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19.またですか、織部さん!?

日を跨いでしまって申し訳ありません。


感想等は読んでいるんですが、返信などはまた今日の夜にまとめてすると思います。


『おはようございます、新海君!!』


 画面越しの織部は笑顔満面で。

 疲れなど一切残っていないとばかりに、そう挨拶する。


「オッス……って言っても、もう昼だけどな」


 俺はクーラーの効いた自室で、更に団扇(うちわ)を仰いでいた。

 手を動かして、少しでも眠気を誤魔化したいからだ。


 

 昨日、あの後。

 ラティアが作ってくれた野菜たっぷりの冷麺を楽しみ。

 ゆっくりと更新されたリストを眺めていた。

 

 織部との連絡は、互いに疲れていることもあって、明日――つまり今日することに。


 そのことで時間が空き。

 リストに目を通していると、次第に興奮して。


 そして今、少々寝不足になってしまっているのだ。


『はい!! もうお昼です!! フフッ』 

 

 何が楽しいのか、織部は興奮気味で笑っている。

 今にもスキップしそうなくらいで、ウキウキしているのが俺にも伝わって来た。



「……ああー、何だ、何か良いことでもあったか?」


 明らかにその原因を聞いて欲しそうだし。

 ってかそれを聞かないと話進まなそうだし。

 

 俺は棒読みにならないよう注意してそう尋ねる。


 ただ、こういう織部は珍しい。

 いつもはDPを消費することを気にして、会話も短く済むようにしているからだ。

 よっぽど嬉しいことでもあったのか。


 DPも今は余裕がある。

 こうして織部のメンタル面に気を配れる時に、やっておいた方がいいか。



『そうなんです!! 私、2日で着くって言ってたじゃないですか!!』


 尋ねて貰えたことに、大袈裟なくらいに反応する。

 

「ああ……だから驚いたんだ、もう着いたって連絡来て」


『私もそう思ってたんです。依頼のダンジョン攻略が難しそうで、それくらいかかると踏んでたんですが――』


「……それが、意外に早く片付いたってことか?」


『はい!! 所謂ボス戦、ですね。ボスの鎧騎士がやたらと強いんで、弱体化のためにダンジョンに潜ったんですが――』



 織部が事の顛末(てんまつ)を説明する。


 要するに、序盤のボスだけれども、なぜかクソ強いと。

 でも流石に何か攻略方があるだろうと探すと。

 

 4つのダンジョンに、その鎧騎士を動かしているエネルギーの元がそれぞれ隠してあって。


 それをぶっ潰せば序盤のボスに相応しい戦闘能力になる、と。

 ゲームとかでもまあ見聞きする話だな。




「――それで、ボス戦自体、というよりはその4つのダンジョン捜索・攻略に時間がかかると踏んでいた、と」


『そういうことですね。でも、私が見つけたのは3つでした』


「ん? つまり、他の冒険者か誰かが代わりにそれを潰してくれた、と」


 織部は俺の理解が正しいのだというように、頷いてくれる。


『おそらくそうでしょうね。私以外にも依頼された冒険者が何人もいましたから』


「ふ~ん……」


 

 織部の方の世界についてじっくりと聞く機会って、そういえばあんまりなかったな。

 異世界の生活を直に聞けて、新鮮な気分だった。





『――それでですね。依頼達成が予定よりも早かったんで、あと、私が3つダンジョン潰したんで、報酬額も物凄い額もらったんです! 一生遊んで暮らせる額なんですよ!!』

  

 織部は体全体で、その興奮、嬉しさを表現している。

 余程貰った金額がデカかったのだろう。



 一発の依頼成功で大金持ちって……。

 まあそこは異世界クオリティーなんだろうな。


「良かったな……何か買うのか?」


『はい!! 今までも軽く街を見回ってましたし、この後もじっくり歩いてみるつもりです!!』



 ――ああ、そうか。

 

 

 今ようやく理解した。

 彼女がこれだけ嬉しそうに、楽しそうに話す訳を。




 異世界を救うため頑張っているが。


 誰かのために、他の何かのために頑張れる強い少女だったとしても。

 織部もまた、一人の普通の女の子なのだ。


 

 街を散策して、ウィンドウショッピングに興じて――



 ――そんな何気ない日常を過ごしていても何らおかしくない、そんな年頃の少女なのだ。



「……そうか。たまの休みだ、楽しんでくればいい」


 

 俺が混じり気なしに、織部を労う気持ちでそう告げる。

 それに、一瞬織部はポカンとする。

 

 だが言われた言葉の意味を理解したのか。

 その理解に伴って、じわじわとその表情に笑顔が広がった。


『――はい!!』





□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆




『なるほど……その“志木”さんという方とは懇意にしておいた方がよいでしょうね』


 その後、俺の報告する番となり。

 必要最小限にはしょった部分だけを伝えていた。



 あれだけ屈託ない満面の笑みを浮かべた織部に、変な報告をして水を差すのも悪いからな。



「ああ。あの後、さっき言った(すめらぎ)さんっていう少女の方を介して連絡も来たよ」



 ――もっとも、やりとり自体は全て使用人さんとだったがな!

 

 女性の声で、“シイナ”と名乗る人が。

 志木と皇さんの伝えたいことを全部、電話越しで代弁していた。


 そして俺が伝えたことはその“シイナ”さんが、志木と皇さんに伝えるという。


 ……まあ面倒くさいが、お嬢様学校だ、そういう決まりは厳しいらしいからな。


 だが最後“私は言葉にしていただいたことをそのまま反復する形でしか、お嬢様にお伝え出来ません”と前置きされた後に。

“そちらにはあまり公にしたくないこともおありかと――合言葉を決めましょう”と言われた。



 ――そしてそれが「愛してる」らしい。



 ……流石に何でやねんと思ったが、それ以外受け付けないと言われたので引き下がった。

  


『――そうですか……後、さっき言ってた“灰グラス”、でしたっけ?』


「ああ。えっと……これだこれ」

   

 

 あの物凄く安っぽい麻袋――マジックバッグから、灰色のサングラスを取り出して見せる。


『ふむ……ちょっと待ってくださいね』


 そう言って、一旦画面から織部がフェードアウトする。

 しかし、3秒もしないうちに戻ってきた。

 

 その織部は、白い長手袋を二つ、手に持っている。


『これ、“老魔術師の白手袋”です。私はこれを選びました』


「なっ!?」


 織部は何でもないことのように言うが。

 それって、俺が選ばなかった2つのうちの1つだろう!?


「お前、それを持ってるってことは――」


『はい。私もあの出会った際のダンジョン攻略で、これを貰いました』


「…………」


 俺は一瞬言葉が出なかった。

 そういうことをサラッという、もう……。

 

 ただ、怒ることでもないので、一つ溜息を吐くだけにとどめた。



「ちなみに理由を聞いても?」


 俺がそう尋ねると、逆に。

 

 あれほど滑らかだった織部の口が、一瞬にして閉じる。

 まるで貝のように、口を開きたくない、と。

 ……あれ?


「織部?」




『――またですか!? 新海君、分かってて言ってるでしょう!!』




 噴火したように真っ赤になって、織部が突っかかってくる。

 しかし、俺には全く思い当たる節が無かった。


「いや、3つあって、なんでそれを選んだのかって純粋な疑問を――」



『嘘です!! その目が雄弁に語っています!! “ああ、織部、痴女り魔みたいな衣装に変身した後、ほぼ素っ裸だもんな。ちょっとでも隠したかったんだろう”って分かってて、私に言わせようとしている目です!!』


「いや、全く分かってなかったのに……」


 ってか“痴女り魔”ってなんだ。

“痴女”と“通り魔”を掛けているのか。


 変な造語を作るくらいにまた暴走している。 



『信じられません!! “織部、特に腕の部分は完全に露出してるからな……フフッ、でもむしろその長手袋つけたらかえっていやらしくなるだろうに――やっぱり織部は痴女の才能があるんだな”って思ってます!!』


「それ……俺の真似?」


 何かニヒルに笑って、声も意識的に低くしている。

 おそらく俺の真似をしているらしい。



 全くそんなこと思ってないのに。

 織部、むしろそれを言ってしまうことで自爆してるってことを学習してくれないか。

 

「織部……また自滅、してるぞ?」


 俺が至って冷静に、そう告げると。



『――…………』



 2,3秒、固まる。

 そして――


『――違うんです!! 私、別にそんな妄想を常日頃しているわけではないんです!!』


「いやもう分かったから!! これ以上しゃべるな!! 傷口を自分でほじくり返してるぞ!?」


 混乱に拍車がかかったかと思うと。

 今度はテンションが急降下して。


『最悪です……もう異世界で骨を埋めるしかありません。それか新海君の記憶を改ざんするスキルを旅の中で見つけ出すしか――』


 やばい。

 また虚ろな目をしてブツブツ呟き出した。

 

 ってか自滅なのに、なんで俺は自分の記憶の心配をしなければならないのか。


『そうだ……私だけが恥ずかしい思いをするからいけないんです。新海君にも、私と一緒に恥ずかしい恰好をしてもらって、そうすればお互い――』

   

 ……アカン。

 どんどん織部の目の闇が深くなっていく。



「――織部、冷静になったらメッセージ送ってくれ」



『それか、いつも妄想してるみたいな、お互いに恥ずかしい部分を見せ合うということでも。どうせ私は変身時、半裸も同然――』



 ――ブツッ


 

 俺は通信を一時切断する。



「……アイツ、意外と闇が深いな」



 

□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 あの後。

 10分くらいしてから、織部がメッセージを送って来た。 

 

 取り乱したことを詫びる文面と。

 必要な情報のやり取り自体は済んでいるので、これで今日の分は終わりにしようということ。


 そして、以下の文が添えられていた。


『“老魔術師の白手袋”は触れた魔法を魔力へと還元・吸収するものです。ですが、ずっとは使えません』


 ああ、そうか。

 俺の灰グラスの問題点について、アドバイスは無いかと尋ねた返答かな。


『ダンジョンにてこれを装着し続けていると、使用に必要なエネルギーがチャージされていきます。充電のようなイメージですね』


「へ~……」


 ということは、灰グラスも。

 同様に、ダンジョン内で使用時間を充電できる、と考えられるのかな。


 あれがあると、今後の攻略における戦術・戦略の幅も広がる。

 織部に相談してみてよかったな。






「――あの、ご主人様」



 扉の向こうから、声がかかった。

 この家に今いるのは、俺以外には一人しかいない。



「おっ、ラティアか……」


 後で頃合いを見て呼ぼうと思っていたので、丁度いい。

 


「大丈夫。入ってくれ」


「はい……失礼します」



 ラティア控え目にドアノブを回す。

 そしてゆっくりと扉を開け、部屋に入って来た。



「今日の夕食のご相談に伺ったのですが――」



 そう言いつつも。

 ラティアはチラチラと俺の部屋のあちこちへと視線を向けている。

 

 何とか俺に気づかれまいとしているが、興味があることを隠しきれていなかった。

 ……まあ、男の部屋が珍しいだけ、だと思う。




 俺はDDを仕舞い、ラティアに座るよう促した。


「どこでもいいよ――ああ、でも床に直座りは勘弁してくれ」


「あっ……はい」


 ラティアの行動を先読みして、釘をさしておく。

 だって俺だけ椅子だとなんか居心地悪いし。


「本当にそこ以外ならどこでもいいけど?」


「では……」


 少し迷った挙句。

 ラティアはちょこんと。



 ――俺のベッドに、腰を下ろした。



 

 …………。




 いや、良いんだけどね、俺がそう言ったんだし。

 ただ座布団か、もしくは俺が椅子を代わるかだと思ってたからびっくりしただけで。


 うん、それ以外には何もないから。



「――先に、ラティアに聞いておきたいことがあるんだ」



 落ち着いたところで、俺は話を切り出した。

 



 ラティアに、新たな奴隷を買うことについて、聞いておきたかったのだ。


 新しい、2人目の少女を買うのは、それからでもいいだろう。

 ……エルフの神官少女は別に明日以降でも逃げはしない。




「――ラティアは、新しい奴隷を買うことについて、どう思ってる?」








 ――しかし、俺は、今この時の判断を、後になって、大きく後悔することになる。 

エルフの神官ちゃんが人気でビックリしてます。

まだ登場してすらいないのに……。


2人目の奴隷をお待ちの皆様。

もうすぐですので、今しばらくお待ちを!



それと、またランキングが一時的にではありますが、3位に!!

評価・ブックマークをしてくださった方々の後押しがあったことも非常に大きいかと思います。

373人の方に、またご評価いただき。

そして4149件のブックマークをしていただいています。


ありがとうございます!


ご愛読いただいている読者の皆さん、これからも、よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] ・その聞き方は駄目だ ・なろうの恋愛ものってこういう主人公多そう(偏見) ・やたら面白いなと思ったら遥か昔に少し読んだボッチがなんやかんやの人かまた読んでみよ
[良い点] 評価10不可避ですねこれは [一言] 題名が奴隷少女ら、って複数形だから新しい奴隷は買うんだろうけど、次話のラティアがどんな反応するのか……捨てられると思って泣いちゃう線が強いかなぁ。あと…
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