193.二人の感動の再会……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
「お、お邪魔しま~す」
途中道が分からないと電話が来て、ルオとリヴィルを迎えに送り出す羽目になったが……。
「おう、わざわざすまんな。いきなり呼び出したりして」
逆井は何とか家にたどり着くことが出来た。
ただ……。
「え、えと……う、うん! いや~本日はお日柄も良く、結構なお手前で……」
「……何言ってんだお前」
「あ、あはは! いや、うん、何でもない何でも!!」
さっきから挙動不審で、顔も真っ赤になっていた。
……何なんだ。
「――それはそうとリア様、本日は私服ですよね。とってもお似合いですよ!」
「あっ――う、うん! ありがとう、ラティアちゃん!」
ラティアの言葉があって、俺はああそう言えば、と気づく。
逆井は派手な感じの衣装で決めていた。
アンダーの上から少しカッコいい目のジャケットを羽織っている。
そして下はとても丈の短いスカートだ。
そよ風一つで中が見えてしまわないかと、こっちが冷や冷やするような、そんなレベルの。
だがそれらが全体としてちゃんと統一感を持っている。
雑誌のモデルであってもおかしくない装いで、逆井のオシャレ度の高さを見せつけられた思いだった。
「へぇぇ……凄いな、逆井。レベル高ぇぇわ」
「……あ、あんがと」
……何だよ、何でそんな縮こまってんの?
逆井さん、家に着いてからずっとおかしくありません?
「じゃあこれから俺たち、部屋に行くから」
「へ、部屋っ!? い、いきなり!?」
…………。
逆井の過剰なまでの反応に、階段に向かいかけた足を思わず止める。
「何、何かマズかったか?」
「え、えーっと……その、さ。お風呂……って」
「風呂? え、嘘、今から入るってこと!?」
マジかコイツ、人ん家来たら、真っ先に風呂に入るの!?
いや、泊まりで良いから来てくれないかとは言ったが……。
でも、もう既に織部を待たせてんだけどな……。
「あ、いや、その……あ、あはは! ウソウソ、入りはしないよ? ただちょーっと汗かいたからさ、着替えたいかな、って……」
「ああ、そういう……」
なるほど。
確かに来るまでにも迷ったとかでバタバタしてたし。
さっきも顔が大分赤かったしな……。
「それでは、ご案内します。宜しいですか?」
ラティアに問われ、頷き返す。
「ゴ、ゴメンね! 新海、直ぐ着替えて行くからさ!」
「まあそこまで急がなくてもいいが……ああ、そうだ! 俺の部屋教えとくから、準備が出来たら勝手に入ってきてくれ」
俺は脱衣所へと向かいかけた逆井を呼び止め。
そして2階の部屋の場所を説明した。
「うん、分かった! ヨイショっと――」
逆井は重そうなボストンバッグを抱え直し、ラティアの先導についていった。
「大丈夫ですか? お持ちしましょうか?」
「う、ううん、大丈夫。ちょっと、その……勝負服、的な?」
「ああ……ウフフ」
勝負服……何の?
良く分からん。
1日の泊まり用にしては……妙にパンパンだったが。
まあそれだけ女子は色々と必要な物が多いんだろう。
前に赤星が来た時も多分、あんな感じだったし。
「じゃあリヴィル、そっちも頼んだぞ」
「ん、分かった」
ラティアが一時的にいない今、リヴィルに後のことを任せる。
「ん? ご主人、リヴィルお姉ちゃん、何かあるの?」
だが目敏く俺たちの内緒話を目にし、好奇心を浮かべたルオが尋ねてくる。
くっ、こういうのがマズいんだよ。
リヴィル、上手くあしらってくれ!
「うん。これからマスターとリアは二人っきりで、大事なことに挑むらしいから。邪魔したらダメだよ?」
おいコラ。
「ふ、二人っきりで!? 男女が……二人っきりで……大事なこと」
「いや、レイネ、違うから。俺は基本何もしないって。頑張るのは主に逆井だから」
「ご、ご主人は何もせず……リアお姉さんが一方的に、攻めるの!?」
あっ、違う!
ミスった!
今のは俺の凡ミス!!
「…………」
リヴィルもそのように感じ取ったのだろう。
“仕方ないな……”と言いたげな顔で、ルオの誤解を正してくれた。
スマン……っていやいや!
きっかけ作ったのお前だから!
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部屋に戻った俺は直ぐ様、織部と通信を繋ぐ。
そして既に逆井は家に来ていると教えて、心の準備を促した。
『き、緊張してきました……胸がバクバク言ってます』
「落ち着け。大丈夫、お前の伝えたいことを、伝えたいようにやればいいだけだから」
『だ、大丈夫でしょうか。梨愛、受け入れてくれるでしょうか……胸が凄い早鐘を打ってます』
いや、その“感じる程には胸あるんだぞ”アピールいいから。
お前……本当に緊張してんのかよ?
「いいか、逆井が入ってきちゃったら、もう後は俺が出来ることは限られてる」
逆井と織部の間を繋ぐのが俺の役割だ。
勿論フォローは出来る限りするつもりではいる。
だが、最終的に結果を左右するのは、間違いなく二人自身の気持ちである。
「だから、アイツが来たら、織部の想いをぶつけろ。形は問わん」
『……はい! 来たら、何でもいい、ありったけの気持ちをぶつける、ですね』
大事な合言葉を忘れないために繰り返すように、織部は俺の言葉を反復した。
「ああ」
逆井には、勝手に入ってきていいと伝えてある。
だから、扉が開いたらそれ即ち逆井が来た合図だ。
1分……2分ほど待っただろうか。
とうとうその時が来た。
――ガチャリ
『っっっ!!――へ、へ~んしん! マジカルブレイブ、メタモルフォーゼ!!』
あん!?
いや何やってんのお前!?
「新海っ、ゴメン、今さ柑奈の声、しなかった!?」
ギャァァァ、ちょっと待って、逆井が入って来たぁぁぁぁ!!
「い、いや、それはその……――ってお前までなんて格好してんだ!?」
慌てて部屋に入って来た逆井が身に着けていたのは、何故か俺が贈ったあのビキニアーマー。
床に腰かけて見上げる形になった視界から……凄く刺激的な光景が目に入ってきてしまう。
勝負服ってこれかよ!
それ一応防具だからね!?
そんなの着て、今から何か強大な敵でも倒しに行くの!?
今それが有効なのは、性に興味関心が有りまくりの思春期男子くらいだから!
ちょっと今織部だけで一杯一杯なんだけど、こっちは!
だがそんなことも言ってられないらしい……。
『――――』
織部はこっち側の変化に関係なく変身を続けている。
というか、変身の途中キャンセルは受け付けないんだと、以前に聞いていた。
確かに変身を見せた方が説得力はあるって言ったけどさ、タイミング……。
「…………」
ビキニアーマー姿の逆井は口をあんぐりと開けていた。
その視線の見つめる先は、胡坐をかいて座る俺の前――DDの画面。
つまり変身が終盤に差し掛かった織部だった。
そして織部は、あの白を基調としたタイツみたいな衣装を身に纏う。
肌の露出を覆い隠すようにして風にたなびくマントが、またその痴女度を更に引き上げている。
『――キュアっとクールに悪と戦う、魔法少女、ブレイブカンナ!! 悪い子は、お仕置きだぞ、ズッキュン!!』
「…………」
「…………」
決めポーズをとる織部を、俺と逆井が圧倒的無言で見つめ続けた。
ようやく変身中硬直から解放された織部はそれに気づき……。
……が、様子がおかしい。
織部は織部で、逆井の姿を見て目を見開き、震わせた指を向けてくる。
逆井も逆井で、信じられない物を見たという感じで、小刻みに揺れる人差し指を持ち上げて行った。
二人のその姿はまるで鏡のようにピタリとはまって――
「「――えっ、痴女!?」」
……互いへの評価も全く同じだったらしい。
俺のセリフだわ、それ……。
逆井と織部が感動の再会を果たす場面は、幻となって消えていったのだった。
何なの、これ……。
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「――ってか、え、柑奈!? ちょ、えぇぇぇぇぇ!?」
今更さっき出すべきだった驚愕の叫び声を上げるなよ……。
「えっと、え、本当どういうこと、柑奈が……え、異世界?」
「ああ、今織部は訳あって異世界にいる……逆井。逆井の現時点での認識を念のため聞かせてくれ」
誤解があったらいけないと思って、先に逆井の今の認識を尋ねておく。
「え? だから……何かさっきの変身でも口にしてたし……」
逆井は混乱しながらも、今考えていることを言葉にしようと必死にうんうん呻る。
そして画面でハラハラ成り行きを見守っている織部を指さした。
「柑奈は、多分良い感じの? 正義のヒーロー、的な?」
『おぉぉぉ! ですです! その通りです! そうなんですよ!』
親友が自分の行いを一発で当ててくれたことに感動してか、織部は薄っすらと涙さえ浮かべて喜んでいる。
おお、逆井にしては……ちゃんと見てるんだな。
逆井はそれに気を良くしたのか、今度は俺を指さして得意げに答えた。
「――で、新海は悪の組織の親玉で、多分ラティアちゃんがそのエロい女幹部的な?」
「うん、違う」
俺と織部、友好的に見えない?
何で敵対勢力だと思ったのかコイツは……。
「えっ、違うん!? うぅぅ……てっきり柑奈は新海に囚われの身で、その、アタシが新海とエロいことしないと、えと、柑奈も酷い目にあわされる、みたいな感じだと……」
「お前頭大丈夫か」
コイツもなんか妄想癖でもあんのかよ。
でもよかった、逆井がどう認識していたかを事前に聞いておいて。
『はっ!? り、梨愛……天才ですか、貴方は!?』
こらそこ~。
背景に雷落とさない。
世紀の大発明を目の当たりにしたみたいな驚いた顔もしないでね~。
……折角二人の感動の再会場面をお膳立てしようと頑張ったのに。
どうしてこうなった……。
ぐすん。
想定では画面越しに再会の喜びを分かち合って、逆井と織部の二人が涙するくらいのはずだったんだが……。
俺の方が涙したい気持ちを抑えつつ、逆井に懇切丁寧に事情を説明した。
「はへ~なるほど……柑奈、今まで色々、頑張って来たんだね」
大体は理解してくれたようで、逆井は純粋に感心したという眼差しで織部を見た。
『あ、あはは……ありがとうございます』
織部は恥ずかしそうに照れて頭を掻いていた。
……そうだよ、照れたり恥ずかしがるって、こういうのが正しい使い方なんだよな……。
『でも、梨愛も凄いですよ、新海君から聞いてました、アイドルとか色々と頑張ってるって』
「あ……うん。えへへ」
褒め返され、逆井もくすぐったそうにはにかむ。
その後は特におかしな状況になることもなく。
室内を心地よい沈黙が流れた。
案外、これで良かったのかもしれない。
……この二人の再会に、湿っぽいのは似合わなかったのかもな。
こうして、長い間離れ離れだった二人は、ようやく再会を果たしたのだった……。
「――ところで柑奈。そのコスチューム、ほぼ全裸じゃない? 凄いね!」
『な! ……で、でも! それを言うなら今の梨愛だってほぼ全裸みたいなもんじゃないですか!!』
「は、はぁぁ!? ちゃ、ちゃんと大事なところは隠してあるし! に、新海が喜ぶかな~と思って着ただけで……別にアタシの趣味とかじゃないかんね!」
『それを言うならこっちだってちゃんとした衣装です! ちょっと肌の露出が多いだけで……』
いや、もうお前らどっちもどっちだから。
その後、晩飯にラティアが何故か赤飯を用意していたことを除けば、逆井のお泊りは無事、何事もなく終えたのだった。
違うんです、私も頑張ったんです!
どこかで感動要素を出してあげられないか、必死に考えたんです!
1度書き直しもしたんですが……でも、ダメ、でした。
この復讐は……今後、ルオとレイネに託します!
逆井さん、織部さん、今に見てろよ……!(三下感)




