149.そうだったのか……。
お待たせしました。
昨日は流石にちょっと色々ドタバタして、予定が崩れに崩れたので感想の返しだけにさせていただきました。
では、どうぞ!
『シルレとも協力して、一度貴方の妹さんがいるところに向かってみます』
カズサさんの提案に、すかさず織部も手を上げた。
『あっ、私も行きますよ! そこには五剣姫がいらっしゃるんでしょう? なら、ついでに力を借りられるか交渉してみたいですし』
織部はチラッと振り返り、サラに確認を取る。
意見を求められたサラは特に言及することはせず、コクッと頷く。
「そうか。織部とサラも行ってくれるんなら心強いよ」
その五剣姫、カズサさんやシルレとはあまり仲が良くないって言ってたし。
普段はどうあれ、織部は勇者としてはちゃんとやってると思う。
そこはしっかりと評価していた。
『に、新海君……!』
『……ニイミ様。あまりカンナ様を甘やかさないでくださいね? 見てないところでは直ぐに調子に乗っちゃうお方ですので』
おお、サラ、辛辣だな。
まあでも、口酸っぱく言ってくれるからこそ、織部もサラを信頼しているんだろう。
……だよね?
キツイ言葉が心地いいとか、無いよね?
「……その、悪ぃな。あたしのことなのに、押し付けるみたいになってよ」
レイネは目を伏せ気味にして、少々申し訳なさそうに告げた。
『……そう思っていただけるのでしたら、そちらにいる、私の妹のことを気にかけてあげて下さい』
「妹? ああ……そう言えば、あんたにも、確かに妹がいたな。あれ? でも……」
まだ涙声ではあるが、いつものような力強さがある。
もう既に物事を前向きに捉えているようだ。
そんな中、レイネはどういうことかと疑問符を浮かべている。
『そうですね、一般的には生死不明となってますから……――簡単に言うと、妹は生きていたんです。詳しくはニイミさんに聞いてください』
カズサさんの言葉を受け、レイネが視線だけを俺に投げて問うてくる。
俺は軽く頷いて手短に告げておく。
「事実だ。以前チラッと言ったかもだが、精霊のことを俺に教えてくれた奴がいるって。あれがその少女だ」
「あぁぁ……あの話か」
…………。
よく覚えてるな。
言った俺はそりゃ覚えてるけど、レイネがちゃんと覚えていてくれたのは、ちょっとビックリだ。
……そこまで印象に残るように話したかね?
「――よし! 分かった、こっちは任せときな!」
『……ええ。戦場では敵同士でしたが、お互いに妹を大切に思う者同士として。そこは信頼していますよ』
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カズサさんからの話が終わり、一時休憩の間を取る。
そして再び織部のDD――ダンジョンディスプレイの通信を繋いだ。
『おおっ、皆さん! お揃いで』
『来たか、カンナ、サラよ。おっと、カズサも一緒だな』
数分、織部が歩く映像が映された後、町の屋敷についた。
中でフォゼさんとシルレがいて、織部達の到着を出迎えてくれる。
フォゼさんは立ち上がるとグニュッとその姿が粘体に変化した。
以前レイネと闇の精霊の移置交換で見た、あの溶ける感じ。
それと同じくらいの瞬間早変わりだった。
その形を伸び縮みさせるアメーバのまま床を這い。
そうして織部達の下に近づいていった。
『わっ、わわっ! あぁぁぁ~やっぱり凄いですぅぅ! 今までみたスライムの中でも、飛び切りスライム感が強い!』
……織部さん?
何でそこで声が弾むの?
お前、今一瞬色っぽい声出してるの、自分で分かってる?
……これ、フォゼさんの渋いダンディーさに憧れてって思っていいんだよね?
決してスライム状の物に対して、人には言えないような思いを抱いているとかではないよね!?
『ほっほ。これでも何百年も生きるスライム族ですからな。他のどのスライムよりもスライムらしいという自負は持っております』
人の形を保たずとも、人語を操り俺達に言葉を届ける。
それに伴い、粘体がウニョウニョと動き、グチュグチュっと水音を立てていた。
……人によっては、ちょっと卑猥にも聞こえる音かもしれない。
『うわぁぁ! 凄い、凄いですよ新海君! リアリティ抜群です! これっ、ボイスレコーダーで録音してデジタル作品とかにすれば爆売れするんじゃないですか!?』
…………。
思考が被ったこともそうだが。
それ以外にも色々と恥ずい。
俺はあちらのDDを持って運んでくれているサラの名を呼び。
そうして織部の対処を要請する。
『はぁぁ……さっ。カンナ様、少しお耳の矯正が必要なご様子ですので、お説教と行きましょうか』
『えっ!? い、嫌です! サラ、やめて、それだけは、それだけは!!――』
…………。
他の奴は分からんかったかもしれんが。
今の織部の嫌がる声の中に、喜びの色が含まれているのを、俺は聞き逃さなかった。
お前、饅頭怖いじゃないんだからさ……。
サラはDDをカズサさんに一時預け、織部を画面外へと連れて行った。
『ほっほ。カンナ殿は元気なお方ですな』
でしょうね、色々と……。
いきなり退場の織部を見やりながら、フォゼさんは快活に笑う。
老紳士風の人の姿に戻って、彼は画面、特に俺達の方へと目を向けた。
『もう話は良いのですか?』
画面の上の方から降ってくるように声がする。
DDを持ってくれているカズサさんの発言だ。
『ええ。シルレ嬢との話の詰めはもう終わりました』
画面が動く。
手前側にいたシルレは力強く頷き返した。
『これなら女王にもちゃんと報告ができる。満足できる内容だ』
それに同意するように、フォゼさんからも首肯する音がした。
半分くらいローションが入った2Lペットボトルを一度ひっくり返した、そんなちょっと鈍い水音だ。
『こちらも。魔王様――“カリュル様”に良いお知らせが出来ます。今回は互いにとり、いい話でした』
「――え? “カリュル”?」
その言葉――その名に反応したのは、ルオだった。
今までは大人しく話を聴いて、口を出すことをしなかった、ルオの。
自分が敬称を付けて呼んだ主を呼び捨てにされても怒るなどということは無く。
フォゼさんは不思議そうな目を画面越し、特に発言者たるルオへと向けた。
『お嬢さん、何か気になることでもあったのかな?』
その聞き方もとても紳士的で、ルオのことを気遣うように優しく語り掛けるものだった。
「えと、その……“カリュル”って、魔王様の“娘”、じゃなくて?」
ルオのその言葉を耳にし。
フォゼさんの目が大きく見開かれる。
スライムから出来た、しかし、人の物とソックリの、視覚器官。
ただそれは、直ぐにまた元の大きさに戻っていく。
『かつては、そうでした……ですが今は、もう“魔王様”と、お呼びする地位にいらっしゃいます』
辛い過去を振り払い続け、それでも決して離れてはくれない悲しみが纏わりついている。
そんな、沈んだような声音だった。
しかしそれもまた一瞬で元に戻り。
今度は意識的に弾ませたような声を作って、フォゼさんはルオに尋ねた。
『しかし、お嬢さん。どうして、そのことを?』
ルオは尋ねられ、一瞬、答えに窮する。
何となーく話を理解していた俺は、ルオへと向き直った。
特に言葉は発せず、視線を合わせ。
そしてしっかりと頷いて見せる。
「……うん!」
力強く頷き返してきたルオは、覚悟を決めたように目を瞑り。
その後、すぅぅっと息を吸い込み、心を落ち着ける。
そうして、今のベースのものから別のストックへと、変わって見せた。
俺たちが出会った当初から【影絵】によって持っていたストックを、【影重】を使って自分に新たに張り付けたのだ。
それは、竜人の幼い少女で、しかし、リヴィルに匹敵するくらいのパワー極振りの、とても頼りになるストック。
その少女は、自らを“カリュル”と名乗っていた。
『――ああ、ああ……そうか、君、だったのか……』
ルオ改め、カリュルの姿を目にしたフォゼさんの呟くような、呻くような声。
それは妙に納得したというようなものだった。
本来ならこの1話で通信回は終わると思っていたんですが、少し長引いてしまいました。
次は多分ミニミニストーリーもまた新たな場面へ転じ、彼女たちのことを書いてあげられると思います。