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199.何言ってんの君ら!?

ふぃぃぃ。


お待たせしました。


ではどうぞ!


「そう言えばどう、新海君。3年生はもう慣れた?」


 

 リビングで残り二人を待つ間。

 赤星がそんな話題を振ってくる。



 今回で我が家は2回目だが、やはり未だ慣れない様子。

 どこかソワソワとしていて、堪らず話題を求めたという感じか。



「それなりには。やることは殆ど変わらないしな……」



 あの二人遅いなと腕時計に目をやりながら、その話に乗っかることにする。


 今日向かうダンジョンへと同行するラティア・レイネは玄関だ。

 つまりリビングでは今、赤星と二人きり。


 何だか赤星のソワソワが移ったような心持ちだった。



「へぇぇ……あ、そう言えば! 梨愛、最近凄く調子いいと思わない?」

 

 

 これは自然に思い浮かんだようにサラリと告げる。

 


「ああ……まあ、な」


「ん? フフッ……新海君、何か心当たりでもあるのかな?」 

  


 分かっているのにあえて聞いている、そんなちょっぴり意地悪そうな表情。


 赤星にしては珍しい態度だ。

 だが……うん。


 多分、赤星が想定しているだろう答えと。

 そして俺が思い当っている答えは違う。



「ま、あれだ。良いことでもあったんだろう?」


「だね。梨愛、事あるごとに新海君と同じクラスになったこと、自慢してくるんだ」



 ああ、いや、うん。

 だから多分違うんすわ。


 最近アイツが上機嫌な理由……。



  

 ――織部って言う、同士(しんゆう)と再会して弾けとるんです。



 再び会うことが出来て安心したのか、織部とまた話したいとは催促されない。

 だが一方で、こっちが気を利かせて機会を設けると、そりゃもう色んな話で盛り上がるのだ。


“これから女子トークするから! ラティアちゃんも参加してもらっていい? あっ、新海は聞いたらダメだかんね! だからその……部屋、借りてもいい?”


 そう言われて、自室なのに遠慮して俺から出たのも、決して遠い過去の日ではない。

   


「ええーっと……あ、どうだ、そっちは。学校もそうだが、アイドルの方も本格的に研究生が入ってきて、忙しいだろう?」



 部屋に戻れた後、自室に違和感があったことをあまり思い出したくなかったのもあり、話を別の方に逸らす。

 が、今度は赤星がその話題に困るように苦笑いを浮かべた。



「あ、あはは。学校は、さ。うん、順調かな。えーっと……シーク・ラヴの方は、ね」 



 とても歯切れが悪い。

 何だか微妙に嫌な予感がしないでもない。


 ……最近、こういう地雷センサーみたいなのだけが発達してない?


 俺“これから良いことが起こりそう!”なんていう直感は全然育たないんだけど……。

  


「新海君? あっ! えっと、別に悪いことがあったとかじゃないんだよ? うん!」


 

 俺の表情をどう読み取ったのかは知らんが、赤星は誤解を解こうとするように手を振り、そう前置きする。


 俺もそれは分かっているという風に頷く。


 それで赤星は落ち着き、思い切って告げたのだった。



「その、うんと……――椎名さんが、凄く怖いです、はい」

  


 Oh……。



「そうか、うん、頑張れ! 俺は力になれないが応援してるぞ!」


「待って、待ってよ新海君っ!? 何でそんなに爽やかなの!? 応援なんていいから、新海君が一番力になれそうな問題だから!」



 ええい、腕を取るな、放せ!

 俺はまだ生きたいんだ!

 

 あんな鬼人化した修羅に立ち向かえる程、俺は出来た人間ではない!




 

 ――ピンポーン



 タイミング良く、待ち人の2人が来たらしい。

 チャイムの音がこの話をこれで終わりにしろと、俺に(ささや)きかけている! 



「さ、赤星! 今日の趣旨はダンジョン再訪であって、そんな鬼退治ではないんだ! 諦めてくれ!」


「いやいやいや! 相談に乗るくらい、いいでしょ!? それに、そんなことばかり言ってると、椎名さんに言っちゃうよ? 新海君が椎名さんのことを“鬼”に例えてたって!」



 ぬわっ!? 

 赤星め、卑怯なり!


 それこそ俺を生贄(いけにえ)にする気じゃないか!


 滅することではなく、鬼の怒りを鎮めることに長けた人柱ですか俺は!?





「――ご主人様、お二人がいらっしゃって……あら? あらあら。ウフフッ……」


「あっ、ラティアちゃん!? ――いや、あの、違っ、別にこれは新海君に抱き着いてるとか、そう言うことじゃなくて!」


 

 リビングへと顔を覗かせたラティアの笑みを見て、赤星がようやく俺から離れてくれた。


 そしてそれだけでは終わらず……。


 

「……ハルト、ハヤテ、二人で楽しそう。アスカ、意見は?」


「……逆井さん達が赤星さんを“伏兵”と呼ぶ訳が、ようやく分かったわ」

 

 

 待ち人たる梓、そして白瀬にまでそんなことを言われてしまう始末。



「だから違うってぇぇぇ!」



 珍しい赤星の叫びが、家の中に響いた。


 

□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



『――へぇぇ。確かに。このサキュバスの嬢ちゃん、≪ダンジョン運営士≫になってるよ』


『確かに! なってりゅよ!』


「これが……ダンジョンの声ですか。良かった、聞こえますね……」


 

 DD――ダンジョンディスプレイの機能にて訪れた、攻略済みのダンジョン。



 ラティアはダンジョンの台座の前に立ち、そうして胸を撫で下ろした。

 そのラティアの後ろでは、赤星が状況を見守っている。

 

 俺も離れた場所から親子ダンジョンの言葉を聴き、今回ここに来た目的の一つを早くも達成したことを悟った。




「……凄いな、ここも、隊長さん達が前に来て攻略した所なんだろ?」


 

 隣にいるレイネが声を抑えて俺に確認してきた。

 


「ああ。ボス戦もして……勿論、赤星もいたぞ? シーク・ラヴで言えば志木とか、皇さんとか。後は逆井と桜田もいたっけな」



 ここの外は志木のお爺さんの土地だったはずだ。

 

 俺もヒソヒソと、ただ白瀬と梓にも聞こえるように告げる。

 二人も俺達と同じく、ラティアと赤星からは離れた位置で見守っていた。



「……志木さんや逆井さんはともかく。皇さんや桜田さんも、私よりよっぽど沢山の経験をしていたのね」


「大丈夫。アスカ、これから頑張ればいい。私も、ハルトもいる」



 悔しそうに俯く白瀬を、梓が励ましている。

 ……珍しい光景だな。


 いや、俺が知らないだけで、この二人の普段はこんな感じなのかもしれない。





「――ラティアちゃん、どんな感じなのかな? 新海君から聞くことはあったけど、実際にダンジョンと話をするって……」


「ええっと……まだ会話をした、というわけではなく彼女達の声が聞こえたレベルですが……」



 未だ≪ダンジョン修練士≫である赤星が、一足先に≪ダンジョン運営士≫へとなったラティアに早速話を聴いていた。


 あの二人はコミュニケーションも良くとっているし、俺が入らなくても大丈夫だろう。



 

 そう思って、側にいた白瀬たちへと視線を移した。



「アスカ……大丈夫? 元気、出して」


「……何よ。ちょっと自分のスタートの遅さに打ちひしがれてんの。放っといて」



 本気で落ち込み邪険にしているというより……。


 多分、白瀬自身もう立ち直ってはいるが、梓と面と向かうのが恥ずかしいっぽい。


 何となくレイネに似たツンデレの波導を感じ取った。

 そうして温かな目で見守ることにする……。



「良いこと教えてあげる……レイネも、来て」


「あん? んだよ……ったく」



 梓に呼ばれ、レイネは仕方ないなといった感じで近づいていく。


 良いこと?

 ……何だ? 



 3人が密集して頭を突き合わせる体勢に。


 ただ、これから密談でも始めようかというには、かなり近い。

 俺に見聞き出来る位置で普通に行われているのだが……。



「……持ってる秘密の話、暴露し合う。これで、お互いに情報交換する」


 

 梓は冗談でもなんでもなく、マジのトーンでそう告げた。

 白瀬とレイネは一瞬ポカーンとする。


 が、二人の反応を待つことなく。

 梓は一人で暴露大会を開会した。



「――ハルトの衣服。私が着て洗濯した後でも、ハルトの匂いがする」


「!?」


「!?」



 おい、こらそこー。

 

 梓も梓だし、白瀬とレイネも雷に打たれたみたいな衝撃の表情しない。



 アイツら、俺が聞こえてて、しかも側で見てるってこと分かってるよね?


 後……俺、洗濯しても取れないくらい体臭キツかったのかな?

 地味にショック……。


 

「……フフッ、次はレイネ」


 

 ドヤ顔の梓が、レイネに暴露を促す。

 レイネはそれを受け、ゴクッと喉を鳴らした。

 

 ……いや、そんな大層な催し物でもないだろう。



「お、おう――え、えっと……前、罰ゲームで隊長さんの前でメイド服着たことあったんだけどよ」



 ……ああ、あのリヴィルとの取引のね。

 それは俺の何かって言うよりは、レイネ自身の恥部のような気がするが……。 




「でさ、隊長さん……結構、その、じっくりと眺めて、褒めてくれたんだよ。あたしが思うに――隊長さん、メイドフェチ属性、あると思う」


「!?」


「!?」



 いやねえよ。

 ってか仮にあったとしてもそこまで驚くこと!?

 

 あの梓ですら驚愕の表情の上に息を呑んでんぞ!




「……えと、大丈夫、ラティアちゃん? 何かあった?」


「いえ、申し訳ありません、何でもないです何でも……フフッ、メイド……」



 …………。





 ラティアは何も聞いてない、ラティアは何も聞いてない、ラティアは何も聞いてない……。

 




「最後は私、ね……」



 白瀬は緊張しながらも、梓とレイネへ視線を送る。

 既に自分が先程は落ち込んでいたなどという事実は無かったみたいに。

 まるで強敵と書いて友と呼べる仲間に出会えた、その喜びを分かち合うみたいに。



 ……いや何これ。


 ってかお前ら、まだ今日他にもやることあるんだからな?

 忘れんなよ?



「ハー君、私が過激なボンテージ衣装を着るキャラのコスプレをしても受け入れてくれたの」



 ……いや、うん。

 だからさ、それも別に俺登場させなくていいじゃん。


 自分の弱点をさらけ出して、それを3人で受け入れ合う会じゃダメなの?


 ダメなんですね……。

 やっぱり叩かれる人がいた方が、女子の話は盛り上がるんすかね……。



「ちょっとSっ気あるキャラで……。つまり、レイネちゃんの話の流れからすると――攻められるのが好き、なのかも」


「むむぅぅ、総合すると……」



 いや梓、総合しなくていいから。



「――つまりハルトは、ドSメイドに攻められたら、よりいい匂いの汗をかく?」



 ……5分もしない間に、俺、とんだド変態に仕立て上げられてる……。



 女三人寄れば(かしま)しいとは言うが、この三人に限っては違うな。

 女三人寄れば冤罪が生まれる……。



 今日一番の教訓だ……。

新海さん、ドンマイ……。

この先、きっと良いことあるさ(適当)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 新海さんの周囲には地雷しかないからね! 踏み抜いても生きてる新海さんだから大丈夫大丈夫(笑) 流石はブレイブカンナと双璧をなす新海さんやで とんでもないド変態や!
[一言]  赤星、伏兵力の変わらないただ一人のアイドル(というか変わらないどころかどんどん上昇している) >  梓も梓だし、白瀬とレイネも雷に打たれたみたいな衝撃の表情しない。  白瀬とレイネに電流…
[一言] ドSでメイド?なんだか既視感があるような… 具体的に言うと2X歳な人が当てはまりそうな気がしますね。
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