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167.え、その人!?

ふぅぅ。


ちょっと疲れました。


ではどうぞ。




『――嘘っ!? 新海、もしかして握手会、来ないつもりだったん!?』


「えっ……何かマズかったか?」

 


 俺の一言で、一気に画面向こうの空気が変わる。

 真っ先に反応したのは逆井だった。



『いや、ちょ、えマジで!? 何で!? どして!?』



 凄い勢いで理由を尋ねられる。

 見ると、皇さんも信じられないと言った風に呆然としていた。


 ……え、そんなマズいこと言った?


 あっ、ヤバい……椎名さんが鋭い眼光向けてきてる。


 うわっ、スマホを手に持った!!



 マズい、ちゃんとした理由を今ここで言わないと、直接の“オハナシ”に!! 



「その……あ、いや、多分さ、当日忙しいだろ? 俺が行ったら、ただでさえ大変だろうに、気を使わせるのも悪いしさ」



 咄嗟に口に出た言葉だったが、結構それっぽいことが言えた。

 こういう気持ちがあるのも嘘ではないので、一先ずこれで行く。



『……そう、ですか……』


『ああ、リツヒ、元気出して……』


 皇さんは理由を聞いて一応理解は示してくれた。

 しかし、あからさまに落ち込んだようにしょぼーんと肩を落とす。


 それを隣にいたルオが励まして……。

 

 

『…………』



 更に無言の椎名さんが、俺を画面越しに凝視してきていた。


“……本当に? 何か言ってないこと、あるんじゃないですか?”

 

 疑念に満ちた目が、そう語っているように錯覚する。

 ……くっ。



 目を逸らすと不自然に思われる。

 視線を固定していると、丁度そこに、赤星から声がかかった。





『――ねえ、新海君。私は、さ。来て欲しい、かな』

  

「…………」



 赤星の率直な言葉に、俺は直ぐには反応出来ないでいる。

 そこに、逆井が更に言葉を乗せてきた。



『あ、あのさあのさ! アタシも新海には来てほしい、かな、うん! 当日そりゃ忙しいだろうけど、さ……』



 尻すぼみになりながらも。

 逆井なりに何かを伝えようとしてくれたのだと分かる。



 画面の赤星も、それを分かって温かみある笑みを浮かべていた。

 そして、お道化るようにウサギの耳の横に両手を立て、それを耳に見立ててピョンピョンと動かす。



『新海君、どうかな? 来てくれたら、私、サービスするよ? あはは……』


「……最後、自分で照れちゃってるじゃねぇか……」


 

 あえて茶化すように指摘する。

 それが、多分そこまでして誘ってくれた赤星への、筋・礼儀のように感じたから。



『あ、あはは……あぁ~恥ずかしい』



 ウサギの耳を作っていた両手を下ろし、今度は火照った自らを仰ぐ手の団扇(うちわ)に。

 更にその照れを誤魔化すように人差し指を立て、ワザとらしく話を先に進めた。



『そ、それにね、新海君! 新海君が来なかったら、多分さ、志木さん、一番怒ると思うよ?』


「え、何で……そこで志木?」


 

 いきなり志木が話に出てきたことに戸惑う。


 そこに、いつの間にか復活した皇さんが。

 画面にズズイッと近づいて、力一杯に熱弁した。



『お、御姉様は! 凄く今度の握手会、楽しみにされてます! 陽翔様とは近頃顔を合わせてなかったということなので、特に! ――ねえ、椎名!!』


『え? えっと、はい。花織様は既に顔見知りなのに恰も初対面のファンとアイドルかのように会い……』



 急に自分へと振られ、少々考える間が生まれたものの。

 椎名さんは次々と言葉を紡いでいく。



『そうして握手するというシチュエーションに、悪戯心のようなワクワク感すら持ってらっしゃいました。あれは中々見れないレア乙女バージョンの花織様ですね、はい』

 


 加勢を求められた椎名さんは、特に他意は無さそうに淡々とした口調でそう告げる。

 だが、その瞳の奥が言っていた。



“これだけ言ってるんですよ? 私も、花織様を弄るとか結構踏みこんでるんです。ですから……来ますよね?”と……。



 ……背中に氷柱を突っ込まれたような寒気を覚える。

 

 

 俺、ダンジョン内で死ぬより、この人に殺される方が可能性高い気がするわ……。

 それか黒かおりんにやられるか、だな、うん。



『怒らせたら志木さん、怖いと思うよ? だから……どうかな?』



 赤星は勿論、逆井に皇さん、それにルオまでも。

 期待するような眼差しでこちらを見ていた。


 

 そこまで言われたら、なぁ……。 

    



「――分かった。ただ、確約は出来んぞ? 俺、これでも結構な暇人だし」


『うん! それは分かってるって! 新海が忙しいってことは……へ? あれ、新海、結構“暇”なん?』


 

 逆井が早とちりし、それに気づいて変な顔になっていた。

 ……ふふっ。


 

『うわっ、サイテーだし! 何なん!? その謎の引っ掛け! 新海、マジ意味分かんないし!』


「はいはい、ツンデレツンデレ」


『ツンデレ言うなし! それはレイネちゃんのことでしょ、もう!』



 うわぉ。

 レイネ巻き込み事故受けてる。


 まあレイネがツンデレムッツリなのは間違ってないが……。



 チャット内は笑い声に包まれ、しばらく和やかな空気のまま話は進んだのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



「……そっか。“研究生”になるのか」


『……うん。ボク、やってみるよ』



 その後、話はルオのことに移る。

 真剣な様子で告げたルオに、俺はしっかりと頷き返す。



「ああ、頑張ってやってみな。出来る限りのことは俺もするから」


 

 折角こちらの世界に来て、頑張ってみたいと思えることが見つかったんだ。

 少しでも背中を押してあげたいと思うのが人情だろう。



『ご主人……うん! ありがとう!』



 喜びで溢れたような笑顔を浮かべ。

 ルオは飛び跳ね、皇さんに抱き着いた。


 ……あ~癒される光景。

 世界が平和で満ちている気すらしてくる。



『良かったですね、ルオさん! よろしくお願いします!』


『うん、これからもよろしくね、リツヒ!』



 シーク・ラヴの研究生に、皇さんの推薦枠として入る。




 国や自治体の協力の下、“研究生”は同時に“探索士補助者”の資格獲得も融通される。


 勿論、試験は受けることになるが、他の“探索士に随行したダンジョン探索期間”という要件を大幅に緩和してもらえるのだ。


 それが事実上、一番大きな条件となっている。

 なので、実質的に“研究生になる”=“探索士補助者になれる”という風に考えられているのだった。



『それで、その、ご主人……』


 

 向き直ったルオは、少々言い出し辛そうに口をもごもごとさせる。

 普段からハキハキとしているルオにしては珍しい。


 それを見ていた椎名さんがルオの肩に手を置き、前に出る。



『新海様。私から説明します』


 

 進み出た椎名さんは、いつものような鋭く険しい表情をしてはいなかった。 

 ルオの保護者に対して、説明すべきことをきちんと説明しようという真剣さが伝わってくる。





「――……はぁ、なるほど」


 

 簡単にだが、話を聴かされる。


 椎名さん達の持っている懸念とは要するに、“ルオ自身”をアイドル候補にするのか。

 それともルオの能力を使って“その人物として”なるのか、ということだった。


 踏み込んで聞いては来ないものの、ルオの出自的に顔を前面に出してもいいのか、と。


 

 つまり、ちょっと遠回しに説明してはいるが、ルオの能力の方で出てはどうかってことだろう。


 

「まあ、それでいいと思いますよ。ルオも元からそのつもりだったんだろう?」


『え? えっと……うん』



 何か以前から、コソコソと能力でストックを作る練習をしていたし。

 さっきルオがこの話を受けると聞いた時から、薄々はそうだろうと思っていた。



『そうですか……ありがとうございます』


「いや、俺にお礼を言われても……最終的に頑張るのはルオ本人ですから」


 

 椎名さんから礼を言われるのはちょっとこそばゆいというか、違和感というか。

 なので頬を掻きながら、やんわりと否定する。


 しかし、今回は珍しく、下手での椎名さんは譲らない。



『いえ。御嬢様と親しいお友達が一人、近くにいてくださるのと、そうでないのとでは雲泥の差です。ですから、どっしりと構え送り出して下さる新海様には、感謝しています』



 しっかりと腰を曲げ、頭を下げてこちらへ分かるようにお辞儀をする。

 それだけ椎名さんが皇さんのことを思い、同時にルオとの関係を大事に感じてくれているのだと十分に伝わって来た。



「……まあ、そっすか」



 少々素っ気ないような返事になるが、それでも。

 顔をあげた椎名さんは、混じり気なしに、柔らかく微笑んで見せたのだった。



『……ルオ様が活動される際は、私が全力を持ってサポートします。危険も、可能な限り排しますから。ご安心ください』



 いや、何もそこまで覚悟完了形みたいに言わんでもいいんすけど。

 っていうか、多分ルオが芸能界で危険に晒されるなんて、そうそう考えられないから。


 本当、そこまで気遣ってくれなくても良いんだけどな……。

  


『ルオさん、ゴニョゴニョ……』


『だね、リツヒ。ゴニョゴニョ……』



 そうして椎名さんと話していると、後ろの二人がコソコソ話を展開していた。

 ……何、この見てて癒ししか生まない可愛いやり取りは?

 

 

『えっと……どうかされましたか? お二人とも』


 

 椎名さん自身も二人の行動の意味が分からなかったようで。

 困惑しながらも、どうしたのかと尋ねていた。



『――あの! 活動するなら実在して、それで特定の誰かに絞った方が、ルオさんの負担も少なくて、良いと思うんです!』

 

『えっとね! えっとね! で、もう候補の人は決めてあるんだ! 随分前から練習もしてたし!』



 長い間秘していた隠し事をとうとう発表するような調子で、二人は俺達に告げる。



『は、はぁぁ……まあ、そうですね』



 何が起きるのか良く分からないまま、椎名さんもとりあえず肯定。

 ルオは皇さんと頷き合って、うずうずしながら能力を発動する。





「…………あっ――」


『えっ――』

 


 ルオの【影絵】のストックが展開されていくのを見て。

 俺と椎名さんの声が重なった。


 

 お互い、予想だにしなかった、しかし。

 互いによく知っている人物。



 中でも椎名さんは、一番その人物のことについて熟知しているわけで――




『――“御嬢様”。これからはアイドルの先輩として、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いしますね?』




【影重】が終わり。

 現れた人物は、そう言って恭しく、しかし、どこか悪戯っぽく皇さんに対して、笑って見せた。



『…………』


 

 椎名さんはしばらく言葉が出ないように固まっていた。

 それからしばらくして、動き出した彼女がやっとのことで口にした――




『…………え? “私”、ですか?』




 その言葉に対し。


 椎名さんの目の前にいる“椎名さん”――ルオは、サプライズの成功にニィッと笑って見せたのだった。    

どういうことか、分かりましたかね?


ちゃんと伝わってればいいんですが……。



本当に極々簡単に言いますと……。

まあ要するに“きゃぴぃ! 夏生(なつき)椎名(しいな)! 2X歳! アイドル研究生として頑張りまーす!! も~う、私から目を逸らしたらおこおこぷんぷ~ん! なんだからね!!”(※注意:ルオです)


――って言うことです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 良かった変態勇者じゃなくて
[一言] まあ確かにルオの事情を知っててアイドルとしてデビューできる人物となると椎名さんしかおらんか。 ルオ椎名を見たときの逸見さんの反応が面白そう。
[一言] おや、これはるの字の新海パーティー離脱案件! と言うか、普通にまともに一緒に行動出来ないよね、アイドル活動始めたら、拘束長すぎて時間的な意味で。
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