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179.お前がここのボスか……!

昨日はお休みをいただきました。


折角お休みするんだから、しっかり休まなければと早くに布団の中に入り。

しかし目は不思議と冴え、眠気が中々襲ってこず……。


「折角休むんだ、眠らなければ……眠らなければならぬ!」


そう思えば思う程頭が回り、そうして気が付けば、外では鳥さん達がちゅんちゅんと鳴いておりました……。


……あれ、私は果たして何をしていたんだろう?



いや、もうどうでもいいですね、はい。


また最初、主人公視点で、途中第三者視点に変わります。


ではどうぞ。





 ラティア達と離れて、俺は言葉通り家に帰った……わけではなく。

 自分の中に広がる違和感が最高潮に達するまで、ずっとその場にいた。


 違和感は時間を追うごとに高まっていき、体感にして1時間くらいか、あるいはそれ以上しただろうか……。





 その得体の知れない違和感は、とうとう“自分を害する者”という血肉を得て、俺に危機感を抱かせた。





「…………」



 ――いる。


 確実に、この空間内に何かがいるとはっきりわかった。

 しかし、この目では捉えることが出来ないでいる。



「ちっ……どこだ、どこにいやがる……」



 姿が見えないことに焦りが生まれてくる。

 いることは分かってるのに……。



 それから5分くらい、ずっとそんな状況が続いただろうか。

  



 体の向きを変え、あるいは視線を上下左右あちこちに動かし。

 この広間をくまなく把握――




 ――しようとした時、突如背中に衝撃が走る。




「っっっ!?」



 いきなり鉄球をぶつけられたみたいに前へと吹き飛ぶ。

 息が詰まり、(まぶた)の裏に一瞬、チカっと火花が走った。



「くそっ――」

 


 上手く受け身を取って立ち上がる。

 衝撃の襲ってきた方を見るが、そこには何の姿もなく。




 ――どうなってる……全く姿が見えないぞ!?




 普通とは一線を画す敵、“ボス”がいる……その感覚はあるんだ。

 でも、その尻尾がつかめない――





「――がっ!?」



 

 今度は腹に不意打ちを食らう。

 プロボクサーの重いストレートがめり込んだような、そんな衝撃。


 体がくの字のように折れる。

 その時、更に追い打ちだと言うように一発、頭頂部を殴られた。

 

 

 



 全く見えない。

 何だよこれ。

 ……まるで“灰グラス”を掛けたみたいに、透明な敵を相手してるみたいで――



 ――……“透明”!?

 


 頭は思考を巡らせつつも、体は背中から思いっきり地面に着地する。

 そのまま転げまわる……ことにはならなかった。




「――っっっ!!」  


 


 タイミングを合わせ、地に手を付き跳ね上がる。

 体勢を立て直し、攻撃が来た方を睨みつけた。


 うっすらと俺の視界に赤色の線が入ってくる。

 ……血だった。


 さっきの追い打ちの時か……。


 だがそれがかえって頭の中を冷静にさせた。

  


 

 ――目の前、数メートル先、赤色が空中に浮遊している。




 俺の血だろう、その赤い液体は宙の一点に固定されるように浮いていたのだ。


 かと思うと、赤色はグインと勢いに乗って、俺からドンドン離れていく。

 引っ張ったゴムが手を離した拍子に戻っていくように。

 

   

 血はあるところで止まり。

 何かにパクリと食べられてしまったみたいに、一瞬にして見えなくなる。

     


「――へへ。ようやく見つけたぜ、お前がここの“ボス”か」




 俺が直感の部分だけでなく、ちゃんと視覚として“いる”と認識したからか。


 血が食べられた周囲の空間がブレる。

 空気に溶けるようにして隠れていた“そいつ”は、遂にその姿を現した。


“カメレオン”のように周囲の風景に同化していたのが、“大ガエル”の緑色に、その体色が一瞬にして変わる。

 



「――ゲルッ……ゲルッゲルゥゥ!」




 巨大な達磨(ダルマ)みたいな体型。

 ボスガエルはその舌を出し入れして俺を威嚇する。


 息の出し入れで伸び縮みする昔のおもちゃみたいに、その舌は長く伸び。

 そしてその舌先は鉄球でも仕込まれているのかというくらいに丸く膨らんでいた。


 ……さらにそこには、俺の血がちゃんとついている。





 ――ボスガエルとの第2ラウンドが始まった。




□◆□◆Another View ◆□◆□ 



「ふぃぃぃ……午前の部、終゛わ゛っ゛た゛~」


 

 仕事終わりのサラリーマンみたいな声を出す。

 空木はただでさえ疲れたのに、更に午後の部が控えているのかと思うとぞっとした。


 それに、その後は研究生のお披露目を兼ねたプチライブだ。



 ――それまで……ウチ、生きていられるだろうか……。



 重くなる足に何とか鞭を打ち、休憩スペースへと戻ろうとする。

 そこで、同じように戻ろうとしていた白瀬と逸見に丁度出くわした。



「……うわっ、改めて見ても、飛鳥(あすか)ちゃん、凄いね、その恰好」

  

 

 始まる前にも目にしてはいたが、白瀬の姿を見て空木は再度そう口にする。



「……何、美桜(みお)、何か文句あるの?」



 喧嘩腰の白瀬を、隣にいる逸見が宥める。



「も、もう! 飛鳥ちゃん、そんなこと言わないの! 美桜(みお)ちゃんも、飛鳥ちゃんを褒める意味で言ったんだから……ね?」



 同意してくれという逸見の視線を敏感に察知。

 空木は素早く頭を回し、白瀬に向けて笑顔を浮かべた。




「う、うん! ウチ、そういう意味で言ったんだよ! それ、あれでしょ? 有名なアニメキャラのボディースーツの。飛鳥ちゃんめっちゃ似合ってる、うん!」



 白瀬がしているコスプレをさして、あえてそう表現する。

 ピッチリと体に張り付いたパイロットスーツ。

 

 体の線がハッキリと浮かび上がっていて、その体形の良さが分かる。



「……“プラグスーツ”ね、まあいいけど」



 細かく訂正はするものの、褒められて悪い気はしないらしい。


 照れているのか、白瀬は頬を赤くしながらもそっぽを向く。

 胸の下で肘を曲げ反対の腕を掴み、それで胸が押し上げられていた。


 

 ボディーラインがハッキリする衣装とも相まって、今の白瀬はとても色っぽい見た目をしている。





 でも悲しいかな……。






 ――ウチは知ってしまっている、その胸が偽物(パッド)であると……。   




 他のメンバーは知らないだろうが、空木は自分の目は誤魔化せないと心の内で嘆息する。

 


「ウフフッ、良かったわね、飛鳥ちゃん! 褒められたじゃない」


「ま、まあ……いや、別に、それほど大袈裟なことでも、ないですし?」 

「またまた~。照れちゃって、可愛いんだから、もう!」



 視線を転じると、逸見はとても大人っぽい衣装をしていた。


 基本はアイドルらしい可愛さ溢れる造りになっている。

 だが逸見のそれは同時に、セクシーさも備わった大人仕様だった。

 


 胸元は大きく開いていて、その大きな2つの果実が見え隠れする。


 足元のスカートは一見普通のように見えるが、実際にはスリットがついていた。

 そこから細くて長い、とても魅力的な脚がチラチラと覗く。



 逸見自身の魅力と合わさり、大人な女性の色香漂う完璧な仕上がりとなっていた。



「…………」


「? 何、美桜、どうかしたの?」


「ああ、ゴメン、何でもない何でも……」


 

 ぼーっとしていたことを指摘され、慌てて首を振る。

 そして空木は逸見の胸元から、その視線を白瀬の物へと移す。

 


 ――……うん、何にもない、何にも……。



 特に深い意味はなく、スッと浮かび上がって来た言葉をそのまま頭の中で告げただけだ。



「……やっぱり、何かあるんじゃないの? 黙ったままだし……」

  

「そうなの? 美桜ちゃん、何かあるんなら、遠慮なく言ってね?」



 白瀬と逸見二人に心配され、空木はまた慌てて手を横に振った。

 ただ、やはりその視線は白瀬から逸見の胸へと移っていて……。




 ――うん、有るな、物凄く有る……。


 

 深い意味は無い。

 無いったらないのだ!






「――で、どうだった握手会? ウチ、もうくたくたでさ~この後最後まで持つかな……」


 ケータリングで適当に昼食を手に取り。

 3人はメンバー用の休憩スペースへと向かう。


 空木は間を持たせる意味で、二人に話を振る。

 

 特に中身のある内容が返ってくることは期待していなかった。

 だが、その想像はある意味で、裏切られる。



「…………」 


 

 白瀬は答えず、下を向いていた。

 それを見て、逸見が心配そうに声をかける。



   

「……飛鳥ちゃん、元気出して?」


「いや、別に、私、全然元気ですから」


「…………」




 ――え、ナニコレ? 珍〇景?

 

 

 空木は内心、頭を抱える。

 何で何気なく振った話題で、お通夜みたいな雰囲気になってんのか、と。


 気丈に振舞ってはいるが、白瀬は明らかに落ち込んでいる。

 逸見はそれを励ましているので大丈夫そうに見えるが……。

 


 ――うわ~……何か六花(ろっか)さんも微妙に辛そう。



 聞いてしまった自分が悪いのか、と空木は罪悪感を感じ始める。

 でも何があったのか聞いてみて、それでまた地雷を踏むのもな……、と躊躇する時間が続いた。


 その結果、選んだのは――




 

「――ウ、ウチ、じゃあ先行くね?」



 空木は逃げた。

 


 ――だってしょうがないじゃん!! ウチに出来ることなんてないって!



 逸見に目でも許可を求め、それを得て素早く移動を開始。

 グングン二人から離れていった。



 ――どうせ二人も待ち人が来なかったってことでしょ! ウチ、分かるもん!



 良く分からない言い訳を自分自身に並べ立てながら、空木は足を動かし……。




「あっ――」



 顔を上げた時、視線の先には志木がいた。

 笑顔でスタッフの人に挨拶をしている。

 

 それは紛れもなくシーク・ラヴのエースアイドルである志木(しき)花織(かおり)そのもので……。


 だが、空木はそれに声をかけることは出来なかった。





 ――え……嘘、笑顔の背景に、魔王がおる!?





 空木は幻視した魔王コスプレの志木に気圧され、その場を動くことが出来なかったのだ。

 先程白瀬のコスプレ姿を見ていたからか、ボンテージっぽい過激な魔王姿をした志木の幻を想像してしまい、首を振る。



「…………」


「…………」



 志木は何事もなく自分の隣を通過する。

 それを、ただ嵐が過ぎ去るのを待つがごとく、空木は黙って耐え忍んだ。


   

 ――しゃべるな、ウチ……動いたら……殺られる!!




 その時――



 ――prrrrrr,prrrrrr……。



 近くで携帯の鳴る音がした。

 してしまった。



「っっっ!?」




 驚き、思わずビクッと体を動かしてしまう。

 空木は発信源を睨みつける。


 

 ――ああ、そうだ、皆して携帯、預けてたんだった!



 視線の先には一つの組み立て式の簡易テーブル。

 その上に、何台かのスマホが置かれていた。


 握手会の間は使わないように、スマホをそこへと置いておくという彼女ら自身で決めた自主ルールだった。



「…………」



 ――ヒィッ!? 魔王花織ちゃんが振り返った!?


 空木は慌ててスマホ置き場へと近づく。

 そしてその鳴っているスマホを取り上げた。

 

 スマホはまだ振動を続けている。



 ――このアニメキャラのスマホカバー……“飛鳥”ちゃんのだ!



 空木は天啓を得た思いだった。

 これは神が自分に、魔王の下から即刻離れるようにとお告げになっているのだ、と。



 沸き起こる喜びを噛み締めながら、空木はその画面を見た。


 未だ着信を告げ続けるその黒い画面。 

 そこには端的に“(あずさ)”とだけ記されていた。


 

 先程自分が離脱した場所からは殆ど距離はない。

 空木はこれ幸いとスマホを掲げながら叫んだのだった。



「――飛鳥ちゃーん! “(あずさ)”って人から電話だよおぉぉ!」 


 

 声は直ぐに届いたのか、落ち込んでいたはずの白瀬が直ぐに顔をあげ、瞬く間にこちらに来るではないか。

 そればかりか、隣にいた逸見も顔を綻ばせ一緒に向かってくる。



「!? っっ!! 白瀬さん、空木さん、ちょっと――」 



 ――だけでなく魔王もキターーーーーーー!?



 どういうことだと混乱する頭に解決が与えられることは無く。

 直ぐに3人が空木の下に集まる。


 そうして何が何だか分からないままに、空木はスマホを持ち主に差し出したのだった。




 3人は空木から少し距離を取る。

 それから白瀬は改めて電話に出たのだった。




 

「何なんだ一体……」



 ――狐につままれたというか、置いてけぼりを食らったというか……うーん。

 

     

 良く分からない気持ちのまま、しかし。

 空木は切り替えて、どういうことだったのかと推測を始める。



 3人は“梓”という名前を聴いた途端、今までのことが嘘であるかのように一気に変わった。


 つまり、少なくともこの3人の待ち人というのはこの“梓”で決まりである。



 ――梓、梓、梓……どこかで、知っている人で、そんな名前、聞いたことがあるような……。



 今まさに人気絶好調のアイドルである彼女たち。

 まあ自分もそうだが、今はそこはいいと空木はどうでもいいことを脇に置く。


 

 そんな彼女たちが恋焦がれるかのように待ち望んでいる相手だ、やはりそれ相応の知名度か、あるいは人気のようなものがある相手。


 

 ――でも、花織ちゃんの親戚っていうか、知り合いで、そんな女性、聞いたことが……ん?



「えっ、梓……梓!?」  



 空木は無意識の内にその言葉を口にする。

 それが、沈んでいたヒントのかけらを掬い上げるきっかけとなるかのように。



 ――待てよ、何でウチは相手が勝手に女だと思い込んでいた!? いるじゃないか、“梓”と名の付く、とても有名な人物が!!




「……フ、フヘヘ……分かったぜ、答えって奴がよう……」

 


 某有名な少年探偵のように、謎の解答が分かった際の不敵な笑みを浮かべ。

 空木は3人の方を見る。



 そして、心の中でこう思った。







 ――“梓川(あずさがわ)(かなめ)”! 普通に男ですやん! 女ちゃいますやん! えっ、シーク・ラヴの主要メンバー皆して梓川要にお熱なんすか!? 





 


 ……その勘違いを正してくれる人は、ボッチ気質の空木の側にはいなかったのだった……。


    

□◆□◆Another View End◆□◆□ 

主人公の戦闘、多分、後1話か2話使うと思います。


第三者視点も……多分同じくらいか、それ以上はかかりそう、かな?



すいません、感想の返しは午後には時間を取りますので、その際に。

ですのでもうしばらくお待ちいただければ。



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― 新着の感想 ―
[一言] あぁ、空木ちゃんが、深みにはまってゆく キャラ的に香織様に狩られるんだろうなぁその内 網の目の地雷はもはや非人道的、踏むしかないよね ニイミ殿は普通に間に合わないよね かえるくん奥の手あり…
[一言] > 「折角休むんだ、眠らなければ……眠らなければならぬ!」 >そう思えば思う程頭が回り、そうして気が付けば、外では鳥さん達がちゅんちゅんと鳴いておりました……。 >……あれ、私は果たして何を…
[一言] 中学生でぼっちなのつらいね...
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