170.更に天使っぽくなってきたな……。
アカン……ちょっと疲れた。
すいません、遅れまして……。
ではどうぞ。
『ぽわ~? ぽわわ! ぽわっ、ぽわっ!!』
戻って来た愛の精霊の隣。
以前と姿違わぬ風の精霊が帯同していた。
鞠のような球体で、腕の部分にある羽を忙しなく動かしている。
レイネを見つけた途端、精霊は騒がしさを一層増した。
「おぉぉぉ! 本当だ! 風の精霊だ、本物だぜ、凄ぇや!」
レイネもレイネで、物凄い盛り上がり様だ。
こんなテンション高いレイネ、そうそう見ないぞ……。
「天使族にとって、精霊、中でも“光”と“風”の精霊は特別な存在だと聞く。仲良くなれば、それだけ天使として必要な素養が満たされていく、と」
「へぇぇぇ……」
隣の梓が簡単にだが解説してくれる。
こういう時、異世界側の事情を知っている人がいると助かるな……。
「――で、どうだ~? そいつ、まともに話通じるか~?」
前回の自分の経験があるので、期待と不安半々で声をかける。
「今やってる。――で、どうだ? あたし、お前と仲良くなりたいんだが……」
レイネが身振りを交えて訴えかける。
それを受けての精霊の方はというと……。
『――拙者、力を貸すこと吝かではなし。ただ、それには儀式をもって、拙者の思いに応えてもらうことを要する』
「――お前普通にしゃべれんじゃねえか!?」
思わずレイネの側に駆け付けてツッコミを入れてしまう。
そして直ぐにこれは違う、と冷静になった。
……いや、“武士っぽくしゃべってて普通じゃないじゃん!”というツッコミ要素を見逃したとか、そういうことではなく。
『無礼者っ! 拙者に向けて何という言い草! そなた、名を名乗れ! 皆の者、出会え出会え! 戦であるぞ~!』
風の精霊は可愛らしい声で俺を叱りつける。
しかしその声に全く怒りの色は含まれておらず。
何というか、遊んでる感が100%で。
その証拠に、言葉の後『ふわふっ! フワフフッ!!』と謎の笑い声をあげているのだ。
……いやさっきまで“ぽわぽわ”言ってたやん。
何いきなりキャラ変してんの……。
「凄い……隊長さん、一体も契約してないのに、精霊の方から遊んでくれるなんて……」
「精霊にもモテモテ……ハルト……秘訣、教えて欲しい。何でもするから」
いや君らねぇ……。
むしろ二人こそ俺で遊んでないか!?
何が凄いのか全然分からん!
マジで!
俺ただ単にこのクソ精霊どもに、遊び相手としか認識されてないかもしれないんだぞ!?
これで何を喜べと、何を誇れと、何をもったいぶれと!?
『パコ~! ハルト、愛だパコ、愛の周波をビンビンパコパコ感じるパコよ~!』
ほらっ!
もうコイツ等俺をからかいの相手としか見てないんじゃないの!?
腹立つわ……。
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「“風竜”に関する素材を1つ、後は“風”の能力を纏った武器か……どう、隊長さん、ありそう?」
「ちょっと待ってくれ……今見るから……」
地面に腰を下ろし、DD――ダンジョンディスプレイを取り出す。
直ぐに『Isekai』を開いて、素材・武具に項目を絞って検索。
画面をスクロールしていくと、リヴィルを買うことになった町で、該当武器が見つかる。
「おっ、武器は案外すんなり見つかったぞ、ほらっ」
そこまで大きくない画面を覗き込むためか、レイネが体を寄せてくる。
あっ、いや、DDごと貸すから、そんな近寄らなくても……。
……体も、あの、そんなにくっつけ、ないでさ。
女の子の体って、何でこう、柔らかいのかね……。
「どれどれ……あ、確かに良さそうだな、これ! “ソニックダガー”か」
優れた逸品というわけでもなく、お手軽の125DPで購入が可能だった。
説明文も簡潔で、“風の属性を付与されたダガー”とのこと。
でも、これで武器の方は解決できる。
「ああ。で、後は素材の方だけど……」
さり気なく体をずらし、検索を再開。
しばらく見ていたが、中々目当てのものは見つからない。
「っていうか……素材ってどうなんだ? 頻繁に市場に出回ったりするもんなの?」
定番のスライムの残骸とか、ゴブリンの耳とか、そう言うのはちゃんと見かける。
でもやはり“竜”というだけあって珍しいのか、検索条件を変えても『Isekai』では見つからなかった。
『Isekai』はとても便利だが、現実にあっち側の市場に出回ってる物しか買えない。
それも、織部が訪れたことのある町の店。
これでないなら、じゃあ今は無理なのかも……。
「うぅぅん……あたしも、竜とやり合う機会はあんまりなかったな……」
“竜”という種族ですらそうなんだ、“風”という限定がつくと更に稀になるんだろう。
「――ハルト、レイネ。私……“風竜の鱗”持ってる」
そんな諦めムードが漂う中だった。
梓が自分の荷物、それも俺の“マジックバッグ”のような見た目の麻袋を取り出す。
茶色く、使い込まれた形跡があるそれに、梓は手を突っ込んでゴソゴソと漁る。
「……これ」
袋から手を取り出すと、梓のその手には黄緑色の鱗が掴まれていた。
それ一枚でA1用紙くらいの大きさで、しかし全く重さを感じさせない質感。
「うっわっ、すっげぇ! アズサ、本当に持ってんだな!」
レイネが興奮したように目を輝かせる。
どうやら本物らしい。
「凄いな……本当に持ってるのか」
「うん。地球に来る前。姉様と退治した時に譲ってもらった」
へえぇ。
カズサさん、あの人もシルレと同じ“五剣姫”だからな。
そりゃ実力は折り紙付きか。
「……で、それをタダでくれる、ってわけではないんだろ?」
俺は慎重に言葉を選びながらも梓にそう確認する。
それを受け、梓がコクリと首を縦に動かした。
その目はどこか挑戦的に吊り上げられている。
口元も……何かニヤッとしているような……。
「うん。何かを得るためには、何かを差し出さなければならない。それこそ、精霊との契約の様に、等価交換」
梓の言葉に、なるほどなと、納得する。
精霊も確かに仲良くなるために何か条件を課すっていうのが、不思議な感覚だとは思っていた。
ただそれも、強大な力を貸し渡すわけだから、精霊なりにその相手を見定める意味も含まれているのだろう。
今目の前の梓も、それを要求している。
単に一方的に与える関係でなく。
俺達は協力者だ。
「分かった。俺が用意できるものであれば、要求を聴こう」
その一言を待っていたと言わんばかりに、梓は前のめりに。
そして逸る気持ちをようやく口に出来たと言うように、興奮気味に提案をした。
「私が要求するのはただ一つ――」
ゴクリ、と唾を飲み込む。
一体、何が飛び出すんだ……。
「――ハルト、またハルトの衣服一式を要求する」
「…………」
…………。
えっと、ゴメン、何だって?
俺が反応を示さなかったことで、交渉が難航するとでも思ったのか。
梓は首を横に振り、抵抗を示す。
「ごねてもダメ。びた一文まけられない。何ならこれでも私が譲歩してる方。本当ならもっと吹っかける。提示したのはハルトとの友情価格」
聞いてもいないのに、早口に色んなことを捲し立ててくる。
「いや、違うから! 交換レートの比率に困ってんじゃねえんだよ! そもそも同じ天秤に乗るのがおかしいって意味だから!」
ってか“友情価格”とか言いながらその相手の衣類一式要求するって何なの!?
精霊と仲良くなる試練でならまだ分かる。
でもこれ、お互い同じ人だよね?
人同士で衣類要求されるって本当どういう状況!?
「むぅぅ……ハルト、分からず屋。私は好評だったファッションチェック企画で、また別のコーディネートが出来る。ハルトは素材を手に入れられる。お互いにとってwin―winでは?」
え、これ俺が悪いの?
俺がおかしいの!?
「はぁぁ……分かった。仕事として使うってんなら、まあいいか」
変なことに使われる訳でもないし。
……流石に無いよな、どこかの勇者みたいに?
俺は次に会う時に、何か着なくなった洋服などを持ってくると約束。
それで梓から素材をゲットしたのだった。
何だかな……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『ふむっ! 良い心がけであるぞ! では、拙者の力を、そなたに授けようぞ! ふわわ~――』
DPを払って購入したダガーと共に。
梓からある意味有償で譲り受けた素材を献上する。
風の精霊はレイネを認め、契約へと至った。
精霊からその証として、黄緑色の魔力を受け取る。
「……うわっ! え、何か、ええ!?」
レイネの変化に、思わず言葉にならない驚きの声をあげた。
魔力が体内に浸透すると、レイネの体が光り。
そして、レイネの背中に大きな変化が起きたのだ。
「羽が……生えてる」
レイネの服の上から半透明の羽が、徐々に生えて行っているのだ。
それは木の幹に枝を介さず、直接葉っぱが生えていくかのようで……。
だがそれは20枚前後のところで急激にブレーキがかかり。
その後3枚程生えて、止まる。
それでも、今のレイネは正に翼を付けた“天使”そのものに見えた。
金糸のような美しいサラサラの髪。
この世のものとは思えない程整った美貌。
そして、それらを祝福するかのように生えた綺麗な羽。
「……さっき、天使族は中でも“光”と“風”の精霊は特に重視するって言った」
隣で同じようにこの光景を眺めていた梓が呟く。
俺は無言の頷きでもって、先を促した。
「“風の精霊”と仲良くなればなるほど、その背に持つ翼は雄大に育つ。“光の精霊”と親しくなればなるほど、その容姿は神々しさを増す」
「つまり……その2属性は特に、天使っぽい見た目に近づくためにも大事にされている、と」
俺の要約に、梓は首を縦に振る。
なるほど……。
だからレイネは“風の精霊”だと分かった時、あんなにはしゃいでいたのか。
それに、レイネが“天使”だと聞いていて、羽が無い事に少しだけ引っかかっていた。
何か地雷でもあるのかな、と聞くのを躊躇っていたけど、そういうことじゃなかったのか。
元々持っていた翼を無くした、じゃなく。
何もないところからスタートして、徐々に理想の翼に近づけていく、って感じかな。
「……ふぅぅ――隊長さん、終わったぜ!」
変化し終えたレイネが、やり切ったという嬉しそうな顔でこちらに来る。
未だ団扇程度の大きさの小さな翼だが、それでも誇らしそうで……。
……良かったな。
「おう、お疲れさん」
労いの言葉をかけると、どこか照れ臭そうに笑い、レイネは頬を掻いた。
そして視線を逸らし、少し言い辛そうに尋ねてくる。
「あの、さ……どう、かな?」
「?……どう、とは?」
「えと、その……ああ、やっぱ何でもない!」
レイネは一人で何か完結させて、プイっとそっぽを向いてしまう。
その際、半透明の羽も消え、さっきまでのレイネの姿に戻った。
……それ、出し入れ収納が可能なのか、便利だな。
「いや、いいんじゃないか? 凄く天使っぽくて、うん」
分からんが、とりあえず今思ったそのままの感想を口にしておく。
「え? その……ほんとに?」
そんな恐る恐る振り向いて聞き返さなくても……。
「ああ、本当だ」
「っっっっ~~!」
声にならない呻き声をあげたかと思うと。
今度は真っ赤になって、また直ぐそっぽを向いてしまった。
……忙しいな。
「ばっ、バカ! べ、別に、隊長さんのために羽を付けたかったとかじゃねぇんだからな! さ、最初にこの姿を隊長さんに見せたかったとか、全然! これっぽっちも思ってなんかないんだから! 勘違いすんなよな!」
……そこまで必死になって否定せんでも。
その後、梓への礼も兼ねて。
DPへの交換はせず、ダンジョンの特性を選択することにした。
梓はもう既に戦闘能力は十分だろうが、【対竜戦◎】を献上。
800DPは決して安くはないが、今後の関係のことも含めての投資だと割り切る。
……いや、本当、お願いね、色々と。
そろそろ握手会の話に入ると思います。
その際、最初は第三者視点になるかもしれません。
志木さん達“シーク・ラヴ”って、確か12人って説明していると記憶してるんですが……。
簡単に説明すると
①志木さん達派閥5人(志木さん、逆井さん、赤星さん、皇さん、桜田さん)
②白瀬さん派閥3人(白瀬さん、逸見さん、飯野さん)
③中立派閥4人
の12名。
この中の③の一人、つまり未だ出ていない新キャラ視点で見て、今のシーク・ラヴってどんな感じなんだろう、みたいなことを書こうかと。
まだ案の段階なので具体的に決まってるわけではありませんが、一応お知らせしておきます。




