152.初めまして……。
ふぅぅ。
お待たせしました。
ではどうぞ。
「おーい、先輩、こっちですこっち!」
「新海、皆っ、はよ~!」
当日。
ラティア達含め5人で集合場所へと向かった。
既に到着していた桜田と逆井が、俺達を見つけて手を振って呼んでくる。
二人は流石に変装していて、一目ではそれとは分からないような姿だった。
「おっす……逆井、お前その挨拶、“おはよう”を略し過ぎだろ」
一瞬“スペックupはよ”のはよみたいに思ったぞ。
「ニシシ! あっ、そっちがレイネちゃんね! よろしく!」
逆井は目敏く、最後尾にいたレイネに近づき、挨拶を済ませる。
「お、おう! その……よろしく」
「あはは! 声ちっちゃ! だいじょぶ? 緊張?」
「なっ! ち、違ぇ! べ、別にんなんじゃねえし!」
「そかそか。うん、頑張ろうね!」
場をほぐそうとする逆井に対し。
レイネは調子が狂うと言うように受け応えしていた。
ラティア達も、レイネが初めて他者とのダンジョン攻略ということで、気を揉んでいたが。
「……フフッ」
「良かった。まあリアだし、大丈夫とは思ってたけど」
「うん、だね!」
しかし、今のやり取りだけで安心したようだ。
そのままラティア達は逆井を交え、5人での談笑に入った。
「先輩、今日はよろしくお願いしますね」
「おう」
変装用サングラスをチラッと外しながら、あざとく上目遣いで言ってくる桜田。
軽く流すと、これまたあざとく、頬をぷくーっと膨らませ抗議してきた。
「あぁぁ! ちょっと酷くないですか先輩、淡泊すぎます!」
いや、どうしろと……。
桜田は憤慨しながらも、わざとらしく自分の羽織っているジャケットやパンツを摘まんでどうだ、と見せる。
……それ、変装用なんだろう?
「……ああ、可愛い可愛い。地底一可愛い」
「地底っ!? 私のファッションセンスは先ず地底人から倒さないと地上では審査してもらえないんですか!?」
凄いツッコミだな。
流石バラエティーもこなせるユーティリティアイドル。
ぷんすかと怒りながら、桜田はポカポカと俺を攻撃してくる。
勿論全く痛くはなく、これも“攻撃力の無い私って女子っぽくて可愛いでしょ”アピールだろう。
とりあえずさせるままにしておくと、桜田は膨れつつ、こんなことを言ってきた。
「……良いです、今度レイネさんと家に来てくれたら、水に流しましょう」
……何でそんな話に。
“え~嫌だな~”という視線を向けると、桜田はいきなり慌てる。
早口になって言い訳を量産し出した。
「いや! 本当はレイネさんだけ来ていただければいいんですよ? でも妹たちが以前お会いした時にいたく先輩のことも気に入ってしまっていて!」
聞いてもいないのに、桜田はどんどん言葉を紡いでいく。
「まあ私は先輩が来ようが来ないが、どっちでもいいんですけど。でもレイネさん一人だけだともしかしたら心細いかもしれませんし、何より先輩も連れて来いって、妹たちが煩くて煩くて……」
「……まあ、レイネが行くって言ったらな」
「母もそれで興味を持ってしまって、先輩を一度家に招待したら、なんて言っちゃってもう私も困って困って…………へ?」
早口が、いきなり止まる。
先日の皇さんみたいに“今、何て言いました?”みたいな表情で俺を見てくる。
……いや、君ら難聴系主人公なの?
俺の言葉、そこまで君らの耳や心に届かない?
「……いや、だから。レイネが行くって言えば、俺も行くから」
「…………」
一瞬、桜田がその動きを止め。
しかし、直ぐに言葉の意味が脳内に広がったのか、再起動を始める。
「――しっ、仕方ありませんね! うん、そうですか、うん!」
途端に声が高く跳ね、顔を俺から見えない方へプイっと逸らす。
「来て下さるなら、妹の面倒を見てもらうことになって大変でしょうから。仕方ありません、お昼ご飯くらいは私が作って振る舞いましょう!」
え、俺が妹さん達の面倒見るの!?
……俺、子供あんま得意じゃないんだけどな。
っていうか子供が俺をあまり得意じゃない場合が多く、その結果として俺も不得意なんだが。
まあ、行くとしても先の話だし、そもそもレイネに聞いてみないと。
そう思い、何故かニヤニヤしている桜田の邪魔はせず、そっとしておいた。
「……フフッ」
こらっ、ラティア、こっちを見てゾクっとする妖艶な笑みを浮かべない。
「――で、この後どうなんの? かおりんからは新海達と合流してとしか言われてないけど」
レイネの自己紹介なども一頻り終え。
何だかお互いが話を切り出すのを待っていた、そんな時だった。
「え? 俺も志木からは逆井達と合流してくれって言われただけだぞ」
逆井に告げられ、初めて状況が噛み合ってないことを理解する。
昨日の話でも、詳しい場所とかは当日分かるって言われた。
だからてっきり、逆井か桜田のどっちかが既に知ってるもんだと思ってたが……。
「桜田は? 何か個別に指示受けてたりしないか?」
「いえ、私も何も……花織先輩、最近忙しいみたいですし、疲れてて忘れちゃったんですかね」
「うーん……」
何ともいえない。
確かに疲れはあったとは思う。
が、かと言ってその程度のことを忘れるとも思えないし……。
「一回電話してみる? メールでもいいけど……」
逆井の提案に頷きかけた、その時。
――prrrrr,prrrrr
「ん? 誰だ……」
丁度スマホに電話がかかって来た。
通知を見ると、知らない番号。
このタイミングで、全く関係ない電話だとも思えない。
「――はい、もしもし」
通話ボタンを押し、スマホを耳に当てる。
すると、どこかで聞いたことのある声が、返って来たのだった。
『――もしもし? “逸見”です。あの、新海君の電話で、合ってたかしら?』
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――あっ、来たわ! 飛鳥ちゃん、美洋ちゃん、皆が来た!」
「…………」
「おぉぉ! 梨愛ちゃんや知刃矢ちゃんだけじゃないんですね!」
電話で指示された場所に向かった。
建物内には白瀬や逸見さん、それに飯野さんの3人が既に待ち構えていた。
大きな道路沿いにあるディスカウントショップ。
入り口はロープで関係者以外の立ち入りが規制され。
臨時休業を示す紙も貼られていた。
「どうも、助かりました。場所が分からず困ってたので」
電話をくれた相手、逸見さんは笑顔で答えてくれる。
「ウフフ。椎名ちゃんに新海君の電話番号、教えてもらっておいて良かったわ」
逸見さん曰く、逆井か桜田へと掛けようと思ったが、志木から今日は俺が来ることを聴かされていたらしい。
「それに、飛鳥ちゃんが知っているのなら貴方に掛けろって、うるさくって……」
「あっ、ちょ!? 六花さん、何を言ってるんですか!?」
白瀬が顔を真っ赤にして飛んでくる。
俺達の合流には気づいていたが、さっきまでは知らん顔でいたのに、なんというスピード。
「ちっ、違うから! 六花さんが適当言ってるだけだから!!」
「お、おう……」
凄い睨み……。
“お、おう”以上の言葉が出なかったぞ。
返答に満足したのか、白瀬はスタスタと離れていく。
…………何だかなぁ。
「フフッ……」
逸見さん、あなたもラティアみたいな笑顔しないで。
はぁぁ……。
「――あっ、あの!」
「ん? ああ……」
話しかけてきたのは飯野さんだった。
確か大学生で、俺より年上のはずだけど……。
……随分背が低いんだな。
でも結構出るところは出てて……。
一瞬“ロリ巨乳”という単語が浮かんだが、直ぐに引っ込め。
「えっと、一応初めまして、ですか。新海です、新海陽翔」
そう簡潔に、自己紹介する。
飯野さんは緊張気味に話しかけてきたが、一転。
パァァッと明るい表情になり、直ぐに笑顔を浮かべた。
「あ、あの! 飯野です! 飯野美洋って言います! 六花さん達から、話はちょくちょく聞いてました!」
何だちょくちょくって……。
「俺も飯野さんのことはちょくちょく知ってますよ。テレビでよく見かけますから」
すると、飯野さんは照れたように頭を掻いて見せる。
「あはは……私、おバカですから、恥ずかしい場面じゃなければいいですが」
うーん……。
それは難しいと思うが、まあ多くは言うまい。
「あっ、それはそうと、“陽翔君”って言うんですね……――じゃあ“ハー君”って呼んでいいですか?」
「――ちょい待ったぁぁぁぁぁぁ!」
凄い勢いで白瀬が割って入って来たのだった。
……お前聞いてたんかい。
明日はもしかしたら休むかもしれません。
体調的にゆっくり休んだ方が良さそうかな、と感覚的に判断しました。
この時期ですし、無理はマズいでしょうから。
起きてスッキリしていたらその限りじゃないですが、まあそういう感じでお願いします。