158.縄とか……あ、いや、違っ!
お待たせしました。
ではどうぞ!
「ありゃ……」
順調に4階層の階段前まで来て。
しかし、俺達は足止めを食らうことに。
目の前には、青色の薄いバリアーのような物が立ち塞がっていた。
「前の時も、こんな感じでしたね……」
「あ、そうなんだ……アタシとかおりんは“子ダンジョン”だったから、これ見るのは初めてだな~。へぇぇ……」
俺や赤星、それに皇さんと共に親ダンジョンだった桜田は落ち着いたもので。
逆井にドヤ顔で前回のことを話している。
そこに加わったのは白瀬だった。
「……え、以前にも一度攻略したことがあるの?」
尋ねられ、逆井と桜田は一瞬、互いに見合う。
そして普通に頷き返した。
「はい。もっとも、前回も今回のように、先輩にお力添え頂きましたけど」
「はは……まあ、ラティアちゃん達も含めて新海におんぶに抱っこだったけどね」
そこで、視線が一斉に俺へと向く。
……いや、俺というより、本当にラティア達が頑張っただけだけどね。
ってか、こうもあっさり認めちゃうってことは、多分志木からは話してもいいとお墨付きが出てるんだろう。
「おんぶに抱っこって……そこまで大したことした記憶はないけどな……」
なら俺も、その点については頑なに否定する必要もない。
と、思って軽く肯定したら、飯野さんが物凄い勢いで食いついてきた。
「陽翔君に、“おんぶに抱っこ”!? ええ、ええ!?」
そこまで驚くことだろうか?
ちゃんと大したことはしてないって言ってるのに。
仲直りして、より一層仲が深まったように見える白瀬も、そこは俺と同意見らしい。
“何言ってるんだろうこの人……”という目で飯野さんを見ていた。
どうせ行き止まりだ。
足止めの時間も有効に使うべく、話の流れに乗るようにして俺達は休憩することに。
腰を下ろすと、逆井に興奮気味に食い付く飯野さんが視界に映った。
「どっ、どうでした!? やっぱりおんぶよりお姫様抱っこの方が良かった!?」
「う、うぇぇ!? え、え!? あの、美洋さん!?」
「でも、おんぶの方が密着感があって、親密度は上がるとも聞くけど!」
…………。
何を聴いてるんだ、あの人は。
「フフッ、ごめんなさいね。美洋ちゃん、あれでも大学生なんだけど……」
逸見さんは俺にそんな断りを入れて、飯野さんの誤りを正しに行った。
「美洋ちゃん……“おんぶに抱っこ”ってそういう直接的な意味じゃなくてね……」
「えぇ!? そ、そうなんですか!? 私てっきり、梨愛ちゃんが陽翔君におんぶもしてもらって、その上抱っこもしてもらったうらやまシチュなのかと!!」
……大学生、大丈夫か?
「ア、アタシは……お姫様抱っこの方が、好き、かも……みたいな? えへ、えへへ……」
……そして逆井は妄想から帰って来ーい。
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『パコ~。この先の5階層目でこのダンジョンはお仕舞いだパコ。守護者がどんなモンスターかまでは分からなかったパコ』
「いや、それだけ聞ければ十分だ。助かった」
『パコ! どういたしましてだパコ!』
しばらく体を休めていると、別行動をとっていた精霊が戻って来た。
愛の精霊に礼を言ってから、俺はまた思考に戻る。
ぼーっと全体を眺めながら、頭はダンジョンのことを考えていた。
先程試してもらったのだが、今報告してもらった通り。
この精霊達は、親子ダンジョン特有の障壁の影響を受けない。
つまり、ラティア達の攻略を待つ前に、下の階層へと向かってもらえたのだ。
今もまだ俺達の行く手を遮るあの薄青いバリアー。
それを透過するように、パコ野郎は潜り抜け、そうして5階層の情報をもたらしてくれた。
「ヤベェな、精霊って……」
精霊を使役できることの恩恵の凄まじさが、改めて実感できる。
今はまだ試していないが……。
これはつまり、闇の精霊に先行してもらえば。
レイネ一人にはなるものの、位置交換をして、障壁が阻む先の階層にも斥候を放てることになる。
わざわざ子ダンジョンの攻略を待つまでもなく、親ダンジョンが攻略できる可能性が出てきたということだ。
「リヴィルの能力もまだ試してないしな……」
独り言として口にすることで、更に頭は回っていく。
そうだ、リヴィルの“導力”もある。
あの青い障壁に、リヴィルの導士としての能力が通用すれば、それこそ子ダンジョンは放置でもいいことに。
それが可能になれば、子ダンジョンへと割かざるを得ない戦力を、全部ボス戦に回すこともできるってわけだ。
「ヤベェ……俺が増々要らない奴に……」
もうラティア達だけで、全部のダンジョン攻略できちゃうんじゃね?
うわぁぁ……俺の居場所……。
「――……なるほど。つまり桜田さんや志木さん達の対抗馬役をすればいいわけね」
「まあ詳しくは花織先輩か、颯先輩に聞いてほしいんですが、多分そんな理解であってると思います」
自己の存在価値について頭を抱えていると、話し声が耳に入ってくる。
桜田と白瀬が二人で何やら話し合っているらしい。
こちらに近づきながらも、互いに色々と相談している。
「赤星さん? ふーん……そう。志木さん、確かに忙しいでしょうしね。皇さんは……」
白瀬は一瞬視線を空中に向けるも、自分で首を振る。
「ああ、そうね。シーク・ラヴの中でも最年少か、彼女。で、逆井さんと桜田さんは……」
逆井の後に視線を向けられた桜田はわざとらしく肩を落とす。
「うぅぅ……大丈夫です、自分で分かってますから。リーダー的な感じではないですよ、私も、梨愛先輩も」
そうして落ち込んで見せる桜田を元気づけるように、白瀬は手を横に振った。
「だ、大丈夫よ! 私の方なんて、飯野さんも六花さんも、そっち方面全然だから! うん!」
なるほど……。
白瀬のグループはもう、白瀬しか引っ張る役目を出来る人がいないのか。
……まあ、でも。
逸見さんや飯野さんが白瀬について行く理由は、ちゃんとあるんだろうが……。
「赤星さん……確かに、彼女、やってた陸上でもちゃんと結果出してるし、頭も切れるのよね……」
俺に完全に聞こえるくらいの位置にまで来て。
白瀬も桜田も立ち止まって話を続けた。
……いや、あの、立ち話せずに、座ったら?
君らは気づいてないかもだけど……。
……その、スパッツ履いてても、スカート内、見えるからさ。
何故に探索士の制服はこう、見えること前提で更にえっちぃデザインなのかね。
……綺麗な太ももが覗いて、目に毒だ。
だが気づかないのか、二人は話し続ける。
俺は、白々しくならない様に伸びをしながら立ち上がった。
……いや、あのままじゃなんか覗くために座ってると勘違いされるかもだし。
一応、ね?
「あっ、先輩! 丁度良かった。先輩からもお話聞かせてください!」
うげぇ。
まあ、意識が話に行ってくれるなら、いいか。
白瀬もそこには異論はないようで、桜田と共に俺に近寄る。
……が。
「……その、座ったら?」
「え?」
視線は合わさず。
しかし、ぶっきら棒に俺にそう言った。
「えと……」
戸惑っていると、白瀬は凄い剣幕を浮かべて俺の両肩に手を置いた。
く、食い込んでる!
指が食い込んでるよ!!
「座ったらどう? 中でも一番動いてて疲れてるだろうからって言う気遣い、分かる?」
「う、うっす……」
下へ下へと押し込まれる肩の痛みから逃れるように。
俺はストンと足の力を抜き。
地面に腰を下ろした。
う、うわっ。
目、目の前に白瀬の生足が……。
「……フン」
白瀬は何気なさを装いながらも。
足を組み替え、桜田との会話を再開させようとする。
だがその際、スカートがフワッと揺れて、また中が覗いて……。
――あれ、痴女?
「…………」
チラッと視線を上へと向ける。
スカートの中の景色と共に、白瀬の横顔が映った。
そこには、何でもないように装いながらも、頬はほんのりとピンク色に染まっていて……。
――ハッ!?
“痴女”そして“パッド”!!
――白瀬、お前さては織部と同族だな!?
「――でですね、先輩。飛鳥先輩が戦闘の勘所みたいなのを養うのって、どうしたらいいですかね?」
「“縄で縛られてみる”とか……」
殆ど聞いていなかった桜田の質問に。
今まで考えていた中身そのままを反射的に口にしてしまう。
「縄!? 雁字搦めになってモンスターの前に突っ込むんですか!? ハードモード過ぎません!? どんなSMプレイですか!?」
「あ、いや、違っ……」
桜田の鋭いツッコミに晒されてしまう。
そうじゃない、そう言うことに興味があるわけでもないんだ!
でも誤解は解けず。
桜田にシラーっとした目で見られてしまう。
うぅぅ……。
「――あっ、新海っ!! 壁消えたよ! それに、ラティアちゃん達から通信も来たっぽい!」
タイミングが良いのか悪いのか。
子ダンジョンの方も攻略がなされたらしく。
誤解は誤解のままに終わってしまう。
桜田と白瀬も逆井達の方へ向かっていく。
……俺、何か縄を使ったSMが好きみたいに思われてしまった。
ただでさえ白瀬には嫌われてる疑惑があるのに。
もう取り返しつかないとこまで行ったかもしれん……。
「……そっか、拘束プレイが、好き、なんだ……」
……早速俺の悪口でも呟いたんすかね。
桜田の後ろを歩く白瀬から“拘束プレイ”という単語が。
前を歩く二人に追いつきたくないぃぃぃ。
多分次か、その次位にはこのダンジョンも終わると思います。
……うーん、行けると思うんだけど……。




