177.ちょ、煽るの禁止!!
主人公視点から再開します。
で、また第三者視点に移動。
前話の最後はまた明日にでも修正して閉じておきます。
感想の返しも、その際に……。
ですので、もうしばらくお待ちください。
では、どうぞ。
3階層から降りてきて、小休止の合間に時間を確認する。
入り始めたのが大体4時半くらい。
スマホの時計は“7:09”を示していた。
「ふぅぅ……もう4階層目か。えげつない攻略ペースだな」
今回は避けられない戦闘も多く、合計50体はモンスターを倒してきている。
にもかかわらず、この短時間でここまで攻略できていたのは驚異の速さだと言えた。
「マスターが提案してくれた3パーティー制、上手く機能してるね。実際に攻略、随分楽だし」
「そか。そりゃ良かった……そっちはどうだ? リヴィルは見た所、傷も無さそうだが……」
近づいてきたリヴィルの姿を確認しながら、奥で休んでいるラティア達へと視線を向ける。
2班のリーダーを務めるラティアが、ルオとレイネの体調を確認していた。
二人が元気に答えているところを見ると、特に問題は無さそうだ。
「うん。無茶でもカラ元気でもなんでもなく、本当に余裕。戦闘面はどんどん任せてもらってもいいよ?」
リヴィルは気負うわけでも見栄を張っているわけでもなく、真実、そう思っているのだろう。
「まあ、俺達か、梓のどっちかがマズかったらな……で、お前たちはどうだ、ゴッさん、ゴーさん?」
「――ギシィィ! ギィッ、ギシィ!」
俺の問いかけに、ゴッさんはまだまだ行けると主張するように、力強く返事する。
メスで、しかもあまり強そうなイメージのないゴブリンだが、最近のゴッさんの成長度合いは凄い。
俺と同じく1班の構成員として、今は中衛を担ってくれている。
ここまでくる中でも、一対一で同種の相手には一方的に勝てるまでなっていた。
それに……何だか外見面でも変化している気がする。
出会った当初こそ青汁のような濃い緑色だったが、個体として成長するにつれ、それが薄れて人肌に近づいてきている。
顔のクセの強さも段々と取れてきて、何と言うか……一歩、また一歩と人の女性の容姿へと変わりつつあった。
「GI……g,gggg」
感情が無さそうな無機質な声。
なのに、何だか申し訳なく感じているように、スモールゴーレムは小さく鳴いた。
「うーん……ゴーさんは、未だもう少し時間がかかる、かな?」
ゴッさんと同様、ゴーさんも強くはなっている。
ただどうしても盾役が多いこともあり、ゴッさん程早いペースではなかった。
外見はお腹部分の岩石が徐々に取れてきて、ダイエットに成功したみたいにスマートさを増している。
「――ハルト、どう? リヴィル達も、行けそう?」
「いや、俺達は大丈夫だけどさ……お前こそ、もうちょっと休んでても良いんだぞ?」
便宜上3班という風に分類しているが、そのメンバーは梓一人。
ゴッさん、ゴーさん含めると8人という人数になるが、それを1つのパーティーとすることはしなかった。
代わりに、俺達はそれを3つの班に分けて、攻略を担っていった。
「私? 大丈夫。ダメージ、一度も食らってない。3交代でやってるから、疲労もほぼ回復した」
銃の三段打ちの如く、俺の1班が攻略を担う際には、ラティア達2班、そして梓の3班は休憩。
ある程度進んだらこれが一個ズレて、ラティア達が攻略……と繰り返してきた。
本人もこう言っているし、無理をしているようにも見えない。
「まあ、実際に一番圧倒してたのは梓だしな……」
今までの戦闘を思い出し、そう呟く。
梓は珍しく自信あり気にドヤ顔で応じた。
「うん。握手会にも間に合わせる。それに、ハルトの言うこと、何でも聞くって言った。だから、さっさと終わらせたい」
まだ言ってんのかコイツ……。
はぁぁ……あまり気にしたら負けか。
「そか……まあ、ヤバそうなら言ってくれ。対応するから」
「わかった」
そうして互いの状態を確認し合った後。
俺たちは攻略を再開させたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ふんっ、はぁっ!――」
いつにない、迫力ある梓の声が飛ぶ。
太腿まで脚を包み込む漆黒のブーツが、次々とモンスターへとめり込む。
「ギィッ――」
「ギギッ!?――」
ゴッさんよりも一回り大きい、おそらくオスのゴブリンでも、スーパーボールの様に軽く飛ぶ。
「っ、しぃっ、せっ!」
地面を駆け、かと思うと。
時には宙に透明な足場があるかのように空を蹴る。
自由自在に舞うその姿は戦闘中だというのに、優雅ささえ感じるものだった。
「タタッ!? タタタッ――」
腕の生えた巨大なおたまじゃくしのようなモンスターも、その速度についていけない。
地面に付いた二つの巨椀を前に構え、何とか防御の姿勢をとる。
「邪魔――」
だが梓は文字通り、それを防御の上から一蹴してみせた。
単純な蹴り。
だが、その細身からは想像もつかない程の威力が乗っていた。
「ガッ――」
気持ち悪い呻き声が漏れ、岩壁に叩きつけられる。
ドリルでも使ったのかというくらい、大オタマジャクシはギュルギュルと回転しながら壁にめり込んでいた。
「ふぅぅ……終わった」
梓は会戦後、1分と経たずにモンスターの群れを始末したのだった。
「凄いねぇ……アズサお姉さん」
「……ああ、“あの”カズサの妹なだけある。装備も凄いが、純粋に、アイツ自身が強いよ」
俺の後方に控えているルオとレイネが、何度目かの感嘆の声を漏らす。
……俺からしたら、君らも大差ないでしょと言いたい。
4人も4人で、リヴィルとレイネが前衛で直ぐにモンスターを片付けてしまう。
だからラティアなんて、まだ一度も魔法を使ってないくらいだ。
それ程に2班にも圧倒的な余裕があった。
「……俺たちは、地道に頑張ろうな」
肩を落として力なさ気に、ゴッさんとゴーさんへとそう声をかける。
「ギシッ! ギシシッ、ギッシィィ!!」
すると、何故かゴッさんがファイティングポーズをとる。
シュッ、シュシュッとボクシングのパンチを真似て……。
……いや、何で梓に向けてやってんの?
梓は味方だよ?
「……ハルト、これは、何?」
俺達を振り返った梓が、丁度ゴッさんの動作を目にする。
戦闘を終えた所に、仲間が連れているモンスターに挑発されるんだ。
梓の声も珍しく低くなっている。
「あっ、いや、何でもないんだ、何でも! ゴッさん、戦闘したいって、気が逸ってるだけで、な! な!?」
何とかフォローしようと頑張ってみる。
が――
「……ギシィッ! ギギギ……ギギ……――ギシャッ!」
ゴッさんはニィィっと意味深な笑みを深める。
そのまま梓、そして何故かラティアを順に見てから俺にしがみ付いてきた。
そして見せつけるようにまた、梓とラティアへと笑みを向けて――
「――ハルトどいて。そいつ殺せない」
「……申し訳ありません、ご主人様。ご不快な光景がしばらく続くので、目を瞑っていただいてもよろしいですか?」
ギャァァァア!!
ゴッさん何で特にヤバそうなこの二人煽ってんの!?
ってか前から思ってたけどさ、ラティアと相性悪すぎない!?
何で、何が原因でそうなってんの!?
「ギシシッ、ギシィィ……」
だからぁぁぁ!
舌まで出してわざわざ喧嘩売るなっての!
――ゴーさん、コイツ何とかしてぇぇぇぇ!!
□◆□◆Another View ◆□◆□
「ん? あれ、梨愛ちゃん、何キョロキョロしてんの? 不審者ごっこ?」
シーク・ラヴ握手会、午前の部開会を間近に控え。
空木美桜は不審な様子の逆井を見つけた。
既に会場入りを始めたファンクラブ会員の人の列を傍から眺め、何かを探している。
声をかけると、逆井はあからさまにビクッとして後ろに飛び退いた。
「うわっ、ビックリした……ツギミーじゃん、驚かさないでよ。――ってか不審者じゃないし!」
相手が空木だと分かるとホッと胸を撫でおろす。
空木は今の反応を見て、以前の番組のことを思い出した。
「えーっと梨愛ちゃん、前のドッキリのこと、まだ根に持ってんの? 流石に今日はドッキリ無いと思うけど」
「あっ、その、んと、そじゃなくて……」
――ん?
空木は内心首を傾げる。
歯切れが悪い。
違うなら違うとハッキリ言いそうな逆井だけに、空木は疑念を深めた。
「――あはは、美桜ちゃん、多分そうじゃないよ」
そこに後ろから声がかかる。
振り返ると、衣装に着替えた赤星がいた。
素のアイドルの姿を見せるために、私服で握手会に臨ませるアイドルグループもある。
しかし、シーク・ラヴは今日のためのアイドル衣装を準備してあった。
みんなそれぞれ、個性に応じて微妙に違う造りで、しかし、それをしっかりと着こなしている。
普段あまり着飾らない赤星も例に漏れず、用意された衣装+αで、小さなアクセサリーを幾つか身についていた。
「そうじゃないって……じゃあ、どういうことで?」
空木は内心では別のことを考えながらも、一応はそう尋ねておく。
彼女は、いつも腹に何か良からぬ考えを隠していそうな志木もあまり得意ではなかった。
が、赤星のことも多少の苦手意識を持っていたのだ。
陸上でも華々しい活躍を遂げ、さりとてそれを鼻にかけることなく。
ダンジョン探索士、そしてアイドルになってもそれは同じで。
赤星は日陰者の自分にも、こうして分け隔てなく話しかけてくる。
要するに、空木はキラキラと輝く相手が大体苦手だった。
……ちなみに陽キャ代表の逆井は、苦手度で2歩も3歩も他をリードしている。
「うーんとねぇぇ……ふふっ」
赤星は勿体ぶって考える素振りをした後、意味ありげに笑って、逆井を見た。
自分に視線が向けられたと分かり、逆井はギクッとする。
そして何かを隠すように怒って見せた。
「な、何だし! ハヤちゃん、何笑ってんの!? 意味わかんないし!」
ただそれは嘘臭さの残る仕草で、空木にもポーズだと分かった。
何かを覆い隠したいがための、嘘の怒りだと。
……まあ、分かったところでどうということはないのだが。
「ごめんごめん。――まっ、梨愛はつまり、待ち人が来てるかどうか、気になってるんだよね?」
「うぐっ!? な、何のことかな……あっ、アタシ! ちょっとチーちゃんの様子見てくるね!!――」
逆井は図星を付かれたように動揺し。
この場に居続けることは不利と悟ったのか、足早に撤退していったのだった。
「ごめんね、そそっかしくて。まあ、そう言うことだから。美桜ちゃん、梨愛を――ああいや、他のメンバー皆を、不審でも、あんまり気にしないで上げて」
「“皆”? はぁ……」
その訂正の意味が良く分からず、再び首を傾げる。
赤星に別れを告げ、一人、最後の準備を進めている時。
先程のやり取りが空木の中で思い出された。
「……そう言えば、颯ちゃんって、あんなに身の回りのアクセサリー、いつも付けてるっけ?」
お洒落にあまり拘らないサバサバした少女だという印象だった。
――まあ、初めてのファンの人達へのイベントならおかしくはない、か。
そう結論付けようとするが、やはり空木は納得できなかった。
「……梨愛ちゃんのあの態度も。あれ、絶対男でしょ……」
あんな分かりやすく慌ててたし。
先程の律氷や志木とのやり取りもあって、空木の中ではある一つの推論が急速に組みあがっていた。
――はぁぁ、現を抜かしておるわい、小童どもめ……。
茶化すようにして心の中でそう呟いて。
しかし、その後、空木はどこか諦念の混じったような溜息を吐いた。
「色恋、ねぇぇ……まぁ、ウチには関係ない事だろうけどさ……」
そう言って小さく笑って見せた。
しかし、その笑みには一見しただけでは分からないくらいの寂しさが混じっていることを、本人は気づかない……。
□◆□◆Another View End◆□◆□
感想を頂いて、ネタとして思いついた……。
勿論、以下、読まなくても良いです。
お遊び感覚ですので。
―――――
新海「(そう言えば……握手会、チケットはあると言っても、誰のベースから行けばいいだろうか。選択によっちゃ、ヤバいことになりそうな予感もするし……慎重に決めないと)」
――選択肢発生!!
①やっぱり、逆井のとこからかな? 一番付き合いも長いわけだし(梨愛好感度↑ ラティア好感度↑)
②うーん、皇さん、心配だな……ちょっと最初に様子見に行くか(律氷好感度↑ ルオ好感度↑ ????好感度↑)
③最近……志木の顔を直に見てないし、驚かせついでにアイツの所から、行こうかな(白かおりん好感度↑ 黒かおりん好感度↑ ????かおりん好感度↑)
④赤星の奴、自分のベースに一番に来るとは思ってないだろう……その冷静な仮面、今日こそ剥がしてやるぜ!(颯好感度↑ リヴィル好感度↑)
⑤あれ? 何でだろう、何か無性に桜田のことが心配になって来た。アイツ、こういう時ポカやらかしそうだし、念のため……(知刃矢好感度↑ レイネ好感度↑)
⑥……俺、嫌われてるだろうしなぁぁ……こういう所で、ちょっとでも白瀬の好感度上げとくか(飛鳥好感度↑ 梓好感度↑)
⑦何か、こういう時に逸見さんの所に行っとかないと、後が怖いかも……あの人意外と強かだしな……(六花好感度↑ ????好感度↑)
⑧むむっ! 飯野さん、あの人おバカだしなぁぁ、やらかしてないか、ちょっと心配かも(美洋好感度↑ ????好感度↑)
⑨……あのおばあさんのこと、いきなり思い出したな……あのCD、ちゃんとお孫さんと聴けただろうか……(美桜好感度↑↑↑↑↑)
⑩…………何でだろう、何か今日、何故か急に握手会、行けない気がしてきた……え、何この第六感、俺死ぬの!?(BADEND!! 刺されて死にます※ただし、全ヒロイン好感度60以上で別ルート発生→死にそう……にはなる緊急ボス戦発生、勝利が生存条件→全ヒロイン好感度↑↑↑↑↑)
――――
何かありそうだな、こういうの……。




