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203.無事なら、まあ何よりだが……。

ふぅぅぅ。


お待たせしました。


では、どうぞ。


「何でいきなり、号泣、なんだよっ! おい、状況を話せ! 手短に!」



 後ろのラティアが持っているDD――ダンジョンディスプレイに向けて声を飛ばす。



「キィッ! キキッ!」



 その間に手デカザルの攻撃は続いている。


 ウゼェッ!

 そこまで脅威には感じないのに、タイミングが悪いとこうまでもイライラさせられるものなのか!


“ミュウミュウ!”とか、もうちょっとかわいい声で鳴けねえのか!



『う゛ぅぅぅ。あのボスグモが悪いんでずよぅぅ! 2機あるってなんでずが!? 何で倒じだのに蜘蛛が脱皮ずるんですがぁぁぁ!?』



 ちょっ、俺が知るか! 



『ボス部屋のトラップでサラとカズサさんは捕まるじぃぃ! でも私が踏んじゃった奴だから怒るに怒れないじぃぃぃ!』 


「ご、ご主人様、どういたしましょう!?」

 


 流石のラティアも、どう対処していいか分からないらしい。

 DDから泣き叫ぶ声だけが聞こえてきて、とりあえずあっちも戦闘でピンチだってことだけは分かった。



 が、俺にどうして欲しいかは一切伝わってこない。

 クッソ忙しい!


 

「――マスター、急ぎっポイね? 行って」


「私が代わりを務めよう」



 リヴィルとそしてルオ――が姿を変えたシルレが、俺の側まで下がってくる。

 

 その間にレイネが奴らの注意を惹きつけてくれているらしい。



「大丈夫か? 何なら【敵意喚起(ヘイトパフューム)】使って俺が時間稼ぐが」


「大丈夫。私とルオだけでも十分対処できる。でも“導力”は使うから」 

  

 

 リヴィルは一も二もなく答え、ルオもそれに倣った。

 ここは時間との勝負か……。



「分かった。何かあればラティアに指示を仰いでくれ――」



 俺は、二人と動き回っているレイネに場を任せる。

 腕に導力を纏ったリヴィルが、俺と戦っていたサルを吹き飛ばす。

  

 その隙に後退。



「ご主人様!」 



 渡して1分もしないうちに、またDDが自分の手元に。



「――ラティア、マズそうなら魔法どんどん使っていいから!」


「分かりました! ……と言っても、大丈夫そうですが」


「ん? あ……」



 DDから視線を上げると、導力を用いたリヴィルの無双劇が正に今、繰り広げられていた。


 ダンジョンの序盤では後のことを心配して、エネルギーを食う“導力”を温存することが多い。


 だが非常事態で、今はそれを開放したのだ。  

  



「キィッ、キイ!?」


 

 残った1体の悲鳴が飛ぶ。

 仲間の内5体が、文字通り体を、存在を、削り取られたのだ。


 

 あらゆる防御を貫くとすら評される導士の力。

 それを、まともに受けたのだ。


 単なるモンスター止まりでは一たまりもなかったのだろう。



 

 最後の一体も、何とか生き残ろうとルオに狙いを定めたが……。



「――フンッ!」


 

 その生身でも、十分耐久力を有する体に弾き返され。

 そして――



「うらぁっ【不意打ち】!」



 気を取られている間に近づいたレイネに、とどめを刺された。



『――新海ぐぅぅん! お願いじまずぅぅ、何かぁぁ、何かアイデムゥゥゥ』


「はぁぁ……」



 こっちは3人のおかげで片付いた。

 俺は気疲れを覚えながらも、織部の方に集中することに……。   



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『済まない、ニイミ。迷惑をかける』


「いや、それはいいが……」 



 戦闘を終え、落ち着いて対応することが出来ていた。

 シルレは傷だらけになりながらも、織部と体勢を整えている。


 二人はさっき戦闘の余波で出来た岩陰に、身を潜めている最中だった。

 織部も今は声を抑えている。



「大丈夫なのか? とりあえず少しだけ待て。揃えるから……」


『ああ、助かる』



 俺は一度DDの通信を切った。



「ご主人様、これを」


「ありがとう」



 戦闘の際は、出来るだけラティアが持つようにしているマジックバッグ。

 それを受け取り、中から“ポーション類”を可能な限り取り出す。



「……隊長さん、あっちの方――カズサ達、そんなにマズいのか?」


 

 レイネがこちらを覗き込みながらも、心配そうに聞いてくる。

 俺は手を止めず、幾つくらいあるかを数えながらそれに答えた。



「……正直言って微妙だな。実際に戦っているのは織部とシルレの二人らしい」



 チラッとさっきの映像から見えたのは、傷だらけ、しかも服とか防具をほぼほぼ着ていない二人だった。


 そしてあちこちに張り巡らされていた蜘蛛の巣。


 その一つに、カズサさんとサラがチラッとだけ映っていた。 

 蜘蛛の巣に捕らえられ、身動きが出来ないでいる二人が。



「そっか……シルレお姉さん、頑張ってるんだね」



 ルオも、向こうの状況を何とか出来ないものかと、とてももどかしそうだ。



「……とりあえず送れるだけ送って、俺達用のはその後“Isekai”で買い足すでいいか?」



 全体的に沈みそうな空気を感じ取り、今できる最大限のことを提案する。


 誰からも異論はないようで、直ぐに俺は織部達へとアイテムを送った。


 特にMPを回復するポーションは要り用だろうと惜しまず転送する。




 

「……どうだろう、ちゃんと届いたかな?」

    

「……大丈夫、なはず」



 リヴィルに確認され、ちょっと不安になる。

 今までも同じように物資を送ったことは何度もあった。


 でも、こういう織部のピンチの時、もしかして何か起こるんじゃないかと勘ぐってしまう。



 だが――



「あっ、ご主人様! 通信が!」


「ああ!」



 ラティアに促され、俺も直ぐ様DDを繋ぐ。


 画面が点くと、シルレの肌の出た背中が映った。

 仁王立ちするようにして立つシルレの向こうには、巨大な蜘蛛のモンスターが。


 巨木の幹程の足が何本もあり、画面越しでもその存在の異質さが伝わってくる。

 あれが織部達の戦うボスで間違いないだろう。



『――新海君、ありがとうございました。これで何とか戦えそうです』



 画面直ぐ近く。

 織部の声が降って来た。


 

 キュポッとポーションの栓を抜く音がする。

 どうやらちゃんと届いたようだ。



「……大丈夫そうだね」


「ええ、良かった……」


 

 後ろでは、リヴィルとラティアが息を吐き、ホッと安堵していた。

 流石に心配だったのだろう。



『――体力と魔力さえ完璧に戻れば、こっちのものです』

 


 DD越しに織部の声が響く。

 普段でも中々聞かないくらいの怒った声。


 俺たちに対して“ムキー!”と怒鳴って見せるのとは違う、とても静かな怒りだった。


 

 こ、こんな織部……初めてだ。



『カンナ! さっきと同じように頼むぞ! ――でやぁぁぁ!』



 気迫のこもった声で、自らを鼓舞する。

 シルレはボスの大蜘蛛に向かっていった。



「お、おい織部、そっちは――」


 

 大丈夫なのか、そう問おうとするも、織部の言葉に被せられる形になった。



『もう一人の“五剣姫”のご機嫌取りにもなると最初は我慢していましたが……何が蜘蛛型モンスターはイベントシーンがあるですか。何が余裕でエッチなご褒美モンスターですか』



 ……いや、何ブツブツ言っちゃってんの?

 それ絶対お前の願望だろ。



『ぜんっっっっぜん! 違うじゃないですかぁぁぁ! 普通に死にかけましたからね! もう絶対許しません!――へーんしん! マジカルブレイブ、メタモルフォーゼ!!』 



 眩いばかりの光が、画面を覆った。

 織部が変身したらしい。



 ……大丈夫そう、だな。


 俺は一先ず、織部達が敗北する心配はないだろうと直感的に確信する。

 

     

 が、その心配がなくなると、今度は別の心配が頭をもたげることに。







 ……シルレも、そして織部もほぼ裸だったけど、アイツらそっち面は大丈夫なのだろうか。




「……ラティア、服とかズボンとかの類ってバッグにどれ位予備があったけ?」




 俺はこちらのダンジョン攻略は一時中断し、織部達の恰好の心配に頭を悩ませるのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『ニイミ様。本当、今回は何とお礼を言って良いのか……』


『私もです。ニイミさんとの繋がりが無ければ、いくらシルレとカンナさんとはいえ、今回は厳しかったでしょう』



 無事ボスを倒し終えた織部とシルレ。

 蜘蛛の巣に囚われていたサラとカズサさんも、大した怪我はないようだ。



 ……もっとも、何故かサラはセーラー服姿だが。

 カズサさんに至っては、女性警官のコスプレをしてるし。



「…………」



 抗議の意味を込めて、無言の視線を主犯(ラティア)に送る。

 が、ラティアはどこ吹く風で。



「? どうかなさいましたか? でも良かったです! こんなこともあろうかと沢山コスプレ衣装を買って用意しておいて!」



 いやねえよ、普通こんなこと。

 元々は何のために使う予定だったんだよ……。

 

 だが実際に、サラやカズサさんに限らず。

 織部やシルレの着替えを送ることが出来たのも、一応はラティアの用意あってのこと。 



「……ルオの着替え用でも良かったんじゃねえの?」



 何とか抵抗する意味でそう口にする。

 しかし、それに反論したのはラティアではなかった。



『いえ! 今回ただでさえ新海君たちには迷惑をかけて、DPも消費させてしまったんです! こっちの着替えくらい、節約させてください!』


 

 そう言って姿を見せたのは着替えを済ませた織部だ。

 コチラが提示した中で織部が選んだのは、アイドルコス。


 つまり、今こっちで人気絶好調のシーク・ラヴにあやかった、似たデザインのコスプレ衣装を織部が着ているのだ。



「…………」



 どこから何をどうツッコめばいいのか、無言になる。

 が、それをどう解釈したのか、織部はモジモジと体を忙しなく動かした。



『ど、どうですかね? 似合って……ます?』



 半分恥ずかしそうに。

 もう半分は恐る恐るといった感じでそう聞いてくる。



 俺はそれを受け、とある部分に視線が行く。

 


 …………。



 右の膨らみ、良し!

 左の膨らみ、良し!



 二つとも、ちゃんと実サイズ以上に膨らんでおります!


 うむ!

 よろしい!





「良いんじゃねえの? 何か白瀬――現役のシーク・ラヴメンバーを連想したよ」


『うわぁ! 本当ですか!? やったぁ! 私も、まだまだそっちでも行けますね!』 


 

 実際にアイドルとして活躍している奴と同等のレベルだと受け取ったのだろう。


 織部は無邪気にはしゃいでいた。



 ……うん、真実はいつも一つ。



『――それで、ニイミ。私達はどうすればいい? 助けてもらったんだ。私達も何かそちらに返したい』



 飛び跳ねて喜んでいる織部を横目に、シルレが話を戻す。

 シルレは動き易そうという理由だけで、くのいち風のコスプレを選んでいた。


 ……うーん、敵地への潜入任務で捕まって“くっ、殺せ! 私はどんな拷問を受けても何もしゃべらん!”とか言ってそう。




 

 ……はっ!?


 お、俺は一体何を考えていたんだ!?


 何でそんな思考をしてしまって――



「……ラティア、笑顔、笑顔が漏れてる」



 リヴィルに指摘され、慌てて表情を引き締める人物が一人。



「おっと……」



 ……これ現行犯では?






 とりあえず、俺達は今し方起こっていることを話すことにした。

“新たなダンジョン”、“戦争”、そして“シルフ”……。 

  



『――そうですか、うん。それなら私達が力になれそう』




 するとカズサさんから、そんな頼もしい答えが返って来たのだった。  

ちょっと疲れました。


すいません、もしかしたら1日更新をお休みするかもしれません。

まだ分かりませんが、一応そう言うつもりでお願いします。


多分、このダンジョンの話も2か3話以内には終わると思います。

では、そういう感じで。

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― 新着の感想 ―
[一言] > “ミュウミュウ!”とか、もうちょっとかわいい声で鳴けねえのか! 東京「ご奉仕しますニャン?」  蜘蛛に効果的なアイテム……コーヒーだな!(効果:酔っ払う) > 『ぜんっっっっぜん! …
[一言] 今日のラティア様侵食深度、5680%
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