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197.そっか、ルオが気づいた、ではダメなのか……。

お待たせしました。


1日お休みを頂いて大分マシになりました。

頭痛も取れて、気怠さもほぼなく。


ただちょっとボーっとはしますが、それはマイナスな感じじゃないので、多分大丈夫です!


ではどうぞ。



『――つまり、難しい部分は探索士にお任せして。他の比較的に簡単な部分は名称通り補助者にやってもらう。これが制度設計の基本的な考えですね』



 解説役として参加した、元防衛大臣政務官の参議院議員が説明する。

 


『えぇぇ……それだと探索士のウチらがサボり辛いな……』



 空木(うつぎ)はそれに対して単純ともとれる感想を呟く。

 会場で笑いが起き、議員もそれに苦笑い。



 ただそれは、空木の発言の真意を理解してのもので――



『役割り分担だと思っていただければ。探索士の皆さんにはより専門度の高い技術・能力を磨いていただく。補助者はサポート。上手くいけばサボるよりもずっと楽が出来るはずですよ?』



 それでまた会場は温かな笑いに包まれた。

 空木も悪戯を指摘された子供のように頭を掻いているが……。



「あのお姉さん、ワザとだよね?」


「まあ……そうだろうな」



 ルオの言葉に、俺も何とはなしに逆井・飯野さんを見ながら答える。

 


「あの3人で仕事をするんだと……頭脳的な役割をするのは空木なんだろう」


 

 今も議員の男性が、専門的な話をかみ砕いて話している。

 逆井も飯野さんも、初歩的な質問をしては相手を困らせている……ように見えて、ちゃんと本質的な話を引き出していた。



「今日の趣旨は、制度の概要をより広く周知することでしょうからね……」

 


 二つ左に座るラティアからも、そんな理解を示す補足が入る。



「要するに、今日は頭の良い子は要らないって判断なんだろう。おバカなアイドル3人が、専門家への質問を通して基本事項を知らせる会でいいんだ」


 

 多分、空木はそう考えてるんだと思う。

 その証拠に話が実務の方に飛ぶと、空木は途端に別の顔になる。



梨愛(りあ)ちゃんも美洋(みひろ)さんもダンジョンを実際に攻略してるよね? どうなの、実際に攻略するって? 詳しく教えて!』


『え? うーん……まあ最初は大変だったけど、慣れてくると覚悟も決まるって言うか……ね、美洋さん!』


 

 実際のダンジョン攻略の話なら、逆井と飯野さんの方が詳しいだろうと見て取り、空木は上手く聞き役に徹していた。



『う、うん! えとえと……私は特に考え無くがむしゃらにやっちゃってます……えと、すいません、偉い人達にはいつもご迷惑ばかりかけているかと』


『はは! いやいや。私のような政治家も、そして官僚も。実際に頑張ってくれる皆さんがいて、初めて意味があります。本当に頭が下がる思いですよ、いつも』



   

 その後も、話が制度の詳細に戻れば、空木はおバカを装い議員へと質問し。

 逆に議員から、実際のダンジョン攻略実務の質問をされると、逆井と飯野さん二人から上手く話を引き出していく。



『えぇぇー! 梨愛ちゃん、ダンジョン内でも着替えちゃうんだ! でもまだモンスターがいるかもしれないんでしょ?』


『う、うぅぅ……いや、だから汗で凄い気持ち悪いんだって。それに、周りはかおりんとかハヤちゃんとか、女子しかいないわけだし……』



 逆井も飯野さんもそれにテキパキと答えて、時にはミスしたエピソードを語って笑いをもたらしていた。


 聴衆側としても、変に堅苦しくなく面白おかしい話を交えて説明されるので、スーッと頭に入ってくる。



 そしてそれを、裏で操っているのはあの空木で……。 



 小娘め……意外とやりおるわい。 

 何だかんだ言っても仕事だと、張り切ってちゃんとやるんだろうな……。


 一応始まる直前に来たことは伝えていたが、後で改めて感想でも送ってやろう。

 



 ……ん? 

 あっ、目があった?


 


『…………ぁ! ――っっっっ!!』



 

 で、逸らされた!


 

 

『ん? ツギミーどしたん? 何かあった?』


『な、何でもない何でも! ちょっと何か目に入ったかな、って』



 酷い……。

 鬼2人との命のやり取りで、最近ちゃんとメールできてなかったから、その罪滅ぼしで折角来たのに……。



 ぐすん、“何か”って言われた……。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 イベントも順調に進み、出演者内でのフリートークに移った時だった。

 人が一人、こちらの席へと近づいてくる。




「――あの、すいません、お隣、空いてますか?」



 どこかで聞いたことのあるような女性の声だ。 


 彼女は制服姿ではあるものの。

 ルオみたく帽子をかぶり、更にはまるで変装のためと言わんばかりに眼鏡をかけている。

  

 そして俺の右側の空席を指差し、そんなことを尋ねてきたのだった。

 ちなみに二つ右隣は俺とそう変わらない男子高校生が座っている。


 ……なぜそっちじゃなく俺に聞いたし。



「えっと、さ、さあ? そちらの方が使ってないなら……」 


「そうですか! それじゃあ失礼します……」


 

 女性――少女はそのまま俺の右隣に腰かけてしまう。

 おい、あんたの右隣の男子に声かけてやれよ!


 もしかしたら連れがいるかもだろ!?

 


「…………」



 ただ、その男子は何も言及せず俯いてしまう。

 

 あ、いや、スマン……。

 そ、そうだよな、イベント始まってもう結構経ってるし。


 今更連れなんていない、よね……うん、ゴメン。


 

「あぁぁ~もう道に迷ってた間に大分進んじゃってる。うぅぅ……」



 隣に座った少女は既に自分の世界に入って、ブツブツと独り言を呟いていた。

 …………。




「……ねぇねぇ、ご主人」


「ん?」



 どこで聞いた声だったかなと思案していると、ルオに小声で呼ばれる。

 ツンツンと俺の袖を摘まんで俺を振り向かせ、素早く自分用のスマホを操作し出した。



 文字を打ち終わったのか、それをススッと俺にだけ見えるようによこす。




“ご主人、ひじりんお姉さんだ!”





「……ひじ?」


 

 ――ビクッ



 …………ん?



 右隣が一瞬反応した、ような……。

 まあいいや。



「…………」



 声に聞き覚えがあると頭を捻っていると、今度は“ひじりん”という名前が直ぐには思い出せずにいた。


 ルオは今すぐにでも自分の意図を全部伝えたいと言うように、うずうずしている。


 ……が、俺は未だピンと来ず。


  

“『ひじりん』って……なんだ? かおりんの進化系か何かか?”   




 受け取ったスマホに素早く文字を打ち、ルオに返す。

 ルオは画面を見て……。



「ぇっ!?」



 抑えながらも驚いた声を出し、俺を見た。

 ……スマン。



“ご主人も動画、見たでしょ!? ダンジョン攻略の! ボクが椎名お姉さんになってて、そこで一緒にいた(ひじり)お姉さん!!”


 

 文面からさっさと気付けという切実な想いが伝わってくる。

 そう言われてようやくポンと手を打った。




 ――ああ、なるほど!




 志木が推薦した研究生の!


 確か……九条(くじょう)(ひじり)って言ったっけ。



 でもそうか。

 ルオは一応、実際に顔も会わせて、声も生で聞いてるんだよな……。

       


“スマンスマン、ようやく思い出した。でも仕方ないだろ? あの動画、俺が一番印象に残ってるの『きゃぴ☆』なんだから……” 



 文章を打って、ルオにスマホを返す。



『――で、シーク・ラヴの研究生さんはどうなのかな? 今、具体的にどういう練習とか勉強しているっていう実際の部分は』



 ――ビクッ



 …………。

 またお隣さんの肩が震えた。

 

 

 議員の人が丁度、彼女自身に関係ある研究生の話を質問したからか。    



『各自バラバラだって聞いてますよ? 他の会場とかで実際にイベント見て勉強したり、番組撮影を見学したりしてるのかな……と』


『まあ“ひじりん”と“シャルロットちゃん”は“あの動画”で結構顔が売れた方だから、もしかしたら変装とかしてて、私達もどこにいるか分からないかもだけどね~』



 空木や逆井が、その本人がこの会場にはいないと頭から決めてかかっているように話す。


 だが……。

   


「…………」 



 ――本人の方、体ガクブルっすやん!

 いや、別にバレたところで君、悪いことしてないんでしょ!?


 恰好的に学校終わりなのにお忍びで駆けつけて、先輩たちの仕事場に来て勉強しようってことでしょう、多分!


 

 でも、その動機は当の本人には多分関係ないのかもしれない……。

 



 隠れて来て、で。

 見つかってしまうかもしれないって状況に、ドキドキしてるってことだろう。

 

 だから誰かが、そもそも気づかれたところで心配ない、問題ないんだよと教えてやらないと。

 この子ずっとビクビクしっ放しだぞ……。


 まあ、そうだよな。


 まだ有名になるってことがどういうことかの実感なんてないだろう。

 アイドルの世界の右も左も分からない、だからこそ今こうして勉強しに来てるんだもんな……。

 


 

「ルオ……」


「ん?」



 ルオがどうかしたのかと振り返る。

 が、呼んでみて、でもルオには頼れないと気づく。



 そうだ……ルオがひじりん――九条と会っているのは“椎名さんとして”だ。


“ルオ”と“九条”は初対面。


 ルオ自身が知っていても、ルオから話しかけるというのは、可笑しいことになる。


 

 …………。



 ――仕方ないな……。


 俺はルオに何でもないと首を振る。

 そうしてその後、自分のスマホを取り出した。


 手早く文字を打っていく。


 そして右隣の少女に、それを見せた。


 誰かにバレないかとビクビクしている彼女が、眼鏡の奥の目を大きく見開く。



“ひじりんさん――九条(くじょう)(ひじり)さん、ですよね?” 



 少女がこちらを向く。

 目が合った。



 九条の口が、微かに動く。

 柔らかそうな唇がゆっくり“どう、して……”と。 

 


 俺は指を動かし、メモ帳の下へとスクロール。

 既に打っていた文章を彼女へと見せたのだった。



“まだちゃんとしたデビュー前でしょうがファンです! 一目で気づきました! シーク・ラヴの本生ひっくるめて大ファンです! 頑張ってください、応援してます!”



 俺は彼女が読み終わった頃合いを見て、スマホを戻す。

 そうして俺は何事もなかったかのように前を向いたのだった。



 

あれ?

ボーっとしちゃったからか、新海さんがまた何かの火種蒔いてます?


……ま、大丈夫ですよね!


まだデビュー前の美少女アイドルを、変装有りでも一発で見破ってしまっても。

その子が不安で一杯になってビクついてるのをフォローしても。

更にそれをかさにかけることなく、一ファンとしての距離を保つなんて紳士さを見せても。


もっと言うと、一連の過程を、全部左端で淫魔の少女が見ていて理解していても。


ぜーんぜん、何も問題ないですよね!


ふぅ、病み上がりっぽいし、ちゃんと問題なく書けるかどうか心配でしたが、うん、大丈夫そう!

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― 新着の感想 ―
[一言] ニイミさん無節操力上昇だとっ!? もはや、織部様に縛ってもらわないといけませんね彼は 空木くん完全に堕ちちゃったのね 全ては淫魔の人の掌 淫魔の微笑みのゲシュタルト崩壊は近い!
[一言] 新海さん、また火種にガソリンぶちまけてる。 多分学校でも似たような行動してて文化祭のときの準備に出てきた女の子みたいにフラグ乱立しまくってるやつやん。 責任を取って勇者(変態)の手綱を握りし…
[一言] > 「あの3人で仕事をするんだと……頭脳的な役割をするのは空木なんだろう」  空木だけど頭空っぽではないです。 > 『な、何でもない何でも! ちょっと何か目に入ったかな、って』  姿が目に…
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