200.やめて、その秘密を暴かないで!!
ふぅぅ。
お待たせしました。
ではどうぞ。
「ご主人様、コチラの方は大丈夫です」
ラティアが赤星を連れて、台座の方から戻ってくる。
白瀬たちはそれで話を中断。
……いや、残念そうな顔すんなよ。
君らは君らで別に目的があって来たんでしょうが。
「分かった――じゃあレイネ、梓」
「ん! じゃ、隊長さん、ちょっくら行ってくる」
「私も……じゃあ、アスカのこと、お願い」
レイネと梓は、二人で移動を始めた。
最初はこの広間全体を一度探す予定だ。
ここで見つからなければ、階層を1層ずつ上がって調べていくことになる。
「えっと……本当に“精霊”なんている、の?」
俺たちから離れ始めたレイネ・梓を見送りながら、白瀬は俺にそう聞いてくる。
それはいないだろうと信じていた幽霊が、実際には存在すると聞かされたような反応だった。
「まあ、な……だから、いたらちゃんと教えるよ」
「……うん、まあ、教えられても私や赤星さんは見えないんだろうけど」
何とも釈然としないといった感じではあるが、白瀬はそれ以上は言ってこなかった。
要するに今回、攻略したこの親子ダンジョンに再訪したのは精霊の件もあったからだ。
梓との出会いで、俺が精霊を見えることに気付いたり。
あるいはレイネが仲間に加わり、余計精霊のことに気を付けるようになったり。
ダンジョンを攻略した後に精霊がいるかどうかを調べるようになったのは、大体その後からなのだ。
つまり、逆にそれ以前のダンジョンは殆ど調べていないことになる。
「でも、梓の強さの理由の一端は間違いなく精霊だ。白瀬も、それがあって今回、同行しようと思ったんだろ?」
「……うん」
今回俺が声をかけたのは赤星と梓だけだった。
赤星は≪ダンジョン修練士≫のジョブを持っているから、未だ聞こえなくてもラティアとダンジョンの会話を見てモチベーションを上げてもらうため。
梓は攻略済みのダンジョンでも精霊が出るかどうか調べるため。
勿論、それは今後のダンジョン攻略において梓にも益があるはずだ。
「アイドルの方も勿論だけど……私、もっとダンジョンの方でも役に立ちたい。六花さんや美洋さんが私を頼りにしてくれてる。だから……」
白瀬は秘めたる闘志を震わせるように、拳をギュッと握りしめた。
それで、梓に話が行って、で、今回の参加に結び付いたわけか。
…………。
気持ちを隠すことに長けている志木とは違い。
白瀬は結構熱いというか、自分の気持ちに真っ直ぐで、見ている人に共感を与えるところがあるんだと思う。
……いや、胸の件は置いておいてだな。
「……なら、さ。白瀬も、赤星と同じジョブに、なってみるか?」
本来3人までならDP無料で得られる≪ダンジョン修練士≫のジョブ。
それを、ラティア、赤星と来て、一つは余らせたままだった。
本当ならその後来る誰か――つまり、仲間になる前のレイネの枠の子になってもらうつもりだったのだ。
だがレイネは地頭は良いが、ダンジョンを運営するって感じじゃない。
どちらかというと実際に攻略したり、あるいは逆に守ったりと実働を担うタイプだ。
「え? えっと……え、え!?」
一瞬何を言われたのか分からないといった様子で、白瀬はプチパニックに陥る。
それに……白瀬は努力で何とかあの志木と対抗しようと、必死に頑張っていた奴だ。
赤星と共に、上手く使いこなしてくれるなら、恩を売っておくのも悪くない。
……いや、本当だから。
恩に着せて、仲が良さそうな梓への対処の一端を担わせたいとか、全くこれっぽっちも考えてないから。
「……その、本当に、いいの? 私、何もまだ、貴方に返せる物なんて、持ってないのに?」
いや、だからちょっと恩に感じてもらって、そして梓を少しでも抑え込んでもらえればそれでいいんです。
……うん、だから、殆どお返しとかは考えなくていいんだよ?
「ん。あっ、でも今直ぐに決めてくれよ? 持ち越しは無しだ。俺、気が変わるの早いからな。ほら10,9,8……」
カウントダウンを始めると、白瀬は途端にあたふたする。
そして目まぐるしくどうしようどうしようと焦るが、結局……。
「――ふ、ふ、不束者ですがよろしくお願いします!!」
髪が一瞬逆さになって宙に浮くぐらいの勢いで、腰を直角に曲げ。
そうして白瀬は新たな一歩を踏み出したのだった。
……ん?
「……ご主人様、今日もお赤飯、炊いた方が良いでしょうか?」
「え、ラティアちゃん、今日“も”!? 嘘っ、新海君、え、以前にお赤飯炊くような出来事が既にあったの!?」
ギャァァァァ!
「あ、いや、違くて! 私、別にハー君に告白したとか、まだそんなんじゃ全然なくって!!」
白瀬ぇぇぇぇ!
ちょっとお口にチャックしとこうかぁぁぁぁ!!
そのあたふたと狼狽する感じが、逆にラティアの笑みを深めていることに気付け!
……その後、何とか≪ダンジョン修練士≫のジョブを白瀬が獲得することは出来た。
が、レイネと梓が戻ってくるまで、変な空気の中待たなければならなかったが……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『おいさ! あっしが火の精霊でさぁ! 皆の衆、お控えなすって!』
「うーん……見つかったのはいいが、どの精霊も大概どっかおかしいよな……」
意外に早く戻って来た二人が連れてきたのは、本人の言葉通り火の精霊だった。
日本の怪談とかで出てくる火の玉を想像していたが、姿形はメラメラと燃える火そのもの。
今まで会った精霊達とは違い、コイツは目や口は一切持っていなかった。
「おかしいの? 私達は分からないから何とも言えないけど……梓、どう?」
眉を寄せる白瀬に話を振られ、梓も同じく首を傾げる。
「私も、別にハッキリとした姿が見える訳じゃない。ぼんやり、火の精霊がいるな、って。そう感じるだけ」
そう言って、梓はレイネに視線を向ける。
他の皆からも視線が集まっていることを感じ、レイネは火の精霊を見、そしてニコッと笑った。
「え? おかしいか? コイツ、凄い可愛い顔してるけどな~」
レイネはそのまま火の精霊をツンツンと突き出す。
熱くないのか、とも思ったがその前に今度は俺に視線が集まっていた。
“レイネはこう言ってるけど”的な視線だ。
……理不尽さを感じる。
レイネの精霊に対する美醜感覚は絶対おかしいのに。
でも梓がハッキリとは見えない以上、1対1で票が分かれてしまった。
クソッ、いつもこうだ……。
『あん? あっしと義兄弟の契りを結びたい? てやんでい! べらぼうめぃ!』
火の精霊はその感情の起伏を表すように、火の大小が激しく変わる。
……コイツも多分、それっぽい言葉を言ってるだけだろ。
「で、どうだ? 必要な物、聞き出せそうか?」
以前の土の精霊は未だ契約できていなかった。
“Isekai”の市場で、必要な物が揃えられなかったからだ。
今回もあの時の二の舞は嫌だな、と思いながらレイネに尋ねる。
「うん、うん……そっか、分かった。――隊長さん、多分だけど、今度は大丈夫! どれも良く市場で見聞きした物ばっかりだった」
しばらく二人きりで話していたが、振り向いたレイネから朗報が返って来た。
それなら安心だな……。
前のダンジョンでDPへと交換もして、懐はまた少し温まった。
今回は行けるだろう……。
「……不思議な感覚。本当にレイネちゃんがお化けか何かと話してるみたい」
「だね。でもまあ、そう言うこともあるんだな、って受け入れるしかないよ」
白瀬と赤星が、今の一連の過程を見た感想を言い合っていた。
やはり逆井と同じく、そういう感じで落ち着くんだろうな……。
「私もいつか見えるようになるかしら……精霊は、まだ、いるの?」
白瀬は見えない精霊に触れようとするかのように、目の前の空間を手で扇ぎだした。
それは見方によっては、虫か蚊を追い払っているようにも見えて……。
「いる、んではないでしょうか?」
自信なさげなラティアに、そう聞かれ。
俺は一応頷く。
「ああ、そりゃまだ全然いるけど……」
『――てやんでい、てやんでい! あっしを探してるのはこのお嬢ちゃんかい? べらぼうめぃ!』
と、そこに火の精霊が漂ってきた。
精霊は丁度そのラティアと白瀬の間に場所を定める。
そして何故か、二人の胸部の辺りを行ったり来たりし始めた。
『てぇへんだ、てぇへんだ! こっちの嬢ちゃん、ここら辺の膨らみに、熱が感じられねぇ!』
おいバカ、白瀬の胸の辺りに浮遊してそんなこと言うのは止めろ!
『どうなってんだい! こっちのサキュバスの嬢ちゃんは、ちゃーんと血の通った、熱のこもった体をしてるってのによ!』
だからおい!
今度はラティアの胸を指して、んな診断するな!
お前火の精霊で“熱”と関係ありそうだからってな、やって良い事と悪いことがあんだよ!
実胸は体温が感じられて、虚乳は無温だなんてバラすな!!
『大丈夫かい、人間さんよぉ。ここら辺、ちぃーっと熱さ、足りてねえんじゃないかぃ?』
だから!
精霊の不思議な力を使って、白瀬の特大の秘密を暴くなぁぁぁぁ!!
「?」
勿論姿も声も聞こえない白瀬は不思議そうに首を傾げたままだった。
……いいんだ、白瀬はずっと見えなくても。
今後もそのままの白瀬で育ってくれ……。
精霊、頼りにはなるけど厄介な存在でもある。
……まあ主人公にとってはですがね!
明日の午後辺り、また時間を取りますので、感想の返しはもうしばらくお待ちください!




