表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/416

184.ありがとうございました 前編 

すいません……遅くなしました。


何か違うな……と2度程書き直し。

そして長くなっていたので前編後編に分けました。


これを上げた後、直ぐ後編の推敲をして更新しておきます。


ではどうぞ。



「あ~……その、何て言うか……」



 全方位から飛んでくる視線が突き刺さる。

 それを全身でヒシヒシと感じ、言葉が上手く出てこない。


 まだ碌に思考も働かない小学校の頃、クラスの前、教壇に立って発表を求められたような嫌な感覚。

 

 頭でこねくり回したような言葉は、直ぐに喉に張り付いてしまう。


 

 ……こういう時は、もう仕方ない。




「――悪かった! 握手会、約束したけど、行けなかった」




 素直に頭を下げて、浮かんできた言葉を口にした。

 実際に、彼女達に対して申し訳なかった気持ちも大きかったから。


 

 …………。


 ど、どうだ……。


 頭を下げ続けて、反応を待つ。

 10秒か、20秒か、あるいはもっと長い時間か。



 そしてそーっと視線を上げて見ると、先ず逆井の姿が目に入った。


 

「――あの、さ……新海」



 その逆井が、俺から視線を逸らさず口を開く。

 上手く言葉に出来ない思いを、それでも何とか伝えようとしている、そんな表情で……。

 

 

「なっ、何だ?」 



 恐る恐る頭も上げ、次の逆井の言葉を待つ……と。   




「――言ってないこと、まだあるでしょ?」


「…………」

 

 

 虚をつくような逆井の一言に、思わず目を逸らしかける。

 だが、ギリギリのところで踏みとどまった。



「えーっと……謝罪の言葉、やっぱ足りなかったか? そりゃそうだよな、約束破ったわけだし、俺が一方的に悪いから――」


「――そうじゃなくて」

 


 逆井の真後ろ、志木からピシャリと声が飛んでくる。

 それは逆井の後を受ける様に、まるで何かを確信しているような声音だった。



 …………。



「じゃあ、何だ? 言葉じゃなく態度ってことか? ああ、悪いな、時間なくて手土産はまだ何も――」


「――だから、そうじゃなくて。……今ので決まりね。彼、やっぱり私達にはどうしても言わないつもりよ?」


 

 志木が車内全体へと行き渡る様に告げる。

 それを受け、しゃくりあげる声が聞こえた。


 それは最も側、一番近くにいる皇さんのもので……。

 そちらを向くと、彼女の瞳が潤んでいたのだ。



「えっ、ちょ!? な、何で!?」


「は、陽翔様、の、お役に、立てないのかと、足手まとい、なのかと思うと、悔し、くて……」



 今のやり取りをどう受け取ったらそうなんの!?



「だ、大丈夫、そんなこと欠片も思ってないから……」 

  

「――なら、ダンジョンでどういうことがあったのか、全部言ってくれるでしょ?」



 志木の奥、白瀬が口を開いた。


 俺の知るような快活な様子ではなく。

 俯き、何とか勇気を振り絞って口にしたみたいな、そんな声で。




「――新海君、大丈夫。私達、どんなこと話されても、ちゃんと受け止めるから」


「あぁっ! (はやて先輩、一人だけなんか良い人ポジです! そういう所ですよ、“伏兵”とか何とかいわれるの!」


「ちょ、チハ、今はそういう感じじゃないから……」



 志木の隣の赤星。

 そして間の俺達を飛ばし、助手席の桜田が2,3やり取りをする。

 

 それだけで空気の重さが少しでも和らいだ気がした。


 

 …………。 



「――……朝、梓から手伝って欲しいってことで、ダンジョン攻略を一緒にしたってことは、聞いたか?」



 俺が話し出したことで、二人は会話をやめる。

 更にまた最初の様に、視線全てが俺へと集中するのを感じた。


 ……いや、だからそんなにグイっと来られると、引いちゃうよ?



「うん! 梓ちゃんから連絡受けたって、しらすんが教えてくれた!」


 

 逆井から水を向けられ、白瀬は恥ずかしそうにモジモジする。

 そして口では答えずに、コクリと小さく頷くことで肯定した。



「そうか……で、朝の攻略は順調に進んで――」




 俺はダンジョンの最下層へと到達した辺りから、話を始めた。





□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆




「――そっか……今まで出会ったことないようなボス、だったんだ」



「ああ。そうだ、だから手こずった」



 大まかな流れは語った。

 いや、“大まかな流れだけを”語った、と言った方が正しいか……。


 逆井の相槌に乗り、俺は話を締めくくろうとする。

 

 が――



「…………フフッ。ねぇ、それで終わりかしら?」



 志木が、可笑しそうに笑い、俺の話が終わるのを遮る。

 ぐぬっ。

 


「いや、えっと……終わり、のつもりだったんだが……俺の口から、聞きたかったんだろう?」



 いかにも流れが分からず困惑しているようにそう口にする。

 ……と、更に志木の笑みは深まった。


 

「まだ隠せると思ってるのね……これでも貴方のことはそれなりに理解しているつもりよ? そんな私の前で、ねぇぇ……」



 ……え、何、どういうこと?

 だがその疑問を掘り下げる時間は、俺には与えられていなかった。



 

「――ねぇ、梓さん。貴方から見て、今回のダンジョン攻略。何か付け足すことって、あるかしら?」



 っ!?

 対象が梓に移った!?



「……ハルトだけが、ボスの出現条件に気づいていた。私も、ラティア達も、気づかなかったそれに気づいて、ハルトだけが残った。それが悔しい」



 おい!?

 ちょ、要らないことをしゃべるな!!


 さっき“身も心も捧げる”的なこと言ってたじゃん!

 だが隣の梓からは“さっき断られた。それは無効”的な視線が飛んできた。


 ……クソッ、戦略ミスった。 



「……服、一式、黙る」



 俺と梓だけが分かるだろう暗号のようなもの。

“上下一式、また俺の服をやるから、今はちょっと黙っててくれ!”を何とか口にする。


 梓はそれを理解したのだろう、一瞬だけ沈黙が挟まった。

 ただ、顔を上げ、視線を何故かラティアに向け、またまっすぐ前を向く。


 そして――






「……今、レート、2倍。決裂」




 

 何じゃそりゃぁぁ!?

 志木から特に鋭い視線が飛んできているのを理解しつつも、一瞬振り向かざるを得ない。



「…………」



 真後ろにいたラティアが丁度プイっと真横へ視線を逸らした。

 ラティアァァァァ!!


 

 お前らどんな裏取引してんだよ!?

 いつの間にレートが倍加するくらい希少性上げてんの!?


 えっ、まさか俺がボスガエル倒してる間の時間潰しの時?

 

 自分で自分の首絞めてたぁぁぁぁ!? 




「――梓ちゃん、えとさ……」



 逆井がそこで突如、身を乗り出す。

 梓を手招きし、二人でコソコソと話をし始めた。



「えっと体操服……入手……体育で……何とか上手く……借りるって手でも……」


「ハルトの……保証は?……下はダメ……上なら……」



 狭い空間内。

 しかも目の前でなされるやり取り。

 

 ボソボソと不穏な単語が耳に届く。

 

 ……なんか嫌な予感しかしないな。




 1分もせず、何らかの交渉は終わったらしい。

 そして元の場所、俺の隣へと一歩で戻った梓は――




「――ボスの特徴は姿を消せることだった。1対1じゃないとその姿を現さない。しかもボスの()にとどまらず外に出ようとまでしたらしい。非常に厄介な相手」




 おいお前何ゲロってんの!?


 そこだよ!?

 俺が必死に話を逸らそうとしてたの、そこなんだよ!?


 隣の梓の肩を掴み、ガクガクと揺らす。  

 だが梓は全く反省の色を見せない。



「ハルト、そんな、あっ、激しい、もっと、優しく、でも、意外と、痛くない、気持ちいい――」




 馬鹿野郎!

 頭揺らしてるだけなのに何だその狙った感想は!?

 


 ちょ、皇さん、聞いたらダメ!

 あっ、ルオも一緒に耳塞いどいて!!



「――そう……そう言うことだったのね。やっぱり、私達のために」




 志木が呟いた言葉を耳にし、もう全てが終わったと悟る。

 だがそれでも梓への説教だけは止めなかった。



 

 コイツへの口封じ、やっぱ普段から気を付けないといけないのか……。


 ……はぁぁ、服、また買わないと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ぱんで○っく。
[一言] > 「ハルト、そんな、あっ、激しい、もっと、優しく、でも、意外と、痛くない、気持ちいい――」  えっっっっっっっっっ >コイツへの口封じ、やっぱ普段から気を付けないといけないのか……。 >…
[一言] 黒かおりん「それでその所々真っ赤で特に手の皮膚が爛れていることはいつまで隠してるのかしら(ニッコリ」 長男にしか耐えられない痛みをいつまで耐えているんだこの男はw 後編も楽しみです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ