184.ありがとうございました 前編
すいません……遅くなしました。
何か違うな……と2度程書き直し。
そして長くなっていたので前編後編に分けました。
これを上げた後、直ぐ後編の推敲をして更新しておきます。
ではどうぞ。
「あ~……その、何て言うか……」
全方位から飛んでくる視線が突き刺さる。
それを全身でヒシヒシと感じ、言葉が上手く出てこない。
まだ碌に思考も働かない小学校の頃、クラスの前、教壇に立って発表を求められたような嫌な感覚。
頭でこねくり回したような言葉は、直ぐに喉に張り付いてしまう。
……こういう時は、もう仕方ない。
「――悪かった! 握手会、約束したけど、行けなかった」
素直に頭を下げて、浮かんできた言葉を口にした。
実際に、彼女達に対して申し訳なかった気持ちも大きかったから。
…………。
ど、どうだ……。
頭を下げ続けて、反応を待つ。
10秒か、20秒か、あるいはもっと長い時間か。
そしてそーっと視線を上げて見ると、先ず逆井の姿が目に入った。
「――あの、さ……新海」
その逆井が、俺から視線を逸らさず口を開く。
上手く言葉に出来ない思いを、それでも何とか伝えようとしている、そんな表情で……。
「なっ、何だ?」
恐る恐る頭も上げ、次の逆井の言葉を待つ……と。
「――言ってないこと、まだあるでしょ?」
「…………」
虚をつくような逆井の一言に、思わず目を逸らしかける。
だが、ギリギリのところで踏みとどまった。
「えーっと……謝罪の言葉、やっぱ足りなかったか? そりゃそうだよな、約束破ったわけだし、俺が一方的に悪いから――」
「――そうじゃなくて」
逆井の真後ろ、志木からピシャリと声が飛んでくる。
それは逆井の後を受ける様に、まるで何かを確信しているような声音だった。
…………。
「じゃあ、何だ? 言葉じゃなく態度ってことか? ああ、悪いな、時間なくて手土産はまだ何も――」
「――だから、そうじゃなくて。……今ので決まりね。彼、やっぱり私達にはどうしても言わないつもりよ?」
志木が車内全体へと行き渡る様に告げる。
それを受け、しゃくりあげる声が聞こえた。
それは最も側、一番近くにいる皇さんのもので……。
そちらを向くと、彼女の瞳が潤んでいたのだ。
「えっ、ちょ!? な、何で!?」
「は、陽翔様、の、お役に、立てないのかと、足手まとい、なのかと思うと、悔し、くて……」
今のやり取りをどう受け取ったらそうなんの!?
「だ、大丈夫、そんなこと欠片も思ってないから……」
「――なら、ダンジョンでどういうことがあったのか、全部言ってくれるでしょ?」
志木の奥、白瀬が口を開いた。
俺の知るような快活な様子ではなく。
俯き、何とか勇気を振り絞って口にしたみたいな、そんな声で。
「――新海君、大丈夫。私達、どんなこと話されても、ちゃんと受け止めるから」
「あぁっ! 颯先輩、一人だけなんか良い人ポジです! そういう所ですよ、“伏兵”とか何とかいわれるの!」
「ちょ、チハ、今はそういう感じじゃないから……」
志木の隣の赤星。
そして間の俺達を飛ばし、助手席の桜田が2,3やり取りをする。
それだけで空気の重さが少しでも和らいだ気がした。
…………。
「――……朝、梓から手伝って欲しいってことで、ダンジョン攻略を一緒にしたってことは、聞いたか?」
俺が話し出したことで、二人は会話をやめる。
更にまた最初の様に、視線全てが俺へと集中するのを感じた。
……いや、だからそんなにグイっと来られると、引いちゃうよ?
「うん! 梓ちゃんから連絡受けたって、しらすんが教えてくれた!」
逆井から水を向けられ、白瀬は恥ずかしそうにモジモジする。
そして口では答えずに、コクリと小さく頷くことで肯定した。
「そうか……で、朝の攻略は順調に進んで――」
俺はダンジョンの最下層へと到達した辺りから、話を始めた。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――そっか……今まで出会ったことないようなボス、だったんだ」
「ああ。そうだ、だから手こずった」
大まかな流れは語った。
いや、“大まかな流れだけを”語った、と言った方が正しいか……。
逆井の相槌に乗り、俺は話を締めくくろうとする。
が――
「…………フフッ。ねぇ、それで終わりかしら?」
志木が、可笑しそうに笑い、俺の話が終わるのを遮る。
ぐぬっ。
「いや、えっと……終わり、のつもりだったんだが……俺の口から、聞きたかったんだろう?」
いかにも流れが分からず困惑しているようにそう口にする。
……と、更に志木の笑みは深まった。
「まだ隠せると思ってるのね……これでも貴方のことはそれなりに理解しているつもりよ? そんな私の前で、ねぇぇ……」
……え、何、どういうこと?
だがその疑問を掘り下げる時間は、俺には与えられていなかった。
「――ねぇ、梓さん。貴方から見て、今回のダンジョン攻略。何か付け足すことって、あるかしら?」
っ!?
対象が梓に移った!?
「……ハルトだけが、ボスの出現条件に気づいていた。私も、ラティア達も、気づかなかったそれに気づいて、ハルトだけが残った。それが悔しい」
おい!?
ちょ、要らないことをしゃべるな!!
さっき“身も心も捧げる”的なこと言ってたじゃん!
だが隣の梓からは“さっき断られた。それは無効”的な視線が飛んできた。
……クソッ、戦略ミスった。
「……服、一式、黙る」
俺と梓だけが分かるだろう暗号のようなもの。
“上下一式、また俺の服をやるから、今はちょっと黙っててくれ!”を何とか口にする。
梓はそれを理解したのだろう、一瞬だけ沈黙が挟まった。
ただ、顔を上げ、視線を何故かラティアに向け、またまっすぐ前を向く。
そして――
「……今、レート、2倍。決裂」
何じゃそりゃぁぁ!?
志木から特に鋭い視線が飛んできているのを理解しつつも、一瞬振り向かざるを得ない。
「…………」
真後ろにいたラティアが丁度プイっと真横へ視線を逸らした。
ラティアァァァァ!!
お前らどんな裏取引してんだよ!?
いつの間にレートが倍加するくらい希少性上げてんの!?
えっ、まさか俺がボスガエル倒してる間の時間潰しの時?
自分で自分の首絞めてたぁぁぁぁ!?
「――梓ちゃん、えとさ……」
逆井がそこで突如、身を乗り出す。
梓を手招きし、二人でコソコソと話をし始めた。
「えっと体操服……入手……体育で……何とか上手く……借りるって手でも……」
「ハルトの……保証は?……下はダメ……上なら……」
狭い空間内。
しかも目の前でなされるやり取り。
ボソボソと不穏な単語が耳に届く。
……なんか嫌な予感しかしないな。
1分もせず、何らかの交渉は終わったらしい。
そして元の場所、俺の隣へと一歩で戻った梓は――
「――ボスの特徴は姿を消せることだった。1対1じゃないとその姿を現さない。しかもボスの間にとどまらず外に出ようとまでしたらしい。非常に厄介な相手」
おいお前何ゲロってんの!?
そこだよ!?
俺が必死に話を逸らそうとしてたの、そこなんだよ!?
隣の梓の肩を掴み、ガクガクと揺らす。
だが梓は全く反省の色を見せない。
「ハルト、そんな、あっ、激しい、もっと、優しく、でも、意外と、痛くない、気持ちいい――」
馬鹿野郎!
頭揺らしてるだけなのに何だその狙った感想は!?
ちょ、皇さん、聞いたらダメ!
あっ、ルオも一緒に耳塞いどいて!!
「――そう……そう言うことだったのね。やっぱり、私達のために」
志木が呟いた言葉を耳にし、もう全てが終わったと悟る。
だがそれでも梓への説教だけは止めなかった。
コイツへの口封じ、やっぱ普段から気を付けないといけないのか……。
……はぁぁ、服、また買わないと。




