188.バレない、かな?
ふぅぅ……。
ではどうぞ。
「んっーー! たはぁぁ。やっぱ体動かす方が、アタシは好きだな」
隣を歩く逆井は気持ちよさそうに伸びをする。
その際、服が少しめくれ、綺麗なおへそがチラッと覗いた。
ただでさえ探索士用の制服って際どいんだから、もうちょっと気を付けろと言いたい。
……本当コイツ、無防備だよな。
やっぱビッチなんじゃね?
「ん? 何、新海……あっ、ニシシ。アタシのこと、エロい目で見てた?」
「ばぁーろう。勉強のし過ぎで頭おかしくなってんじゃねえのか? 3年に上がれるからって、はしゃぎ過ぎだ」
「うっわ、ひっど! いいもん、来週クラス替えで同じクラスになっても、新海のとこ挨拶行ってやらないし!」
どんな嫌がらせだよ、それ……。
「ウフフ……お二人は本当に仲が宜しいんですね」
「ちょっ、ラティアちゃん! そんな新海と相性がいいとか、そ、そういうこと言わないでよ、も~!」
……別にラティアは“相性が”とは言ってない気がするんだが。
だがわざわざツッコむと、それはそれでラティアの思うツボだ。
黙っているが吉。
「相性……男女の……隊長さんと、あたし、の……えへ、えへへへ」
おーい、レイネ~。
戻ってこーい。
これからお前の精霊の件で、ダンジョンの最下層にまた行くんだぞ~。
……ダメだ、聞いてない。
「フフッ。やっぱり大勢だと楽しいですね、ご主人様」
……一体何の話をしてるんでしょうね、ラティアさんは。
普通に“同じ時間を大勢の人で共有することは”楽しいと、受け取ってもいいものだろうか……。
「あ、ああ……そうだな」
「まぁ! 良かった、そうですよね、ご主人様も大勢での方が、良いですよね?」
何でそんな引っかかるような言い方をするのか……。
いや、これは俺が単に邪推してるだけだ!
ラティアが絡んでるから、ちょっとえっちぃ方向に考えちゃっただけ。
うん、そうに違いない。
「ウフフ……」
……と、思いたいんだからさ。
その妖艶な笑みを浮かべるのはやめてェェ!!
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
DD――ダンジョンディスプレイにて、またあのカエルのダンジョンに戻って来た。
今回はDPを補充するためという他に、レイネの精霊の件も含んでいる。
レイネは早速、台座がある付近を探し始めると、目当ての存在を見つけだした。
「――おぉぉ! “土の精霊”じゃねえか! 懐かしいぃぃ!」
『……おいら土っス。土の精霊っス。間違っても土の精霊なんて呼ばないで欲しいっス』
地面すれすれのところで、その色と同化するような土の塊が浮遊している。
一見するとジャガイモのようだが、よくよく見るとそこに3つ穴が開いていた。
両目と……口らしい。
どっかの遺跡にありそうな人面岩みたいで、ちょっと気持ち悪いな。
……ってか一瞬何を言ってるのか分からなかったが、精霊なんてこんなもんだと軽く流す。
レイネもツッコミ入れてないしな……。
「ふへへ……コイツ、可愛い顔しやがって。このこの!」
『止めて欲しいっス。自分、カッチカチの土っス。可愛いんだからカッチカチじゃないんス』
だがレイネは最愛のペットでも愛でるように、その岩塊をツンツン突いている。
……美醜の感覚の違いぃぃぃ。
そしてほぼ無内容の土の精霊のセリフ。
一瞬とんちか何かかと思ったが……。
悪口でもなんでもなく、あの精霊の頭の中、本当に脳が無くて土で出来てんじゃねえかな。
「えーっと……あれが、新海が言ってた“精霊”との触れ合い、なんだよね?」
一方、今日の件に付いて来ていた逆井は、目の前のレイネを信じ難そうに見ている。
逆井の目からは勿論、精霊の存在は見えていない。
……つまり逆井からすると、レイネが一人で地面に話しかけているように見えているはずなのだ。
「……信じられないかもしれんが事実だ。俺も一応見えるし、後……梓も見える」
「へぇぇ……そっか」
俺が見えるということや梓の名前を出したことで、少しは信じる気になったのだろう。
逆井は何とかその事実を飲み込んで、レイネへと向ける視線から疑念の感情を薄めた。
「……ま、そういうこともあるんだろうね」
……うーん、まあ実際に見えないんだから、今はそんなくらいで十分か。
一人くらいシーク・ラヴメンバーの中で、レイネの力の一端を知ってくれてもいいだろうと思ってのことだった。
……まあ、今日逆井とここに来たのは別の目的もあるが。
「――ところでさ、逆井。空木のことなんだが……」
「ん? ツギミー? えっ、どしたん、何かあったの?」
レイネが契約に関する情報を精霊から聞き出すまで。
俺は逆井と世間話で時間を潰すことにした。
ラティアは……少し席を外している。
逆井の意識がそっちへ行かないようにする、という意味も含んでいた。
「ああ、いや、何かあった、というわけではないが……アイツ、逆井達とは上手くコミュニケーション取れてるのか?」
「? うん、まあハヤちゃんとか、かおりん程じゃないけど……新海、あれからツギミーとメールとかで連絡してるんだよね?」
俺は頷き、自分のスマホを取り出す。
一瞬やり取りの内容を見せても良いかどうか迷ったが、一先ず該当する部分を開くだけ開いておく。
「ああ。1日の終わり、夜には毎日来るな……で、毎度学校のことについて相談してくんだよ」
これは事実だった。
俺や逆井が学年を一つ上がるだけなのとは違い。
空木は中学3年から高校1年へと大きく環境を変える。
そのことで毎夜“いじめられないかな……”とか“ウチ、引き籠もってもいい?”とか、弱気なことばかり言ってくるのだ。
「えぇ!? 毎日!? ツギミーと、メールのやり取りしてんの!?」
へ?
いや、驚くところ……そこ?
「何か変だったか? っていうか同じグループなんだし、逆井達との方がコミュニケーション取れてるのかな、みたいなことを聞こうと……」
だが逆井は一人俯き、ブツブツと呟く。
「……え、どういうこと。ツギミー、アタシや六花さん相手ですら2日に1回返信したらいい方なのに……新海は、毎日?」
……何か良く分からんが。
「じゃあ、空木の相談相手は……もうしばらく続けた方が、いいのか?」
「う、うん……あ、あのさ! 新海、アタシも、その、色々と相談あるから、夜、メールしていい?」
……いやそれこそだろ。
逆井なんてコミュ力お化けなんだから、メンバーの誰かに相談すればいいんじゃねえの?
「いや、あの、えっと……そ、そう! 同性相手にはさ、中々聞き辛いこととか、あんじゃん? だから!」
ググっと顔を近づけてくる。
……いや、そんなマジにならんでも。
「分かった分かった。一人も二人も変わらん。でも、眠くなったら勝手に寝るからな、俺?」
そう断りをいれると、逆井はそれでも全然OKだと言うようにパァァッと輝くような笑顔になる。
「うん、うんうん! 約束だかんね? 絶対だかんね!?」
「はいはい、約束約束」
適当に返すが、逆井がそれで機嫌を損なうこともなく。
ニヤニヤしながらそれを必死で抑えようと一人で格闘していた。
……空木の件を相談しようと思ったら、俺が相談を受けることになってんじゃねえか。
まあいいけどさ。
「――隊長さ~ん! 今回の条件、分かった!!」
丁度タイミングよく、レイネの方も精霊との話が終わったらしい。
ラティアはどうだろうかと表情には出さず心配していると、少し速足で戻って来た。
逆井はそれに気づいた様子もなく。
ラティアは合流し、俺に耳打ちしてきた。
「……大丈夫です。リヴィルがちゃんとルオについて、上手くやってました」
「……そうか」
どうやらあちらの準備は万端らしい。
ラティアは、今俺達と同行していないリヴィルとルオの様子を見に行っていたのだ。
……つまり、二人も同じくこのダンジョン内にいた。
「…………」
「……いや、えっと、うん、ラティア、分かった」
ちゃんと報告は聞いたのに、ラティアは俺の耳の側から顔を話さない。
急いで来たからか、少し荒い息遣いが間近で聞こえてくる。
……しかも、“んっ”とか“んふぅぅ~”とかさ。
何か妙に色っぽい声まで意図的に混ぜてない?
「えっ? もう宜しいんですか?」
最初から別に欲しいって言ってないから。
……はぁぁ。
とりあえず……。
レイネから話を聞いた後で、ルオたちとの作戦を実行することにしますか。
逆井さんに対して、ルオを主役に一計案じる。
どういうことか、分かりますかね?
まあそこまで大袈裟にはならず、次の1話で終わる、と思います。
……逆井さんの反応、どうなるんでしょうね。
感想の返しは午後に時間を取れるかと。
ですので、もう少しお待ちいただければと思います。




