183.ハイエースッ!!
あ゛ぁぁぁぁ。
すいません、ちょっと疲れが出てきてしまいました。
本当はこの1話で終わらせる予定だったんですが……。
ある意味物凄く危険な場面で終わってしまってます。
頑張って明日も更新するので、ご勘弁を……。
「――あっ、リヴィル、梓……」
ダンジョン1階層へと戻って来て、前から来る二人の姿が見えた。
ちゃんとその後ろにはラティアとルオも付いて来ているようだ。
「マスター! 無事っ!?」
4人とも直ぐに近くまで駆けて来てくれたが、中でもリヴィルは早かった。
真っ先にたどり着いては、俺の体のあちこちへと視線を移す。
「いや、ははっ……見た目ほどはダメージ深くないから、うん」
「……本当? マスター、無理してない?」
おおう……レイネと同じこと言われてるぜぃ俺。
「――えっ!? ご主人、無理してるの!? たっ、大変!」
若干遅れて着いたルオが、顔面蒼白になって慌ててしまう。
中途半端にリヴィルの言葉が聞こえちゃったのだろうか……。
「いやいや、ルオ、大丈夫だから! ほらっ、この通り!」
ぴょんぴょんとその場で2,3跳ねて見せる。
「…………」
「えーっと、なっ、どうだ? 全然、動ける、だろう?」
だがルオは中々納得してくれず。
最後にたどり着いたラティアと二人して、疑わしそうな目で俺を見つめてくる。
……えっと、俺、いつまで跳び続ければいいの?
俺は視力の良さで有名な、どっかの部族戦士かよ。
「――ハルト、ダンジョン攻略、出来たんだね」
梓が言葉を挟んでくれる。
それでようやく俺は飛ぶのをやめ、皆に頷いて見せた。
「ああ……ま、そのせいでちょっと予定が狂っちまったがな……ははっ」
その乾いた笑には、誰も答えてくれず。
気まずい沈黙が流れる。
だがとりあえず、俺はラティア達との合流を果たしたのだった。
「――……そっか、ボス戦、あったんだ」
合流してから、1度近くの広間まで来て、そこで腰を下ろし。
俺たちは互いの情報を交換し合うことにした。
ラティア達からは、ちゃんと握手会に向かったということを聞かされた。
だが俺が来なかったので、仕方なくレイネを派遣。
そして梓が白瀬に連絡を入れた後、4人でこちらに戻って来たということらしい。
「ああ……どうやら攻略側が1人じゃないと、姿を現さない奴だったらしい。相当面倒な能力だぜ」
レイネが闇の精霊からの伝聞を、語って聞かせる。
大きな間違いがあるわけでもなかったので、俺は口を挟まず黙っていた。
「うーん……じゃあ、やっぱりボクらが残っても意味なかったのかな?」
「それは分からないけど……でもマスターが倒して、ちゃんとマスターが無事だったんなら、今はそれでいいと思う」
ルオとリヴィルが互いに意見を交わし合っている。
何とか納得する方向に落ち着きそう……だが。
「…………」
――ラティアが口を挟んでこない。
こっちの話になって、レイネが語り出してから、一言たりとも。
だが視線はずっと俺へと向けられていて、思わずこっちが逸らしてしまった程だ。
……何だ、何を考えてる?
「――で、どうだ? 握手会は楽しかったか?」
様子を見るために、話を変えてみた。
リヴィルもルオも、そして黙っていたラティアでさえも、辛そうな表情を見せる。
俺が参加できなかったと分かっているからだろうな……。
「……どうだった? 行けなかった分、どんな感じだったのか、知りたいんだ。聞かせてくれ」
これは純粋にそう思った。
ただ単に俺が知らないことを知りたい、ということではなくて。
ラティア達が地球の世界で出来た友人達。
逆井をはじめ、赤星や皇さん、それに桜田など、彼女らと楽しい思い出を作ることが出来たのか。
それが、知りたかった。
「……リツヒ、ボクが会いに行ったこと、凄く喜んでくれた」
「そうか……」
ルオは気にしなくてもいいのに、俺への申し訳なさを残しながらもそう告げた。
「……“何だか、私達だけの悪戯に成功したみたいだね”って。ハヤテ、笑ってたよ」
リヴィルはどこか嬉しそうに小さく微笑み、握手した時のことを口にする。
「……ラティアは、どうだ?」
話を向けると、ラティアは数秒黙ったままだった。
ただ、今度は逸らさず、ずっとラティアの目を見続ける。
「……はぁぁ……――リア様も、純粋に喜んでくださいました。握手もしっかりしてきましたよ」
今回はラティアが目を逸らして、口をぷくーっと膨らませた。
その声音は、何だか若干拗ねているようにも聞こえて……。
……珍しい。
ラティアのこんな感じは初めてだった。
「そうか……っと! レイネは、どうだった? 確か桜田んとこ行ったんだろ?」
「あぁぁ! ひっどい隊長さん! 絶対今あたしのこと忘れてただろう!!」
ポカポカと叩いて抗議してくるレイネを軽くあしらう。
レイネはいつもの様に分かりやすく拗ねて、だがそれでもちゃんと答えてくれた。
「…………楽しかったよ。チハヤ、一所懸命に頑張ってたし」
「そか……桜田らしいな」
「あ・と! 隊長さんが独りでいたせいで、あたし等結構な時間使ったんだからな! おかげで別の人の握手まで並ぶことになったし……」
うぅぅ。
シラーっとした目で怒られた。
いや、あのカエルが悪いんですって!
自分悪くないんです!
本当――
「ん゛?」
「いや、何もないッス、すいません」
一文字だけで反論を封じられた……。
俺どんだけ雑魚いんだ……。
「――ハルト」
「ん?」
梓が俺の袖を摘まんできた。
その表情は梓らしくなく、後悔と自責の念に苛まれている。
そして俺を無言で数秒見つめると、首を振って切り替わり。
まるで何かを決意するかのように、その瞳は力に満ちていた。
……嫌な予感がする。
だが、俺の“ん?”では梓を押しとどめる力は無かったらしい。
「今回のことで、ハルトには特に迷惑をかけることになってしまった。ハルトには感謝してもしきれない」
「ああ、いや、うん、大丈夫。俺、ちょっと大きいカエルと戯れてただけだから」
「……私、色々と考えて、でもどうやってもこの大きな恩を返しきれそうにない。――ついては私の身も心も、ハルトに全てを捧げたい」
いや聞けよ。
「だから! 別に良いって言ってんの! 恩に着せたつもりなんて一切こっちにはないんだから!」
紛れもない本心である。
だがしかし、梓はいきなり異国の言葉でも聞かされたみたいに困った顔をするのだ。
「……“身も心も”じゃ、不満? ……もっと即物的な方が、“身も身も”の方がいい? ――“私の体は思う存分自由に出来ても、心までも自由に出来るとは思わないで欲しい”とか?」
「どこの女騎士!? しかもそれだと何か俺がオークやゴブリンみたいな奴ってこと!?」
もう訳分らん!
「……ご主人様がオークやゴブリン程に性欲が旺盛でいらっしゃったら、どれだけ楽か」
こらっ、ラティアも変なことをボソッと呟かない!!
こっちだって別に無いわけじゃないの!
頑張って中二病の疼く右腕の如く抑え込んでんだよ、必死に!!
はぁぁ……。
何かボスガエル討伐以上に疲れたかも……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――ふぅぅ……うわっ、そうか、もう夕方か……」
ようやく外に出た時には、もう空は茜色に染まっていた。
春に近づきつつあるとはいえ、もたもたしていると直ぐ闇が赤を飲み込んでしまうだろう。
一先ずどうするか……。
ん?
うぉっと!?
「すっげぇメールの数……」
スマホを開くと、着信やメールが幾つもあったと知る。
その中の物はラティアだったり、あるいは梓の物だったり……。
……うわぁぁ、そりゃ、あるよね……。
一番新しい送り主は“逆井”だった。
数分前に来た、かなり最新の物。
避けても仕方ないと開いて本文を見ることにする。
「…………あれ? 近くに、いるっぽい」
ラティア達へと振り返り、情報を共有する。
「“近くのコインパーキングにいるから”ですか」
「えーっと……逆井達には、ダンジョンのことは?」
梓へと顔を向ける。
画面を見ていた梓は顔を上げ、キョロキョロ辺りを見回した。
「もち。そもそも私にこのダンジョンの存在を教えたのは“アスカ”」
そう言えばそうだったな……。
握手会の合間を縫って、簡単に伝えたらしい。
朝に俺たちがダンジョンへと潜ったことはだから知っているってことか。
そりゃシーク・ラヴの主要メンバー内では共有されるだろうな……。
「多分……あっち」
場所に検討がついたのか、梓は歩き出す。
俺達もそれに続いた。
「えっと、ここだよね……あ! ご主人、あれじゃない!?」
指定された場所に着くと、ルオが真っ先に対象の車を発見する。
エンジンはかかっておらず、周囲には殆ど他の車は止められていない。
窓はスモークガラスで、こちらからは中がどうなっているか分からなかった。
それに近づいていくと、いきなりドアが開く。
「――うぉっ!?」
目の前に椎名さんが現れる。
手首を掴まれ、グィっと車内へと引きずり込まれた。
ちょっ、何っ、何すか!?
「っとと……あっ――」
中の様子が視界に入ってくる。
目の前の2人席には逆井と赤星が。
目を右に向けると、直ぐそこの1人席に皇さんが座っていた。
「えっと……椎名さん、これは?」
「…………」
しかし引き込んだ当人は答えてはくれず。
さっさと運転席に戻って行ってしまう。
その際、助手席が目に入り、そこには桜田が腰かけていた。
「ええーっと……うっす」
沈黙を嫌い、誰にとはなしに、ぎこちない挨拶をする。
皇さんと通路を挟んだ2人席。
志木と白瀬が並んで座っている。
「…………」
「…………」
……が、この二人から返事が返ってくることは無く。
最後尾に座る逸見さん、飯野さんはハラハラしながら成り行きを見守っているように見えた。
「…………えっと、一回外に――」
出よう、と言おうとして振り返る。
が――
「? ハルト、どうかした?」
「……マスター、ゴメン、ちょっと体ぶつかる」
「うぅぅご主人、入り口だし、ぎゅうぎゅうだよ……」
ちょ!?
何で皆して入ってきてるの!?
いくらエンジンかかってない駐車中だからって、これ10人乗りだからね!?
「ラティア、これ、どうすればいい?」
「あっ、レイネ、それ、閉めちゃってください」
ギャァァァ!
やめて、閉めないで!
女子しかいない、逃げ場のない牢獄で出口を塞がないでぇぇぇぇ!!
――ガチャンッ
……だが無情にも、背後の入り口は閉じられてしまった。
ハイエース内に連れ込まれて、俺はこの後一体どうなってしまうのだろう……。
――続く!!
……と良いなぁ、俺の命。
ハイエースに連れ込まれて、可愛かったり、綺麗な女の子だらけで周りを囲まれた状態。
……うーん、お巡りさんを呼んだら、これ、どっちが捕まるんだろう?
私がお巡りさんなら、とりあえず血涙流して主人公をしょっ引きます(怒)




