表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

185/416

180.このクソガエルがぁぁぁぁ!!

お待たせしました。


そこそこまじめな戦闘面です。

ただガチバトルっぽくはなってません。


後、同じように最初主人公視点で、最後第三者視点になります。


ではどうぞ。




「――っっ! くっ、しぃ!」


 

 伸びてきた舌による重い一撃。

 両腕を交差し、事前に備えていても腕がジーンと痺れる。


 

 気合を入れて弾き返すと、長い舌はゴムの様にボスガエルの下へと戻っていく。



「ゲルッ――」



 カエル野郎が尻を突き出し、気張るポーズに入る。

 チッ、またか――



「――うらぁぁぁ!!」



 攻撃の弾みで出来た石を拾い、奴に向けて投擲(とうてき)

 だがタイミングが遅かった。



 ボスガエルは空気に溶けるようにその姿を消す。

 そこに奴はもういないのか、石は空を切る。



「くっそ、面倒くさい奴だな……」



 周囲を窺う。

 足音一つ聞き逃さないくらいに集中する。


 ……しかし、感じ取れない。

 動く気配も、移動する際の擦れるような音も。



「――がっ!?」


 

 また不意打ちを食らった。

 今度は右肩だ。


 鉄パイプで一撃入れられたみたいに鈍い痛みが走る。



 左手で肩を抑えながらも、攻撃が来た方を素早く見た。




「ゲール……ゲルッ、ゲゲル!!」




 また姿を現すカエル野郎。

 その鳴き声は何処か満足気に聞こえる。



 クソガエルめ……。




「おらっ、こんの、くたばれ!」



 走って一気に距離を詰める。

 カエルはそれを見て、高く跳ねた。


 フッ。

 何回このやり取りをやったと思ってる!


 それも織り込み済みだ!

 


 今までのやり取りで、俺は上手いこと自分の荷物の側に移動していた。

 素手以外で一番使い慣れた片刃の剣を拾い。



「――おっらっ、串刺しになれや!」 


 

 そうして跳ねた結果避けられないカエル目掛けて、狙いを定める。

 梓のあのブーツのように、空気中を足場に出来る訳でもない。


 ボスガエルは重力に従って、その後ゆっくり降りてくる。



 そこで、投げた。




「ゲルッ――」




 武器の投擲に慣れていない俺でも、このタイミングでは外さない。

 放たれた片手剣はカエル目掛けて一直線に飛び。


 そのままカエルの腹に突き刺さった。



「よしっ!」


「ルルルッ、ゲルッ、ゲルゲルゥゥ……」



 ボスガエルも先程の余裕の声から一変。

 悲鳴にも似た呻き声で鳴く。



 

 姿が見えるようになってからさっきまでは、同じことの繰り返しだった。

 舌が飛んできて、避けたり防いだりする。

 

 その後エネルギーが溜まったらまた姿が見えなくなり。

 獲物を狙うハンターの如く俺に不意打ちを入れたら、また姿を見せ……その連続だ。



 でもこれで均衡が崩れた。

 後は一気に攻めて――

   


 ――っ!? 





「――ゲッルッ!」



 

 ボスガエルが何かを吐き出した。

 接近していた俺は、慌てて体の前で手を交差。

 

 顔を守るその腕に、ビシャッと液体が浴びせられる。

 ジュワァァっと服、そして皮膚が焼けるような音。



 ――つぅぅぅう!




 アンダーシャツも含めた服は完全に溶け切っている。

 実際にダメージはそこまでなかったものの、夏の日差しに焼かれたように肌は真っ赤。

 

 ちょっと血が出てる場所もある。




 ――消化液かよ……。


 


「こんのカエル……全然男に優しくねぇぇ」 



 良くある衣類だけを溶かすエロい仕様などではなく。

 普通に人体に対しても影響を及ぼす液体だった。



 ただ幸いなのは食らっても骨にまで至るような攻撃力はないこと。

 多分、これがアイツの隠し玉だったんだろう。

 

 でもこれならポーションや薬草を飲み食いしながら、じわじわと追い詰めていけば――なっ!?


 


「ゲルッ――」




 ――ボスガエルが、逃げ出した。





「こんの、ちょマジでふざけんな!」



 上の層へと至る階段に向けて、ぴょんぴょんと跳ねていく。

 慌ててその後を追った。


 

 姿を捉えて第2ラウンド。

 そして奴の隠し玉を引きずり出して最終ラウンド、かと思ったら……。   



 ……どうやら、まだ第3ラウンドがあったらしい。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 



 既に4階層まで戻ってきてしまっていた。

 奴のお腹には、まだ俺の投げた片手剣が突き刺さっている。


 だというのに、奴の足取りは関係ないというように軽い。

 距離を1m詰めるのでもかなりキツかった。

 

 それに――

 


「ゲルッ――」



「ちぃ、っくしょう!――」


 

 いきなりまた消化液が飛んできた。

 逃げていたと思ったら、こうして突然振り返りやがる。



 全てを避け切ることはできず、太腿辺りが熱で焼けるような痛みに襲われた。


 

「くそっ……」


 

 伸びる舌での一撃は、良くも悪くも一直線なので回避がし易い。

 だが消化液はダメだ。


 くしゃみとか、咳みたいに物凄く広範囲に、液体が広がりやがる。



「ゲゲッ、ゲルゲルゥゥ……」



 攻撃の命中に満足したように、再び前を向いて逃げていく。

 また追いかけっこの始まりかよ、こん畜生!




「テメェ、マジでこんにゃろう! もうちょっと男が夢見られるような性能にしとけバカッ!!」



 この戦闘のイライラをすべてぶつけるように、意味の分からない悪態をつき。

 そうしてまた痛む足を懸命に動かすのだった。








「――はぁ、はぁ……くっそ……」



 さっきから、似たようなことの繰り返しだ。



 俺はこの追走劇に焦りを感じていた。

 正直に言ったら、死ぬ可能性は今までのボス程は高くない。


 それは今≪強者狩り(ジャイアントキリング)≫の発動が中途半端にしか感じられないことからも明らかだった。



 つまり、このボスガエル単体の強さ自体は、それほどでもないのだ。

 コイツの強みはタイマンの状態になるまでは、ずっと隠れるのが出来ること。


 ラティア達皆がいなくなる、言い換えるなら俺から離れていく毎に違和感は強くなっていたからな。


 そして1対1になっても、パワーが溜まればまた時間制限有りで隠れることが可能になる。



「こんなっ、クソがっ!!」



 追いかけっこが始まる瞬間、何とか拾うことが出来たマジックバッグ。

 そこからほぼ予備として眠っていた武器を取り出す。


 そして走りながら投げる。



 痛っっ――


 

 あちこちに露わとなっている傷が、消毒液に触れた時のようにジワッと痛む。


 

「ゲッッ、ルゥゥ!!」



 レイネ用の短剣だったが、ボスガエルはそれを上手く跳ねてかわす。

 ちっ……。



 痛みのせいで狙いがズレたのか。

 それともさっきと違って走りながらだからなのか。


 あるいは、その両方、かもな……。




「マズいぞ……このままじゃ……」




 俺がずっと懸念しているのは、自分がこのボスガエルにやられること……ではない。


 

「ゲル、ゲルゲルッ!」



「クッソ……3階層に来ちまったぞ……」




 ――そう、このままだと、もしかしたらコイツ、外に出ちまうかもしれない。



 ここが創作の世界で良く描かれる異世界なら、まだマシだった。

 外に出たとしても、そこが誰もいない自然に溢れた場所の可能性があるから。


 だがここが地球だということが、今となっては一番のネックになっていた。

 

 ――外に出ること、それは即ち人の生活圏にコイツが逃げ込むことを意味する。

 


 一発逆転を狙って【業火】を使うのも、最終手段としてはある。

 でも今それを使ってもし外しでもしたら……俺は果たして追いかける気力が残っているだろうか。



 

「何か、何かないのか……」



 

 コイツを逃がすわけにはいかない。


 考えてみれば、ボスの中でも、コイツに限っては、だ。

 外に逃げることの方がむしろ、ダンジョン防衛という意味では最適なのだ。



 ダンジョンという限られた場所よりも、広がる地上に逃げた方が、よっぽどコイツの隠遁能力は生きるから。




 逃がすことまかりならぬ理由はそれもあるが、何より――




「今、握手会の真っ最中だろうがっ!――」



 このダンジョンはイベント会場の近くにある。

 彼女達シーク・ラヴがその開催を何よりも楽しみにしていた。


 ファンを大切にし、俺にまで来てほしいと言ってくれる彼女たちだ。 

 今もなお、ファンとの交流をとても楽しみ、意義ある時間を過ごしているだろう。 


 そのシーク・ラヴが大事にしていたイベントを――




 ――コイツのせいで、そして俺が逃がすことで台無しにさせてはいけない!




「――待てやコラァァァァ!!」      




 何でもいい、一瞬でも足を止められれば……。

 その想いでまたマジックバッグから何だか良く分からない武器を取り出す。


 

 どうやって入れたか思い出せない、50DPで購入した、薄く紫色に光る鎌。

 それを投げつける――




「――ゲルッ!?」


「あっ、当たった」




 お尻に突き刺さり、ボスガエルが動きを止めた。

 っしやぁぁ!

 

 本当の第3ラウンドと行こうぜ、このクソガエルめ!!




□◆□◆Another View ◆□◆□ 



「――美桜(みお)ちゃん、実物だとやっぱり暗めだね!」


「あ、あはは……どもね」



 短い握手時間の中、来てくれたファンの少女の一言が突き刺さる。



 ――ウチは片方が切れた蛍光灯か。



 別に暗くしたくて暗くしてるんじゃないのにな、と。


 でも午後の一般の部が始まって、同内容のことをもう既に何度も言われていた。


 

 ――うん、慣れちゃったな……。




空木(うつぎ)さん、あのドッキリの演技、凄く良かったです! 後、誕生日おめでとう!」


「わぁぁぁ! ありがとうございます! 嬉しいです、とっても!」

 


 自分よりも年上の、大学生くらいの女性が純粋に褒めて、そして祝ってくれる。

 こういう普通の人もファンでいてくれることに、少なからず驚きがあった。

 

 ――ウチ、シーク・ラヴじゃそこまで目立たたない立ち位置だしな……。



 何より他のメンバーが凄すぎる。

 ただそれで別に腐るわけでもなく、空木は普通に受け入れていた。

 

 どうしようもないことはもう、自分が何をやっても無駄なのだ。

 だから置いておく。


 長い物には頭から巻かれに行け、うん、それに限る。


 

 空木は自分の中に生まれた驚きに一度蓋をし、次のファンとの握手に備える。



 ブースに入って来たのは、眼鏡をかけたちょっと暗めの男性。

 30代くらいだろうか、あまり人生楽しめてなさそうな印象だった。


 でも空木は特にそういうことに対して偏見は持っていなかった。

 ちゃんとお金を出して、握手券を手に入れてくれたんだ。


 それに対してはちゃんと応える義務が、自分にはあると思っていた。



 ――ま、往々にして、外見と中身が一致しないってこともあるしね~。

 


 男性が入ってきて、空木の前に来て、手を差し出し、一言。

 




「――美桜(みお)ちゃんのその暗い感じ、勝手にシンパシーを感じてます! (さげす)んでください!」


「くたばれ」



 男性はスタッフに引きはがされながらも、どこか満足そうな表情を浮かべていた

 


 ――全くもって二つが一致していたぁぁぁ……。



 空木は溜め息を付きながらも、切り替える。

 極偶にああいう人もいるから、一々気にしてたらキリがない。


 それにファンの人も、こういう空木のブリザードな返しにも慣れていた。




「……ども。頑張って、下さい」


「…………――あっ、えと、こちらこそ、来てくれてありがとうございます」


「……いえ、じゃあ、これで……」


 

 次に握手した女性は直ぐにその場を離れていった。

 とても綺麗な美少女で、空木が一瞬固まってしまう程。



 ――日本語の発音も普通にできてたし、ハーフの人かな……。


 

 知らず知らずのうち、彼女が去って行った方を見つめていた。


 長くサラサラな金髪。

 今まで空木が知っている中でも抜群の容姿。


 

 ――思わず天使か女神が舞い降りたのかと思った。マジでビビったわ……。 



 そうして幻でも見たのかと思う経験は、一先ず脇へ置き。

 次の人へと視線を向けた時、空木はまた思わず息を呑んだ。




「――ウフフッ……ドッキリ成功、かしら?」


「……ばあ、ちゃん」



 空木は祖母がこっちに来るということは聞いていた。 

 自分達の歌のCDを買ってくれたということも。


 しかし、まさか握手会にまで訪ねてくるとは思いもしていなかったのだ。

 そのために、空木は一瞬頭が真っ白になり、その間思わずアイドルではなく素の自分になっていた。



「さっきの女の子、綺麗だったでしょ?」


「え? ああ、えっと……うん」


「あの子、おばあちゃんがシーデーをゲットするのを、助けてくれた女の子なの」


「あの子が……って、ばあちゃん、何度も言うけど“CD”ね」

 

 

 意外なことに驚きの声を上げ。

 また出口付近を視線が勝手に追っているのに、自分で気づいた。



 そうしてふと我に返り、時間を気にする。


 午前のファンクラブ会員の人達と違い。

 午後の一般の部は、1人の握手時間は10秒もない。



 相手が身内とはいえ、ずっと話すわけにもいかなかった。



 だが意外にもスタッフ、そして次のファンは理解ある人達だったらしい。

 


「おっと、ストップウォッチが……」


 

 体格のいい、しかし細かな性格の柔道部出身女性はわざとらしくストップウォッチを落として。



「あれ? あっちで何か音が……梨愛(りあ)ちゃんのブースで何かあったのかな~?」



 30代独身っぽい見た目で、仕事は出来るが闇を抱えてそうなお姉さんは白々しく後ろを向いて、一時何も見てないフリをした。




 ――……有難いけどさ、だからこそ、そういう人たちを蔑ろにできないから。うん、あんまりばあちゃんだけを贔屓(ひいき)は……できないよ。



 空木は捻くれていながらも、何だかんだファンやスタッフをも大切にする優しい子であった。



「――フフッ、誕生日おめでとう。じゃ、またスマホでメールするから」  

「えっ、あれ、ばあちゃん、話――」


「はいこれ、お土産の芋クーヘンだから、食べてね。じゃあまた後で」

 

 

 そうあっさりと言って、祖母は誕生日プレゼントだけ渡し。

 足早にブースを出ていったのだった。



 ――こっちから謝る前に出てっちゃった。スタッフさんとお姉さんのナイスアシストががががが……。

  



「あ、あはは……逆に気遣ってくれたっぽいね、お祖母さん」


 

 次のお姉さんが苦笑いしながらもフォローしてくれる。



「……ごめんなさい、それと、ありがとうございました」



 空木は申し訳なさ一杯になり、心なしお姉さんの手を強く握った。

 そして空木は心の中で誓う。



 ――ばあちゃんめ、ウチが売れた暁には、脂肪糖分たっぷりの贅を凝らした高級品ばかりたらふく食わして、ぶくぶくに太らせてくれるわ!



 ……この言葉をもし彼女のファンが聞いていたら“流石捻ドルだな……”と口を揃えて言っただろう。



 それだけ彼女のファンの間では、空木が祖母を大事にしているということは周知の事実だったから……。

 


□◆□◆Another View End◆□◆□

  

本当なら、今週に重要な、本当に重要な用事があったはずなんですが、それもこのご時世で延期になりました。

でももうなってしまったのは変えようがないので、ポジティブに捉えるしかないですね。

こうして今書く時間をとれているのも、家にいる時間が増えた反射的な効果ですし……。


とりあえず……今日はもう寝ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >  ボスガエルが何かを吐き出した。  胃袋をひっくり返したのかと思った(カエルなので比喩ではない意味) > アンダーシャツも含めた服は完全に溶け切っている。 > 実際にダメージはそこまで…
[一言] おぉ、ダンジョンボスの職務放棄 ダンジョンボスとはなんぞ?と言う深いイ話になりそうですがw 空木グランマ研究生入り確定か!?(東スポ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ