表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/416

20.大事なことだから、キチンと言葉に。

滅茶苦茶に、という感じではないけれども。

ちょっと大事かな、と思ったんで時間を掛けました。

後々色んな所でじわっと効いてくるお話……だと思います。



「――……えっ?」


 そんな、ラティアの声が零れる。

 全く想像だにしていなかった――そんな声だ。


「ん? いや、そんな驚く程のことでも――って!?」


 ――ラティアの目から、涙が溢れていた。

 

 ラティア本人も、そのことに気づいておらず。

 ただただ呆然としていた。



「ラ、ラティア!? ど、どうした!? 何で泣いてるんだ!?」


 慌てて立ち上がり、ラティアに駆け寄る。

 そうして初めて、ラティアも自分の頬を伝う雫に気が付いた。


「あれ、なんで、涙が……だ、大丈夫です、何でも、ありません――」


 グシグシと自分の手の甲で、ラティアは涙を拭う。

 しかし拭いても拭いても、目からどんどん涙が溢れ出てきて、止まってくれない。


「大丈夫じゃないだろう……」


 俺も何とかしようと自分の衣装ケースからハンカチを引っ張り出す。

 そして急いでラティアの目の端に当ててやった。


「あり、がとうございます……もう、大丈夫、です……」


 そうは言うが、声も未だ震えている。

 ラティアが無理をしているのは明らかだった。


 それでも、ラティアは、立ち上がり。 

 一歩、俺から距離を取った。



 そして―― 

 




「本当に、ありがとう、ございました――」





 ――精一杯、笑って見せた。




「ご主人様と、過ごせた、時間、は、とても、とても大切で、温かくて――」




 嗚咽を漏らしながらも、涙を流しながらも。

 ラティアは笑顔を崩さない。


 なので、泣き笑いみたいな表情になってしまっていた。


 

「私の、大事な、大事な、宝物です……ご主人様への想いも、この後も、ずっと、ずっと変わらず――」






「――ああっ!! 待て待て!!」



 完全に別れの挨拶に入っているラティアの言葉を、俺は強引に止める。

 一瞬拒むように後ろに下がったが、踏み込んで、肩を掴んだ。



「何か盛大な勘違いをしてないか!? ラティア!!」


 俺が尋ねると、ラティアは驚いたのか、しゃっくりが止まるように、泣き止んだ。


「え? ですが、あの、新たな奴隷の、ご購入を検討されていると……」


 そしておずおずと、答え始める。


「ああ、そうだ、それで何故ラティアが泣くんだ!?」


「ですから、新たな奴隷を買われるのであれば……私は、お役御免になるのでは?」


 ラティアの返答に、俺はようやくラティアの反応の意味を理解した。



 ――あぁぁ、そこか……。



「……スマン、完全に俺の言い方が悪かった」



 これは間違いなく俺のミスだ。

 もっと言い方とかあっただろうに。


 ちょっと寝不足で頭が回らなかったとか。

 織部とのやり取りを終えて、完全に緊張が解けてたとか。


 スッとそんな諸要因が頭をよぎるが、今はそんなことを考えている場合ではない。




「――ラティアが辞めるなんてことはない。それは絶対だ」



 ここは直ぐにでも誤解を解かないといけない。

 俺はしっかりとラティアの目を見て、そう断言した

 


 だが――



「……その、ですが、では新しい奴隷を買われる、というのは……どういうこと、なのでしょうか?」 


 

 ラティアはまだ頭の中で。

 俺の言ったことと、自分がクビになるかもしれないという誤解が整理できていないようで。

 

 不安そうな表情をのぞかせていた。



「だから、それも今後ラティアと一緒に暮らすことになるかもしれないから、ラティアの意見を聞こうと――」


「それは、私とその奴隷の方は、二人でご主人様とは別に生活を送る、という意味でしょうか?」


「ああ、いや、違う、そうじゃなくて……」 



 先ほどの誤解は何となく解けたかと思ったら、今度はまた違う風に勘違いしている。

 クソッ、それもこれも、全部自分の口下手さや迂闊さが招いたことだ。


 今ラティアは、こっちに来て一番の不安を感じているはずだ。

 そんな精神状態だと、次々と新たな不安が、疑問が湧いてきてもおかしくない。


 どうしたら――  







 ――ピーンポーン






「――あっ? チャイム!? この大事な時に一体誰が……」


 閉めていたカーテンをシャっと開けて、外を窺う。

 何だよ……宅配便か。



 玄関には、大手通販サイトの宅配用段ボールを抱える、配達員の姿が。


 働き方改革の真っ只中申し訳ないが、後で不在票に連絡を入れよう。


「……あの、ご主人様、宜しいのですか?」


 ラティアが心配そうにこちらを見つめている。

 

「ああ、今はこっちの方が大事だし……」


「ですが、私のことは、後でも……」


 ラティアはやはり自分のことを後回ししてくれと言う。

 本当にどうしよう、かなり深刻だ。





 ――ピーンポーン、ピンポーン



「ああっ、クソ。今度は2回も!!」


 しかも若干強弱をつけて。


 ってか何だよ、このタイミングで注文したものが来るって。

 俺一体何を頼んだよ!


 本当、ゲームも本も、最近は全く注文してないってのに。



 衣服だって適当に外で買う――……衣装?






 俺はハッとしてラティアの方を見る。


 そして、ラティアの手を、取った。


「え、あの、ご主人様!?」


「ラティア、来てくれ!!」




 そのまま少々強引に、ラティアの細い手を引いて、階下に。

 そして、玄関前まで来て、その手を離す。



「ちょっと待っててくれ」


「は、はい……」



 何が何だか、といった感じで呆然としているラティアを後ろで待たせ。














「――すいませんでした、ちょっとトイレ入ってて」


「いえいえ、では、確かにお届けしました」


 軽く頭を下げた配達員のオジサンに礼を言って、直ぐに俺は家の中に入る。


 そして手に持った段ボール箱を床に置いた。



「……ご主人様、それは?」


「ふふん……今分かるぞ?」


 不思議そうに眺めるラティアに見せつけるように。

 俺は封をしているテープを剥がしていく。

 

 間もなく、俺は中へと手を入れ、そしてそれを取り出した。



 やっぱり、これだったか――





 俺はそれを、ラティアへと掲げて見せた。





「――ラティア!! サキュバスの衣装だ!!」




 それは、以前、買い物から帰った後に。

 注文していた既製品のコスプレ衣装だった。


 こんなに早く着くとは思っていなかったが、ある意味良い所で来てくれた。



「――今すぐこれを着て、俺に見せてくれないか!?」



「……え?」



 今度もまた。

 先ほどのように、全く想像していなかったことを言われた――そんな驚きの声だった。 



「な? ラティアが望んでた、サキュバスの衣装だぞ?」


 俺がもう一度押してみると、ラティアは――



「……は、はい。わかり、ました」



 未だ状況が飲み込めないながらも。

 ラティアは俺の求めに応じてくれた。









 






「――あの、ご主人様、どう、でしょう?」



「…………」


 

 脱衣所から出てきたラティアは、今届いたコスプレ衣装をきちんと身に着けていた。


 と言っても、そこはサキュバスのコスプレだけあって。

 着替えた後の方が肌の露出が明らかに多いものとなっていた。

 

 服を着ている、というよりは。

 胸と下半身の大事な部分、そして腕と足を、黒いエナメルの生地が何とか隠している――そう表現した方がしっくりくる。



 でも、それがラティアにとても良く似合っていた。

 しばらく言葉を失っていたが、直ぐに正気に戻り、俺は大きく頷く。



「うん……凄く似合ってる。ラティアの良さが、全部引き出されてると思う」


「そ、そうでしょうか……」


 流石に気恥ずかしさもあったのか。


 片方の腕を胸の前に。

 そしてもう一方は股の当たりへと持っていった。


 また、何とかバレないように、食い込んでしまっている下着部分を、指で直そうともしている。


 ……ただその隠そうとする仕草自体が、こう、グッとくるんだが。

 この子は本能的にやってるんだろうな……。





「――ラティア」



「はっ、はい!!」


 名前を呼ばれたラティアはピンと背筋を伸ばした。

 隠すのに使っていた腕を、きちんと横に持っていく。




「――俺は、こんなにも魅力的なラティアと一緒にいられて、毎日本当に嬉しい」


 何とか、思ったことを、感じたことを、言葉にする。

 口下手で、上手く表現できていないかもしれない。

 

 でも、ここできちんと伝えないと、ラティアの不安を消し去れない。

 そんな気がした。


 だから。

 どれだけ不格好に映ろうとも。

 どれ程つっかえながらになろうとも。


 言葉にしようと、そう思った。



「その衣装も、ラティアの女性としての魅力を最大限に引き出してると思う。というかぶっちゃけ凄いエロい」


 引かれたらどうしようとか。

 上手く伝わっていないかもしれないとか。


 そんなことは今は無しだ。


 ラティアは、その衣装のままでいるのが恥ずかしいのか。

 顔を赤くしながらも、俺の言葉に耳を傾けてくれている。

 


「こんな口下手で、コミュ障で、上手く伝えられないことも多いが……いつもありがとう。そして――」



 何とか、ラティアの不安が消えてくれるように。

 笑顔で日々を過ごしていくことができるように。




「――そんな魅力的なラティアと、“これからも”一緒に居られると、嬉しい。“今後とも”よろしく頼む」



 今日で終わりじゃなくて。

 これからも一緒に――そんな思いをできるだけ強調する言葉を選んだ。



  

 これでダメなら、もう俺じゃ無理だ。

 そんなドキドキを抱えながら、ラティアの反応を待っていると――







「――…………はい。これからも、ずっと、“末永く”よろしくお願いします」





 ラティアは、また、泣き笑いの表情を浮かべていた。

 でも、それは、先ほどのモノとは全然違って。


 悲しみを堪えて、堪えて、何とか笑って見せよう――そんな辛さなどは一切見えず。

 

 

 本当に心の底から嬉しさが溢れ出た結果、そうなったように見えた。




 

□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 ふいぃぃぃぃぃ。 

 よかったよかった。

 

 ラティアも誤解が解け、ちゃんと安心してくれたように思う。


 あの後、また部屋に戻って、今度こそちゃんとラティアの話を聞こうということになった。


 戻る途中、織部からメッセージがあったが、今は詳細は後回しにした。

 今ようやく元通りになったラティアとの時間を大切にしないと、また変に擦れ違うかもしれないから。



 それに、チラッと見たが、織部のは『会って欲しい人がいます』という簡潔な“メッセージ”だったのもある。


 緊急なら“通信”を使ってくるはずだし。

 ってか俺は付き合っている相手を紹介されるお前の親父かよ。  


「――それで、改めて聞くけど、一緒に暮らすならどんな奴隷の子がいい?」



 問い直しになったが、ラティアはそれで気を乱すこともなく。



「えーっと……ご主人様のお家で、ということですよね?」



 ちゃんと前提を確認して、やり取りしてくれていた。

 俺も、きちんとラティアの言っている意味を考え、できるだけ誤解を生まないよう、話す。


「ああ、そうだ、この家で、だ。遠慮なく言ってくれ」


 あと一人くらいならまだ普通に住めるからな。



「うーんと……それなら、可能であれば“女性”の方が、私としてはありがたいです」


 可愛らしく顎に指をあてて考えたラティアは、少しだけ遠慮がちに、そう言った。


「男性の奴隷ですと、どうしても“サキュバス”の“チャーム”との関係上、お互いに不便になりますので」


 ああ、そういう部分も考えないといけないのか。

 まあ俺自身も、むさ苦しいオッサンの奴隷とかと一つ屋根の下で生活するのも抵抗があるからな。



「分かった。そこは多分大丈夫。他は、何か気になることはあるか?」


「えーっと……ダンジョン関連で、ということでもいいですか?」


「ああ、勿論」


 俺が頷くと、ラティアは以前に俺から貰った紙とペンを取り出した。

 そしてその小さな紙に、幾つかの棒線と○を書いていく。


「えっと、あの、でしたら、購入されるのは“パワーアタッカー”か“ライトアタッカー”の奴隷が、良いかと」


 ラティアはその紙を使って、説明する。


「今私とご主人様二人で、攻略しています。私は、後衛の所謂“バックアタッカー”です」


 そして、3つのエリアに分けられたうちの、一番後ろにある○を、指さした。


「所謂って言われても初耳学なんだが……」


 まあ何となく言いたいことは分かる。


「とすると……俺はこれで……」


 ラティアがわざわざ真ん中のエリアの○に“ご主”という字を書いていたので。

 それを指し示した。

 別に“ご”でも“主”でもいいのに、なぜその2文字にしたのかは不思議だが。


「はい。ご主人様は前衛の“タンカー”に、今では【回復魔法】もお使いになれますし何より攻撃も普通にされます」


 そして、ラティアはその○の下に“オールラウンダー”という文字を付け足す。


「今、これでダンジョン攻略ができていますが、私としてはまだまだだと思うんです」


 ラティアは不満を口にする。

 それは俺がさっき「遠慮なく言ってくれ」と言っていたから、というよりは。


 以前から同様のことは常々口にしていて、それの繰り返しだった。


「私が詠唱する間に、ご主人様がお体を張って、時間を稼いでくださる――それそのものを、私は何とかしたいんです」


 このように、俺がサンドバッグを引き受けて、ラティアが詠唱するという体制自体を。

 ラティアはずっと変えたいと思っていた。


「ふむ……だから、前衛を入れたい、と?」


 別に俺は気にしないんだが。

 でも、そう思ってくれるの自体はありがたい。

 

 俺が先を促すと、ラティアは頷き返してくれる。


「はい。私が詠唱をして、ご主人様が時間を稼いで下さって――それが無くても勝てる一つの方法が、“アタッカー”を入れることだと思うんです」



    

ラティアの言う分類:後衛|中間|前衛

→後衛:バックアタッカー、バックアッパー

→中間:フリーアタッカー、オールラウンダー

→前衛:パワーアタッカー、ライトアタッカー、タンカー

※なお、変更・修正の可能性あり



ご評価いただいた数が、後3人で400人という所まで来ました、つまり397人の方に今評価をしていただいてます!

ブックマークは……4415件! とうとう4000件を超えました!

ありがとうございます、温かなご声援、染み入ります。

今後も是非、ご愛読ご声援をよろしくお願いします!!



次話で遂に、2人目の奴隷少女が登場……する予定です。

是非ご期待……せずにお待ちください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] つまりエルフはこなぁい!
[一言] いやいや、遠距離に対応できない時点でオールラウンダーではないでしょ(ワートリ脳) 現状はドラクエのパラディンみたいなものですね。 仮にタンク系の前衛が入れば主人公は中衛寄りの立ち回りでバラン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ