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145.親娘のささやかな時間……。

お待たせしました。


ではどうぞ。



『――はい。勿論、最近ビジネス的に国内で手詰まりを感じていたということは否定しません』



 皇さんのお父さんが到着してからは、比較的スムーズにインタビューがスタート。


 親娘で“元気にやってるか?”“はい、大丈夫です”的なやり取りこそあったものの。

 そこは二人ともお仕事ということで切り替えは早かった。



『ですが、ダンジョン探索のスポンサーとして、一番に手を上げたのはやはり企業としての社会的責務を感じたことが大きいでしょう』



 今現在、皇グループは様々な業務において、国からの委託を受けている。

 志木グループと連携しての武器づくり、発掘した資源の検査、攻略済みダンジョン内のマッピング等。


 

 それらだけでなく、こうした番組におけるスポンサーとして資金提供もこなしている。



『そうですね……実際、後ろ盾となって下さる企業があるのとないのとでは、心強さがまったく違いますから』




 成人で、中でも一番落ち着いているとあって、主インタビューアーを務める逸見さん。

 適度に相槌を打ちながら上手く話を引き出していた。



『ですです! 以前に飛鳥(あすか)ちゃん――あ、ええっと……』



 飯野さんが白瀬の名前を出して直ぐ。

 こういう場で身内的な呼び方をしても、相手に伝わらないかもと自分で気づいた。


 だが、皇さんのお父さんは笑顔を浮かべ、頷き、言葉を添えてあげる。



白瀬(しらせ)飛鳥(あすか)さんですね、存じてますよ。それで?』



 律志(りっし)さんの気遣いに思い至り、飯野さんが笑顔で続きを口にする。



『あ、はい! 前に飛鳥ちゃん達とダンジョン攻略した時も、武器とか防具とか、スッゴイ有難かったです!』



 それを聴くと、ここに来て初めて皇さんのお父さんは苦笑してみせた。



『ええっと……それは去年に動画投稿サイトに上げられた、攻略映像のあれだよね? あれは確か……ウチじゃなくて、志木グループ単独の開発品だったと思うけど』


『ええ!? そうでしたっけ!?』

  


 だがそこで空気が凍るようなことは無く。



『飯野さん……勉強して貰えてないんだ、ウチの会社のこと。ショックだな……――これは番組司会者のお二人に一言何か言っとかないと』


 

 その冗談で笑いが起こる。

 スタジオ出演者も笑顔がこぼれ、特に名指しされた司会者の二人は仰天した顔をワイプ隅で浮かべていた。


 一瞬だけ、その二人のリアクションのために画面がスタジオに戻された。



『――ちょ!? 冠番組の降板危機!?』


『うっわ、ネット記事に書かれる!!』




「凄いよね……律氷ちゃんのお父さん、前回テレビ出演したの、ガッチガチの経済番組だったらしいのにね」


  

 画面からは目を離さず、赤星が感心したような表情で呟く。

 確かに……。


 今のインタビューの内容を聴いただけでも、出演してくれたのは単に娘さんがいるからってだけではないと思う。


  

「だな。流石に、従業員2万人の船の舵取りをしているだけあって、凄みがあるもんな」


「うん。なんていうか……鋭い刃みたいな雰囲気があるよ、リツヒのお父さん」

  

 

 リヴィルが俺の言葉に同意してくれる。

 テレビ越しでも、やっぱりそういうオーラ的なものを感じる部分があるらしい。


 こりゃ……深夜の30分枠なのに、1時間スペシャル組むわけだ……。









『――志木さんの所と、元々色んな形で協力とかさせてもらってました。今回は特に、これで経済界を牛耳る足がかりとか言われるけどとんでもない。私達の中で一致しているのはこれでも全くの力不足だということです』



 偶に皇さんや飯野さんも事前に考えていた質問をぶつけ。

 律志さんはそれに淀みなく、自信たっぷりに答えていく。



 そして、インタビューは佳境に入っていた。




『ダンジョンという未知に挑むには国民的な理解や後押しが必要だと、常日頃感じています。ですから、その小さな一歩にでもなればと、この番組のスポンサーもさせていただいています』

 


 最後、カメラに向かって、視聴者へのメッセージを述べる。



『だから、皇グループの関連商品を絶対に買ってくれとは申しません。ただ、こうして日々、皆さんに少しでも沢山の情報をと頑張っている彼女たち――シーク・ラヴを、最前線で支えているという自負はあります』



 終わりの締めの言葉なので、かなり固い話だけで終わるのかと思ったが……。

 真剣な表情から一転、優しい笑顔を浮かべる。


 そして、その日ロケに行った3人を見、カメラに視線を戻して告げた。



『どうか、懸命にこの国を支えてくれている彼女たちを、応援してあげてください』



「…………」



 …………。

 凄い人だ。


 

 何か、感動的な映画を見た後の、余韻のような。

 そんな、自分の内に湧き上がる熱のような物を感じた。


 それだけ、皇さんのお父さんの放つメッセージが、芯に迫るものだったのだろう。



 そうして少し脱力したように呆けていると――




『――あっ、でもやっぱりウチの商品も、良かったら買ってください! いい商品ばかりなんでね!』


 

 と、付け加えていた。



「フフッ、最後、こうして落とす辺り……ユーモアのセンスもある人なんだな」


「だね……こういう人の下で働いていたら、やりやすいだろうね」



 赤星と今のインタビューの感想を言い合っていると、ラティアが小さく声を上げた。



「あれ? まだ終わらないみたいですよ?」


「ほんとだね……」



 立ちかけたリヴィルも、引き戻されるようにソファーに座り直す。

“予定したインタビューは終わったはずだが……ここで思わぬ展開に!”という番組のナレーションが入る。 

 

  

  

『――お仕事としてのインタビューはここまで、ということで……どうでしょう? お時間に少しでも余裕があるのでしたら』



 逸見さんが律志さんに尋ね。

 


『私達、少し下がってますので! 皇さんとお話をどうぞ!』



 飯野さんが、皇さんへ掌を向ける。

 二人の意図するところは明らかだった。


 

「……六花(ろっか)さんも、美洋(みひろ)さんも、粋なことするなぁぁ……」

  

「だな……」

 

 

 赤星の呟きに同意するように、俺も小さく頷く。

 

 律志さんも察したようで、小さく笑い、少し照れ隠しするように飯野さんをからかって見せた。



『飯野さん、私も(すめらぎ)さんなんだけどね……私が誰かとお話をするということかな?』


『え!? あ、いや、そうじゃなく! 私、いつも皇さんのこと、皇さんって呼んでて、それで!』



 あたふたして、その少しおバカな感じで受け応えする様子も、温かな笑いを誘った。



『――では、お言葉に甘えるとしようか』



 そうして皇さんのお父さんは控えていた秘書の男性に時間を尋ねる。

 予定よりテキパキと進んだので、今少し余裕があるという。



 そうして突如として。

 忙しくて中々時間が取れない親娘二人の、二人だけの時間となった。


 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



“インタビューは親娘の感動の対話に突入!!”というナレーションが流れ。

 応接スペースで向き合い、二人の対話が始まった。

 


『……今日、この会社を見学して、改めて、お父様がどれだけ大変で、凄いことをなさっているか、実感しました』



 最初、口を開いたのは皇さんだった。



「リツヒ……頑張れ」


「リツヒ様……ファイトです!」



 リヴィルもラティアも。

 画面内で拳を握り、勇気を出している皇さんを応援していた。

 

 既に撮影は終わっているが、それは些細なことだろう。



『…………』



 静かに、皇さんのお父さんは言葉を聴いている。


 久しぶりの娘との対話を楽しむように。

 中々会えなかった娘の成長を慈しみ、確かめるように。 




 皇さんは今日見学して感じたことを、精一杯言葉にする。

 


『沢山の社員の方々を、そしてその人達の家族を、更にはこの国を……色んなことを支えているんだと、感じました』



 律志さんは小さく頷き、皇さんの目を真っ直ぐ見る。

 そして静かに口を開いた。



『――律氷。お父さんも、律氷のライブで頑張ってる姿、見たよ。ダンジョンのあの攻略過程を撮った動画も』


『お父様……』

 

『最初は勿論、あんまり賛成は出来なかった。危ないことは出来るだけして欲しくない……でも、ライブや、あの動画を見て……』



 律志さんは優しく微笑む。

 皇さんの成長した姿を見て、眩しそうに目を細めた。 



『とても……誇らしくなった。それに、何だか、律氷と親娘で同じ方向を目指して頑張れているような、そんな気持ちで嬉しくなったよ』


『……はい。私もです』



「……いい話だね」


「ああ、だな……」



 録画しておいてよかった。

 話したら、ルオもきっと見たかったというだろうからな……。



 

 

 そうして短かったが二人の時間も終わり。

 最後本当に去り際のオマケ的な会話が映されていた。



『お父様。今日私達を案内してくださった広報課の方、とても良くしてくださいました。出世をご希望のようです』


『えっ!? ちょ、いや、ちが、社長! 違いますから!!』


 

 思わぬ所で皇さんの父親譲りのユーモアが見られた。

 広報課の男性は……うん、頑張れ。 



『はは!……あっ、そうだ、律氷、冗談ついでに一ついいかい?』


『? はい、なんでしょう?』


 

 冗談の流れということで、それを言ってみたのだろう。

 皇さんのお父さんは軽く、本当に軽ーく告げた。



『――ファンクラブ会員で会員番号の0番があるんだろう? あれ、律氷の力でお父さんにできないかな? お父さん、律氷の一番のファンのつもりなんだが』

 

 

 ここで、笑いが起こる予定だったのだろう。


 自分が社長としての権力を使って贔屓できる、みたいなネタと同じく。

 自分もアイドルとしての皇さんの力を使って、ファンクラブ会員番号を優先してくれ、という。


 更に言えば、自分を“娘大好きの父親”だとアピールして、社長がそれで大丈夫か、とツッコミを入れてもらえると。



 だが……。



『……その、あの、ごめんなさい! 会員番号0は、もう、他の男性の方に、差し上げてしまいました』

  


 冗談で流れると思っていた、その話題で。

 皇さんがガチの対応をしてしまう。



 ……空気が、ヤバい。



『……え? 嘘……だろ?』


 

 社長!

 しっかり!


 あぁぁ!

 秘書さん、もうちょっと、もうちょっと時間をあげて!

 だが、丁度次の予定の時間となってしまい、秘書の男性に促されてしまう。


 そして物凄く後ろ髪をひかれるようにして、律志さんは出ていった。



“なんだかんだありながらも……家族の絆は深まったようだ”



 え、強引にナレーションで締めやがった!?



 スタジオに戻っても、同じように驚き一杯で染まっていた。 


 画面右下から左下にスタッフや協力企業の名が流れていく。

 番組もこれで終わりらしい。



『えちょ、皇さん!? これ、結局どうなったん!?』



 司会者が終了ギリギリで、スタジオにいる皇さんに尋ねている。



『……特に何もないです、大丈夫です』

      


 皇さんは、先ほどのVTRで見せていた穏やかな笑顔とは打って変わって。

 ちょっと不機嫌な様子で、最後画面に映っていた。



 ……絶対なんかあったでしょうよ……。




「……新海君、あのさ、律氷ちゃんの会員番号0って……」



 やめろ赤星!

 こんなところで勘の鋭さを発揮すんな!



「フュ~ヒュヒュヒュ~」


「……マスター。口笛、吹けてないよ?」

 

「……ご主人様、時には諦めも肝心かと」




 うわぁぁぁ!

 チックショー!!



 俺も先に寝ておくんだったーーー!!

明日以降、申していた通りちょっと不定期が続くと思います。

出来るだけ毎日書く時間は設けますが、1話出来た段階で上げるようにします。


これで、お泊り+テレビ鑑賞回は終わって。

で、次話は織部さんとの通信回になります。

安心してください、ルオとレイネ、ちゃんとそろってますよ!

(織部さん、息してるかな……)



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― 新着の感想 ―
[一言] ブレカンの勇者(変態)度に立ち向かえるのか? 次回、攻略難易度ハード(以下略)、織部ヘブンモード! 異世界の勇者は痛い奴か変態しかいないのか…
[一言] 男性って言っちゃうのはまずいですよ!w
[一言] > 『どうか、懸命にこの国を支えてくれている彼女たちを、応援してあげてください』 皇パパン「娘たちのことぜってぇ応援してくれよな!」  いやうん、この言い方だとおっす! オラ律立とか言ってそ…
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