154.どっちが当たりか……。
ふぅぅ。
お待たせしました。
予定を思ったよりも早くやっつけられたので、今日も更新します。
申していたように第三者視点です。
ではどうぞ。
□◆□◆Another View ◆□◆□
「……分かれ道、ですか」
「どうしようか。右と左……私はこっちの方が怪しいと思うけど」
ラティアの呟きに答える形で、リヴィルは自分の意見を述べる。
それに慎重な考えを加えたのはルオだ。
「うーん……でも、逆に怪しくない方に、大事な場所を隠したりしない? まあダンジョンだし、そう言う意思があるかは分からないけど」
ルオの言葉にラティアもリヴィルも確かに、と頷く。
ディスカウントショップ内に出来たダンジョンの片方に彼女ら4人が入って、既に1時間。
そして破竹の勢いでここ、3階層まで進んでいた。
しかし、この分かれ目に来て初めてと言っていいブレーキがかかっていたのだ。
ここに現れたモンスター、ライオン程の大きさのある子龍については特に難なく片付けて来た。
ラティアも未だ1度しか魔法を使っていない。
しかし、こうした戦闘以外の問題を突きつけられると、流石に彼女たちでも瞬く間に解決する、とはならなかった。
「片方行ってみて、間違ってたら戻る……は、時間がかかるかな?」
ダメ元のようなルオの提案。
リヴィルはその現実的な可能性について思考した上で、それに答える。
「ちょっと賭けの要素が大きいかな……」
そう言ってリヴィルは、今までのダンジョンの道のりを例に挙げる。
「3階層に降りてくるまで、単純なトラップはレイネが見破ってくれたけど、大きな罠の類は無かったでしょ?」
「ですね……やはり私達の方が“子ダンジョン”なんでしょう」
ラティアの補足にリヴィルも頷き返す。
彼女らの主人が入る方と、そして彼女たちが今まさに入っているダンジョン。
前回の時とは違い、入り口の大きさは、顕著な違いがそれ程無かったのだ。
ただ目を凝らしてしかと見れば、微妙にこちらが小さいかな、と言える程度の差。
なので、自分達の攻略しているダンジョンが“親ダンジョン”だという可能性も、今まで捨てていなかった。
「でも、これでハッキリした。前回の攻略の時のマスターの話を踏まえると、先行く道を塞ぐ壁もない。大きな罠らしい罠もない。こっちが“子”の方で間違いないよ」
それは親の方が子よりも強い、つまり攻略に困難を生じる道のりとなるだろうという常識的・合理的な判断。
逆に言うと、それらしい障害がみられないこちらが子だろうと、彼女らはそう判断したのだ。
もしこちらに行く手を遮るエネルギー障壁があるのなら、“導士”としての能力で対応できないか試すこともできたのだが……。
そんな“たられば”は直ぐに頭から追いやり、リヴィルはどうすべきか思考する。
自分達が子ダンジョンだというなら。
それは即ち、こちらを素早く攻略しないと主人の方のダンジョン攻略が進まないことを意味する。
そこで最初の話に戻って、分かれ道、あまり時間を掛けたくない彼女らはどうすべきかを悩んでいた。
「――ならさ、いっその事、あたし等の方でもまた二手に分かれてみる?」
そんな思い切った提案が出たのは、レイネからだった。
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「――しゃっ!! 【影歩法】っ!!」
「Gryuaaaa!?」
四足歩行の子龍が、驚愕の声を上げる。
今まで目の前にいたはずのレイネが、いきなり地面の陰に沈み込んだからだ。
子供とは言え、龍としての巨体を揺らし、左右へ首を巡らせる。
だがそこに、レイネはいなかった。
子龍の後ろ、その淡い光に照らされた影から、レイネが浮かび上がってくる。
まるで両者の影の下に闇の海があって、その中を移動してきたみたいにそれは突然だった。
「――【不意打ち】ッ!! せぁぁ!!」
闇で出来た海面から浮上したレイネは完全に背後を取る。
そしてその武器であるククリを叩きつけた。
そこは、最初に先制攻撃で傷つけた同じ場所。
「Gruuuuuu!!」
レイネの振るったククリはその芯から眩い輝きを放ち。
そして子龍に通常では考えられないような鋭い一撃を与えた。
「今だルオっ!!」
「――任せろぉぉぉ!!」
その声は、普段のルオのものよりも一段低く。
そして大人びた女性の声だった。
「せあぁぁぁぁぁ!」
レイネによってつけられた、子龍の長い首の大きな傷。
そこにルオ――ストックから引き出したシルレが、銀の刃を一気に振り下ろした。
「Griiiiiiii!!」
女性にしては恵まれたシルレの体から放たれた強烈な一撃。
それは見事に龍の首を切断するに至った。
そして子龍の断末魔が途切れ、それが戦闘の終わりを告げるものになった。
「ふぅぅ……お疲れ、ルオ」
レイネは息を全く切らさず、軽やかにククリを仕舞う。
刃に付着した血を払ってこちらに来るシルレ――の姿をしたルオを労った。
「ああ、レイネもお疲れ。私達二人でも案外やれるな」
「あ、ああ……だな」
レイネは未だルオの能力に慣れない。
見た目は完全に他人なのに、中身はルオ。
だからこうして、ルオから“レイネお姉ちゃん”ではなく“レイネ”と呼び捨てにされるのも、まだ違和感を消しきれていなかった。
「だがやはりレイネが先手を取ってくれることが大きい。特に【影歩法】と【不意打ち】のコンボは見事だ」
【影歩法Lv.1】はレイネが闇の精霊と仲良くなったために得られたスキルだ。
レイネが闇の精霊と位置を交換する能力とはまた別のものとなっている。
こちらは闇の精霊の存在を必要とせず、レイネ固有のスキルとして使えるので重宝していた。
「でもどっちも隊長さんあってのもんだ。【不意打ちLv.3】も、結局は隊長さんに取ってもらったもんだしな」
このスキルは以前、レイネと彼女らの主人二人で潜ったダンジョンで交換したものだった。
レイネの件が色々と片付いた後、また皆で戻り。
その際、DPへの変換を選ばず【不意打ちLv.1】をDP500で交換したのである。
レイネはまだ詳しくDPのことについて頭に入れているわけではない。
しかしながら、自分の購入に加えて。
自分を強化することにまで、その特別の通貨を使用させてしまったことを申し訳なく思っていた。
「まあそれを気にするのなら、今後働きでご主人に報いればいいさ。な?」
「……ああ、そうだな」
ルオにそう助言してもらい、確かにその通りだと納得する。
今までだけでも返しきれない恩を受けた。
これから少しでも主人にそれを返していけるよう頑張ろう。
レイネは妙に清々しい気持ちでそう返事したのだった。
……後、シルレの姿で愛し気に“ご主人”っていうのは止めさせた方がいいだろうか、とも思った。
自分でさえ表現し辛い背徳感のような物を生むのだから……。
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「こっちは行き止まりか……」
「だな……」
分かれ道の右側を進んだレイネとルオ。
二人はそこから20分ほどで、遂に行き止まりまで来てしまう。
「とすると……正解は左だったか」
「ふふ……リヴィルの勘が当たっていたということか」
シルレの姿で、ルオは先ほどのやり取りを思い出し、そう告げる。
やはりリヴィルの直感は、最近の主人のそれに引けを取らない鋭さがあった。
「じゃあ戻るか」
「ああ」
二人は気を引き締め直し。
そうして急いで、今来た道を引き返したのだった。
多分ラティアとリヴィルの方も、そんなに長いことかからないと思います。
できれば一話で終わらせて、それで主人公たちの方に移りたい……。




