189.逆井ぃぃぃ! ストップストップゥゥゥ!!
ふぃぃぃ。
今日は早めに更新です。
その分早めに布団に!
ではどうぞ。
「一旦引き上げるか。DPへの交換も済んだし」
今回はGradeとDPとの交換を選択した。
一度に4000ポイント以上も得られたのは、かなり久しぶりだ。
単独であのカエルを倒したということが評価されたからだろう。
「ん、分かった。――じゃあまたな」
レイネは俺とラティアを見て察し、精霊に一時の別れを告げる。
本当なら契約してから事を始めたかったが、逆井の件も重要だ。
後でまた供物を揃えてから、連れてきてやろう。
「よかったね、新海。結構ガッポリ入ったんでしょ、お金みたいな奴」
「まあな。後、ポイントなポイント」
逆井の言葉を受け、確かに体を張った甲斐はあったなと改めて思う。
最近何かと消費も激しかったので、久しぶりに7万を超えて1021DPの手持ちに。
まあでも、また土の精霊との契約準備で減るんだろうな……。
そんな先の未来の出費を考えながら、俺はラティアへと視線を送る。
「…………」
ラティアは頷き、この広間の入り口を見た。
本当ならまた俺のDD――ダンジョンディスプレイを使うことになっている。
それで自宅の最寄りダンジョンに戻り、解散することになっていたんだが……。
「――あれ? 今誰か、あそこに、いませんでした?」
入り口を指さしながらラティアの声が飛ぶ。
逆井の頭にはないはずの展開。
……これが、スタートの合図だった。
「……え、本当? 一体誰が――」
逆井の言葉は途中で切れる。
ラティアが指さした方を見て、言葉を失ったのだ。
そこにいたのは――
「――えっ……“柑奈”?」
織部――の姿をしたルオだった。
逆井はその後ろ姿を見て、目を大きく見開く。
まるで幽霊でも見たかのような、力の抜けた声。
一歩、また一歩と近づいていく。
だが――
「っっ!――」
織部姿のルオは振り返らず、駆けだした。
上の層へと繋がる階段目掛けて、脇目も振らず。
「えっ、何で!? 柑奈っ!!」
「お、おい、逆井!?」
ルオを追いかけるように逆井は走り出す。
それを見て、俺も続く。
勿論、今どういうことになっているのかは把握している。
しかし驚いた声を上げ、状況が良く分からないと言った体を装う。
さあ、追いかけっこの始まりだ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「待って、待ってよ柑奈! アタシだよ、梨愛だよ!?」
逃げ続ける織部――の見た目をしたルオ。
そして逆井はそれを必死で追いかけていた。
一方俺やラティア、レイネはというと。
良く分からないものの、逆井の後に続いて走っている……という役割りを演じていた。
要するに、これは俺達が仕掛けた一件だった。
織部が自分の置かれた状況を、逆井に話しても良さそうかどうか。
それを見極めるために、ルオに協力してもらっているのだ。
リヴィルはルオについて、何か起こった時のサポートを頼んでいる。
「おい、逆井っ! “織部”って、どういうことだ!?」
後ろを駆けながら、逆井から言葉を引き出す。
今どう思っているのか、どういう感情が渦巻いているのか。
それらも判断資料として重要だと思った。
「分かんない! アタシも、後ろ姿を、チラッと、見ただけだし! でも――」
逆井は前だけ向いて、俺に叫ぶ。
前を走る織部らしき人影を、決して見失ってはいけないというように。
「何か、柑奈っぽかった! 上手く言えないけど! だから、確かめなきゃ!」
逆井の親友への熱い想いが伝わってくるようで、何だか嬉しかった。
これなら、本物の織部と引き合わせても――
「ん? ……あれ?」
丁度ゆるやかな曲がり角に差し掛かったところだった。
先行するルオの横顔が、後ろを走る俺達にちょっとだけ見える、そんな場所。
逆井は困惑した声を漏らす。
「柑奈、なのかな? え、違……う?」
「ど、どうした逆井、大丈夫か!?」
いきなり自信を無くす逆井を見て俺も動揺する。
何事かと尋ねると、逆井は俺と並走しながらも説明してくれた。
「さっき、ちょっとだけ顔とか見えたでしょ?」
俺達も同じカーブに差し掛かる。
頷きながら、内心ではドキドキしっぱなしだった。
やっぱり親友だけある。
顔の微妙な違いだけて気づかれたか!?
「ああ……顔が、織部じゃなかったのか?」
だが逆井は首を横に振り、自分の胸の前に両手を水平にして当てる。
そして宙で半円を描くように動かしてこう言った。
「――いや、胸が、デカ過ぎかな……。半年かそこら会わなかった間に、柑奈の胸はあそこまで育たなくない?」
――違ったぁぁぁぁぁ!!
「ああ、ゴメン、新海に柑奈のバストの話しても、分かんないかもだけど……でも、走るたびにバインバイン跳ねる程は……なかったはずなんだ」
ご名答っっっっ!
そしてスマン!
織部の下着類を送らなきゃいけない関係で、バッチリとアイツのバスト関係知っちゃってます!!
「――っっっ!」
うげっ!?
今まで付かず離れず、絶妙な距離感を保ってきたルオが、躓きかけた。
何とか体勢を立て直す。
フゥゥ……。
……がその際、障害物となって鎮座していた岩に軽く接触。
スカートが若干ズレてしまう。
「ッ! ご主人様、またカーブが!!」
ラティアもそれに気づいたのか。
あまり意味もないのに叫ぶ。
むしろ叫ぶことで、逆井の注意が少しでも今のルオから逸れれば、との配慮だろう。
更にこの先は上の階層へと続く階段に繋がっているはず……。
「ああ! ――レイネッ」
「ん! 了解――」
短く、そして囁くような声で。
レイネと阿吽の呼吸で意思疎通を図る。
レイネは直ぐに闇の精霊と位置を交換。
今奴がどこにいるのかというと……リヴィルの側だ。
リヴィルは俺達の先にいるルオの更に前、つまり最前線を走っていた。
それで何かあればリヴィルが対処することになっている。
「……よし、来たな」
さっきまでレイネがいた所に、闇の精霊が姿を現したことを確認する。
上手く入れ替われたようだ。
レイネがこの状況をリヴィルに伝えてくれるはず。
逆井はレイネが一時的にいなくなったことにも気づかないくらい、追跡に熱中していた。
よし、大丈夫なはず――
「っと、上がるぞ……」
ラティアに倣い、意味もなくただの事実を叫ぶ。
階段に差し掛かり、登っていく。
さぁ、どうだ――
「――うぅ……ん? あれ、でも……やっぱり柑奈、かな?」
少しだけ息が上がって来た逆井が、今度も自信なさそうにさっきと反対のことを呟く。
「ど、どういうことだ!?」
今度は織部――を演じるルオを指さし、若干恥ずかしそうに照れながら告げる。
「えっとね、柑奈、ちょっと……その、変わった性癖みたいなの、あってさ」
「…………」
それに答えない俺を不思議がることもなく。
逆井は言っても良い物かと躊躇しながらも、結局は俺に教えてくれた。
「ほらっ、あれ、スカート脱いじゃってるじゃん? ああいう露出癖みたいなの、普通の人ならやらないし……ああ、柑奈っぽいなって」
――ギャァァァァァァ!
リヴィル、結局ルオに脱がせたのかっ!?
それが図らずも織部っぽさと一致してしまってるぅぅぅ!?
逆井の指摘通り、ルオは下着をモロに露出させたまま逃走を続けていた。
どういう状況だよ……。
でも確かに、本物の織部でもやりかねないと心のどこかで思ってしまう。
すまん織部……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「はぁ、はぁ……柑奈っ!!」
細長い道を抜け、少しゆとりある空間に出る。
息を切らしながらも、逆井はそこで賭けに出た。
足を止め、大きく織部の名を叫ぶ。
「…………」
ルオはピタッとそこで足を止める。
振り返りはしないが、俺達との距離はきちんと保たれていた。
この場面がお互いにとって、今回の最終局面だと認識したのだろう。
「ねぇ……振り返ってくれなくていい。答えてくれなくても、うん、大丈夫。だからさ、聞くだけ聞いて」
逆井はその距離を縮めようとはしない。
これまでのこの逃走劇から、何かを感じ取ったかのように。
今はこの距離を保つことこそが、織部に話を聴いてもらう条件だと認識したみたいに。
「……アタシ、柑奈の事情、全然まだ何にも知らないし、良く分かんない。けどさ――」
逆井は叫ぶ。
相手が誰なのか――ルオかそれとも本物の織部かどうかですら、関係ないように思えた。
これは逆井なりの、自分自身への決意・誓いなのだ。
「――柑奈のこと、どんな事情があっても、何を聞かされても受け入れるから! アタシ、ずっと柑奈のこと、大事な大事な友達だって、思ってるから!!」
もう、それ以上の言葉は要らない。
ハッキリと分かった。
逆井には教えても大丈夫だ。
ちゃんと織部の話を聴いて、受け入れてくれる。
さぁ、もうこの件は終わりに――
「――昔教えてくれたじゃん! “エッチなDVDやゲームに……興味があります。そういう趣味があるのっておかしいですか?”って!!」
逆井ぃぃぃぃ!
ストップストップゥゥゥ!!
「全然おかしくないし! その秘密だってアタシ、ちゃんと受け入れたじゃん!」
いや、ここでそれを告白しないでぇぇぇぇ!!
「それに、アタシもちょっと、家ではさ、偶に鏡の前でビキニアーマー姿になって……露出癖って言うの? 今なら柑奈の趣味、一緒になって楽しめる、気がするんだ!」
これ以上の言葉は要らないって言ってんだろぉぉぉぉ!!
「っ――」
「あっ……」
ルオが再び駆けだした。
逆井は一方、もうその後を追うことは、しなかった。
追い縋るように伸ばされた手が、力なく落ちる。
が、再びゆっくりと目の前まで持っていき、ギュッと握りしめた。
「……良かったのか?」
俺としては全員の傷が広がらなくて何よりだが、一応そう聞いておく。
逆井はしっかりと自分の拳を見つめたまま、力強く頷いた。
「ん。新海、何かさ……柑奈とは、近いうちに会える気が、するんだ。上手く言えないけど……」
「……そか」
終盤、言わなくてもいいことを口走ってはいたが、ともかく。
逆井の示した気持ちを、ちゃんと俺は見届けた。
これなら織部に言っても大丈夫だろう。
次に連絡を取るときに早速報告しようかな。
何とか織部の依頼をこなせてホッとすると同時に、俺はこんなことを思ったのだった……。
――あいつ、大人な映像作品だけでなく、エロゲーにまで興味持ってたのかよ……。
今度顔を合わせる時、顔に出さないでいてやれるかどうか、心配だ……。
織部さん、仕方ないとはいえ、恥ずかしい秘密勝手に知られちゃってます……ドンマイ。
逆井さんも、熱い場面だからか自分でちょっと墓穴掘ってることに気づいてません。
……流石、親友同士、お互い仲が良いことで。




