206.ボス戦……ボス戦!?
お待たせしました。
ちょっと問題が発生し、執筆は終わっていたのに更新できませんでした。
とりあえず、ではどうぞ。
「……隊長さん、あたしが先制、行くから」
レイネは小声で呟いた。
俺は小さく顎を動かす程度で肯定を示す。
俺達とボス。
お互い動かず程度な距離を保ち続けているようで、既に戦いは始まっていた。
レイネの視線の先――ボスのそのまた後ろ。
そこには黒い浮遊体が既に配置についていた。
“闇の精霊”だ。
レイネは俺達へと伝令をするために、良くアイツと位置の交換を行う。
が、勿論それだけではない。
ボスでさえ気づかない精霊の存在を利用し、先制の一撃を加えようというのだ。
15階層もあるダンジョンのボスだ、一筋縄ではいかないはず。
これだけでは倒せないだろうが、それでも大きな一撃には違いない。
「行くぞっ――」
俺の掛け声と共に、全員が戦闘に入った。
レイネが真っ先にドロッと溶ける。
大量の黒い墨汁を溢した様になり、そこから姿を消した。
「え? あ、いや、待つのよ! ちょっと待つのよ!!――」
アルラウネが何かを口にしたが、おそらく詠唱か何かに違いない。
そりゃそうだ、見るからに武闘派ではないだろうから。
それに、その証拠に必死に緑色の手をブンブン振って謎の動きをしている。
まさか!?
この一帯の花畑、それらすべてが奴の術の管理下だとでもいうのか!?
俺は地面から植物のツタがニョキニョキと生えてきて攻撃する光景を想像する。
クッ!!
だが俺も並走するリヴィルも、そして背後を取ったレイネも、止まらない。
「――しっ!!」
よし、完全に背中を取った!
やっちまえ、レイネッ!
リヴィルも両腕に導力を目一杯纏わせる。
俺も追い打ちのために右手に力を込めた。
「【不意打ち】っ!!」
レイネの双剣が光り輝く。
そして目にも止まらぬ速さで、アルラウネの背中を叩き切った。
「え? あっ――あぁぁれぇぇぇなのよぉぉぉぉ!?」
吹き飛ばされる……かと思ったが。
ボスの足元をすっぽり覆っている葉の下半身が、それをとどめた。
チッ、やっぱり手強い――
「うらぁぁぁぁ!」
「はぁっ!!」
リヴィルと共に攻撃範囲内まで接近。
奴の攻撃が来る前に追撃を――
「……ん?」
「?……マスター?」
顔面スレスレのところで、俺の拳が静止する。
それを受け、リヴィルの体もピタッと止まった。
…………何かおかしい、と感じ取る。
遅れてリヴィルも、違和感を持ってボスを観察。
すると、アルラウネは目をグルグルと回していて――
「――く、くにゅぅぅ~~」
き、気絶してる!?
「……え、これもう終わり?」
レイネが呆気にとられたようにこちらを見る。
いや、俺達に聞かれても、今同じ思いだから皆。
「ご主人っ! 固まっちゃってどうかしたの!?」
「何か麻痺毒でも撒かれたのですか!? た、大変! ルオ、リヴィルやレイネを! ……ご主人様、我慢しててくださいね、今すぐ毒を――」
いやいや!
本気で心配してくれたっぽいのは感じたから有難いんだけど……。
――なぜ毒抜きのために真っ先に手が俺の下半身に伸びた!
なおさらラティアの無意識での応急処置がどういうものかが分かって反応に困る。
「うきゅぅぅぅ…………」
ラティアやルオに事情を話し、未だ気を失っているアルラウネを見下ろす。
……ボス戦、だったんだよな?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「酷い目に遭ったのよ! いきなり攻撃してくるなんて、レディーに対して失礼なのよ!」
10分程待って目が覚めたアルラウネは、いきなりプンスカと俺たちに怒りだした。
「……ならオス相手だったら不意打ちしてもいいのかよ?」
こらレイネ、ボソッと呟いて揚げ足取らない。
あっちもあっちで頭回ってないんだろうから。
「ええっと……お姉さんは、ここのボス、でいいんだよね?」
ルオが恐る恐る挙手して尋ねる。
アルラウネはふんぞり返って頷いた。
「勿論なのよ!」
「……でも、その、凄いあっさり負けてたけど?」
遠慮がちに、しかし核心を突くリヴィルの質問。
それに対して、彼女は更に怒りのボルテージを上げた。
「だ・か・ら! 私は本当はムチャ強なのよ! でも、あんたたちはアレ、“あの子”連れてきたでしょ!? だからそもそも“ボス戦”判定されなかったのよ!」
アルラウネが指す“あの子”というのが何なのか、一瞬分からなかった。
が、直ぐに思い当たる節は一つしかないと理解し、振り返る。
「――クニュッ! クニュニュ!!」
子ドラゴンだった。
俺たちとアルラウネの下まで駆けてきて、円を描くようにグルっと走り回る。
「要するに……この“子竜”を連れて来るか否かで、ボスとしての能力自体も左右される、と?」
ラティアの示した理解に、アルラウネは半分正解で半分はずれだと告げる。
「前提が違うのよ。15階層を地道に攻略するか、この子を倒すか。どちらか片方だけで私はムチャ強モードなのよ!」
自分が本当は強いんだぞとアピールするように拳をシュッシュッと繰り出す。
「で、あんたたちがやった様にこの子を無事に連れてくる。それがこのダンジョンの超々イージーモード。私のムチャ弱モード発動条件でもあるのよ!」
今度はあからさまに体をグニャりと折りたたむ。
陽の当らなかった植物を連想させる動きだった。
「ってことは……私達、ちょっと早とちりした?」
リヴィルの言葉に起き上がり、ビシリと指を差してくる。
「その通りよ! 端からあんたたちとは戦う気なんてなかったのよ! なのにいきなり襲ってきて、全く失礼しちゃうわよ!」
「あ~それはちょっと悪いことしたな……」
一応、謝罪はしておく。
でもなんかさ、そんな雰囲気だったじゃん。
何か超強敵感を出しててさ、いかにも熾烈な戦いが繰り広げられるッポイ感じで……。
「クニュッ、クゥゥ!!」
子竜が舌を出して甘えてくる。
適当に撫でながら、そう言えばと聞いてみた。
「今“倒したら”って言ったよな、コイツを。じゃあ――」
その話を出した瞬間、アルラウネの表情が変わった。
とても悲しそうに眉を寄せる。
子竜を呼び、抱き寄せ、そうして撫でながら語った。
「……この子はこれで“43体目”なのよ。今まで私のダンジョンを攻略しようとした冒険者や軍人たちに、42体が既にやられたのよ」
「……つまり、マスターのゴーレムやゴブリンみたく、“ダンジョンの機能”で創造した子竜ってことだね」
おそらくリヴィルのその推測で合っているだろう。
そう言えば最初から違和感はあったのだ。
レイネがこのダンジョンに入った際、精霊を偵察へと向かわせてくれた。
その際に蜘蛛、サルと来て何故こんなところに風の子ドラゴンなのか、と。
1体だけなんて言うか……浮いていた。
「クニュ、クゥニュ!」
子ドラゴンはアルラウネに抱かれたまま、無邪気に暴れる。
俺の方へと来たがっているみたいな仕草に見えた。
「……でも、別個体と言っても、本能的に感じるものなのよ。自分を害する者なのか、どうなのか。だからこそ、あんたにこれだけ懐いてるのかもなのよ……」
そっと子竜を地面に降ろす。
そのまま俺の下にトテトテと走ってくる。
そうしてさっきまでしてもらっていた抱っこをせがむように足にしがみ付いてきた。
……はぁぁ。
抱き上げると、嬉しそうに舌を出してきた。
先程のことがあるので、舌先だけ届く距離にとどめる。
……くすぐったい。
「フフッ。その子のこと、大事に育ててあげてね?」
アルラウネの笑みは優しく、我が子の巣立ちを見送るような愛情に満ちていた。
俺は――
「――っていやいや!? え、何で俺が育てる的な話になってんの!?」
ここのダンジョンの子でしょ!?
何で勝手にウチの子になる流れになってんの!?
「ひ、酷いのよ! 私が折角心を痛めてまた生んだのに、認めてもらえないのよ!?」
何か俺がクソ野郎みたいな話になってる!?
「……ご主人様、私はどちらになっても全力で応援しますが?」
それはどっちに転んでもラティアさんにとっては美味しいってことですかそうですか!?
リヴィル達は我関せず。
「クニュ? ニュニュゥゥ……」
そして子竜はつぶらな瞳でこちらを上目遣いに見上げてくる。
ぐぬぬ……!
「……召喚石を交換してくるから、それまでは待ってくれ」
ゴッさんとゴーさんと、仲良くできるかな……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
〈Congratulations!!――ダンジョンLv.30を攻略しました!!〉
いつもの声が聞こえてきた。
ってか30って、やっぱり本来は相当な難易度だったんだな。
カズサさんやサラのアドバイスが無かったら、こんなに楽に攻略できなかっただろうな……。
〈Congratulations!!――“ダンジョン防衛戦”に勝利しました!!〉
「そう言えばそうだったな……まああんまし苦労した覚えはないが」
「だね。レイネが一撃で終わらせてたし……」
そもそも戦闘の意思すらなく、リヴィルの言う通り戦闘があったとしても一撃で終わっていた。
「ってかさ、何でダンジョン間の戦争吹っ掛けてきたんだよ?」
純粋な疑問をアルラウネにぶつける。
すると彼女自身も不満顔に。
「私だって知らないのよ! いきなりダンジョンごと異空間に飛ばされたと思ったら、“シルフ様”の声が聞こえて、それで気づいたらこうなってただけなのよ!」
「“シルフ”……」
そう言えばサラが言ってたな。
“悪戯好き”で有名な精霊だって。
もしかしたら、今回の騒動も特に深い理由なんてないのかもしれない……。
〈“シルフ直轄ダンジョンNo.129”を攻略しました――当該ダンジョンを総代表“ハルト・ニイミ”の直轄へと組み込みます〉
「うぉっ!? え、そうなのか!?」
防衛だけでなく、攻略したってことからそういう風に扱われるらしい。
つまりこのアルラウネのダンジョンが、俺の支配下のダンジョンになるってことか。
だが、いつもの声はこれで終わらない。
更に驚くべきことを告げていったのだ。
〈Congratulations!!――特殊ミッション“シルフの挑戦状 ①”を達成しました!! 特典として“シルフの贈り物”を贈呈します〉
声に続くようにして、俺達の目の前の空間に、異変が生じた。
次元が捻じ曲がるようにグニャっと揺れる。
が、それは直ぐに元に戻り。
そうしていつの間にか、そのねじれが起きた宙に、箱が浮いていた。
「おぉぉぉ~!」
ルオが興奮したように目を輝かせる。
手品を見せられた子供のようなはしゃぎ方だった。
箱の蓋が勝手にパカッと開く。
中から黄緑色の光が溢れだした。
それが収まると、ようやく中身が何なのか分かる。
「うわっ……これ、どれも凄い奴なのよ!」
アルラウネは興奮というより、若干引くレベルで驚いている。
相当に凄い物らしい。
中には同一色、黄緑色に統一された防具一式が揃っていた。
そしてそれと合わせて指輪が一つ。
「どれもこれも、シルフ様の加護付きなのよ! 凄いのよ!」
「見た所……結構軽装だよね? マントにグローブ……アンダーにブーツ……あっ、カッコいいダガーもあるよ?」
リヴィルが検分した所によると、確かに剣士とかタンク用の防具とは言い難い。
「多分……“盗賊”用でしょうね」
おそらくラティアの言う通りだろう。
「で、この指輪は……」
指輪を詳しく調べてみる。
小さな宝石が一つついていた。
だが黒く濁っていて、見るべき輝き・美しさなどは特にない。
――っと、また声が聞こえてきた!
〈Congratulations!!――“シルフの挑戦状 ①”を、特殊条件を達成してクリアしました!! シルフの好感度が10上がりました!!〉
声が止むと、指輪がいきなり輝き出す。
その黒い宝石の1/10ほどが、黄緑色に光ったのだ。
空の水槽に色付きの水が注がれたように、その光は液体状に揺れ動く。
「……100%貯まれば、何かしらあるんだろうな」
“好感度”という言葉が怖いので、今は深くは考えないようにする。
色々あった怒涛のイベントがようやく一段落した。
そうして今日の所は一先ず帰ろうとなった時。
アルラウネが空を見上げながら、懐かしそうに呟いたのだった。
「……私ね、本当は“ノーム様”の配下だったのよ。昔のことなんだけどね」
「“ノーム”……土の大精霊だな」
レイネがそう補足をいれてくれる。
アルラウネは視線を戻し、今度は一面に広がる花畑を見て目を細める。
「でもある時、“シルフ様”と出会った……シルフ様はね、“綺麗だね”って、それだけ一言、言ってくれたのよ」
一陣の風が吹く。
花弁が一斉に揺れた。
まるであちこちで花が踊っているようだ。
そして幾つかの花びらが空に舞う。
風にさらわれた花たちは、遠くへ遠くへと運ばれていった。
始まりがあり、そしていつかは終わりが来る。
それでも、その中の過程にある美しさを、儚さを、全てを慈しむかのような光景だった。
「――さっ、しんみりは終わりなのよ! これからはよろしくなのよ、ダンジョンマスター!」
「……おう!」
こうして、ダンジョンにおける新たな仲間が増えたのだった。
「……ちゃっかり雌2体確保ですか。しかも1体は既にご主人様にメロメロ、片方はモンスター娘。流石ですご主人様」
「あ、それ知ってる! 略して“さすごしゅ”って言うんだよね!」
「へぇぇ……へへ、ルオは物知りだな!」
「……レイネってルオに甘いよね。まあ私も人のこと言えないけどさ――? マスター、どうかした?」
……いや、君らもうちょっと情緒というか風情を、その、ねぇ。
ウチの奴隷少女達はこんなことがあってもいつも通りだった……。
すいません、本当なら明日はどうしようだとか、更新疲れたな、的な駄文をダラダラ書いていたいんですが、そうもいかず。
まあ要するにGとの戦争に突入しております。
見つけてしまい、仕方なしに武器を片手にあと一歩のところまで追い詰めたのですが逃がしてしまい。
今膠着状態です。
存在を認識してしまったのに、退治せぬまま寝ることも出来ず、我慢比べの状態ですね。
ということで、すいません、明日は多分寝不足が確定しておりますので更新難しいかもです。




