161.一段落……だと思ったんだけど!?
すいません、端的に体調不良です。
ゆっくり寝て、大分マシにはなったんですが明日以降、もしかしたらまた唐突にお休みするかもしれません。
あまり無理しない方がいいかと判断しました。
申し訳ありませんが、あらかじめご了承ください。
ではどうぞ。
攻略を告げるアナウンスが流れ。
緊張から一気に解放される。
「ふぅぅ……っとと!」
疲労感がどっと押し寄せ、思わず膝に手を付く。
……パワーアップの時間は終了らしい。
そりゃそうか。
自分より強い敵と戦うためのジョブや能力だ。
ボスを倒し終えた今、その効能が残ってる方が変だし。
「っ! たっ、隊長さんっ!!」
「大丈夫!? どこか痛めたの!?」
「ちょちょ! 新海!? どしたし!」
だが、周りはもっと深刻に捉えてるっぽい。
血相を変えてレイネが駆けてくる。
それに一瞬遅れるようにして、白瀬や逆井も飛んできた。
い、いや皆さん、そこまで大袈裟にせんでも大丈夫なんすけど……。
全員が俺の周りを囲むように集まってきてしまう。
何とか無事だと知らせるためににぃっと笑って見せる。
「悪い……ギア〇カンドか界王〇みたいなもんで、ちょっと疲れたっぽい、はは」
「あん? かい……ちょ、どういう意味だよ! それより、滅茶苦茶しんどそうじゃねぇか!」
「そだよ新海! 大丈夫? すんごいキツそうだけど……ああ、吐く? えっと、ビニール袋は、うんっと……」
仕方ないとはいえ、レイネにネタが通じなかった。
俺の渾身の笑顔に至っては、逆井にはゲロ吐きそうな表情に見えたらしいし……。
≪強者狩り≫の副作用ぇぇ……。
「ああっと……レイネ、じゃあ頼まれてくれるか? 直ぐにラティア達んとこに向かってくれ」
「お、おお!」
「今日はもう引き上げよう。入り口で帰る準備進めるように伝えてくれ」
俺の指示を聞き終わるや否や、レイネは直ぐに行動に移った。
体が闇のように溶けて、数秒もしないうちにこの場を後に。
「新海、アタシは!?」
「ええーっと……じゃあ水を頼めるか、逆井?」
「ん! 分かった、口ゆすぐ用ね!」
いや、普通に飲み水用としてだが。
逆井の中では俺が吐くことは決定事項らしい……。
「んしょっと……」
逆井が避難させていた荷物を取りに行く間。
ずっと同じポーズもしんどいので軽く歩くことに。
「だ、大丈夫なんですか? 先輩」
「無理、してたりしないわよね……」
桜田や白瀬が特に心配そうにこちらを見てくる。
いや、本当に疲労感が凄いだけで、見た目ほどヤバくはないんすよ。
「大丈夫大丈夫……おっ」
と、思いつつ歩いていると、何か浮遊する存在が視界に入る。
風船のように宙を漂い、二つの羽を使って自由に羽ばたいていた。
『パコ~! “風の精霊”だパコ! ハルト、精霊だパコ!』
戦力外だった愛の精霊が踊り出さんばかりにそう叫ぶ。
おお、そうかそうか。
ダンジョンの最奥は魔力が豊富だから、精霊が住んでるかもって話だったな。
属性が違うとはいえ、仲間を見つけることができて嬉しいらしい。
「新海、はい、水!」
そこに、ペットボトルの水を持った逆井が丁度駆けつける。
俺は礼を言いながらそれを受け取り、開けて軽く口に含む。
喉を潤し、改めて風の精霊に相対した。
『ぽわ~ん……ぽわ~ん? ぽわわん?』
「えっと……」
やっべ。
言葉は聞き取れるのに、また意味が分からん。
「俺、陽翔。精霊と、話、したい」
何か初めて異星人を前にしたみたいな片言になってしまう。
身振り手振りも交えて会話したいという意思を伝えた。
『ぽわ? ぽわ、ぽわわ、ぽわわわ!』
おうふ……。
何か腕の部分についている羽をバタバタさせている。
ボディーランゲージを必死に使ってくれているのは分かるが、意味はさっぱりだ。
「えっと?」
“これはどうすればいい?”と、愛の精霊の聞こうとした、その時。
振り返った俺は、その光景を目にしてしまった……。
「――ヤバいですって! 先輩、とうとう独り言呟き出しましたよ! 梨愛先輩、どうしましょう!?」
「どうしようちーちゃん! 新海、やっぱりかなり無茶してたんだよ! 幻覚と会話するくらい疲れてるって、もしかしてどっか頭打ってたりしない!?」
…………。
――やっべぇぇ!
俺がなんかすんごい頭おかしい奴みたいになってる!
桜田と逆井、頭抱えちゃってるしぃぃ!?
いやこっちだよ、頭抱えたいのは!!
ちぃっ!
精霊とのやり取りはまた今度だ!
ここに居ついてるんだったら、またレイネを連れてきてすればいい。
今はこの状況を何とかしないと――
「――バカッ!」
うぷっ!?
甘い香りが、いきなり鼻一杯に広がった。
かと思うと、顔全体に柔らかい感触が押し付けられる。
頭の後ろに腕が回されていて……。
え、えっ。
何、何ですか!?
「……こんなになるまで、無茶、して……」
直ぐ頭上から降ってくるのは、白瀬の声だった。
ギュッとまた、抱きしめられる力が強まる。
それに伴って、顔に押し付けられる柔らかい感触も、一段と強くなり……。
相手が白瀬だということは、これはつまり……。
「ごめん。“私達”が……ううん。“私”が、弱かったからよね? こんなに無理させたのって……」
これは胸じゃない、これは虚乳……。
これは胸じゃない、これは虚乳……。
これは胸じゃない、これは虚乳……。
「私……強くなるから。後ろで守られるだけのお姫様じゃない。ちゃんと、あなたの横に立てるように、強く、なるから」
呼吸するたびに、女性特有の匂いが鼻一杯に広がる。
疲労でくたくたの体に染みわたるように。
顔に押し付けられるこの膨らみに、思わず手を伸ばしそうに……。
――って、ダメだダメだ!
俺はこの柔らかさの実像を知っている……。
俺はこの柔らかさの実像を知っている……。
俺はこの柔らかさの実像を知っている……。
……ああ、でも、もう、どうでも良いかも。
何かを考えるのも、もうしんどいな……。
意識を手放せば、楽になれる……。
お休み……。
「うわぁぁぁ!! 飛鳥ちゃん飛鳥ちゃん! 陽翔君、顔真っ青になってます! 呼吸出来てませんよ!」
「もう飛鳥ちゃん! 貴方が隣に立つ以前に、新海君がバタンキューしちゃってるわよ!」
「ひぃや! え、うわ! あ、え、どうしよう! 飯野さん、六花さん!!」
あぁぁ。
やっと解放された。
……スマン、風の精霊よ。
やっぱりお前との交渉はまた今度にさせてくれ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「ご主人様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫大丈夫……。今生きていることに感謝したいくらい大丈夫だから」
歩きながらも、心配そうに尋ねてくるラティアに、そう軽く答える。
「相当お疲れだね……」
「うん……今日はもう早く帰った方がいいと思う」
合流して帰路についた後。
リヴィルもルオも、同じように俺の体調を気遣ってくれていた。
本当、疲れただけで、そこまで深刻な状態じゃないんだけどな……。
「隊長さん、マジで大丈夫か? 何ならあたし、おぶろうか?」
レイネも、不安げに俺の顔を覗き込む。
肩を貸して歩いてくれているので、更にその密着度が上がってしまう。
――うっ、体に胸が、ムニィって、当たってる!
先ほどとは違い、これは実在する胸……。
「いっ、いや! 本当、マジで大丈夫だから!」
思わず、バッとレイネから体を離す。
反射的に出た今の勢いを、自分に元気が有り余っている証拠だと説明した。
「……ほんとか?」
「……マスター?」
「ご主人、本当に大丈夫?」
うぅぅ……。
信用ないんすかね、俺。
ラティアも口には出さないが、3人と同じ視線を向けていた。
……いや、まあ単に心配してくれてるってことかな。
そういう風に受け取っておこう。
「……心配してくれるなら、じゃあ誰か先に戻って、晩御飯、用意しといてくれるか?」
俺は妥協案的に、そう提案する。
「そうだな……今日はあっさりってよりは、精が付くものをガッツリ食べたいかな?」
食欲もちゃんとあるんだと告げることで、少しでも安心してもらおうという意図だった。
実際にお腹も減っているし、多分量のある丼ものでも食べられると思う。
「分かりました! では……リヴィル、手伝ってくれますか?」
「ん、分かった」
食事の準備はラティアとリヴィルがしてくれるようだ。
特にラティアなんかはとても嬉しそうに笑顔を浮かべてくれる。
なので、ルオとレイネが俺に付き添ってくれることに。
「では、お願いしますね、二人とも」
「うん! 任せて!」
「ああ! 隊長さんのことは任せてくれ!」
二人の返事に満足し、ラティアは頷く。
「じゃ、先行くね」
「おう」
そう言って、リヴィル達は走って先に家へと戻っていった。
多分途中でスーパーにも寄るだろう。
二人の荷物はこっちが受け取り、家へと持っていく。
今はレイネが自分の分も含めて3人分持ってくれていた。
「大丈夫? ボクも持とうか?」
ルオが気を利かせて、レイネに手を差し出す。
だがレイネは笑って優しく断る。
「ははっ、これくらいどうってことねえよ。それより、あたし等も帰ろうぜ」
「ああ」
ゆっくりと歩きだす。
他愛無い会話を続け、帰り道を進んだ。
しばらく歩いていると、ふとあることに気づく。
レイネも、そしてルオも。
何気なく装っているが、二人とも、俺の歩くペースをとても気にしてくれている。
普段なら、俺の方が歩幅の分、歩くのが早い。
が、今日は疲労のこともあって、二人と同じかそれよりもちょっと遅いくらいだった。
…………。
「よしっ! ちょっとコンビニ寄ってくか! アイスか、それかデザートでも買ってくか? 」
気を紛らわす意味もあって、あえてテンション上げ気味にそう口に出す。
いきなりのことで、二人は驚いたり訝しんだり……。
だが、俺が純粋な気持ちで提案したんだと分かると、警戒感を解く。
そして二人は顔を見合わせて、答えてくれた。
「えっと……大丈夫かな!」
「そうだな……今日は、やめとこうぜ」
え!?
嘘、乗ってくれると思ってたのに……。
「いや、ご主人……あんまりお腹に入れない方がいいよ?」
普段見せないような表情で、ルオがそう忠告してくる。
今までしていた心配とは、何だかまた別ベクトルの心配のようで……。
なんでや……。
アイスとか、デザートなんて、買い食いしてもそうそう腹は膨れないと思うんだが……。
そうしっくりこない思いもありながら。
無理に誘うのも違うので、またそのまま帰り道を歩き始めた。
そうしてゆっくりたっぷりと時間を掛けて。
俺達は家へと戻ったのだった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――なん……だ、これは……」
机に並べられた品々を見て、声を震わせ尋ねずにはいられなかった。
「? 今日の夕食です! ご主人様のお言葉通り、“精の付くもの”を、腕によりをかけて作りました!」
ラティアの返答を耳にしながら、しかし。
俺はなおも信じるのを拒むように、食卓の上を二度見してしまう。
ウナギの蒲焼。
山芋、オクラ、納豆を混ぜた丼ぶり。
ニンニクで作ったドレッシングをかけたサラダ。
ただでさえ4人のよりもかなり多めによそわれているのに……デカ盛り?
俺フードファイターじゃねえんだけど。
それだけでなく。
俺の席の前にだけ、瓶のドリンクが1本、置かれている。
“絶倫王――マムシ・すっぽんエキス超凝縮!! 冴えない夜に、活を入れろ!!(舌でもいいぞ!)”
そのキャッチコピーにイラっとしながら。
対面に座るリヴィルにチラッと視線を送る。
「…………」
あっ、コイツ、逸らしやがった!
何故ラティアに買わせた!!
二人で先に帰らせた意味!!
ストッパーの役目を担ってくれるんじゃなかったのか!?
「……その、ご主人様、やはり、食欲、ございませんか?」
そんな念をリヴィルに送っていると、ラティアが不安そうな表情で聞いてきた。
そこで、ハッとする。
――アカンこれ、詰んでるわ。
目の前の料理に気おされ、仮病の如く食欲がないと言おうものなら――
“そんな! ではやはりご主人様の看病をしないと!”みたいな流れで付け入る隙を与えることに……。
食わないと、アカン……。
食って、その後は……知らん!!
「いや、有難くいただくよ! はぐっ……むぐっ、あぐっ――」
その後、成人男性2日分くらいのカロリーを一気に胃に入れて。
満腹かつムラムラが最高潮になったものの、何とか俺はその日を無事に終えることが出来た。
全てを食べきった後、瓶ドリンクの蓋を開けた時――
「……フフッ」
ラティアが浮かべた笑みが、物凄く魅惑的に映り……。
……俺は今、太らされてる家畜の気分を一瞬でも理解できた気がしたのだった……。




