175.買いに、行けばいいんだろう?
お、お待たせ、しました……。
最後、第三者視点、となります。
お気をつけ、を。
では、どう、ぞ……。
後日。
ラティアが逆井の家に遊びに行った頃合いを見計らい。
「ふーん……まあいいけど?」
俺とレイネは、二人そろってリヴィルとの交渉に臨んでいた。
リヴィルは無下に断ることはせず、話を聴く姿勢を見せる。
「な、なあ! あれ、頼むよ! 消してくれっ!」
レイネが直球で要望を提示。
だがリヴィルは直ぐには反応を示さない。
首を傾げ、じーっとレイネを見る。
「……“あれ”? “あれ”って、何のこと?」
とぼけた態度を見せられ、レイネが焦れたようにリヴィルに近づく。
「おい、リヴィル分かってんだろ!? そ、その……あれだよあれ!」
「……もしかして、これのこと?」
分かっているだろうに、リヴィルはわざとらしくボイスレコーダーを取り出し。
そして慣れた手つきで再生。
音声が流れる。
“――隊長さんのこと食べちゃうぞ!”
「っっっっ!!」
レイネは一瞬にしてゆでだこのように顔を真っ赤にする。
「へぇぇ……レイネ、大胆なんだね。“えっちぃことは、ダメだかんな!”なんて口煩く言ってる割に……」
「だから! あたしは、別に、そう言う、その、隊長さんとえっちぃことしたいとか、そういう意味で言ったわけじゃなくて!」
“――隊長さんのこと食べちゃうぞ!”
「ふ~ん……」
「お前っ!! 一々再生すんな! ってか、何でそこだけ上手いこと切り取られてんだよ、嫌がらせか!?」
“――隊長さんのこと食べちゃうぞ!”
「ぬわぁぁぁ!!」
とうとうレイネが恥ずかしさに耐えきれず、一時撤退。
トイレへと逃げこむことを余儀なくされる。
「はぁぁ……リヴィル、あんまし虐めてやんな」
「ふふっ、虐めてはないんだけど。でもまあ、マスターが言うなら」
リヴィルは小さく笑ってから、ズボンのポケットにボイスレコーダーを仕舞い込む。
いや、あれは的確にレイネの恥ずかしいツボを突いてただろうに……。
「……で、条件は?」
改めてリヴィルへと音声削除の条件を尋ねる。
俺にとってのピンポイントの弱みというわけではない。
が、また3年生が始まると、今後家に入れない時間も増えてくる。
これ自体も、リヴィル達との家でのコミュニケーションの一つのように考えていた。
……だ、だよね?
リヴィルも、ガチで脅してるとかじゃないよね?
「……私がここで消しても、他にもデータ、残してるかもしれないよ?」
リヴィルの試すような言葉に、しかし俺は溜息を吐く。
「そこはリヴィルを信じてるから。さっ、条件を教えてくれ」
俺の言葉を受け、リヴィルはフリーズしたようにしばらく固まる。
……おーい。
顔の前で手を振る様に往復させると、ようやく我に戻った。
「…………ん」
しかし、視線は逸らされる。
長い沈黙の後、たった一言それだけ呟いて、小さく顎を縦に動かしたのだった。
……何でリヴィルまでほんのり顔赤らめてんの。
「レイネェェ。お~い」
トイレの前で、レイネに呼びかける。
実際にはトイレに閉じこもっていただけだったので、直ぐにドアは開いた。
ただ、それはとてもゆっくりで。
いきなりミサイルでも飛んでこないかと怯えるかのように、そーっとレイネは顔を出したのだった。
「…………」
「ほれっ、リヴィル、消してくれる条件、教えてくれるってさ」
レイネは外の世界を恐れる子供動物かの様に、恐る恐る首を動かす。
「ん。マスターには、今度私が酔ったら、優しくしてもらう」
リヴィルは視線を受け、頷きながら条件の一つを口にする。
俺は既に先程教えられていて、そんなことで良いのかと一も二もなく頷いた。
これで、揶揄われている訳ではないと察したのか。
レイネは外の世界へと一歩踏み出すかのように、ようやくトイレから出てきたのだった。
……はぁぁ、やっとか。
「……その、えっと、違うから」
消え入りそうな声で、レイネが呟く。
何とかその声を拾い、良く分からないながらも頷き返しておく。
「別に、隊長さんが嫌とか、そういうんじゃないし。いきなりえっちぃことがダメって、だけだし……だから、その、えっと、色々と、違うから」
そんな不貞腐れるように言わんでも。
「ああ、分かった」
「ん……ならいい」
その一連のやり取りを見ていたリヴィルは小さく笑う。
「……で、いい? レイネの条件だけど、そうだね……」
リヴィルは既に決めているだろうに、勿体ぶった様に考える仕草をしてみせる。
そしてレイネを上から下までじーっと見定め、頷き、口を開いたのだった。
「レイネにしてもらうのは――」
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「うっ、うぅぅ……」
「ま、まあ、その、な? ちゃんとリヴィルも目の前でデータ、消してくれたんだし、頑張ろうぜ?」
目的地に向け、二人で歩いている最中。
これ以上ないというくらい恥ずかしそうに、レイネは体を縮こめている。
「うぅぅ……たいっ――」
いつもの“隊長さん”という呼び方を口にしようとし、レイネはハッとする。
そして、またそのこと自体が恥ずかしいと言わんばかりにプルプルと震え。
目尻にうっすらと涙を浮かべながらも、何とか俺のことを呼び直す。
「“ご主人、様”……」
既に頂点に達してる恥ずかしさのやり場がないのか、メイド服のエプロンを両手でキュッと強く握りしめる。
――そう、今、レイネは“メイド姿”をした“メイド”なのだ。
「お、おう……ま、頑張ろうぜ、パパっとCD買って、パパっと帰ろう、な?」
「う、うん……」
リヴィルの出した条件――“メイドさんレイネ”とお遣いを果たす。
そのために、何とかレイネを励まし続けるのだった……。
……リヴィルの奴、メイド服になんか因縁でもあんのかよ。
以前、リヴィル自身がメイド服を着て出迎えてくれた癖に。
なのに、なんでかそれ自体を根に持ってるみたいな感じも時々出してくるし……。
「うぅぅ、たいっ――“ご主人様”……何かさ、すっげぇ見られてる?」
「……まあ、なぁ……」
繁華街で目的の家電量販店に着いたはいいが、既に多くの視線の矢に突き刺されていた。
ここに来るまでも特にレイネは、珍しそうに道行く人にチラチラと二度見三度見されていたし……。
メイド服で出歩く人というのもそうだが、そもそもレイネ自身が人の目を惹くほどの美少女だ。
メイド服を着た美少女。
この組み合わせだけでも、十分注目される理由はあるわけだ。
「……あたし、やっぱり、この姿、可笑しい、のかな?」
今の服装に引っ張られてか、珍しく弱音を吐く。
表情も凄く不安そうで、でもそれがかえって庇護欲をそそる。
いつにない弱々しい姿に、ギャップ萌えなのか、抱き締めて守ってやりたい衝動に駆られる。
……って、何考えてんだ!
さっさと終わらせることこそ、レイネにとっての最善だ。
俺は一時の気の迷いを振り払い、音楽関係の売り場へと移動した。
「大丈夫、似合ってるから。――えーっと、あったあった! さっ、レイネ、さっさと買って、帰るぞ?」
「う、うん……」
素早く目的の物――シーク・ラヴのセカンドシングルをあるだけ11枚、もってレジへと進む。
リヴィルの注文は“何枚か”だったが、俺が一般の部で会いに行く人数を考えて、念のため全部買うことにした。
「えーっと、お客様、色々と大丈夫でしょうか?」
「はい? んと……」
テンパったような店員さんの一言に、俺も一瞬何のことか分からず。
だが、その視線を追うと、店員さんの目はメイドさんレイネ、そして11枚のCDを行ったり来たりしている。
……ああ、なるほど。
要するに、美少女メイドを引き連れて、なおかつ同じCD11枚レジに持ってくるって、頭大丈夫か、と。
「大丈夫です、同じCD11枚で合ってますんで――なあ?」
「え? えっと……うん」
話を振られたレイネは借りてきた猫のように縮こまりながら、小さく頷いた。
「そ、そうですか……」
店員のお姉さんは同性にもかかわらず、そのレイネの仕草にしばし見惚れていたのだった。
「よしっ、帰るぞ――」
店員さんを急かして会計を済ませ。
急いで店を出ようとした時。
売り場の近くで、あまりその場に似つかわしくない年配の女性を見かける。
「――えーっと、どれ、かしら? 一杯あって、どれがどれだか……」
キラキラと明るいポップや若者向け音楽のある売り場を、そのおばあさんはあっちこっちと行き来していた。
…………。
「えーっと……」
レイネも気づいたらしく、どうしようかと目線で問うてきた。
もう既に目当ての物は買った。
レイネの服装のこともあるから、今すぐこの場を離れて帰りたい。
でも……。
「……どれも同じに見えて、分からないわね……」
困ったように頬に手を当て、うな垂れている。
店員も忙しいのか近くにおらず。
…………。
「……悪い、レイネ、先、一人で帰れるか?」
俺の言葉を受け、レイネは一瞬驚いた表情を浮かべる。
しかし、それは直ぐに笑顔に変わり、しょうがないな、という感じに眉が下がって行った。
「……最後までお付き合いしますよ“ご主人様”」
「……スマン」
もう一言、レイネに感謝の言葉を伝えて。
俺達はその年配の女性に近づき、声をかけたのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「本当にいいの? これ、お兄さんが買ったものでしょう?」
おばあさんは手に持った1枚のCDと俺を交互に見る。
申し訳なさそうな表情で、本当に今直ぐにでもこちらへと返してしまいそうな様子だった。
「いや、大丈夫っす、本当。ランナーズハイならぬ、買い物ハイっていうのかな、予定したより3枚も買い過ぎちゃってたんで」
真実、今おばあさんに渡したCDは今さっき買ったばかりのシーク・ラヴのセカンドシングル。
11枚の内、1枚上げても全く問題ない。
おばあさんが探していたのが、偶然にも俺達が買ったやつだった。
だから逆に買い占めちゃったような感じになり、申し訳なさもあるのでこちらも丁度いい。
……“3枚買い過ぎちゃった”というのは、まあ、あれだ。
端的に嘘です。
でもさ、押しつけがましく“1枚だけ丁度余ってました”は、何か違うっしょ?
「…………」
おばあさんはしばし、口を開かず。
ただ俺と、横にいたレイネに視線を行き来させた。
そうして静かにスッと頭を下げる。
「……本当にありがとうございました。孫に会いにわざわざ北海道から出てきたんだけど、“シーデー”や売り場の中だけは全く右も左も分からなくって……本当に助かりました。あの、お代――」
何度も何度も頭を下げるおばあさんに軽く応じ、帰ることにする。
何だかこれ以上長居するとあまり良くないという直感が働いた。
「そうっすか、そりゃ良かった! お孫さんと一緒に、どうぞ音楽、楽しんでください! では!――行くぞ、レイネ」
「あ、ちょ、隊長さん――」
“ご主人様”呼びされなかったことすらもスルーして。
俺はレイネの手を取って、その場を素早く後にした。
何かおばあさんの呼ぶ声がしたが、難聴系スキルを発動。
そのまま俺達は家へと無事、たどり着いたのだった。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「あら……行っちゃった」
青年たちの後姿を遠目にしてから、女性は譲ってもらったCDを改めて見る。
孫と聴くために探していた……わけではないCD。
そのジャケットには、女性が大事に思う孫の姿がちゃんと映っている。
愛おしそうに、大事そうに、女性はそのCDを抱きしめた。
早くに両親を亡くして、孫は死んだ目をしたような時期が長く続いた。
女性も娘夫婦を失った悲しみは強かったものの。
娘に代わり孫を育てるという使命感があり、何とかやってこれた。
孫は幸いにも、ちゃんと自分を見失わず育ってくれて、今では元の関東の家に戻っている。
最初、一人暮らしをさせるのはとても心配だったが、アイドルになってからは寮暮らしらしい。
それに今、こうしてアイドルをやっている姿を見て、とても安心している。
「うん……あんな優しそうな男の子と、一緒になって欲しいわね」
とても綺麗な少女と連れ立っていた。
しかし少女がその青年に、全幅の信頼を置いていることの方が、女性には重要に思えた。
「ふふ……ちゃんとメールを送っとかないと」
移動して開封し、中身の握手券を確認しながら、女性はそう独り言ちる。
慣れない手付きで、しかし、一文字一文字確実に。
女性はメールをしたため、孫に送信した。
『優しい人に出会えて、おばあちゃん、シーデーちゃんとゲツトしました。握手会、今から楽しみです』
そのメールを送信し、しばらくの借りの住まいとなるビジネスホテルに戻り。
返信が来ていたので、女性はそれを確認する。
『ばあちゃん……“シーデー”じゃなくて“CD”ね。後さ、小さい“ツ”の変換くらい頑張ろう? 英語と違って、カタカナミスの言い訳は日本人として通じないからね、ウチには』
「もう……“美桜”は口煩いんだから……」
そうは言いながらも、女性は目尻の皺を深め、優しい笑みを浮かべていた。
孫とのやり取りそのものが楽しいから、というのも勿論あったが。
世間が捻くれ者アイドル、略して“捻ドル”などという孫が、とても優しい女の子だと、女性は誰よりも知っているから。
『……後、いつもと環境違うだろうから、体、壊さないようにホテルにずっといてもいいんだよ? ウチに会いに来て、体壊されるなんてのが、一番迷惑だからさ』
「もう……」
メール最後の捻くれた文章を読み。
女性はしょうがない子だと言うように、ゆっくりと息を吐いた。
今日会った男の子みたいに、この子を受け入れてくれそうな優しいお相手の子、見つけてあげた方がいいのかな、と。
□◆□◆Another View End◆□◆□
う、うぅぅ……。
ゴールデンウイークということで、文量も頑張ってみたんですが、流石に疲れました。
握手会への準備は、多分、これでいいはず……。
ちょっと今、頭が回らないので、もしかしたら書き忘れ等、あるかもしれません。
念のため、握手会前に1話予備にあるかも、と思っておいてください。




