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181.お前を焼きガエルにしてやろうか!

今回は主人公視点だけです。


ボス戦も一応決着ですね。


ではどうぞ。



「さ~て……よくも体液をぶっかけてくれたな、このカエル野郎」


 

 男がカエルの臭い消化液なんてかかっても、誰一人として喜ぶ奴などいない。

 それを、このカエルのせいで俺は傷だらけになるわ、ちょっと腕から異臭がするわで、もう散々だ。



「ゲルルルゥゥ……」  

  


 頬を膨らませ、萎ませ、また膨らませては萎める。

 ボスガエルはそれを繰り返して俺を威嚇してきた。


 へへっ、そっちもやる気じゃねえか。



「ゲルッ! ゲルッ!」



 今までと違い、30%程度の力でカエルは跳ねる。

 その場で何度も同じ跳躍の仕草を繰り返した。


 まるで刺さった片手剣や鎌の影響などなく、自分は元気だぞと見せつけるように。 



 良いぜ、ここで決着をつけよう……ん?




 カエルの後方、逃走経路に、何やら黒くて丸い浮遊体が……。

 ゆっくりとこちらに近づいて来ていて、ボスガエルはそれに気づいていない。



 ……いや、そもそも気づけないんだ!




「おっ、お前!? いたのか!?」




 俺は思わず声を上げる。

 もしその相手が誰か俺の知っている“人”であれば、何とか抑えただろう。


 味方の不意打ちを期待できる可能性があるからだ。


 だが、今現れた相手は、そんな俺の行動など関係なく、その場に存在し続ける。



「ゲルルッ?――」



 俺の仕草が気になったのか、ボスガエルは思わず後ろを振り返った。

 しかし、勿論そこには何もいない。


 いや、正確に言うなら“奴に認識できる存在は”何もいなかった。




『…………』




 ――“闇の精霊”。




 黒い球に、不気味な一つ目の存在。

 モンスターだけでなく、人を含めても、その存在を知覚・認識できる者は極めて少ない。



 だが、俺は見えている。

 コイツはあのパコ野郎と一緒にレイネに付いていたはず……。


 だがそれが、この場にいるってこと。

 それは、俺にとって最高の形で作用していた。



「っっっっ!!」



 レイネと入れ替わるわけでもなく、ただ俺達の様子を見ている。

 俺にはその姿が目に入っていたが、ボスガエルには分からない。


 

 俺の驚きは、嘘でもなんでもない正真正銘マジのリアクション。

 だからこそ、ボスガエルは警戒して振り向かざるを得なかった。




「ゲルッ!?――」 



 

 何もいないと分かり、再び俺へと向き直った時にはもう遅い。

 既に目と鼻の先にまで迫っていた俺は、奴の口の中に腕を突っ込む。



 ジュウゥゥと液体が腕周りを溶かす。

 だが覚悟していた分、そこまで痛くはない。


 タンクとして戦うことも多いんだ、この程度、大丈夫っ!


 やはり織部に出会ってから今まで、頑張って薬草を少しづつでも食べ続けてきた甲斐があった。


 



 

 ――嘘である!!



 この男、物凄い痛いのを我慢していた!

 でもボス戦だし、それにとうとうケリを付ける場面だからと必死で歯を食いしばったのだ!

 

 長男だから我慢できたものの、次男だったら我慢できなかったに違いない!



 

  

 ……つうかどうでもいいから、早くくたばれ!

 


「ゲェ――」

 

 

 カエルの顔が驚愕に染まる。

“騙したな、卑怯者!”と言っているような、そんな顔だ。



 ……だが悪いな、別に俺は何一つ嘘をついてなんだよ。

“姿が見えなくなる”ことが自慢だったのに、残念だったな。


 最後は“姿が見えない”精霊に足元を掬われたってわけだ――


  

「――【業火】」     




 カエルの体内が一気に膨らむ。

 空気を送り続けた風船の如く、ボスガエルは瞬く間にパンパンに。


 そして内側から灼熱が体を突き破り、外へと飛び出した。



 

「焼きガエルの完成、かな……」



 内も外もボロボロに焼き尽くされ、炭も残さなかった。



〈Congratulations!!――ダンジョンLv.22を攻略しました!!〉



 そんなボスの呆気ない最後を見届けながら、俺はようやくダンジョン攻略を成し遂げた実感を得たのだった。

  


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 置いて来てしまった荷物を取りに、再び最下層まで戻った。

 何とか外に逃がさずに倒せた……でも流石に疲れたな。



 少しだけ休もうと腰を下ろそうとした時。 

 俺に付いて来ていた闇の精霊に、変化があった。


 これは――

 




「――隊長さんっ!」


「おっ、レイネか……」

 


 闇の精霊が俺の前から姿を消し。 

 代わりに、レイネが姿を現した。



 軽く手を挙げると、レイネは来たばかりだというのに顔を険しくする。



「っ!! 隊長さん、やっぱり、独りで――もう! バカッ……」  

    


 うわっ、ちょっといきなり怒ってる。

 な、何か、話を変えないと……。



「え、えーっと……そ、そうだ! 握手会、どうなった!?」


「は? 今はそうじゃないだろう! 隊長さん、あちこち凄い怪我して……」


「だ、大丈夫、大丈夫。これ、見た目ほど全然痛くないし、薬草爆食いしてれば治るから、うん、薬草限定のフードファイターだから俺」


 

 なおも言い募ろうとするレイネを見て、俺は急いで薬草を取り出す。

 そしてマジックバッグは横に置き、目の前で実食して見せた。


 うむっ、むしゅ、あんっ……うん、マズい。


 

 ポーション程、傷に対して即効性が有るわけではない。

 だが、俺が素直に薬草をもしゃるのを見て、レイネは大きく溜息を吐いた。


 ……ふぅぅ。

 どうやら折れてくれたようだ。



「隊長さんがこんな無茶する人だったなんて知らなかった……もう、まったく、もうっ!」



 いや、ちゃうんですよ、全然無茶って感じじゃなかったんです……。

 と、とにかく悪いのはあのカエルで!


 アイツ、姿消せるなんていう、覗きの代名詞みたいな能力持ってるんですよ!

 そのくせ、消化液が衣服だけじゃなく人体も溶かしてくるんです、とんだ欠陥野郎っすわ!



「……むっ、隊長さん、何か言い訳考えてる顔してる」


「うぐっ!? い、いや~、そんなこと、無いゾ?」 

 

「…………」



 うぅぅ……そんなジトっとした目で見ないで。

 ジメジメしたのはもうカエル野郎だけで沢山だ。







 その後、包帯であちこち巻いて手当される。


 長引いた戦闘での疲労や、【業火】を使った反動で回復魔法も唱えられそうにない。 

 ここで文句を言おうものならまた半目で睨まれることになるので、こんな役立たずは大人しくしておこう。



“戦場でこういうことをする機会が多かった”と語るだけあって、レイネは手慣れていた。


  

 後は帰ってから、ちゃんとポーションと薬草を欠かさず取ってれば普通に治る。

 それか、ルオに頼んでシルレの能力を使ってもらうかだな……。   



「っし、終わり。もう、隊長さん、ほんと、無理したら、ダメだかんな?」



 一瞬頭の中で“ダメだカンナ? 許さないカンナ? ブレイブカーンナ!”なるフレイズが思い浮かんだが……記憶の底にそっ閉じしておく。



「……おう。それにしても、そっか……握手会、もう無理そうだな」 


「……うん、多分」 


 

 レイネが闇の精霊と入れ替わる頃には、もう既に握手会終盤だったらしい。


 で、今俺はダンジョンの最下層にまで戻ってきてしまっている。

 まあ、腕もカエルの体液臭いし、包帯も結構巻いてるしな……。


 

「そんなレイネが気にすんなって……。どうせ今の俺だと警備員かスタッフの人に止められてたって」


 

 落ち込んでいるレイネにフォローを入れる。

 案外俺の言葉は真実そうなっていたかもしれん。


 だから、まあこれは仕方ないのだ……。



 ああ……行くって言ったのに、行けなかったな……。

 握手券も、無駄になってしまった。



 申し訳なさや罪悪感が胸の中に広がっていく。


 ただそれは裏返せば、逆井や志木達皆が楽しみにしていた握手会それ自体は、ちゃんと最後まで行われたってことだ。

 

 ……うん、まあ、それが達成できたならいいや。



 後で怒られるかな、志木とか、とんでもなく怒ってそう……。

 

 うぅぅ……でも、この姿で行くと、流石にまずいよな。

 別にこれは誰かのせいってわけでもないから、変に押しつけがましくなるのも違うだろうし……。


 

 ……どうしよう。



「……でも、隊長さん、ボス倒すために残ったんだろ? “闇の精霊”からも聞いたけど、隊長さんがここまでになるなんて、相当ヤバい相手だったんじゃ……」



 いや、それはない。

 うん、ボスの中では、個としての脅威度はそこまでだった。

 

 ただ、その力が(おれ)に向かうのではなく。

 社会(そと)に向けられた時、やはり牙を剥き、混乱を来す可能性もあったと思う。



 だからまあ、これが最善、いや、ベターだったんだよ。



「それはそうと、レイネ、“闇の精霊”をこっちに残してたんだな? ある意味助かったよ」



 上手いこと投げた鎌が当たって、焦っていた心に余裕もできた。

 だから何もなくても、何とか最後には倒せていたとは思う。


 それでも闇の精霊を視界に入れることが出来たおかげで、その討伐は一気に早まった。


 そこは間違いなくそうだと言える。




「……うん、隊長さん、心配だったから、念のため」




 レイネが言うには、俺がDDを使って家に戻ると言ったあの時。 

 ラティアとコソコソ話していたのも、要はこれだったらしい。


 

 そして、梓と共に握手会へと向かったはいいが、俺が来ない。

 色々と他の人の握手に行ったり、ただ待ってみたりと時間を潰したが我慢の限界が来た、と。



「決め手はラティアが隊長さんに電話してみて、繋がらなかったこと……やっぱり、まだダンジョンにいるんじゃ、ってなって」

     

「ああ、なるほど……」


 

 そりゃそうだ。

 ダンジョン内では電話は繋がらないだろうし。


 それに仮に通じたとしても、そもそも俺、戦闘中で気づかなかっただろうな……。



「……ラティア達と合流、するか」



 ここにずっといても仕方ない。

 一先ずは外に出て、合流して、それからだ。



「うん。ああっ、ほらっ、手貸すから」


 

 レイネは俺の体を気遣ってくれたのか、先に立ち上がり手を差し出してくる。

 

 いや、だから見た目ほどボロがあるわけじゃないし。

 それに……。



「えっと……今俺の腕、カエルの口に突っ込んでて汚いし、カエル+αニイミ菌がうつるかも――」



 そう言って手を横に振り、ワザと大袈裟に言ってそのまま引っ込めようとする。

 ……が、レイネがグンと手を伸ばし、グイッと俺の手を掴んだ。



「――何が汚いんだよ! 何がうつるんだよ! バカなこと言うなっ、隊長さんは隊長さんだ!」



 キュンッ――ってする前に、えっ、何してんの!?

 

 レイネは握った俺の手を引っ張り、口元に持っていく。

 そうしてペロッ――ヒィッ!



「んっ、あむっ……そんなに気にすんなら、あたしが、んっ、その、上書き、あむっ、してやる、から……」 


 

 やっている本人も流石に恥ずかしいようで。

 顔を真っ赤にして照れながら、俺の手を指先から綺麗に舐めていく。


 



 ……あ、あかん、これは色々とあかん!





「いっ、いやうん、ありがとう! すんごい元気出た、マジで! もう大丈夫! よーし、一気に外に出て、ラティア達と合流だ!」



 慌てて手を引っこ抜き、さっきのボスガエルみたいにぴょんぴょんと跳んで見せる。


 一瞬レイネはポカーンとする。

 が、直ぐにカァッと赤くなり、そっぽを向いた。


 そして呟く。



「もうちょっと……隊長さんの、バカッ」



 ダンジョン内という声が響く空間。 

 そして人は俺とレイネのみ。

 

 ちゃんとその言葉を、俺の耳は拾っていて……。





 ……何でや、どうしろって言うねん。

 


 その後、微妙に気まずい空気のまま、俺達はダンジョンの外に向かったのだった。




「――って言うか、レイネ、もう一回闇の精霊と入れ替わって先に帰っても……」

 

「……バカッ」



 今度は全部言わせてもらえなかった。

 さっきのままの空気で気まずいし、2人きりだから気を使ったのに……。


 ……何かレイネ一人でこれだと、この後どうなるのか、今から物凄く心配になって来た……。

精霊はその存在だけで戦術にも使えて、便利ですね……羨ましい。

ボスガエルの存在・能力は色々な部分で意味あるものにしようと頭を捻ったんですが、一つはご覧いただいたとおり精霊との対比ですね。


こういう勝ち方は、彼らしいかなと思って、主人公と共々頑張りました。



さて、次話は第三者視点から始まると思います。

そして、主人公の戦いの瀬戸際は実はこの先……だったりするかも。


感想の返しについてはすいません、また午後以降に時間をとりますのでその際にさせてください。


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― 新着の感想 ―
[一言] 返しはおきになさらずー 半目で睨まれる?世間一般ではご褒美ではなかったのですかっ!? 謎の三段活用。。。かなりの危険物臭が半端ないので私もそっとしておきます。 αニイミ菌: 一部に絶大…
[一言] >  やはり織部に出会ってから今まで、頑張って薬草を少しづつでも食べ続けてきた甲斐があった。  流石の織部さんもまだ食べ続けてたんですかー!? とツッコミそう。 >  長男だから我慢できた…
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