157.雨降って地固まる……で終わって!!
お待たせしました。
ちょっと疲れた……。
白瀬さんや飯野さん、それに逸見さんの3人の関係。
あまりストーリー的に進まなくても、どこかでちゃんと丁寧に書いてあげないととは思っていたので。
ではどうぞ。
「えっと……防具の様子がおかしくて……胸に変な感じで引っかかってるんです」
飯野さんは自分の手を使って、豊満な2つの果実を下から掬い上げる。
……す、凄ぇ。
タプンってなったぞ。
革鎧みたいなものを装備して動きを抑えて、この弾み……。
恐ろしい。
だがそれでも違和感は拭えないようで、困った顔をして上目遣いを続ける。
……いや、あのねぇ。
「えっと……それなら白瀬か逸見さんは?」
だがそちらは期待できないようで……。
「……飛鳥ちゃん、何だかやっぱり私に怒ってて。それで、六花さんがついててくれてます」
飯野さんがチラッと視線を送った先に目を向けると、確かに。
何だか物凄い形相をした白瀬がこちらを睨みつけてきていた。
逸見さんはそれに付き添い、何とか宥めようと頑張っている。
……ヤベェ。
むしろ嫌いな俺と話をしていることに怒ってる、とかないか?
それなら飯野さんに悪いな……。
「じゃ、じゃあ、逆井か桜田は……」
と言いかけて、しかしダメだと言葉途中で理解。
視界の端に、逆井と桜田が困った様子で話している姿が映る。
龍の唾液でベトベトになった槍をどう処理するかで、未だ二人で議論していた。
その液体が飛び散らないようにとの配慮か、俺達からはかなり距離を取ってくれている。
……ぐぬぬ。
「自分で、何とか出来ないっすか?」
「ごめんね? その……私、胸、人よりちょっと大きいっぽくて、えと、自分で、上手くできなくて」
とても恥ずかしそうに顔を赤らめて、キュッと目をつぶり。
飯野さんは更にそれが申し訳ないことのように告げる。
いや……俺に謝ってもらう必要はないんだが。
「じゃあ……最初はどうやって着けたんすか?」
何かセクハラっぽい質問になるが、流石に疑問に思わずにはいられない。
すると、飯野さんは恐る恐るといった風に、白瀬を見た。
「飛鳥ちゃんが……着けてくれるの」
最初は申し訳なさそうに。
だが、直ぐに目を瞑り、数時間前を思い出し、くすぐったそうに笑う。
そして両手で自らの両胸に手を当て、可笑しそうに語った。
「飛鳥ちゃん、可笑しいんだよ? 普通に胸大きいのに、親の仇でも見るみたいに私の胸を見て、それで着けてくれて……変でしょ?」
話に集中しているからか、口調も大分砕けて来て。
そして柔らかに笑って俺に言う。
俺はそれに、首肯することが出来なかった。
いや……。
――虚構使いに、そんな実物見せつけたらそうなるって。
さぞかし恨みがましい目で見られたことだろう。
だが、それでも――。
「…………」
持つ者持たざる者違いはあれど。
その壁を乗り越え、白瀬は装備の着脱を手伝っていたんだ。
「私、ドジだし、鈍いし、おバカだから、一度、本当に芸能界辞めようかな、ってところまで行った時があって……」
飯野さんの視線の先には白瀬が。
あちらは険しい視線を向けてくる。
が、それでも飯野さんは頬を緩ませ、懐かしそうに、愛おしそうに語った。
「ある時、売れてない駆け出しのアイドルが集まってやる運動会で、飛鳥ちゃんと出会って」
ああ、あるある。
アイドル大運動会、みたいなやつ。
俺は黙って首を動かし、相槌を打つ。
「運動もできないし、うじうじしてたらね……飛鳥ちゃんに叱られちゃった。“泥まみれになっても、怪我をしてでも、頑張ってみなさいよ!”って」
その言葉からは、親愛の情が溢れていた。
それ以上の説明は無くても。
そこから、彼女と白瀬の関係が始まって、今に至るのだと直ぐに理解できた。
でも、だからこそ、今のギクシャクした状況が辛い。
仲直りしたいけど、上手くいかない。
そういう気持ちも滲み出ていて……。
――なら、やるべきことは決まっている。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
このまま二人のギクシャクをちょっと見て見ぬふりをすれば、俺はあわよくばその豊かな二つの膨らみに触れ。
そうしてラッキースケベの一つや二つ、起こるかもしれない。
でも、そうじゃないだろう。
「――飯野さん、こっちに」
「えっ? 陽翔君!?」
彼女の手を取り、引っ張る。
戸惑う飯野さんをグングン歩かせ、そうして白瀬の前に。
「……何? 何か用?」
飯野さんを一目見て、いきなりキツイ口調で拒絶の意思を示す白瀬。
しかし、それはどこか意地を張っているようにも感じ……。
「あう、あう……その、えっと……」
未だおどおどして成り行きに追いついていない飯野さん。
だが、今は前へ進めるのが先だ。
「……飛鳥ちゃん」
同じように感じたのか、逸見さんもそっと白瀬の名を呼んだ。
あまり出過ぎず、優しく後押しするような、そんな声音だった。
「……分かってます」
答えて、白瀬もとうとうこちらを向いた。
……俺の目は見てくれないが、それは今は良い。
どうせ嫌われているのだ。
今必要なのは、二人の仲を取り持つこと。
やるべきことは、一つだ。
「――俺が飯野さんの防具のズレ、直してもいいんだな?」
殊更嬉しそうな表情で。
加えて、そこに劣情を抱いているような色も含ませ。
俺は飯野さんの胸をわざとらしくジロジロ見る。
「白瀬がいつもは手伝っているって聞いたが……今は気まずいんだろ?」
「…………」
白瀬は何も言わない。
俺の意図を推し量ろうとしてか。
注意深く飯野さんと俺へ視線を行き来させた。
ストップがかからないのなら……。
このまま行かせてもらおう。
「ならしょうがないよな、俺が直しちゃおう。その時……うっかり手が当たっちゃったりしても、事故だよな? 男の俺が直さざるを得ない状況を作ってるのは、そっちなんだから」
ここで極めつけの笑み。
ニタァァっと粘着質を思わせる、三流っぽい悪党のそれ。
これを見て、白瀬はハッとした表情に。
一瞬で目が大きく見開かれる。
今までは全く合わせようとしなかった視線が。
こんな悪党っぽい感じの時になってようやく合うとは。
皮肉だな……。
「――やっぱり、貴方は……ハー君の、バカ」
俺の耳が拾ったその言葉が、何を意味するのかは分からないが。
白瀬は、下を向き、スタスタと歩き出す。
そうして飯野さんの真ん前に立った。
「飯野さん、ごめんなさい。私が勝手に怒って、勝手に意地張ってただけなの」
スッと頭を下げた白瀬を見て、飯野さんは言葉にならないみたいに声を震わせる。
「あ、あ……じゃ、じゃあさっきの私が怒られたのも、私、悪くないんですか?」
「ええ、飯野さんは悪くない」
既に近すぎるくらいの二人の距離は、徐々に0へと移っていく。
「あんまり、飛鳥ちゃん、話してくれなかったのも?」
「私が勝手に話し辛くなっちゃっただけ。飯野さんのことを嫌いになってとかじゃないから」
白瀬の笑顔に、飯野さんはもう、涙を止める堤が崩壊しかけていた。
「バカって、いうのも……」
「うん、勢いあまって……――ああいや、ごめんなさい、飯野さんのおバカは事実だから、これは謝っても消せないわよね……」
「――うわぁぁぁぁん! 飛鳥ちゃん酷いぃぃぃ!」
とは言いつつも。
飯野さんは白瀬に抱き着いて、その安堵から目から涙を溢れさせていた。
……ふぅぅ。
「もう飛鳥ちゃんと絶交かと思ったぁぁぁ! 飛鳥ちゃんに嫌われたかと思ったぁぁ!」
「ああ、もう……はいはい、そんなことないから」
泣きつく飯野さんの背中を撫でながら、胸当てを止めている金具をいじる。
その手際は手慣れたもので、これじゃどちらが年上かわからないな……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――フフッ、新海君ったら、悪い人」
うぉっ!?
……ビビった。
いつの間にか逸見さんが近寄っていたらしい。
「……何のことっすか? ちょっと何言ってるか分からないです」
あくまで知らぬ存ぜぬで通す。
が、また可笑しそうにクスクス笑われる。
「フフッ……ありがとう。飛鳥ちゃんと美洋ちゃんを仲直りさせてくれて。大事な大事な子達だから……私、とっても嬉しくて」
「……はぁ、いや、二人が勝手に戻っただけでしょ? 何でそれを俺に言うのか意味が分からないんですが」
俺の中のありとあらゆる鈍感力を総動員。
だが、逸見さんは大人の女性の余裕なのか、見逃してはくれないようだ。
……いや、あの、耳元で囁かないでくれません?
ゾクゾクっとしちゃうんで。
「いけない人。……こんな悪い人は、お姉さんがしっかりと見張ってなくちゃね」
まるでこのやり取りを楽しむみたいに、逸見さんは笑みを深めて。
そうして何かを服のポケットから取り出し、スッと俺に差し出した。
何やら見覚えのある、形状をしているそれは……。
『逸見六花公式ファンクラブ会員番号:0 新海陽翔』
そのカードには、勿論逸見さん自身が映っていた。
とても丈の短いスカートをした女性ポリスの恰好。
その手には、玩具だろうか、手錠が携えられ。
もう片方の手は親指と人差し指でピストルを模して、正面を向けていた。
そこに文字の吹き出しがつけられている。
“貴方のハート、逮捕しちゃうぞ!”と……。
「…………」
俺が凄い微妙な表情をしていたのも、面白そうに見て。
それから受け取らないカードを優雅な動作で俺のポケットに捻じ込んだ。
あっ、ちょ!?
「フフッ……もうそれは貴方のだから。上手く使ってね?」
何に使えというんですか……。
半分諦めの境地に達していると――
「――陽翔君っ、陽翔君っ!」
「うわっ、ちょ、今度は何すか!?」
いきなり飯野さんが駆けて来た。
そのお尻に犬の尻尾を幻視するほどの勢いでだ。
既に涙は引いていて、その顔には笑顔が溢れていた。
「陽翔君のおかげで、飛鳥ちゃんと仲直りできました! ありがとう!」
「フフッ……」
先程同じ内容を否定した逸見さんがいる手前。
認める訳にはいかず、俺はあくまでも知らないと貫き通す。
「いや、ほんと、何のことを言ってるのかさっぱりで……」
「? 私、胸が大きいから、昔から男の人にジロジロ見られて……恥ずかしくてちょっと苦手に思ってた部分もあったんだけど」
おい、聞けよ。
この人、人の話聞かないからおバカ扱いされんじゃないの!?
「美洋ちゃんは思いこんだら一直線だから。私や飛鳥ちゃんよりも手強いかもよ?」
逸見さん、第三者視点からのご意見ありがとうございます!
でも面白そうにクスクス笑ってなかったら、もっと良かったです!
「陽翔君の視線は全然嫌じゃなくて、温かくって……あの! “シーク・ラヴ”のファンクラブ会員カードがあるのって、知ってます!?」
…………。
何か嫌な予感しかしない。
こら、そこ、クスクス笑わない。
逆井、桜田、お前ら二人もなんか言ってやれ――
――って、あいつらまだ槍の手入れしてんの!?
ああ、クソ、新しいのちゃんと俺が用意するから!
こっち来いよ!!
「あれ、実は会員番号0番って裏カードがあってですね……」
知ってるよ!!
ってか貴方が皇さんと出た番組で、パパんがその話題出してたでしょ!
「渡す相手は私達自身で決めて、その時はちゃんと信頼できる、大切な相手に渡せって言われてるんです!」
「あ、いや……えっと――そ、そうだ! 俺実はラ〇アーゲームに呼ばれるかもしれないくらい嘘吐きだから、信頼できないかもな~」
「? ごめんなさい、難しいことは私、良く分からないけど……でもね!」
いや、今のは分かって欲しかった!
別に難しいことは一切言ってなかったし!
「私、陽翔君のことは信頼してます! 大丈夫です! だから、陽翔君に渡すことにします! このダンジョンが終わったら直ぐ申請するので、楽しみにしててね?」
何 で こ う な っ た!!
こら~。
逸見さん、目尻に涙が溜まってますよ。
お腹抱えて、一人楽しそうですね……。
「勿論! 陽翔君は飛鳥ちゃんと仲直りさせてくれた、大切な人ですから! そこの所も問題ないです、はい!」
問題大アリだわこらっ!
……あ、白瀬が来た。
「あっ、飛鳥ちゃん! えへへ……飛鳥ちゃんと仲直り出来ただけじゃなくて、私、大切な人が出来ました! 陽翔君です!」
これも、パコパコ言う精霊のように“マブダチ”とか“異性の親しい友人”的な意味合いなんだろう。
だが、当人は全く構わず。
それを聞かされる白瀬もブルブルと震えて……。
「そう言えば飛鳥ちゃんは会員番号0のカード、誰に渡すんですか? 私は陽翔君にしようって……」
「――飯野さんのバカァァァァ!! だから、そう言う所よぉぉぉ!!」
また、涙目の白瀬の怒りが火を噴く形になった。
……あれ、このダンジョンってループ物だっけ?
すいません、お話を書くだけで力尽きました。
感想はちゃんと読んでるんです。
ただ、お返事は午後かそれ以降にさせてください。
お送りいただいたのに、申し訳ない……。




