてるかもね」
「?」
その意味深な一言だけを告げて、リヴィルは部屋の中に戻って行った。
…………。
何だろう……。
「――おーい……ルオー、呼びに来たぞ~」
移動し、再びドアの前で声をかけた。
すると、直ぐにパタパタと足音が近づいてくる。
扉が開いた。
「あっ、ルオ、バカ、開けるな――」
真っ先に聞こえてきたのはとても慌てたようなレイネの声。
しかし、それを無視するようにドアは全開になってしまう。
「ご主人っ! えへへ、とりゃっ! ――この姿どう?」
「うぉっと――っっ!?」
抱き着いてきた誰かを受け止めたものの、その姿を見てギョッとする。
抱き留めた相手はルオ――が姿を変えた“志木”だったからだ。
そしてその志木は黒いレースの下着姿。
停止しかけた思考を動かし、室内へと視線を向けた。
「あっ、あっ、あっ……」
そこには恥ずかしそうに固まってしまっているレイネが。
レイネも同じように、色違いの白いガーターベルトを付けた下着姿をしていた。
ラティアはこの状況を見て“困ってしまいましたね……”みたいな表情をしている。
――が、俺は見逃さなかった。
……いや、ルオやレイネの下着姿を、ではなくて。
「……ラティア、これは一体どういう状況だ?」
困惑するように眉根を寄せながらも、その瞳の奥にどこか想定通りといった動揺の無さを宿していた。
「いえ、その、リヴィルの話を聴いて……レイネがメイド姿をすれば、ご主人様とより仲を深められるのではと、良かれと思って……」
くっ、リヴィルも噛んでる!?
いや、くそ、分からん、ラティアの単独?
でも……ああもう!
「えへへ! レイネお姉ちゃんだけじゃ恥ずかしいからって、だからボクも一緒にお着替え会、してたんだ!」
「わ、分かった! 分かったら、ルオ、一旦離れてくれ!」
流石にその姿でくっ付かれると混乱する。
志木が打算・計算全てを捨てて無邪気になったらこんな感じなのかと、一瞬だけだがドキッとしてしまった。
その純粋さにも関わらず黒の下着という大人っぽさが更にギャップで……クッ、不覚!!
「あの、えと、その……た、隊長さん……あたし……」
以前に白瀬と梓の3人で、俺がメイド好きかも、なんて言っていた同一人物とは思えない上がりっぷりだ。
未だその目的のメイド服を着る前に俺と遭遇してしまったからか、ぎこちない動きで、顔も真っ赤になっている。
…………。
「レイネ……明日は夜、時間あるか?」
「へ? あ、いや、えっと……」
「時間があるんなら……また改めてメイド姿、見せてくれ」
数秒の間、レイネはパチクリと目を瞬かせ。
そして消え入るような声で、答えてくれた。
「……う、うん」
「そか……――ほれっ、ルオ、逆井達と話すんだろ? さっさと着替えて行くぞ」
そうしてルオを促し、一度リヴィルもいる自分の部屋に戻させた。
俺も離れようとしたが、その際、無言でラティアと目が合う。
今度は他意を一切含まない目で“恐れ入りました……”と言うように目礼していた。
……ふっ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「……お前、何やってんの?」
何だか清々しい気持ちを覚えながら自室へと戻った。
が、そこで待っていたのは、俺の靴下とボクサーパンツを両手に持って見比べている逆井だった。
「あっ、えっと、ってか早くない!? 1時間は!? もっと遅いんじゃないの!?」
いや、逆に聞きたい。
だからルオを連れて来るだけで何で1時間かかると思ったんだよ……。
普通に考えてれば、俺の言葉が嘘だって分かるだろうに……。
「逆ギレで誤魔化そうとしない。ほれっ、何やってたんだ?」
「えと、んと…………そ、そう! に、新海もさ、やっぱり年頃の男の子だから、どっかにエロい本を隠してたりしないかな~って!」
「ねえよ……ってか仮にあったとして、どうやったら靴下とパンツに隠せんだよ」
更に今の言い訳を聞いて、背後に控えているルオが良く分からないといった風に首を傾げる。
「? エッチな本なんてなくても、ご主人が頼めばラティアお姉ちゃんがいくらでも喜んで協力しそうなものだけど……」
コラッ、変な疑問を持たない。
その疑問はラティア以外に益を生まないから。
「うわっ、そうだった! 新海はエロ本なんてなくても、最高のおかずが揃ってるんだもんね……――ううぅ、ゴメン、嘘ついてた。ちょっと興味本位でさ」
いや、何で今ので罪認めて自白すんだよ。
それだと俺が全然スッキリとしないんだけど!
……いや別に上手く言ってねえよ!
『――お疲れ様です。……あれ? 何か新海君、疲れてます?』
織部程じゃないけどな……。
「ほれ、俺は勉強してるから、しばらく自由にやっててくれ」
「うん! ありがとう、ご主人!」
嬉しそうに頷いてルオは逆井の隣に腰を下ろした。
そして再度繋いだ画面の先、異世界にいる織部と話し始める。
3人の雑談が流れに乗ったのを見計らい、俺も自分の勉強に入る。
最近は夜にもダンジョンに潜ることが多いからな。
こうして隙間時間を見つけてコツコツやっていくのが大事なんだ。
…………。
「へ~じゃあ次の町にいる五剣姫ちゃんのご機嫌取りのためにボス戦頑張ったんだ!」
“五剣姫ちゃん”ってなんだ……。
逆井は相変わらず権威とか肩書とかとは無縁だな……。
「あっ、あの大きな蜘蛛の戦いのことだよね、それ!」
『ですです! でももうあんなことはコリゴリですけどね~』
…………。
『へ~そっちでは今そんなアイドルが流行ってるんですか……あんまり男性アイドルには疎いので、それ、全く聞いたことない名前ですね』
「はは、柑奈って前から男性アイドルとか、あんま興味なかったもんね~。ルオちゃんは好きなアイドルとかいるん?」
「ボク? ボクはね……ご主人!」
いや、ルオさん、“アイドル”の話してんでしょ?
俺は“きゃぴ☆”なんてとてもとても……。
そんな勇気のいること、10代の今でも絶対に無理ですぜ……。
「……じゃあ、今シルレお姉さん達が段取りを検討してるんだ」
「何か前にも聞いたけどさ、その五剣姫ちゃんとシルレん、カズちんって、あんまし仲良くないんしょ?」
『ですね~……“オリヴェア”さんという方なんですが、どうも一癖も二癖もある人のようで……』
ふーん……。
………。
…………。
――えっ、何だって、“オリベ”さん!?
だ、大丈夫ですよ!
ご、五剣姫だから!
ちゃんと格式ある立派な人だから……多分!
音が同じなだけで、ま、まだ慌てるような状況じゃあばばばば……。
感想の返しはまた明日の午後には時間を取れると思いますので、その時にさせて下さい、よろしくお願いします!




