209.聴いたよ聴きましただから何!? 嘘ですごめんなさい!!
お待たせしました。
ではどうぞ。
「いや~くくっ、凄い、破壊力だったね……“シ、シイナ、いっきまーす!”だって!」
「し、椎名ちゃんもフフッ、頑張っ、てるのよ……。“メイド星からやって来た、永遠の2X歳! メイドアイドル! きゅぴ☆”――ダ、ダメ! 可笑しい!」
本物の椎名さんの“ナツキ・シイナ”は確かに凄いインパクトだった。
いよいよやるしかないと腹をくくって、でもどこか照れが残った椎名さんの声。
更にお葉書紹介を進めた今でも、三井名さんや逸見さんの腹筋を思い出し笑いで崩壊させるに足るパワーだったらしい。
唯一の救いは、収録スタジオ内で事情を知る志木がいたことだろう。
空木がその時だけは役に立たなかったものの、上手くフォローして司会を回していた。
『――さて、ゲスト2人の緊張も大分解けて来たところで。次のコーナーに入りましょう。……ね、椎名さん』
『……お気遣い、無用です。さっさと煮るなり焼くなり好きにしてください……』
ああっ、椎名さんが暗黒面に堕ちちゃってる!
そりゃそうか……。
要するに椎名さん自身が痛いキャラを自ら創って、それを自分で演じてる、みたいに一般には受け取られるだからな……。
『き、気落ちしないで! ほ、ほら、うん、お葉書もいつもより沢山読めたし、リスナーさん達も次をご期待だよ、きっと!』
とにかく気分を変えるためにも、空木は巻きで次のコーナーに入る。
……今度何か胃薬、差し入れしてやろうかな。
「……今頃、リツヒの家ではどうなってるだろうね?」
水を飲みながら、隣に座るリヴィルはそんなことを口にする。
「……ルオと皇さんは流石に寝てるだろ」
今日は俺達3人が家にいない分、ルオとレイネもそれぞれが家を留守にしているはずだった。
レイネは桜田の所に。
そしてルオは皇さん宅へとお泊りだ。
「……じゃあ、流石に一人で聴いてるってことはない、か」
リヴィルの言いたいのはつまり。
生身の椎名さんが今、俺達と同じ様にラジオを点けて、そして自分の収録分を聴いてるかな、ということだ。
だが……こんな傷だらけの中、そんな自傷行為はいくらなんでもしないだろう。
『――え、えっと……“朝までダンジョン生トーク!”のコーナー、です!』
九条がコーナー名を読み上げると同時に、効果音が鳴る。
どこかで聞いたことある番組名をもじってつけられた名前らしい。
『このコーナーは、えっと、ダンジョンの最前線で頑張る私達が、ダンジョンについて自由に語ることで、皆さんによりダンジョンを身近に感じてもらおう、という企画です……ふぅ』
『フフッ。初めてにしてはよく頑張ったわね。今後はもっとつっかえず読めるようになると、もっと聞きやすくなると思うわ』
試しにということでコーナーの趣旨説明を九条に任せ、まずまずだったのだろう。
志木の満足そうな声が聞こえ、更にプラス思考でのアドバイスをしていた。
『でもこのメンバーで“ダン生”か~ウチ浮いちゃうな~』
割合、本気でそう思っているという風な空木の声。
まあそうか、実際に攻略されたダンジョンの現場に、空木だけはいたことがないんだもんな……。
「……ご主人様、ご主人様」
椅子を後ろの方に引き、ラティアが俺に話しかけてきた。
間に挟む梓には聞こえないようにという配慮からか、耳打ちする体勢で、声も随分と抑えられていた。
「何だ、どうかしたか?」
「“ダン生”って、“ダンジョン生トーク”の略、ですよね?」
ん?
何でそんなこと聞くんだろう……。
「ああ、多分な」
俺も同じく小さめの声でそう答えると、ラティアは照れたようにはにかむ。
そしてまた俺の耳にコソッと告げた。
「その……“旦那様、生でもいいですよ?”の略かと、一瞬、思ってしまいました。……ちょっとエッチな響きだな、とも」
「…………」
何でやねん!?
文脈!!
絶対んなこと言わないだろ、この流れで!
“生”でそれだけ想像膨らませられるんなら、ビール頼むときお前どうすんだよ!?
ってか、そもそも、俺にそれを一々報告せんでいい!
お前は報連相の趣旨を取り違えてるダメな新入社員か!!
「はぁぁ……」
俺は溜息を吐きながら、自分の椅子を前に戻す。
そして、食べきった後の、スープだけが残った器を見た。
椎名さんの件でも、そして今のもそうだが。
……ラーメン、食べきっておいてよかった。
これ、ちょっとタイミング間違うと、麺を誤飲して鼻から出てたかもしれん……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『――へぇぇ! でもやっぱり凄いじゃん! 椎名さん、動画で見る限りは凄い活躍してたよ?』
『そ、そうでしょうか……』
『はい! 私も側で一緒に戦ってました、でも全然役立たずで……椎名さんは違って! 六花さんとのコンビネーションも抜群で!』
皇さんもいた、あの研究生参加のダンジョン攻略動画に関する話題に移って。
今度は逆に椎名さんが、空木や九条から物凄い攻勢を受けていた。
まあ九条は無意識に攻めてばかりだが……。
特に空木は、自分がダンジョン攻略をなした経験がないからか、純粋に好奇心として椎名さんを質問攻め。
だがこれがかなり面倒臭い状況で……。
「……シイナ、細かい部分は上手くはぐらかしてるね」
「……ああ、だが空木と九条がかなりしつこいな」
リヴィルと何気ない調子で、しかし二人での密談のようなトーンで話す。
「ルオとの意思疎通も出来てるっぽいけど……これはこれで困ってるね」
リヴィルの言う通り、本物の椎名さんはダンジョン攻略の場にはいなかったのだ。
つまり、立場的に言えば空木と同じくダンジョン攻略の経験はないことになる。
しかし、九条と同じ場にシイナさん……つまりルオが演じたシイナさんはいたわけで。
だからこそ収録済みだろうけれども、俺は先程以上に実はヒヤヒヤしていたのだ。
「六花も凄いね~。アイドルなのに、モンスター? とかと戦ってるんでしょ? いや本当、冗談じゃなくマジで頭下がるわ~」
番組内で逸見さんの名前が出て、三井名さんがそう口にする。
すると、逸見さんは小さく笑い……。
「そう? 私は別に大したことしてる認識、あんまりないけど……フフッ」
……何故か意味深な目でこちらを見てくる。
「ん? 新海君がどうかしたの? あっ、もしかして新海君も探索士補助者の講習、受けるとか!?」
変な風に誤解してくれて助かった……。
「あ、あはは……いや、俺はそもそも探索士の方も落ちてますからね……」
まあそれがあったからこそ、織部との繋がりが出来たとも言えるんだが……。
『――そう言えば椎名さん、律氷から聴いたんだけど』
これ以上ないというベストな間合いを見計らい、志木が助け舟を出した。
椎名さんが一番話題にしやすい人物でもある皇さんを、話の転換のきっかけに出したのだ。
『私は不参加らしいの。でも“Rays”と“シーク・ラヴ”が合同で、研究生――補助者を連れてダンジョン攻略する話が出てるって』
『ああ……なるほど、私も御嬢様から聞きました。何だかそういう話が出てるみたいですね』
『あ、私も聞きました! でも颯さんから“噂だけど……”って前置きされて教えてもらいましたけど』
九条以外の2人は皇さんから知らされたらしい。
……ん?
『へぇぇ……そうなん? ウチは初耳だけど……』
…………。
ぐすん。
『……あの、えっと、美桜さん!? 別にあなたを仲間外れにしようとか、そういう意図は全くなくって!』
『そ、そうです空木様! 私もつい先日に御嬢様に教えていただいたばかりですし、他にも知らない方はいらっしゃいますよ!』
『花織ちゃん、椎名さん……いいんだ、ウチ、ボッチだし。そういうの慣れてるから』
う、うぅぅ……!
空木、その気持ち分かるぞ!
去年の文化祭も、“クラスで打ち上げ”があったって、俺、その次の週に知ったし……。
あるよな、自分だけ存在忘れられる、ボッチあるあるだ。
「……そう言えば、梓、どうなの? 梓も“Rays”なんでしょ?」
三井名さんは既に梓の男装事情については知っていたとはいえ。
それが“梓川要”と同一人物だということは今日――いや、もう昨日か、昨日知ったばかりなのだ。
その現実感が湧かないこともあってか、梓に不思議そうに尋ねていた。
「ん。私は行かない。でもあるとは聞いている」
「え、梓、お前はいかないの!?」
俺は驚いて右横へと体ごと向ける。
「うん。聞いてるのは立石、木田、藤の3人」
「藤……ああ、藤冬夜? あのインテリ眼鏡の?」
三井名さんの確認に、梓は首肯で回答。
でもそうか……。
……龍爪寺がいないのは何か救いな気がする。
いや何となくだけど。
「藤君……大丈夫かしら? 確かRaysでは彼と龍爪寺君がダンジョン、未経験なんだっけ?」
逸見さんが誰に聞くとはなく、そんなことを一人呟く。
趣旨的に、正確には多分その語尾に“攻略”とつくのだろう。
……なら多分、実際には木田と立石もっすよ。
俺は一応心の中でそう答えておいた。
……ってかRaysでダンジョン攻略経験あるの、梓だけなのかよ。
今さらながら、その現実を再認識し、何でか分からんがゾッとする。
……逸見さんじゃないが、俺も心配になって来た。
まあシーク・ラヴと合同なら大丈夫だろう……多分。
その後もダンジョン関連の告知だったり、簡単なミニゲームだったり。
色んな話を耳にしながら、楽しい時間は過ぎていったのだった。
そして番組が終わる頃。
――それは、来た。
……ん?
メール……っっっ!!
この着信音――
“――聴・い・た・な~?”
ヒィィィィッ!?
ふぅぅ。
ちょっと今週忙しくて疲れました。
すいません、感想の返しはまた午後に時間を取りたいと思います。
ですのでもう少しだけお待ちください。




