144.なんか、こういうの……いいな。
お待たせしました。
ではどうぞ。
※すいません、変なところで切れてたので、修正しました。
『――うわぁぁぁ! 生の律氷ちゃんだ! 顔小さっ! この会社入って本当に良かった!!』
『凄っ! 逸見さん足も腰も細過ぎっ!!』
『美洋ちゃん、テレビで見るより……雰囲気ユルフワだ~!』
ロケに出た3人がビルに入ると、社員と思しき人達から歓声が上がる。
皇さんはちょっと恐縮しながら頭を下げていた。
その様子が小動物のようで可愛らしいと、更にまた周囲がざわめいた。
やっぱアイドルって凄いんだな……。
VTRを眺めながら、改めてその事実を再確認する。
横を向くと、赤星と目が合う。
「ん? どうかした?」
「ああ、いや……」
赤星も、その一人なんだよな……。
その人気者が、自分の家にいることが本当に不思議な気分になってくる。
更にそこには、異世界出身のラティアとリヴィルがいて……。
うーん……世の中何がどうなるか分からないもんだ。
『――こちら、社員が普段デスクワークなどを行う業務スペースです、どうです、結構広いでしょう?』
ロケの案内役を務める広報課の男性が掌を向け、フロアを示す。
区切る衝立などは存在せず、奥まで吹き抜けていて、テレビからでもその広さが感じられた。
『へぇぇ……人も沢山ですね! ここで私達が使うダンジョン攻略に必要な物を造ったりしてるんですか?』
働く社員さん達を見渡した後、飯野さんが純粋な瞳で男性に尋ねる。
それに苦笑いを浮かべながら、一度チラッと皇さんを視界に入れ、男性はその質問に答えた。
『ええっと……実際に物を造ったり、性能のテストをしたりはそれ専門の場所でやってますね。皇グループは色んな県や世界各地に工場を持ってますから』
「まあそうだろうな……あんなビルの中で、耐久テストとかはしないだろうし」
「では……ここはどういう場所なんでしょう?」
ラティアがテレビの画面を指さしながら首を捻る。
「“営業第2部”って言ってたから……要するに皇グループが造る製品を企業に売り込んだり、その物造りに必要な原材料を調達する話をつけたり、ってことじゃないか?」
詳細なことは勿論分からないが、大体そんな感じだと思う。
今の俺の説明を補足するように、テレビの方でも別のVTRが流される。
普段皇グループがどういう事業を行っていて、売上高や従業員数など、どれだけ規模が大きい会社なのかを説明するものだ。
「へぇぇ……じゃあやっぱり、リツヒって凄い所のお嬢さんなんだね」
改めて感心したというようにリヴィルがそう頷いた。
確かに、戦後から出来たということでそこそこ歴史もあって。
なおかつ今は会長に退いてはいるが、皇さんのお爺さんも未だに各界に影響力を持つって話だ。
それとためを張ってる志木の所も、同じ様に凄いんだろうな……。
『――“給料を削られている”!!』
『違うッ! どこのブラック企業やねん! 今は昭和どころか平成も過ぎてんで!!』
不正解を表す音と共に、司会者のキレのあるツッコミが飛ぶ。
食堂を映すVTRは今はストップ。
収録スタジオへと一時的に画面が戻っていた。
龍爪寺は間違ったことが信じられないといった表情で司会者を二度見している。
「凄いね……未だにクイズの正解が0だなんて……」
二人揃って、既に3問出題されていてこの成果。
流石に赤星も呆れて苦笑いを浮かべていた。
ピンポンっと解答ボタンの押された音。
木田が前のめりになりながら答える。
『“実は裏で皿洗いを……”』
全てを答える前にブブッーと音が鳴らされ、解答が遮られる。
『何でなん!? “社員の皆さんが食堂を安く利用できる理由”やで!? これ放送されてお叱り受けんの多分僕らなの!! 君ら実は僕らの仕事奪いに来てるやろ!?』
鋭いツッコミが飛び、スタジオに笑いが起こる。
お手伝いMCを務める逆井と皇さんも、それぞれ面白そうに笑っていた。
『おいおい、木田っち、頑張れぇぇ! ゲストで正解0は流石に前代未聞だよ~!』
『お、おおぉぉ! 任せろ、さ、逆井っ!』
逆井の純粋な応援の声が届き、木田があからさまに嬉しそうな表情に。
……一応アイドルなんだから。
その弾けるような笑顔、もう少し何とかした方が良くね?
「……まあ、梨愛は木田君のこと、殆ど念頭にもないだろうけどね」
赤星の言葉に、俺もそうだろうな……と画面を見る。
映像の逆井は純粋にテレビを盛り上げようと、明るくはしゃいでいるような感じだし。
「だろうな……」
思ったことを呟くと、何だかまたジトっとした視線を察知する。
そろ~っとそちらの方を向くと……3人が、同じような表情を浮かべていた。
……え、何?
「新海君、他人事だね……」
「ですね……」
「うん……」
え、いや他人事ですやん!
何でや工藤!?
どういうこっちゃねん!!
その後、“食堂を営むテナントに福利厚生費からその分が出されている”という答えを聞いた木田や龍爪寺から……。
『え、“テナント”……?』
『“福利厚生費”……って何? どういうこと?』
という言葉が出て、俺達の空気が更に微妙なことになった。
……おいぃぃぃ。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『うぅぅ……緊張しますね、六花さん』
『そうねぇ。大企業の社長室だなんて……律氷ちゃんは入ったことはあるの?』
逸見さんにそう尋ねられ、皇さんは首を横に振る。
そして今まで案内役を務めてくれていた広報課の偉い人に視線を向けた。
『え、あ、いやいや! 僕は勿論入ったことはありますよ? でも、社長もお忙しい方ですし、そう何度も何度も訪れるような場所でもないですから……』
男性はそう言って、本日何度目かになるチラ見を発動。
そしてこの回だけで既に幾度も笑いを誘ったお願いを、冗談交じりに皇さんへと頼み込んだ。
『僕にも10歳になる娘がいるんです! どうか今日の案内役の評価の方、何卒御贔屓に社長へとお伝えくださいますようお願いします!』
『いや、ですから、私は父に対して全く影響力を持っておりませんから!』
皇さんのその返しも、もう何度も同じ文言でなされていた。
なのに、やはりもう既に定番のようなやり取りになっていて、テレビも、そしてこちらでも穏やかな笑いを誘った。
「ふふっ……面白いね」
「ええ……」
リヴィルとラティアにも分かるような笑いの性質だったらしい。
クイズの時の何とも言えない空気は既に霧散していた。
「律氷ちゃん、会社に入っても距離を置かれるどころか、マスコットみたいに可愛がられてたね」
「だな……」
赤星の言う通り、このVTR内では社長の娘だからとあからさまに持ち上げられることは無く。
本当に純粋に、アイドルとして頑張っている皇さんを社員の人達も分かっていて、大歓迎していた。
そんな様子が見ているこちらにも伝わって来て、何だかほっこりする。
「意外にいい番組、作ってるでしょ?」
携わっている側の一人として。
赤星がそう尋ねて来る。
俺は画面を向いたまま、それに答えたのだった。
「……ああ。これからもまあ、出来るだけ見るようにはするよ」
「うん、ありがとう」
その回答で満足してくれたのか、赤星は小さく笑い、それ以上は何も言ってはこなかった。
『――お待たせしました、“シーク・ラヴ”の皆さん。私が社長の“皇律志”です』
CM明け。
とうとう、皇さんのお父さん――パパんが登場した。
すいません、今後の更新予定なんですが。
できるだけ更新はして行こうとは思っています。
ただ、5月の中頃に本当に大事な大事な試練が待ち受けていまして。
その準備のために更新できない日も出てくると思います。
2日に1回は何とか更新できると思いますが、それ以上に厳しくなるようでしたらまた予め周知するようにします。
勿論そちらの方が片付けば、また頻度は戻せると思います。
――――
「……あん? 何だ、これは……」
レイネは未だ慣れない手つきで、マウスを動かす。
ラティアから借りた共用のノートパソコン。
ちょっと調べることがあって、いじっていたのだが、その際、変なところをクリックしてしまった。
それはファイルなのだが、それには“極秘計画ファイル”との名称が付されていたのだ。
「……んだよ、極秘って……更新日は……昨日?」
レイネは危なげな手つきで動かしながら、それを確認。
そしてメモには昨日の使用は2人分が記されていた。
ラティアが朝で、夜には“ルオ”が使っている。
つまり、この保存記録と照らし合わせると、ルオが……。
「……何か、危ないことしてないかの、確認だけだから」
そう自分に言い訳しながら、レイネはそのファイルを開いていった。
「なっ!? 何だよ……これは!?」
そこには、写真データが沢山保存されていた。
その写真データを見ると、どれも破廉恥な恰好をした女子が映っていたのだ。
「しかもこれ……全部隊長さんの部屋じゃねえか!!」
自分が良く知っている部屋で撮影されたのだと、レイネは直ぐに分かった。
何故か……については言及しないとして。
裸で主人の布団を被る志木。
主人のシャツに裸で袖を通す志木。
そして、素肌のまま、そのお尻で主人の椅子に座る志木。
……要するに全部ルオである。
「……あ、あたしが、……あたしが何とかしないと!」
ルオの能力について説明は受けていたし、実際に目にしたこともある。
しかし、レイネは思い間違いをする。
ルオが変な趣味に走ってしまっている。
そして、このままでは主人とルオが、爛れた関係一直線だと。
「何か……何か手はないのか……」
そうしてレイネは、検索履歴へとたどり着くことに……。
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