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178.ちょっと、先に向かっててくれるか?

お待たせしました。


また同じように、最初は主人公視点。

そして最後、第三者視点となります。


ではどうぞ。


「≪闇よ、刃となりて、揺れ刻め――≫」



 ラティアの詠唱が狭いダンジョン内に響き渡る。


 わらわらと群がる大おたまじゃくし。

 5階層に降りてきて、4体×2グループが合流。


 8体は流石に面倒だと判断したラティアは、即座に魔法を使おうと判断したのだった。



「んっ! しぃッ! ――ルオ、大丈夫!?」



 リヴィルは近づいてくる個体を片っ端から殴り飛ばす。

“導力”の使い時を見極めながらも、自分より前で体を張るルオへと声をかけた。

 


「ふんっ! せぁっ! ――大丈夫だ、前は“私”が守る! “ラティア”の方は、レイネ、任せるぞっ!!」


 

 ルオらしからぬ力強く張られた声。

 当然だ、今のルオは、“シルレ”の姿をしているのだから。



「分かってる! 完成まで、あたしが守っから! 心配すんな!」



 ラティアを護衛するようにして、レイネが二本の短剣を構えていた。

 討ち漏らしが出ないか、注意深く前の様子を窺っている。



「……とてもいいチームワーク。私達が手を……もとい、脚を貸す隙間すらない」



 俺と共に控えに回っている梓が、自分の真っ黒いブーツを指さしながらそう分析した。

 

 


「はは……まあ、そうだな」


 

 苦笑いを浮かべはするが、俺も同意見だと頷き返す。 



 相手の数があまりに多い場合、レイネとルオが場所をスイッチすることがよくあった。


 4人の中で一番タンクとしての適性があるのはシルレ……つまりルオだからだ。

 この場合にレイネがやるのはルオ・リヴィルの前衛が防ぎきれずに漏れてきたモンスターの相手。

  



「ッ! 2体潰したよ! ルオ、2匹こっちに回して大丈夫っ!」



 一方リヴィルはどんな相手でも、やることは変わらず。

 その能力を生かしてモンスターたちの数を確実に減らしていくパワーアタッカーだ。


 

 そして、時間が経過すると、戦闘は一気に形勢が傾く――





「――【シャドウ・ペンデュラム】!!」

  

 

 ラティアの魔法が完成する。

 梓と共にもしもの場合に備えて、毎回ちゃんと準備はしているが……。


 ……今回も、出番は無さそうだな。




 その後、生まれた禍々(まがまが)しい闇の鎌が、大おたまじゃくしを残さず八つ裂きにして葬り去り。



 俺たちはこの階層で一番厄介そうな場面を、無傷で乗り切ったのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 




「――ここで最後……だよな?」



 6階層の最奥。


 そこまでやってきて、俺は時計を確認しながらもそう呟く。

“8:57”ともう直ぐ、当初に予定していた集合時間になろうとしている。


 

「うーん……だと、思うぜ? パコピー達も、これ以上先は見当たらないって言ってるし」


「私も。精霊達に聞いてみたけど、特にこの先はなさそう」



 レイネと梓に視線を送っても、俺の呟きを肯定する答えしか返ってこない。


 本当ならそれでいいのだが、それだけでは納得しきれない理由があった。



「……攻略のアナウンスは、聞こえないけどな」


「ですね……モンスターを倒すこと、あるいは最奥まで来ることが条件ではないのでしょうか?」


 

 ラティアも俺の疑問に同意するように、思ったことを口にする。



「うーん……いつもの台座はあるんだけど、マスターの言う通り反応はないし……」


「だね……でもなんかここ、ちょっとボスの間っぽくない? ボス戦、あるのかな?」



 リヴィルとルオはこの空間内でヒントになりそうな所を調べていた。

 俺もルオと同じように辺りをグルっと一周りしてみることに。








 ……ふぅむ。


 

 いつも台座がある空間よりは随分広く感じる。

 一方で、ボス戦、つまり守護者と戦闘する場として考えるとちょっと窮屈。



 丁度ボスの間と台座のある空間の中間くらいの大きさだった。



「……梓、どうだ、こういうの、何か知ってるか?」


 

 一度皆の下に戻り、梓の考えを聴いてみることに。

 尋ねられた梓は数秒考えこみ、視線を上げるとラティアをチラッと見た。



「……ラティアが言ったように、多分、攻略の条件が違う。ボスを倒すのか、それか隠し通路の先にゴールがあるのか、それは分からないけど」   

「そうか……リヴィルはどうだ? 何か、思ったこと、あるか?」


 

 台座の調査を切り上げて戻って来たリヴィルは首を傾ける。



「うーん……私的には、ボス戦だと思う。でも、そのボスが出てくる条件は分からない」


「それは……何かそういうことが前にあった、とかか?」



 何かリヴィルの過去的に地雷があってもマズいので、出来るだけ言葉を選んで聞き返す。

 リヴィルは少し申し訳なさそうに眉を寄せ、俺に謝って来た。



「……ゴメン、何となくそう思っただけ、直感、だけどさ」

 

「……いや、大丈夫。リヴィルの直感は当てになることが多いからな。助かる」


 

 そうフォローを入れて礼を言っておく。



「……ん」


 

 小さくながら微笑み、リヴィルは頷き返してくれる。

 ……うん、大丈夫かな。


 そのリヴィルの言葉を前提に考えを進めようとすると、レイネが手をあげた。

  


「あのさ、隊長さん。ちょっといいか?」


「ん? 何だ」


「んーっと、あたしも何度か素直にボスが出てこなかったダンジョン、経験した事あんだけどさ……」


 

 そう前置きした上でレイネは頬を掻き、少し言い辛そうに口にした。



「“時間経過”だろ、“特定のジョブを持った人物”が必要な時もあったし……そうだ、“一定以上のパーティー数”なんて条件もあったな」


「へぇぇ……」



 関心しながらも、レイネが何故それを言い難そうに話したかを察した。

 要するに、今ボスが出ないってことは、結局今の俺達じゃボス出現の条件を満たせないんじゃないか、と。



 ダンジョンを攻略してきて、ダメージこそなかったものの。

 物凄い速度で攻略を進めていたので、それぞれの精神的な疲労度は多分少なくない。


 

 そんな中、最終的な攻略達成にまで至らないと口にすると、徒労感が凄いからな……。



 そういう面に配慮してくれたんだろう。




「――よし、まあ今日はこんなもんか」 



 俺は割り切り、皆に向けてそう告げる。



「モンスターもちゃんと倒してきた。氾濫するなんていう最悪の自体も、流石に今日明日には起こらないだろう」



 そこで言葉を区切り、梓を見た。

 梓は頷き、俺達に短く告げる。



「うん。それは安心してくれていい。私の経験則上、少なくとも二月くらい、氾濫はあり得ない」



 梓のお墨付きも得られたところで。

 俺達はボスのことは一先ず保留にして、今日は戻ることにする。



 それぞれ再び荷物を纏め、広間を出ようと足を動かし始めた。




 



 ――その瞬間、俺の中に強烈な違和感が走る。


 体の中を駆け巡る電流のようにそれは、ハッキリと感じ取ることが出来た。



「…………」



「? ご主人様、どうかされましたか?」



 足を止めた俺を見て、ラティアが振り返る。

 皆がそれにならって立ち止まると、違和感はたちどころに霧の様になって消えていく。



「……いや、何でもない」


 

 そう言って足を動かし、ラティア達も同じように歩き始める。

 そこでワザと足を止め、皆と再び距離をとった。


 するとやはり、俺の中に大きな違和感が生まれる。

 ドロッとした黒い違和感の塊が手のような形となって、俺の足を掴み引き留めるみたいに。




 ………。



「――皆、俺、DDを使って一旦“家”に帰るわ。先に地上に戻って、握手会向かってくれ」



 俺はそう言ってDD――ダンジョンディスプレイを取り出して見せた。

 いきなりのことで、全員が例外なく面食らった顔をする。


 ラティアとリヴィルに至っては、俺の顔を直ぐに確認。

 そしてその後は、何かあるんじゃないかとすかさず周囲に視線を配った。



 ……何で何かあるかもって分かるんすかね、鋭過ぎませんかい?


 

 

「いや、な? これから絶好調の大人気アイドルに会いに行くんだろ? 男としては、汗臭いままでは会い辛いわけだ。でも、もうホテルはチェックアウトしちゃったし……」 


「……本当に、大丈夫ですか?」

 


 ラティアが俺の目を真っ直ぐ見てくる。

 今までにない程の真剣な目つきで、ちょっと気を抜くと思わず視線を逸らしたくなるくらいだ。



「ははっ、鍵も持ってるし、まだまだ午後の部まで時間はあるだろう? むしろそっちがもたもたしてたら、俺の方が早いかもな~」


 

 上手いタイミングを見計らって、ルオやレイネに視線を移す。

 流石に雰囲気から何かを感じ取ったらしく、二人の表情も強張っていた。



「……分かった。じゃああたし等、先に戻ってっから」


「え、いいの!? レイネお姉ちゃん……」



 意外にもレイネが一番に認めてくれた。

 戸惑うルオを促し、歩き出す。

 

 そしてレイネは途中、ラティアの側に近づき、何やら耳打ちをしている。


「…………」


「!! …………」




 俺には聞こえないようにされた密談。

 ラティアはレイネに何か言われ、頻りに頷いていた。



「……では、私達は先に戻っています。ご主人様、お気をつけて」



 二人での話し合いが済んだのか、ラティアはそれ以上は何も言ってこなかった。


 何を話してたんだろう……。


 

「ああ、そっちも、帰るまでがダンジョン攻略だからな」


 

 ……今から俺が、独りでその攻略をするかもしれないことには目を瞑り。

 少し茶化すようにしてそんなことを告げたのだった。




 ラティアが頷いたのをきっかけに、皆はこの広間を離れていく。

 最初こそルオが何度か後ろを振り返っていたものの、直ぐに姿は見えなくなった。




 そうして、この広間には俺ただ一人となる。




 ……それまでの間に、肥大化し続けた違和感は頂点に達し。




 ――単独でのボス戦が、始まろうとしていた。




□◆□◆Another View ◆□◆□ 



「――ひぃっ、ひぃぃ! 花織先輩、おこですよおこ!」


「か、花織ちゃんの顔、笑ってるのに、私には鬼に見えた!」



 午前の部の握手会が遂に開幕した。


 メンバー・ファン双方共に緊張していたものの。

 始まってみると、時間はあっという間に過ぎていった。



「……何、知刃矢(ちはや)ちゃんと美洋(みひろ)さん、二人して何かやらかしたの?」


 

 午前の前半が終わり。

 休憩スペースに戻ろうとしていた空木(うつぎ)は、その前で騒いでいる二人をジト目で睨む。

 

 このやらかし数トップを常に競い合う二人が揃っている。


 それだけで、何か問題が起こったと決めつけ。

 そしてその主犯がこの二人だと断定するのは、無理からぬことだった。



「ち、違います! 私達、まだ何もしていません! 美桜(みお)ちー酷いですよ!」  

  

 

 桜田は涙目で空木にそう訴える。

 名前・苗字に同じく“桜”を持つ者同士という謎の理由で、空木は桜田から勝手に親近感を持たれていた。 



 ――でもな~。この人、結構ポカやらかすからな……。


 

 それが大きな壁となって立ちはだかっていることを、桜田自身は未だ知らない……。



「“まだ”? ……やっぱりなんかやらかしたんじゃないの? 美洋さんはどうなの?」  


 

 話をもう一人の重要参考人に移す。

 飯野はしかし、何度も大きく首を振り、自分は無実だと訴える。




「わっ、私も何もしてないよ! 美桜ちゃん、信じて!」


「えー……」



 ――でもな~、この二人だしな……。


 

 桜田と飯野。

 空木にとってこの二人はやらかすという意味において、殆ど信用が無かったのだ。



「……はぁぁ。まあいいや、で。二人は何を騒いでたの?」


 

 休憩時間が無限にあるわけではない。

 無駄に疑い続けるよりも、本人たちに話させよう。


 そうしてボロが出たらそこをつつけばいい。


 空木は頭の中で素早くそう算段をつけた。


 

「いや、花織先輩の顔、見ました? すんごいニコニコ笑顔で、もう私、見た瞬間背筋が凍る思いでしたよ!」


「うわぁ~知刃矢ちゃん、それはご愁傷様に……私が見た時の花織ちゃん、もう笑顔で人を殺せるんじゃないかって感じだったんだ!」


「いや仮に何もやってないとしても、将来の禍根(かこん)の種をせっせと()いてるのは間違いなく二人だと思う」 



 空木は思わずツッコんでしまう。

 そうしてから頭が痛そうに呻き声を上げる。



「え?……いや、だから、私達何もしてませんって。ただ単に花織先輩が笑顔で凶器を生み出したって話してるだけで」


「そうそう! ブースから戻ってお客さんが見えなくなった瞬間、笑顔なのにすんごい威圧感あったんだ! だから無暗に近づかない方がいいよ?」




 ――ダメだこいつ等……早くなんとかしないと……。 

 



「えーっと……うん、二人が“まだ”何もしてないのは分かった」


 

 空木は頭痛に耐えるように声を抑えてそう前置く。

 ……この後どうなるかまでは自分の知ったことではない、と。



「……で? 花織ちゃんがそうなってる理由って何なの? 握手に来たファンの人が何かマズかった、とか?」



 先程までの自分のブースを思い浮かべながらそう尋ねる。

 空木の所に来たファンクラブの会員さんは比較的に男性が多かった。


 大きな偏りがあったわけではなく、肌感覚で大体6:4くらい。


 自分のテレビでの活躍を見て、それがきっかけに入ってくれた人。

 あるいは自分のようにちょっと暗めの男性で、波長が合ったと会いに来てくれた人。


 意外だったのは母親と連れ立ってきた小学生くらいの女の子のファンもいたことだ。


 それを見て嬉しい反面、過去を色々と思い出し、苦味が口一杯に広がりもしていた。



「あっ、いや、むしろ逆と言うか、来るだろうと思っていた待ち人が未だ姿を見せず、と言うか……」 



 ――何だか歯切れ悪いなぁ……あれ? さっきもなんか、似たようなことなかったっけ?



 桜田の反応を訝しみながら、そんなことを思い出す。



「あれ? ということは……ああ、やっぱり。じゃあ知刃矢ちゃんの所にも、来て、なかったり?」


 

 飯野のその反応にも、空木は違和感を抱く。

 何だかその言い方だと、まるで恰も同じ対象の人物を想定して話しているかのようで……。



「ああ、はい。じゃあ、美洋先輩の所にも?」


「うん……多分、他の皆の所にも、まだだと思う」



 ――やっぱり、同じ人を想像してしゃべってる?



 今の会話で、ほぼほぼそうだと当たりをつける。

 そして同時に一つの推論を間違いだと打ち消す。



 ――最初男だと思ったけど、じゃあ違うな。


 

 空木は二人が具体的な名前を挙げない所を見て、共通の親しい知人、志木の従妹か親類か、その辺りじゃないかと想像を進める。



 ――共通の相手を、全員がまるで初恋の相手でも待つように語るなんて、そんなギャルゲー・エロゲーみたいな展開、あるわけないもんな~。

  



「――メンバーのみなさーん、休憩、後10分でーす!」



 スタッフの一人が大きな声で残り時間を知らせる。


 

「うわっ! もうそんな時間っ!? うぅぅ……」



 空木はそれで話を打ち切る。

 その場を後にして、トイレや水分補給など、急いで準備を進めに向かった。



「あ~あ、時間使っちゃった……」


 

 ちゃんと聞いていたが、要するに志木の知り合いが来ないというだけのこと。


でも桜田や飯野までもが恋焦がれるように、その人物のことを未だに語っていた。



 ――中性的な、颯ちゃん系のカッコいい女性なのかな……まあウチには全く関係のない世界の話だけどね。




 空木はこの後も続く握手会に向けた準備で忙しかった。

 だから仕方ないのだ、勘違いを勝手に加速させてしまったとしても……。



□◆□◆Another View End◆□◆□

ちょっと……疲れました。

話の流れ的に出来れば更新したいんですが、もしかしたらお休みするかもしれません。


この後の睡眠の質次第ですかね……。



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― 新着の感想 ―
[一言] これはラの字達から事情をきいた海蟹さん達が握手会を繰り上げて終わらせて黒かおりんたちの熱い展開の(に見せかけた)参戦(修羅場)ルートですか?
[一言] あんなに楽しみにしてたのに...かおりん泣いちゃう。 ソロ終わったらみんなに補填しないとね
[気になる点] > 生まれた禍々(まがまが)しい闇の鎌が、 → |生まれた禍々《まがまが》しい闇の鎌が、  々は漢字扱いされない! [一言] >  関心しながらも、レイネが何故それを言い難そうに話した…
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