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198.ファン1号……。

お待たせしました……。


朝の結構早い時間に起きたはずなのに、ボーっとしていたらいつの間にかこんな時間に。


あっれぇぇぇ?


最後、第三者視点になります。

一応分かる様には書いたつもりですが、お気を付けを。


ではどうぞ。


 

「…………うぅっ」



 ……え?



 嘘っ、泣いてる!?

 視界の端で、隣にいる九条が目に涙を浮かべているのが見えた。



「ぐすっ……ひぐっ……」



 アカン、ちょ、え、何で!?

 何とか声を抑えて、周りに気付かせないようにと気丈に振る舞っているが……。 



 そ、そんなに嫌だった!?

 スマホを介してでもファンから接触されるって泣くほどキツかったの!?


 最近のアイドルのメンタル事情!!



「え、えーっと……」




 俺は慌ててスマホに文字を打つ。

 そして申し訳なさ全開で九条の前に持って行った。



 しばらく気づいてもらえなかったが……。



「うぅぅ……え?」 



 目をごしごしと手の甲で拭い。

 九条はようやく俺のスマホの画面を見つめた。



“す、すいません! そんなに嫌だとは思わず……。金輪際、話しかけたりファンだなどと烏滸(おこ)がましいことは言いませんのでご安心を!”



 九条がまた、その濡れた瞳を大きく見開いた。


 俺は謝罪を認識してもらえたと分かり、立ち上がろうとする。

 申し訳ないが、ルオに場所を変わってもらおう。


 女子が隣同士の方がいいだろう。

 それに“ルオ”とは初対面だから、隣になっても何も起こりはしないだろうし。



 ――が、それは阻止される。



「えっ!?」 



 中腰程になった俺の右手を、何と九条の左手が掴んだのだ。

 首をブンブンと必死に横に振る。


 そして彼女の中で精一杯の力を下にかけ、俺に着座を促す。




 な、何でや九条(くじょう)!?



 

「……ダメ、お願いします、座って、ください」  


 

 遂には彼女の右手まで伸びてきて、(すが)りついて懇願するような体勢に。

 …………どういうことなん?



 とりあえず腰を下ろす。

 

 すると右手に持っていたスマホが奪われる。


 あっ!

 ど、泥棒!!


 

 ……なんてことはなく。



 九条はスマホの機能を使い、俺のやった様に言葉を打ち始めた。

 ……自分の使えよ、とは流石に言わない。



 指先を震わせながら、時に打ち間違えながらも。

 彼女はかなりの長文を俺のスマホに打ち込んでいく。



 そして勢いで取ってしまったのに気付いたのか、恥ずかしそうに俺へと返したのだった。





“嫌だなんて、とんでもない! とても、とても嬉しかったです!!”



 あ、そうなんだ……。

 良かった、俺のアクションがキモくて泣いた説は違うらしい。


 ……ってかこの子、ちゃっかり絵文字使ってやがる。


 自慢気に鼻息を吹き出すエモーションの絵文字が付されていた。

 ……嬉しかったとこれ、どう関係すんの?

 



“今まで色々と大変で、報われなくて、難しいことばかりで……挫けそうになることも一杯ありました”



 全体で見ると、それほど多くはない文字。

 その中の一文に、九条が今まで歩んできた苦労が詰め込まれている気がした。




“でも! 花織さんに見つけてもらって。今までが報われたと思って、とっても嬉しくて……”


 

 へぇぇ……。

 流石はかおりん。


 色んな人に大きな影響を与えてるんだな~。




“下手くそな変装だったけども、貴方が一目で私だって気づいてくれて、ファンだって言ってくれてこと。花織さんに手を差し伸べてもらった時みたいに嬉しかったんです!”



 九条がこちらをチラッと見て、そしてはにかみながら微笑んだ。



“上手く言えませんが……今までの頑張りが、努力が、全てが。形となって目の前に現れてくれたみたいで。――本当にありがとうございます。これからも、応援、よろしくお願いしますね? ファン1号さん!”



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「ふぅぅ終わった~……楽しかったねご主人!」


 

 ルオが隣で伸びをしながらそう告げる。

 いや、こっちは途中から全然楽しくなかったが……。



 反対の方を向くと、もうそこに九条の姿はない。

 先程イベントが終わると同時に立ち上がり、舞台袖の方へと向かっていった。


 逆井達に挨拶に行ったのだろう。



「まあ、ルオが楽しかったのなら来てよかった。……ラティアは? どうだった?」



 帰り支度を進めていたラティアに話を向けてみる。

 振り返ったラティアは一瞬キョトンとするが、直ぐにそれは満面の笑みに変わった。



「それはもう……大変に満足いく時間でした!」


「…………」



 それは……イベントのことを言ってるんだよね?

 九条の対応の時、ずっとラティアから視線は感じていたが……。 



「ご主人様? どうかなさいましたか?」


「……いや、何でもない」 

  


 ここで深入りしても仕方ない。

 何か罠があっても嫌だからな。



「むむ、鋭い……」



 やっぱな。

 ちょっぴり不満そうな顔してるよ。




 





「――ん? あっ、メールだ」



 リヴィルとレイネが夕食を作り待ってくれているはずなので、急ぎ気味で帰っていた時だった。



 信号待ちで止まっていると、スマホが震える。


 チラッと確認。

 連続して3件来ていた。



「リア様でしょうか? それかミオ様辺りか……」



 ラティアが横から、自分の推測を述べる。



「……ハズレ、ではないな」


「?」

 


 持って回った言い方をしたためか、ラティアが首を傾げる。



「えーっと……他にも誰かから来てたってこと?」



 俺のスマホを見ようと前で背伸びするルオに頷き返す。 

 既に信号は青だが、はぁぁ……。



 俺は二人に見えるように持ち手を反転させた。



「逆井、飯野さん、それに空木からだ……」

 


『新海っ! どういうことだし! 新海の隣にいたの、ひじりんだったんでしょ何したの!? アイドルとして一人前になる前に、乙女として一人前になってるっぽいんだけど!?』


『あのね、陽翔君っ! 私も結構ドジっ子要素有るよ! 何なら胸もかなり大きいし! えとえと、そ、そんなに10代の子がいいのかな!?』



 逆井も飯野さんも、イベントの内容などそっちのけで九条のことばかり書き連ねていた。


 いや、俺九条に名乗ったりまではしてないのに何で……。 

 え、二人とも俺達の場所、分かってたってこと!?

 


『……お兄さん、始まりからちゃんといてくれたのは嬉しいけどさ。やっぱり無理してたんじゃない? 途中も連れの可愛い女の子2人としゃべってたし……それに、確かに、九条ちゃんも可愛いしね』



 空木の文章を見て、ルオとラティアは感心するように頷いている。



「へぇぇ……ミオお姉さん、地味に最初からご主人を見つけてたんだね」


「更にはイベント中も欠かさず私達、特にご主人様の動向には気を配っていたと……いじらしいお方ですね。フフッ」



 やめてあげてぇぇぇぇ!!

 特にラティア!


 空木はあれでかなり繊細なんだよ!



「……あ、まだ最後に何か書いてありますね」



 ラティアの言う通り、スクロールすると空木のメールにはまだ続きがあった。


 

『……ウチ的には、九条ちゃん、大物になると思う。今の内に唾を付けとくのもアリかと』



 空木ぃぃぃぃぃぃぃ!?




「フフッ……御慧眼(ごけいがん)ですね。ご主人様は種を飛ばす――蒔くのはお上手ですから。ミオ様とは上手くやって行けそうです」


 

 慌てて言い換えても遅いからね!?


 何が“種を飛ばすのはお上手”だ!

 勝手にラティア語に変換するな!


 ってか唾を付ける意図すらなかったわ!


 ええい、空木め、今度芋ではなく大量の小麦粉でも送り付けてやろうか!



  

□◆□◆Another View ◆□◆□ 



 同じ日の数時間後。

 志木(しき)は一人、久しぶりに自分の部屋で過ごしていた。


 ここ最近忙しかっただけに、珍しく肩の荷を下ろして寛いでいる。



 そんな時だ、彼女にメールが届く。

 志木が目をかけている少女、九条聖からだった。



「そう言えば……そろそろ彼と(ひじり)を引き合わせてみようかしら」



 送り主を見て、本文を開ける前にそう思案する。

 彼とは勿論、青年のこと。


 あの青年と、将来必ず大成するだろうと確信している研究生の少女。

 

 出来るだけ早く顔合わせを実現したいと、志木は前々から思っていたのだ。



『花織さん、こんばんは! 梨愛さん達のイベント、行ってきました!』  

「フフッ……」



 志木はメールの文頭を見て、目を細める。

 逆井や飯野は既に、ダンジョン攻略の経験がある二人だ。


 そして空木は捻くれていても、何だかんだ頭が回るし基本スペックも高い。


 志木は、それ以外にも頼りにする3人が出演するイベントを見れば勉強になるだろうと、九条に勧めていたのだ。


 

 だが次の文面が目に入り、一瞬表情が曇る。



『いつものドジで、ちょっと迷っちゃって……』 


「大丈夫かしら……」

 

 

 志木は九条のことを、とても高く評価していた。

 アイドル面での潜在能力はおそらく自分と同等かそれ以上だと。


 だが、反面。


 そのスペックに他の全ての可能性を吸い取られてしまったのかというくらい、九条は運が悪かった。


 不幸の星の下に生まれたのかと思いたくなるくらいである。


 

 だから、そんな輝く原石にもかかわらず、長い間日の目を見ることが無く(くすぶ)っていたのだ。


 それを、志木が見つけただけに、志木自身も九条の境遇をとても心配していた。



 ――早く、彼と引き合わせることを、考えた方がいいわね。



 箱の中の御嬢様でしかなかった自分や律氷すら変えてしまった、あの彼ならば。

 きっと彼女に良い影響を与えてくれるはず。


 

 志木は改めてその思いを強くし、メールの先を読み進めた。



『――でも! 花織さんに声をかけてもらった時ぐらい、とっても嬉しいことがありました! 実際に私のファンだって言ってくれた人がいたんです!』


「……あれ?」



 最初こそ微笑ましく思いながら読んでいた。  

 ……が、次第に首を傾げていく。



『とっても優しそうな、多分私と同年代くらいの男の人で……。“ファン1号さん”です! 私……ようやくスタートラインに立てたんだって、実感が沸きました! これからもっと頑張ろうって!』

  

「そんなはず……無い、わよね?」


 

 その“ファン1号さん”とやらの情報はそれほど多くはない。

 だが志木は1人の男性――青年を思い浮かべずにはいられなかった。


 でも流石にそんなことは無いと首を振り、自分のバカな想像を打ち消す。



 

 それから幾らかメールでのやりとりは続いたが、“ファン1号さん”の正体は分からず。


 

 若干もやっとしたまま、志木は久し振りの実家を過ごすことになるのだった。



□◆□◆Another View End◆□◆□

ちょっとボーっとする時間が増えてます。

気を付けないと……。


明日の午後にまた時間を作りますので、感想の返しはもう少しお待ちを!



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― 新着の感想 ―
[一言] 墜ちる、あぁ墜ちる。 ラティア様、滾ってらっしゃいます。。。
[良い点]  チョロインの呼吸? [一言] > 朝の結構早い時間に起きたはずなのに、ボーっとしていたらいつの間にかこんな時間に。  近くに時計があったりするとまだ○時か、と安心して逆に危険な奴。 >…
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