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208.ラーメンとラジオ……。

ふぅぅ。


お待たせしました。


ではどうぞ。



 軽快な音楽が流れ、放送が始まったことを知らせる。

 カウンター席の中央に置かれたラジオは比較的新しく、三井名さんの私物だという。




「あちゃ、始まっちゃったか……皆、それ聴いてもうちょっとだけ待っててね! 直ぐパパっと作っちゃうから!」




 その三井名さん本人は向かいの厨房に立っている。

 俺達5人分のラーメンを一人で作っているのだ。


 今も人数分だけ温めている豚骨のスープの良い匂いが、こちらまで香ってくる。



菜月(なつき)のラーメン食べると思って、夕飯抜いてきた。でも待てる、焦らないで」



 俺の右に腰かける梓が、三井名さんをそう気遣う。

 


「あはは! ありがとう梓ぁ~、その優しさが染みるわ~。なら梓はおかわりいいの?」


「それとこれとは話が別。2杯。きっちり食べる」 



 その返しに、また一頻り笑い、三井名さんは調理に戻ったのだった。




『――こんばんは、真夜中のダンジョンに迷い込まれた皆さん。本日も“ダンジョンナイトアワー”、始まります』



 音楽が止むとともに、志木の声がラジオから聞こえて来た。

 俺達は三井名さんのご厚意に甘え、ラジオを楽しみながら待つことにする。




『本日のメインパーソナリティーを務めますのは私、先日クラスメイトの方に“スクールアイドルでトップを目指しませんか!?”と言われた志木(しき)花織(かおり)と――』


『えー今日の収録、本気で仮病案を30個程考え、実行に移す前に花織ちゃんに捕まった空木(うつぎ)美桜(みお)で~す』



 そんな二人の軽い挨拶の後、揃えた“よろしくお願いします”との声で、番組はスタートした。




「ひ、酷いなミオは……」


 

 左に座るリヴィルは若干声を引きつらせていた。

 おおう、空木、リヴィルにここまで言わせるとは……誇っていいぞ。



「フフッ……何だかご主人様みたいですね」


「よね~。でも美桜ちゃん、何だかんだ言ってやるときはやる子だから」

 

 梓の奥二人、ラティアと逸見さんが楽しそうに会話している。

 うーん……俺は空木程には基本スペック高くないけどな……。



『――さて、美桜さんへのお説教は番組が終わってからにするとして……』


『え!? い、いや花織ちゃん!? ウチちゃんと来てるじゃん! 働いてるじゃん! 酷い、パワハラだ! 職権乱用だ! ボッチ差別だ!』


『……何か?』


『……何もないです、すいません』



 空木ェェ。


 ……いや、確かに今の志木の“何か?”は怖かったけども!


 黒かおりんがヒョコっと顔出しててさ!

 俺とかお前くらいしか、今の“何か?”から恐怖を感じ取れないだろうけどもさ!


 もうちょっと頑張れよ……。




『ん、んんっ。――事前にホームページの方でも告知はされていたんですが、本日は素敵なゲストの二人に来てもらいました』


『え~ではお二人、どうぞ』



 空木は嫌そうにしながらも、司会として志木と共に進行を務めている。

 そりゃ志木だけでなく、今からあの人とも同じ空間にいないといけないとなると、伸び伸びとは出来ないだろうな……。




『――ど、どうも! リ、リスナーの皆さん! 研究生のく、九条(くじょう)です! 九条(くじょう)(ひじり)です、よろしくお願いします!』   


『は~いよろしくね~。あっ、そうそう、そっち座ってね~』


 

 声でしかわからないが、緊張気味の九条を、上手く空木が誘導してやっているらしい。


 

『……ほらっ、“夏生(なつき)”さんも』


 

 外用ということだからだろうか、志木がそう促す声が聞こえた。

 一瞬、厨房にてラーメンの仕上げにかかっている“三井名”さんを見てしまう。




「……フフッ、懐かしいわね。椎名(しいな)ちゃんと菜月(なつき)ちゃんが仲良くなったきっかけ」


「んあ? あーあれね。ふふっ、確かにっ!」



 逸見さんに話しかけられ、三井名さんが楽しそうに笑う。

 その際も手は止めず、テキパキと人数分のチャーシューや卵、紅生姜を乗せていく。


 

「――はいっ、お待ちどう様」



 そして完成した豚骨ラーメンのどんぶりを、一つ一つ俺達の前へと置いて行ってくれた。



「ありがとうございます」



 俺が受け取ると、丁度ラジオの方では椎名さんが自己紹介を終えたところだった。



『――この“九条(くじょう)(ひじり)”さん。そして“夏生(なつき)椎名(しいな)”さんは、私にとってはどちらも面識ある二人です』


『は、はい! 花織さんのこと、とっても尊敬してます!』


『……花織様とは、御嬢様を通して親しくお話しさせていただいてます』



 九条は素で固くなってるように感じた。

 一方の椎名さんは緊張とは無縁で、しかし別の固さを意識して作っているようにも聞こえる……。 



「フフッ……椎名らしいね~」



 一仕事終え、三井名さんは丸椅子を持ってきてそれに腰かける。

 そして嬉しそうに目を細め、ラジオの音に耳を傾けるのだった。


 

 …………。



「――ほらっ、さっ、遠慮せず食べちゃって!」


「っとと。いただきます」



 俺だけ手を動かしていなかったらしい。

 慌てて割り箸を二つに割き、麺を掬って口へと運ぶ。


 スープを先に頂こうとも思ったが、流石に俺も空腹だった。



「ずずっ、ずずずっ――んんむ、……うむぁいです」


「ははっ、そりゃ良かった」



 遅い晩御飯で腹を満たしながら、始まったばかりの番組を楽しむのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆

  


『えーっと何々……○○県在住、21歳男性、大学生の“知刃矢ちゃん推し、それ以外に生きる希望が見いだせないぜ!”さん。お葉書ありがとうございま~す』



 空木が読み上げた後、三者三葉の“ありがとうございます”が。



『フフッ、ありがとうございます』


『あ、あ、ありがとうございます!』


『……ありがとうございます』



 志木は完璧に司会をこなしつつ、楽しむ余裕すら感じさせる。

 一方の九条は軽い雑談を終えた後だが、それでもまだ緊張は残っているようだ。



「くくくっ、椎名すんごいぶっきら棒! でもかえって場が面白くなってない?」


「ふ、ふふふ……おかしい、椎名ちゃん、ムスッとしてるけど、それを頑張って隠そうとして、ふふ、ふふふ――」



 ……あの~お二人?


 お腹抱えるくらい面白い?

 俺はもう全然笑えないんだけど……。



 くっ、これが長年あの椎名さんと友人関係を続けている余裕なのか!?

 

 


『ふんふん……“最近、大学の試験やらゼミやら、それでなくても就活のことも考えないとでしんどいです……大人になるって大変なんですね。皆さんはどういう時、大人になったなと感じますか?”だって』



 このラジオ番組の人気企画。

 視聴者からの疑問にメンバーたちが答えていくというもの。


 大体はメイン司会が答えて、その間にゲストに考える時間を作ってもらうのだ。



『私は……そうね、やっぱり、異性のこととか、考えるようになった時、かしら』



 志木の言葉に、現場(あちら)店内(こちら)も盛り上がる。

 おそらく、これを聴いているリスナーもだろう。



「ひゅー。凄いね~」


 

 三井名さんは感心半分、揶揄い半分といった風に口笛を吹く。



「最近私も学院には顔出してないけど志木ちゃん、あれでしょ? “棘もが我を忘れるバラ(パーフェクトフラワー)”とか、“歴代最高の生徒会長”とか、言われてんでしょ? 大丈夫なの?」


「ふふっ、大丈夫よ。考えてちゃんと話す子だから」


 

 三井名さんや逸見さんの会話通り、俺も志木はこれを計算して答えたと思う。


 いや、だって特定の異性とは言ってないだろ?

 

 そもそも志木が意識するような異性なんて、そんな奴いたらとっくに噂になってるって。


 要するにこれは番組を盛り上げるべく意図的にそういう言い方をしたんだろうな……。



「……マスター、また変な方向に勘違いしてる感じの顔だね」


「……陽翔、罰としてゆで卵貰う。代わりにチャーシュー上げる」



 あっ、ちょ!?

 それ、最後に取っておいたのに!!

 でもチャーシューはくれんのか……。


 ……ってか罰って、そもそも何のことや。




「……フフッ、ご主人様、私のをどうぞ。もう替え玉まで頂いてお腹一杯ですから」


「ラティア……スマン、ありがとう」



 間にいる梓は、流石にそこは奪い取ろうとはせず、ラティアと俺との中継をちゃんとしてくれる。


 ……どういう基準なんだよ。




『花織ちゃんの発言でヒートアップしてきたね。じゃ、次は……う、うん九条(くじょう)ちゃん。どうかな?』



 ……空木、お前も今意図的な発言をしたな。

 というか出来るだけ椎名さんとは絡まないつもりか。


 ある意味その根性は凄いわ……。



『え!? え、えーっと、し、質問、何でしたっけ!? ご、ごめんなさい、緊張しちゃって!』


『あはは! 大丈夫、落ち着いて。大体は皆、最初そんなもんだからさ』



 無理なく時間が稼げると取ったのか、空木の声はとても嬉しそうに弾んでいた。


 露骨だな……。



『“どういう時に、大人になるってこういうことかって感じるか”だね。九条ちゃんはどう? お給料もらった、とか。嫌いな物食べられるようになったとか』



 とはいえ話を広げ易い様にちゃんとフォローすることも忘れない。

 うーん、やはりそこは流石だな……。



『えーっと……あっ――』



 そこで一瞬、九条の言葉の間が空く。

 それは何かを思いついた、という感じのほんのわずかな時間。



 だが、それがまさか、地獄を引き寄せるきっかけなろうとは――




『そうだ! あの、前の研究生のお披露目会! あの時、私凄く緊張してて……――でもその時“椎名”さんを見てそう思いました!』


 

 ――ピキッ



 ギャァァァ!

 何言っちゃってんの九条!?


 今変な音しなかった!?


 俺だけ!?

 今の聞こえたの俺だけ!?



 や、止めろ、誰かそいつの口塞いで!!


 ってそうだこれもう収録済みの奴だったぁぁぁぁ!!




『色々と大変だろうに、とても頑張っている“椎名さん”を見て、その、凄く印象深かったです! “ああ、きっとこういうのが大人なんだろうな……”って!』



 地雷原の真上でタップダンスゥゥゥゥ!!



 おい志木、お前が九条を推薦したんだろ!?

 頼む、頼むから止めてくれ!!




『……そうですか、やはりあれは“色々と大変”そうに見えて。それに無理して“頑張っている”ように見えましたか』



 椎名さん自らヤバい方に解釈しちゃってる!!

 

 ……俺、この先聞きたくない。



「くっ、くくくっ……ヤバい、お腹痛い」


「も、もう……菜月ちゃん酷いわ、私まで笑い止まらなくなる……」 



 いや逸見さん、あなたも三井名さんに負けず劣らずっすよ……。


 

椎名さん、九条さんは不幸をおんぶしながら生きている薄幸美少女なんです……許してあげてください。

……代わりに今度、ちゃんと主人公を差し出しますんで(白目)



ラジオ回、書いてて楽しいですが多分ちゃんと次には終われると思います。

多分収録現場で一番死にかけていたのはツギミー。


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― 新着の感想 ―
[一言] 地雷は踏む為にあるのだよ。 業務連絡です。 ニイミ様、空木様、 一級爆死者錬成士の資格試験は明後日なので 忘れずに受験して下さい。
[気になる点] 最近話すすまんなー
[一言] おい、かおりんなぜ止めなかった! 周囲(の一人だけ)に物理的被害が甚大になるじゃないか!! ・・・わざとか。
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