148.本当か!? それなら良かった……。
お待たせしました。
ではどうぞ。
『――ごほんっ……』
カズサさんは少し大袈裟な程に空咳をして見せる。
灰になった織部や脱力する俺の注意を自分に向けるためだろう。
『さて……“戦場の黄天使”さん』
…………。
ん?
一瞬カズサさんが何を口にしたのか分からなかった。
え、何だって?
ごめん、ここはちょっと難聴系で行かせてくれ。
「……チッ、やめろよ、それ。恥ずいだろ」
後ろにいたレイネは、本当に恥ずかしそうにそう口にした。
俺の部屋にあったクッションに座っていたが、それをお尻下から取り、ギューッと抱き締める。
……レイネさん、あの、クッション潰さないでね?
それにしても、レイネは何かカッチョイイ二つ名持ちらしい。
ううむ……中二心がくすぐられるな。
そんなことを考えていると、未だ復活しきれていない織部が目に入る。
織部は……。
『…………』
いや、そんな目向けてこないで。
大丈夫だって、“異世界の恥勇者”とか思ってないから。
――あっ、こら、瞳の輝きに休暇を出して呪詛呟かない。
ちゃんとハイライトさん連れ戻して!
『フフッ……』
カズサさんはそんなレイネを見つめる。
そうして目を細め、ゆっくりと頷いた。
『今回ニイミさんと話す時間を作ってもらうようお願いしたのは、レイネさんのことで伝えたいことがあったからです』
そう前置きするカズサさん。
そしてもう一度レイネに視線を合わせて、しっかりした口調で告げる。
『良い顔になりましたね……先日お会いした時とは見違えるようです』
「……へへ。まあな、隊長さんと会ったおかげさ」
そう返してレイネは照れたように笑って見せる。
チラッと俺を視界に入れ、また直ぐに正面を向いた。
その一連の流れを見て、ラティアがコソッと俺に耳打ちしてくる。
「メスの顔になりましたね……初日会った時とは見違えるようです」
こらっ。
ラティア、いらないこと言わない!
カズサさんに合わせるようにして上手いこと言ったつもりだろうが、全然上手くないからな!
ってか何で今それを耳打ちしてきたの!?
それ必要あった!?
『今の貴方にならお伝えできるでしょう――』
カズサさんはすぅっと息を吸い、一拍置いて、真剣な表情を作る。
そして、レイネを真っ直ぐ見据えて、驚くべきことを告げたのだった。
『レイネさん、貴方の妹――ルーネさんは生きています。そして、私はその居場所について、心当たりがあるんです』
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「なっ――」
一瞬何を言われたのか分からなかった。
しかし、直ぐに我に返ったレイネの口から、驚きの声が飛んだ。
「ほっ、本当か!? ルーネは、ルーネはちゃんと生きているのか!?」
DD――ダンジョンディスプレイに掴みかからんばかりの勢い。
それでも画面向こうのカズサさんは動じず、しっかりとレイネを見つめて頷いた。
『はい。私とシルレ――今、フォゼさんの所で話をしている彼女もおそらく、思い当たる節があるはずなんです』
シルレも……。
ということは……。
カズサさんは俺の様子を見て、先取りするように肯定して見せた。
『そうです。私達“五剣姫”は年に2度、王都に集い、顔を合わせる機会があるんですが』
「五剣姫? だが、あたしが知る名前に、ルーネの名前は……」
話を聴いて、五剣姫の誰かが妹だと早合点したレイネはそう呟く。
だがカズサさんはゆっくり首を横に振り、指を3本立てて見せた。
『私とシルレを除いて、五剣姫は後3人。内1人は王都に最も近い領地を任されているので、その便宜を考慮され、腹心である副官はいません』
薬指を折る。
ピースの形になった指を残し、カズサさんは続けた。
『内また1人は孤独を好みます。一人で放浪する癖があり、しかし、その持つ特殊な能力で領内の経営も行い、同じく心を許すような副官がいないんです』
中指を折りたたんだ。
そして、最後、人差し指だけが残る。
レイネは話を遮ることはせず、息を呑んでその最後を待った。
『――最後一人。私やシルレとはあまり仲が良くはない五剣姫。その彼女の腹心を、王都での参集の際、紹介されたことがあるんです』
「それが……」
呻くように喉から出たそのレイネの言葉に。
カズサさんはしっかりと一度、頷き返す。
『はい。貴方があの個室で会った時話してくれた“ルーネ”と名乗って。天使族で、それで……貴方とそっくりの、その綺麗な金と銀の糸のような髪をしていました』
「…………」
レイネはしばらく、沈黙した。
その告げられた意味を噛み締めるように。
ちゃんと妹が生きているんだと心の底から感じられるように。
顔を上げたレイネは俺を見て、しかし、感極まってしまったのか。
それか言いたい言葉が次々と溢れ出て来たのか。
中々言葉に出来ず、それ自体が苦しそうだった。
俺はレイネの肩にポンッと優しく手を置く。
そうして短く、伝えるべきことだけを告げた。
「――良かったな、レイネ。妹さんがちゃんと生きていて」
「あっ、隊長、さんっ――うぅぅ、ぁぁ、あぁぁぁぁ!」
うぉっっちょい!
グフッ!?
腹っ、腹にめり込みましたよ!?
だが頭突きの主犯たるレイネは勿論、痛がる素振りなど無く。
ようやくつっかえていた栓が取れたんだと言うように。
俺のお腹に顔を埋め、大声を上げて泣いたのだった。
すいません、感想の返しはおそらく昼以降には時間をとれると思うので、その際に行おうと思います。
おそらく、次話でちょっとフォゼさん――魔族の町を治める偉い人、というかスライムですね。
そのフォゼさんと少女達の中の誰かの絡みを書いて、通信回は終わるはずです。
……多分。




