143.忖度問題……のはずなのに。
お待たせしました。
ではどうぞ。
『――本日は今大活躍中のRaysから、龍爪寺彰君と、木田旭君の二人に来ていただきました!』
アイドルらしく着飾った二人が収録スペースへと入ってくる。
『フッフッフ……俺だぜっ! テレビの前の皆っ!』
カメラに向かって、日朝ライダーがやるような決めポーズをとる。
おぉぉ……司会の芸人さんたちですらちょっと引いてるぞ。
あっ、皇さん! これテレビだよ、笑顔笑顔!
収録だろうから今言っても意味ないかもだけど!
ふぅぅ……何か見てるこっちが冷や冷やしてくる。
えーっと、木田は……。
『チーッす! 木田ッす! よろしくチャンだぜ~!』
……5人グループから2人……何故この2人をチョイスしたんだ。
まだ立石の方が色々とマシだろうに。
梓は確かもう一人の藤さんって人と来週に出て、町ロケでファッションチェックしたVTRを見るんだと言っていたな……。
……やべぇ、来週は来週で不安だ。
『おぉぉ! 木田ッちだったんだ! 立ゴンが来ると思ってた!』
そんな中、逆井はあまり気にせずゲスト達を歓迎していた。
まあ、逆井はそういう奴だよな……。
「まあ収録だからね、彼らが何かやらかしても、編集で何とかなるでしょ」
赤星……それフォローしてるようでちょっとディスってる?
それから簡単にだが、Raysの紹介がなされる。
そしてゲストの二人個人の紹介に。
『木田君は同じくメンバーの一人、立石君と共に、男性でダンジョンを攻略した初めての人物として、最早知らぬ人はいない、スーパー高校生です!』
『いや、んな褒められると、ちょっと照れ臭いな~! んま、そんな感じでやってます!』
木田の返答を聴き終わる前に、何故か赤星がこっちを見てくる。
「……“男性でダンジョンを攻略した初めての人物”だって。新海君」
「……らしいな」
「テレビで言ってるんだから、それが一般的なことなんだろうね……」
「えと、ああ、まあ、そうなんだろうな……」
俺は素知らぬフリをしてテレビ画面を見続ける。
……だが、珍しく赤星からジトーっとした視線を感じた。
更にラティアとリヴィルからも同様の視線が放たれ、加勢となって突き刺さってくる。
「“そんな感じでやってます”……なんて言ってるけど?」
「へぇぇ……木田の奴も、頑張ってるんだな」
……3人からの視線に耐え兼ね、堪らず画面を指さした。
「ほっ、ほら! 次は龍爪寺だぞ! さあ、何を言ってくれるんだろうな~!?」
「……逃げた」
「……逃げましたね」
「……逃げたね」
自分でも白々しく感じる程だったが、上手く切り替わってくれた。
『龍爪寺君はRaysのリーダーで、番組中にその最後の一人として発表があり、話題となりました! 若者や、特に女性から絶大な人気を誇り、その野性味溢れるマスクとカリスマで、女子はもう彼にメロメロに!!』
『OK! どうも、紹介ありがとう! フッ、ただ俺の魅力は言葉だけでは語り切れない――そうだろ? お嬢さん』
奇妙な動きを加えて自己主張を繰り返す龍爪寺。
ようやく静止したかと思うと、いきなり皇さんへと話を振る。
……お前色々と忙しいな。
『――え? えーっと……言葉って、時として不自由な部分がありますからね。龍爪寺様を的確に表現する言葉は中々見つからないかと』
一瞬ビクッとしたものの、皇さんの立て直しは早かった。
物凄く上手いこと言って、良く分からない同意の要求をヒラッと回避する。
凄い、猛牛の突進を見事にかわしてみせる闘牛士のようだ。
……皇さん、滅茶苦茶上手く言葉使ってるじゃん。
『だろう!? ああ、もう、もどかしいぜ!』
勝手に都合よく解釈してくれたらしく、また謎の体の動きを加えて自己表現。
……え、何、動いてないと死んじゃう魚類なの?
それとも何かの儀式?
どこかの一族で伝承されてる踊りでも踊ってんの?
……クソっ、ツッコむまいと思っているのに、いつの間にかツッコんでしまっている。
ほんと、ある意味見ていて飽きない奴だった。
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早速彼らを交えたコーナーに移った。
ダンジョン攻略を支えるダンジョン探索士・企業を応援しようという企画。
毎度違った人や企業に焦点を当て、それを紹介する過程でクイズを出すというものだ。
今回はゲストもRays……まあ、一般的には豪華ということで、対象もまた、かなり大物らしい。
『さあ、では、行ってみましょう。今回は、何と、何と! あの大企業に潜入することに成功しました!!――んんん~VTRっ、スタート!!』
司会者の言葉とほぼ同時に、画面が移り変わる。
まず、街中の巨大なビル。
どこか既視感のある、天まで聳え立つんじゃないかと思うほど立派な建物だった。
そこを数秒映して、カメラが下へと移動。
司会者や逆井達は左上のワイプからVTRを眺めている。
ビルの入り口には、3人。
別の日にロケをしたのだろう。
そのどの人も、俺達の知っている人物だった。
『――さあ、やってまいりました! いや、本当に! 私、今日この会社さんにロケって聞いて、ビックリしました! ねえ、六花さん?』
『そうね……美洋ちゃんは勿論、誰もが一度は聞いたことのある、日本を代表するような大企業だもの……私も今、かなり緊張してるわ』
そう言って登場場面を進行する二人。
勿論彼女たちもシーク・ラヴのメンバーで、片方とは面識もある。
椎名さんとの話でも偶に出てくる逸見六花さん。
そして、同じく現役大学生の飯野美洋さんだ。
そして、今日そのビルを訪問する人物は二人だけではない。
『本当……これ、何かのドッキリとかじゃないのよね? “皇グループ本社ビル”にお邪魔できるなんて……――ねえ、“律氷ちゃん”?』
ロケのメンバーの3人目――皇さんは、むずがゆそうな表情で、逸見さんの問いに頷いた。
と、同時に、画面左上のワイプがスタジオの皇さんを映し出す。
そちらは……ちょっとムスッとした感じの顔に見えた。
……何か、ロケであったのかな?
「へぇぇ……ということは、律氷ちゃんの逆家庭訪問、みたいな感じなのかな?」
「あ、だね。リツヒ、緊張してるっぽい」
赤星とリヴィルが楽しそうに話す声を聞きいていると、画面が突然、スタジオに戻る。
司会の芸人さんが映し出された。
『――さて、早速ですがここで問題です! 今回スポットライトを当てる大会社“皇グループ”さんですが、ここと、とても縁深い人が一人います。では、それは一体誰でしょう!?』
「え…………これ、どういうことでしょう? 何かの……暗号?」
クイズの問題を聴いたラティアが深刻な表情になってそう呟く。
それを見て、俺達は小さく笑う。
「いやいや、難しく考えすぎなくて大丈夫だぞ? 最近のテレビはこういうの、ゲストへのちょっとしたヨイショや忖度問題として出すんだよ」
「うん。まあ簡単すぎるから、正解した方もあんまり達成感みたいなのはないけどね」
実体験でもあるのか、赤星がそう補足してくれる。
俺達の話を聴いて、ホッとするラティア。
「そうですか、良かったです……」
そうして皆で再び画面へと視線を向ける。
だが――
『…………』
『…………』
――解答ボタンが、押されない。
台の前に立ったまま、眉間にしわを寄せた木田。
一方、瞳を閉じて、何か降りてこないかと念じているような龍爪寺。
……え、マジ?
その後、時間オーバーになり、司会者から『えー……正解はここにいる“皇律氷さん”でした! っていうか、社長さんの娘さんです!』と告げられる。
『いや、頼むよほんと! この番組のスポンサーさんやからね!? 1年と持たずに冠番組終わりたくないよ、俺は!』
そのフォローでかなりの笑いが起きて、その場は何とかなっていた。
だが、こちらの空気は物凄く微妙になったのは言うまでもない。
……木田と龍爪寺ぇぇぇ。
――――
「……んにゅ?」
ルオはノートパソコンを前に、首を傾げた。
ルオ自身が私用で使うことは殆どないのだが、今日はこれを使ってやることがあった。
その合間、息抜きに大手通販サイトを見ていた時。
ログイン後の購入履歴に目が行ったのだ。
4人で共通のパスワード、アカウントだった。
「えーっと……前の使用は……リヴィルお姉ちゃんか」
メモに書かれた最後の使用者を特定。
それを念頭に置き、ルオは上から直近の購入品を、何とはなしに見ていった。
「注文の日付……“昨日”。書籍かな? ――“酔って記憶のない中で、貴方と一夜の過ちを”。“クーデレが圧倒的強者である理由”。“表情に乏しい貴方でも出来る、コスプレで彼を誘惑する7つの秘訣”」
ルオは全ての意味を理解できたわけではない。
しかし、これはあまりツッコまない方が良さそうだと直感的に認識した。
そしてその注文は同時に、際どいコスプレ衣装幾つか購入されている。
際どい部分まで肌が出るバニーガール。
前部分の丈が短いチャイナドレス。
そして何かのアニメキャラとタイアップしたレースクイーンのコスプレ。
「…………」
ルオは顔を真っ赤にして、両手で視界を覆う。
ただ……指の間から、またチラッと。
また隠し、チラッと見る。
……ルオは最近、誰かの教育の賜物か、好奇心が旺盛だったのだ。
――――




