202.今かよ!?
ふぅぅぅ。
ではどうぞ!
「うっわ……草生える。マジ“森”過ぎて“森”なんだけど」
「いやマスター、何言ってるか分かんなくなってるよ」
リヴィルにツッコまれつつも、視界に入って来た光景に驚かざるを得ない。
今までのダンジョンとは打って変わって、ここは突入して即、自然豊かなフィールドが広がっていた。
殺風景な洞窟などではなく、草で地面は埋め尽くされ。
5人広がってもなお余裕で動き回れる広大な空間。
一方で、目の前のルートを覆い隠すように立ち並ぶ木々の数々。
「……誰かの手が入っているダンジョン、という気がしますね」
「え? でもこんなに草木が沢山あるけど……」
ラティアの呟きに、ルオが反応する。
どういう意図かと目の前の光景を視界に入れながら尋ねていた。
が、それに答えたのはラティアではなく。
「……こんだけ広くて、なおかつ自然溢れる空間だからこそ、人の手が加えられてないと不自然、って意味だろ」
レイネは風の精霊、そして先日契約を結んだばかりの火の精霊に何か二言、三言頼み込む。
そして2体が、目の前を偵察するように飛んでいくのを確認し、ルオに向き直る。
「入って来た者を拒む様に……この先の道を覆い隠すように……木が生えすぎてる」
レイネが自分の考えを口にすると、ルオも納得するように頷いた。
配置に、誰かの意図を感じるってことだな。
「――で、どうする? 入ったはいいが……案外何も起こらないし」
このダンジョンの所有者――“シルフ”の僕に戦争を仕掛けられたと聞いたときは流石にちょっと焦った。
が、別にモンスターがいきなり俺達のダンジョンに飛び出してくるわけでもなし。
じっくり話し合う余裕もあった。
「……レイネ、どうですか?」
ラティアが率先して話を進めてくれる。
「うーん……精霊達には今さっき頼んだばっかりだし……あっ、あたしが飛んでちょっと様子見ようか?」
一瞬“飛んで”の意味が分からなかった。
しかし、ラティアは瞬時に理解したのか、直ぐに頷き返す。
「うっし。じゃあちょっと待っててくれ――ふっ!」
「あっ――」
レイネの背中を見て、思わず声が漏れる。
そう言うことか……。
気合を入れるように息を止めたレイネは、その背中に翼を生やした。
風の精霊と契約した、天使だけの特権だ。
「――しぃっ!」
地を蹴る。
それと同時に、団扇程の大きさしかない羽がバサバサと動きだした。
「おぉぉ!」
「……思ってたよりは浮くんだね」
ルオとリヴィルは感心したようにレイネを見上げた。
3m~5m程を上下している。
そこら辺が限界のようだ。
今までのダンジョンとは違い、天井ももっとずっと高い所にある。
レイネが宙を浮いても未だ天には届かない。
後、これは全ダンジョン共通なのか、時間に関係なく今も明るい。
日の影響を受けないからだろうか……。
レイネは手で庇を作り、遠くを眺めている。
しばらくして偵察を切り上げ、ゆっくりと降りてきた。
「よっと……案外このフロア自体は広くないな。100mもすれば次の層への階段があると思う」
そこまで見えたのか……。
いや、でも驚くところは他にもある。
今までの洞窟型のダンジョンと比較すると、純粋に広い。
だって縦だけで100mくらいは少なくともあるってことだろ?
じゃあ今見た感じだと多分、横幅もそんくらいあるんじゃないかな……。
まあ洞窟タイプは逆に、うねうねと狭い道が入り組んでる分、そう感じないだけかもしれないが。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『御用である! 御用である! てやんでぃ!』
『頭が高い! そなたら、頭が高いぞ控えおろう!』
レイネが戻って来た後、しばらく待ち。
5分程しただろうか、精霊達が帰還してくる。
レイネは火の精霊、風の精霊と順番に報告を聞いた。
「ふぅん……どうやら3種類のモンスターがいるらしい。蜘蛛のモンスターと、腕が異様に大きいサル。それと風の子竜だな」
「そうですか……どうです、大丈夫そうですか?」
ラティアに確認され、ルオは一瞬考え込む。
一方リヴィルは特に間を置くことなく頷いた。
「私は大丈夫かな。このフロア単体なら、私一人でも行けると思う」
おお……。
リヴィルさん、頼り甲斐がありすぎますぜ。
お前、それでその恵まれまくった容姿とか、もう反則だろ。
「……? なに、マスター。何かあるなら何でも言って」
「いや、大丈夫っス」
一瞬ラティアがキランと効果音付きで反応しかけたので、早々に話を打ち切る。
……こら、不服そうな顔しない。
「えっと、ルオはどうだ?」
「うーん……森ってことは別に問題ないんだけど、蜘蛛さんはちょっと苦手かな」
へぇぇ。
意外だ。
ルオは確か山の中で暮らしてた時期があったって聞いたが……。
まあ、そういう女の子らしい面があるのもギャップがあっていいかもしれないな。
俺と同じように意外に思ったのか、ラティアが目を丸くしてルオを見ていた。
「そうなんですか? 私は蜘蛛、結構興味があるんですが……特にその糸とか。色々と使えそうで、出来れば一度倒しておきたいなと」
…………。
いや、“ご主人様もいかがです、蜘蛛の糸?”的な視線を向けないで。
ノーコメントで。
「レイネは? レイネはどうだ?」
「糸……隊長さん……仕方なく……」
……あれ、聞こえてない?
「おーい、レイネさーん」
「はっ!?――ま、まあ、大丈夫そうか。なら、そろそろ行くか? あっ、隊長さん、いつも通りあたしが先頭でいいか!?」
「……そうだな」
……そんな焦らなくても。
「……フフッ」
……深入りはしない。
だって、ラティアのこの笑みを見るとさ……こっちの方が引っかかったら逃げられない蜘蛛の巣的なトラップ仕掛てそうだもん。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――来る」
1・2・1・1の隊列。
5m程前を歩くレイネが、手で合図を送ってくる。
隣のリヴィルと共に、戦闘に備え構えた。
後ろを歩くルオ、そして最後尾のラティアも警戒を強める。
周囲は木々で覆われている。
視界が利かない森の中。
風で枝葉が揺らめく音だけが、耳に届いている。
――そこに、異物が混じった。
「――キキィッッッ!!」
サルかっ!
右腕だけが異常に発達したサルが、木々を伝って来る。
高い所にある枝から降り、奇襲を仕掛けたつもりらしい。
どうやら群れのようで、後から5匹程が一気に跳びかかって来た。
それぞれ右か左かの違いはあれど、片腕が大きく肥大しているのは共通していて。
それを武器にしているのは明らかだった。
「よっし、いつも通りに――」
行くぞ――そう言おうとした時。
――prrrr,prrrr
「ちょ、え、今!?――ぐっ!」
ハンマーのように叩きつけてくるサルの腕を、何とか受け止め。
俺は音の主に一瞬だけカチンと来てしまう。
ダンジョン内でスマホの電話はかからない。
2つに1つ。
しかもそれぞれかけてくる場合、音が違う。
すると、必然相手は絞られて――
「――織部の奴ッ! いつかけて来るの!? 今かよ!?」
某有名なフレーズっぽくなってしまったが、それどころじゃなかった。
イラっとはしたが、よくよく考えて冷静になる。
アイツも、緊急性が無ければいつもはメッセージ機能を先行させるのだ。
それを飛ばして通信をいきなり求めたということは、織部もかなり緊急性の高いことでかけてきているはず。
「キィッ、キキッ!」
「ウラッ、うっせぇ! ――ラティアッ、ちょっと出てくれ!」
サルの腕ハンマーを払いのけ。
そのジンジン痺れる手を我慢しながら、ラティアにDD――ダンジョンディスプレイを投げた。
前衛の俺が抜ける訳にはいかず、戦況を見て動ける後衛のラティアに託したのだ。
「あ、はい! えっと……で、出来ました!」
『――新海君っ! ごべんなざい、助けてぐだざいぃぃぃ!』
ラティアの声の後に聞こえたのは、謝罪から入った織部の、縋りついてくるような泣き叫ぶ声だった。
織部さん……。
美少女のはずなのに、泣く姿がどうしても残念感を漂わせてしまう。
酷い!
泣きたいのはこっちだ!
作者泣かせ!
すいません……感想の返しはまた午後にさせてください。
ですのでもう少しお待ちを!




