153.うん、知ってた……。
本当は明日に更新して、もっと進める予定だったんですが、明日の方が忙しくて大変そうだったので今日は書いて少しでも進めておくことにしました。
色々バタバタして予定が二転三転しますが、ご了承ください。
ではどうぞ。
「ちょっと飯野さんっ! “ハー君”はダメよ! “ハー君”は私のなんだから!!」
…………。
「えっ、ええっ!? 飛鳥ちゃん、ええぇ!?」
突然の衝撃告白に俺も、そして飯野さんもビックリである。
今の話の流れからして……ハー君って俺、だよね?
あれ、いつの間に俺、白瀬のになったんだろう……。
「その……飛鳥ちゃん? “私の”っていうのは……」
照れも混じりながら、恐る恐る尋ねる飯野さんに。
白瀬は当たり前のことを告げるがごとく、口にする。
「だから、飯野さんは“ハー君”って言っちゃダメ! “ハー君”は私だけのものなのに!」
「あ、飛鳥ちゃん……ひゃぁぁ」
赤裸々に語られる、俺の今後。
流石に聞いているこっちも恥ずかしくなり、顔に熱が溜まるのを感じる。
だが、多分、そう言うことではないんだろう。
弾みそうになる心に一喝を入れ。
チラチラこちらを見てくる飯野さんを一先ず無視。
そして問題の根本たる白瀬に、言い難くはあるものの確認する。
「なあ、えっと……その」
「な、何よ。何か文句あったかしら?」
……何でそんな喧嘩腰なんすか。
「今の“ハー君”は私の、ってのは何? あれ、実はストレートな俺への告白だったりするの?」
まあ、うん、違うんだろうな……。
そう自身に深手を負う覚悟で切り出すと……。
「…………へ?」
白瀬はまるで鳩が豆鉄砲を食らったみたいにキョトンとした顔に。
…………うん、知ってた。
この反応が出た時点で、もうどっかが食い違ってたと即理解する。
白瀬も自分が先ほど口にした言葉の意味を反芻。
そして……。
「――ち、違ぁぁぁぁう!!」
顔を真っ赤にして、キッパリと否定されてしまった。
…………。
「違うの! そうじゃなくて、私っ、“ハー君”っていう呼び名! とても大事な呼び名だから!」
白瀬は今までの失態を取り戻そうとするかのように早口に捲し立てる。
ただ、そうやって言い訳のように次々に言われるとね、うん……。
「飯野さんが、目の前でそれを掻っ攫うかのように平然と口にしたから! 私、慌てて! だから、今のは別に貴方に告白したとか、自分の気持ちを打ち明けたとか、そんなんじゃなくって!!」
……力説ありがとうございます。
これほどまでに胸を打つ演説、選挙期間でも聴けないんじゃなかろうか。
ああ、嬉しくて目から汗が……。
……この告ってもないのに、フラれたみたいな切なさ……ぐすん。
「いや、うん。大丈夫、そんなんだろうって思ってたから」
「ほっ、本当!? はぁぁ、良かった……」
白瀬がホッと安堵の息を吐く。
それが俺の胸に刺さった杭を更に深く叩きつける。
ぐはっ!?
……うん、分かってた。
ラティア達みたいな可愛らしい美少女達に囲まれて、勘違いを加速させてはいけないって言うお告げだね、これは。
ありがとう、白瀬。
この深く突き刺さった胸に刻んでおくよ。
「飯野さん、ご覧の通りらしい。だから、そういう色恋方向への勘違いは勘弁してくれ」
やつれ気味にそう告げる。
飯野さんも何だか申し訳なさそうに頷いてくれた。
「はい……すいません、私が早とちりして勘違いしたばっかりに。分かりました、飛鳥ちゃんは陽翔君のことは好きじゃない、と」
「へ? あの、えっと……そうじゃ、なくて……」
何だかまた間抜けな声を上げた白瀬は無視して。
飯野さんも、二度と同じ間違いは犯すまいと、深く自分に言い聞かせるように呟いた。
「飛鳥ちゃんは陽翔君が好きじゃない、飛鳥ちゃんは陽翔君が全然好きじゃない、飛鳥ちゃんはむしろ陽翔君なんて嫌いだ……」
「ちょ!? 飯野さん、何でそんなことに!? あの、そうじゃなくて、私はただ……」
第三者たる飯野さんから、再び客観的にそう告げられると、またグサッとくるものがあるな……。
まあ、前回コスプレの趣味関係で、俺の対応が気に入らなかったのかもしれない。
一旦家に帰って冷静になってみたら、俺を許せなくなった、みたいな。
……ありうる話だ、そこはもう受け入れよう。
「いや、良いんだ、うん。誰しも人の好き嫌いはあるから……じゃあ、俺はあっちいるわ。出来るだけ近づかないようにはするから、安心してくれ」
「え!? いや、だから違うの! 私、別に貴方のこと……」
「――そういうことなら安心してください! 陽翔君との事務対応の役、この飯野美洋が承りました! 飛鳥ちゃん、安心してくださいね!」
なるほど、飯野さんが仲介役を引き受けてくれるなら白瀬とも必要以上に話さなくて済む。
お互い胃に悪い相手なんだ、無理する必要はないだろう。
「うっす。じゃあ、そう言うことで……」
俺はそれで切り上げ、ラティア達の方へと戻っていった。
「ぁぁあ! ――キッ!」
「えへへ! 飛鳥ちゃん、どうですか、私、役に立ちました?」
「……飯野さんの、バカァァァァァ!!」
……何か白瀬、今日は凄い叫びまくってるな。
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「じゃあ、これ、ラティアに渡しとくな」
「はい、お預かりします」
俺のDD――ダンジョンディスプレイをラティアへと手渡す。
今回俺はラティア達とは行動を共にしない。
なので、ラティアに持っておいてもらうことにした。
「逆井、本当に赤星から預かってるのか?」
桜田と打ち合わせをしていた逆井に近寄り、そう尋ねる。
俺に気づいた逆井は振り返り。
そして必要な物を詰め込んだリュックから、それを取り出して見せた。
「モチ! ハヤちゃんがかおりんや律氷ちゃんたちのとこに行く時にね!」
それは先ほど俺がラティアに預けたそれと、見た目そっくりの物。
つまり、志木や赤星たちのDDだった。
現物を見て、俺も頷き返す。
これなら、最悪ラティア達4人に連絡が取れる。
「先輩、本当にこっちに来てもらっていいんですか? そりゃ先輩がいてくれれば心強くはありますが……」
桜田の疑問に、逆井も頷いて同意を示す。
「確かにね~。新海がこっち来ちゃったら、アタシ等6人っしょ? 人数偏っちゃってだいじょぶなん?」
逆井はそう言って視線の先、二つのダンジョンの入り口へと目を移す。
大型ディスカウントストアの店舗内。
18歳未満立ち入り禁止の暖簾を潜った先。
真横の壁に一つ、そして階下に繋がるはずの床に一つ、それぞれ穴が開いていた。
……ちなみに大人の玩具やラティアが好きそうなゲームが沢山置いてある。
なのでとても気まずく、出来れば早くダンジョンに潜りたい。
後、これを発見したらしい志木のところの従業員さん、絶対に前回の人と同一人物だろ。
「まあ人数的にはそうだろうが、総合的な戦力でいったら多分これでもあっちの方がヤバいぞ」
なんたって異世界出身組4人で構成されたパーティーだ。
前衛にパワーでゴリ押しが出来るリヴィル。
その能力で大抵のことは何でもできるルオ、それに遊撃候補のレイネは中衛。
そして司令塔として指示も飛ばせるラティアが後衛だ。
普通に片方のダンジョン攻略くらいやってのけるだろう。
「そか。新海がそう言うんなら、そうなんだろうね」
「…………」
「ん? どしたん? 何か……アタシの顔についてる?」
「いや……何でもない」
逆井から“新海がそう言うんなら、そうなんだろうね、新海の中では”とか言われるのかと思った。
ハム太〇やロコちゃんを知らない逆井だ。
別にそっち方面に詳しいわけでもないし、流石に無いか。
「まあ、そんな感じだ」
「分かりました! じゃあ、私、飯野さん達にもこのこと伝えてきますね」
あざと可愛らしく敬礼して、桜田はパタパタと逸見さん達の下へと向かう。
彼女ら3人に、逆井、桜田を加えて6人で潜ることになる。
できればコミュニケーションは取っておきたいが……。
「…………」
ブスッとした様子でこちらを睨みつけてくる白瀬。
目が合うと、途端に逸らされてしまう。
白瀬に嫌われてるっぽいしな……俺。
それもあって多少ぎくしゃく感もあり、ラティア達のことについては思ったほど突っ込んだ質問は無かった。
というか、レイネが俺のことを“隊長さん”と連呼するからか。
飯野さんは俺をなんかそっち系のヤバそうな奴と誤解してる向きもあった。
俺が行っても変に拗れるだけだし……ここは積極的に間を取り持ってくれる桜田と、あっち側の飯野さんに期待しよう。
感想の返しはまた午後には出来ると思います。
今しばらくお待ちください。
次話以降、2つにまたパーティーが分かれますので、第三者視点も入れていこうと思います。
前回の反省を生かし、出来るだけテキパキ話が進むよう頑張ります。




