1.始まりは突然……そして一時のお別れからです!!
ま、まだプロローグしか書いてないのに。
……60PVとブックマークが2人も!?
あ、ありがとうございます!!
お、お手柔らかにお願いします……。
『奴隷少女:20000DP 詳細:1人。魔法使用可能。スキル所持。※価格理由:容姿は整っていながらも長期間売れ残り。長く満足な栄養摂取していない模様。痩せ細り。戦闘不慣れ。異種族』
「自分の力でこれだけ稼いだら……ど、奴隷少女買ってみるのも、悪くない、よな?」
目の前には一見しただけでは普通のインターネット上の通販サイトと遜色ない画面が。
だが、そこに表示されている品が、通常の売買を行うサイトでないことを示していた。
それは同時に、目が充血して若干ハイになっている俺自身、通常の状態でないことをも意味するが。
『薬草』『石ころ』『鍋の蓋』『割った花瓶の残骸』『ポーションⅠ』
普通の通販であればまず売られていないだろう品物。
仮に売られていてもネタだろうと一目でわかる。
ただ、その品数は限られていた。
全部で10にも満たない。
そして、その最後には――
『奴隷少女』『奴隷男』
と他の商品と何ら重みづけが異ならない記載のされ方で置かれていた。
「……やっぱり、織部はまだ始めの町をブラブラしてるレベルってことか」
その品数の少なさを見て、俺は改めて先の件を思い出す。
今手元にある、このDD――ダンジョンディスプレイと。
そして『DP:52300』――52300ダンジョンポイント。
これは、昨日、織部が俺との協力関係の対価に、くれたもの。
こういうチートみたいなものは、普通、神とか自称女神さまがくれたりするものだが、俺の場合は同級生だった。
まあ、ある意味女神、と言ってもいいのかもしれない。
そんなことを頭に浮かべていると、昨日あったことが思い出された。
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「マジで俺これから億万長者なるわ~!! ダンジョン初めて攻略しちゃって、テレビも俺を放っとかなくなるわ~!!」
「すごいすごい!! 木田君、本当にダンジョン探索士合格したんだ!!」
「んま、俺くらいのアゲアゲってるちょーぜつ高校生にもなると、国が、世界が放っとかないっていうか!」
「隣の組の立石君も確か受かったって聞いたよ! 凄いよね、うちの高校から3人も1期生が出るなんて!!」
俺はHRが終わっての放課後、早々に席を立ち、帰路に就くことにした。
そのクラス内で行われた雑談を耳に入れるのが流石に鬱陶しくなったのだ。
落ちた奴ここにもいんだから目の前で「ウェ~イ!!」は自重しろよ。
季節は夏。
明日から長期間の休みに入る。
外は茹だるような暑さで、灼熱の太陽様がガンガンに自己主張してくる。
『外は』と言ったが、べつに中も大して変わらない。
クーラーがついていないなら、どこだろうとそこは地獄と化す。
ただ――
俺は、自分の秘密の場所へと足を向けた。
この何とも言えないモヤモヤとした気持ちと、そしてこの暑さを少しでも忘れられる場所へと。
ボッチの自分だからこそ、見つけられた。
そこなら一時でも気を紛らわせられる、そう思って――
そこは地主が死んで、ずっと放置されている裏山だった。
木が作り出す日陰は時折吹く風が心地よい。
誰も通らないから、一人でゆっくり時間を潰せる、秘密基地みたいな気持ちになれる。
そしてたどり着いたそこで、俺は――
「――へ~んしん!! マジカルブレイブ、メタモルフォーゼ!!」
――痴女に出くわした。
「キュアっとクールに悪と戦う、魔法少女、ブレイブカンナ!! 悪い子は、お仕置きだぞ、ズッキュン!!」
――違った。
目の前で超常の力を使って、痴女みたいに肌面積の小さい恰好に変身した、クラスメイトに出くわした。
白を基調としたタイツみたいなもので、服と呼べるかすら怪しい。
マントがある分余計に怪しさというか痴女さが増している。
彼女はもっとお淑やかで、でもリーダーシップがあって誰からも好かれる人気者だったはず。
なるほど、少々頭がおかしくなっている模様。
なんだ、痴女で間違ってなかった。
「……えっと、織部?」
「ふぇ!? ――な、な、に、新海君!? 何でここに!? っていうか、今の見られた!?」
「いや、それはこっちのセリフなんだけど、完全に」
――そう、『何でここに?』は、普通なら絶対に、俺が彼女に言わないといけないセリフなのである。
だって――
「――織部、一月前に失踪したんじゃなかったのか?」
――今目の前にいる、織部柑奈は、1か月前に失踪して、丁度1週間前に、捜索を打ち切られていた少女だった。
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石造りの階段に移動して隣り合って座る。
少し距離を離すことも忘れない。
未だに織部は「これは夢に違いない……変身で一瞬裸になるシーンなんてなかった。それを見られるなんてことも……夢だ」と光のない瞳で呟いていたが。
完全にそれ下着だろうという衣装を着たままの織部は、観念したように、少しずつ口を開き語った。
「――なるほど。つまり、異世界に召喚されていた、と」
要約すると、異世界に呼ばれて、勇者をやれと言われているらしい。
そして今は熟考期間で特別に戻ってこれている、と。
つまり仮契約的な位置づけ。
そしてその変身能力が外でも使えるか試していたと。
ちなみに勇者だが、「魔法少女タイプの勇者だから!! 決して変質者じゃないから!!」と力説された。
変身も特定のセリフを言わないとダメで仕方なくやっている、と。
「うん……それで、あの先にある――」
織部の視線が50mほど先に行った、山肌に。
先ほど説明してもらって、確かめたが。
「――ダンジョンを、攻略した、と」
「……はい」
この裏山には俺が知る限り二つのダンジョンが生成されていた。
そのうちの一つを、今横で縮こまっている織部は、攻略したのだ。
ようやくこの夏休み期間を通じてダンジョン探索士たちの講習が始まる、と今朝ニュースでやっていた裏で、だ。
これが世間に知られれば世界的なニュースになるだろう。
しかし、織部はそんなことには興味がなかった。
「――私、やっぱり異世界に行きます」
彼女がなぜ異世界にこだわるかといえば、今ダンジョンを攻略するために使った勇者の能力……。
それが“仮”のものだから。
召喚した奴に、「この世界を救ってくれたら、その勇者の能力を持って帰っても使えるままにしてやる」と言われているのだ。
「……故郷を人質にされてるからか?」
つまり、彼女は異世界を救わないならその能力は消えるぞ、と脅されているのだ。
だが、織部は首を小さく横に振る。
「そう見えなくもないけれど、ちょっと違います。――少しでも、ここを守る力になりたいんです」
その答えは、俺のように消極的に物事を捉えるのとは正反対だった。
積極性に満ちた彼女は嬉しそうにうなずく。
「――最後に、新海君に会えてよかったです。誰にも会えず、知られず、異世界に戻ると思ってたので、勇気が出ました!!」
「そうか……何か俺にできることが、あればよかったんだけどな」
本当に誰にも知られずとも、この世界のために頑張るんだとやる気に満ちた彼女を。
尊敬できるし、少しでも支えてあげることができれば、でもどうせ俺には何もできない。
そんな気持ちから出た言葉だった。
だが――
「――あの、そう言っていただけるのなら、一つ、お願いしてもいいですか?」
これで終わり、ではないらしい。
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「――これで、時折必要なものを送ればいいと?」
今手渡された、ダンジョン攻略の報酬――転送機能付きのディスプレイを見て確認する。
「はい、それで私と連絡が取れます。それと新海君のできる限りで、ダンジョンを攻略していってください」
織部が言うには、このマジックアイテムでこちらから物資などを彼女に転送できる。
そして、一方で俺が異世界から何かを転送してもらうこともできる。
ただ連絡を取ることも含めて、それ等全てにDP――ダンジョン攻略で得られるダンジョンポイントがいる。
「『DP:52300』が今のポイントか」
これが、世界で初めて攻略したために得られたボーナスポイントも含めて、織部が獲得したもの。
それがDD――ダンジョンディスプレイに表示されている。
「新海君が異世界から取り寄せられるリストは、私の攻略度に依存しますので」
「ああ、要するに、俺がDPを貯めるのも、巡り巡ると俺のためにもなる、ってことだな」
織部が頷いた。
つまり、俺がやることは基本織部が異世界を救う――攻略できる手伝い・サポートだ。
連絡を取って、必要な物資を送る。
ただ、それらには全てDPを使う。
だから俺はダンジョンを攻略する。
一方で、異世界から何か取り寄せるのにもDPを使う。
全て、今回織部がダンジョンを攻略し得た報酬――DDを介して行える。
俺がダンジョンを攻略する際には異世界から何かを取り寄せて、それを利用すると、攻略できる可能性がグッと上がる。
それをすると、よりダンジョン攻略もはかどり、DPも貯まる。
DPが貯まれば織部へと沢山良質な物資を送れる。
それが、織部が異世界を救う・攻略するペースを上げる。
そして、それは俺が取り寄せられるリストを更新することに繋がり、買える物が増えることになる。
それが最初に戻り、ダンジョン攻略もし易くなる――こういう循環を想定している。
「はい――……異世界に戻る前に、新海君に見つかっちゃって、本当に良かったです」
今できる話を全て伝え終えると、丁度それを見計らったように、織部の周囲が神秘的な光に包まれ出した。
足元には何かの魔法陣が浮かび、淡い灰色の光を帯びる。
再召喚されるのだろう。
「なるほど、織部はやはり痴女か。俺に見つかって嬉しいなんて」
一時の別れを惜しむかのように、そうしたからかいの言葉がついて出る。
「も、もう!! ですから、私にあんなエッチな服装を積極的に着る趣味はありません!!」
本人もかなり卑猥な恰好をしている自覚があるらしい。
顔を赤らめて怒って見せる。
「……願っても、渡す相手がいなければ、使い道がないものでした。誰にも知られず、行くつもりでした」
DDのことだろう。
あれも元は願いをできる限り反映する結晶みたいなものだったらしい。
それを、織部が、サポートに適したアイテムに変わって欲しいと願い、その姿になった。
「ああ」
「でも、やっぱりどこかで孤独感みたいなのはあったみたいです」
どれ程強い気持ちを持っていても中々消しきれないその気持ちが、願わせたのだろう。
「だから、渡す相手ができて、しかもそれを見つけてくれたのが、新海君だったこと、本当に嬉しかったですし、感謝してます」
「気にするな――今生の別れでもないんだろう?」
なんだか話が湿っぽくなり過ぎたと感じたので茶化すようにそう言った。
「フフッ、そうですね――では、これから、よろしくお願いします。新海君」
そう言って花が咲いたような笑顔を浮かべ、織部は光の中に消えていった。
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そうして、今日、今に至る。
今あるのは全て織部が譲ってくれたDPだ。
それを即座に奴隷少女購入へと使うのは躊躇われた。
なので――
「――まずは、自分でダンジョン攻略して、DP稼ぐか」
俺は、今朝に来た織部の連絡中に話されたアドバイスを元に。
「『薬草』200個と『ポーションⅠ』を25個っと……」
そうして5000DP分を、購入カートに入れた。
とか言いつつ、最初の奴隷少女の登場は直ぐそこ。
現実は非情なんだよ、主人公君(ゲス顔)、フフッ。
2021/4/23に、書籍版が発売されております!!
是非よろしくお願いいたします!