140.のんびりとした時間を、5人で……。
お待たせしました。
ではどうぞ!
「ただいま~っと……」
冬休みが終わり。
期末試験も上手いこと乗り切って家に戻って来た。
昼には帰ることができるので、意外に試験期間は好きだった。
「“試験終わった。かなり感触はいい。助かった”っと」
文面を簡潔に書き終え、メールを送信。
靴を脱いで、リビングに上がる。
ソファーに体を投げて落ち着くとすぐに返信が来た。
「うっわ、はやっ!? 志木の奴何なの、アイツああ見えて暇なの?」
今はそれらの管理が厳しい全寮制の学院外にいるのか、メールも椎名さん経由ではなく志木本人のものだった。
中身を見てみる。
『そう。それは良かったわ。貴方には少しでもいい成績をとっておいて貰いたいから。協力した甲斐があったというものね』
……というか、かおりんさん、今更だけど俺用に試験対策の問題を纏めて送ってくるとか本当暇なの?
何か志木的には、俺にかなり良い所の大学を受けさせたいらしい。
直接言われたことは無いけど、解いた問題の中に、難関大学の過去問が混じっていたのに気づいた。
だからなのか、試験の一月くらい前になると、それ用の問題とかテキストを送りつけてくるのだ。
何でや……俺別にそこまで賢くないんだけど。
志木なりに、俺の将来とかを気遣ってくれてるのかね……。
色々とダンジョン関連では志木の頼みとかも聞いてきたし、それを気にしてるのかも。
大学なぁぁ……自分が楽しいキャンパスライフを送っている姿があんまり想像できないし。
乗り気ではないんだが。
「まあ勉強を手伝ってくれるってのなら、それは有難く受け取っとくけど……」
でも良い所卒業しても、最近はあんまりそういうの昔ほどは重視されなくなってるだろうし。
出身大学を気にするのなんて、それこそ良い所のお坊ちゃんお嬢さんのご両親とかじゃね?
うちは両親ともに有難くも放任主義だからな……。
そうしてスマホをいじっていると、上の階から誰かが降りてくる足音が聞こえて来た。
かなりドタドタと慌ただしく、聞き慣れないことからして、これは……。
「――たっ、隊長さん! お、お帰り! 早かったんだな、帰るの!?」
「……どしたん、レイネ。何か……顔赤くない?」
ちょっぴり息も荒い気がするし。
……何かやってたのかな?
「は、はぁ!? いや、別に何でもないから! うん、何も、何もしてなかった、何も!!」
…………。
滅茶苦茶“何もしてなかった”を強調するじゃん。
まあいいけど。
同じ家に暮らし始めてから10日は経ったとはいえ。
やはりそれぞれのプライバシーは尊重してあげたい。
そう言う細かな気遣いこそ、長く一緒に過ごしていく秘訣なんだと思う。
「そうか、まあそれなら何も言わんが……」
この話はこれで終わり。
そう思って立ち上がろうとする。
そこに、あの精霊がゆっくりとリビングに入って来た。
『パコ~。レイネ、ドアは閉めなくても良かったパコ? このままだとハルトが出ていった時と帰って来た時とで状況が違って――』
「ッ!!――」
精霊が言い終わる前に。
降りて来た時と同じような物勢いでレイネが駆けだす。
そして階段を駆け上がる音が聞こえたと思うと、バターンッと扉を閉める音がここまで聞こえて来た。
…………。
数秒して、またレイネが降りてくる。
「隊長さん、早かったんだな、帰るの。もう少し遅いものかと思ってたな!」
「え、もう一回初めからやり直すの!?」
一瞬タイムリープでもしたのかと思ったぞ……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「――あっ、レイネ、それはこう切るんですよ、あまり力を入れなくても、スッと切れますから」
「え? そうなのか? んっ、ちょっと難いな……ラティアは上手いよな、手慣れてるっていうか、テキパキしてるっていうかよ……」
「フフッ。私も最初はあんまりでしたから……。直に慣れますよ」
「そか……そう言ってもらえると助かるよ」
キッチンから、ラティアとレイネの声が聞こえてくる。
同室で、更に同い年ということもあって、二人は直ぐに打ち解けてくれた。
今も仲良く夕飯の支度をしてくれている。
時間に余裕があるからか、今からの仕込みとなっていた。
「それにしても……」
『パコッ? どうしたパコ、ハルト?』
ソファーに腰を下ろし。
俺は隣で漂う精霊に視線を向ける。
レイネに付いてきたコイツは今ではラティア達からも受け入れられている。
勿論その姿を認識し、コミュニケーションを取っているということではなく。
だがそれでも、レイネや俺が精霊を見ることができて、そして今も家の中にいると教えると、普通に受け入れられたのだ。
特にリヴィルは「そう、まあ悪そうなオーラは感じられないし、いいんじゃない?」と積極的な肯定の意見を出してくれた。
やはり見えはしなくても“導士”の“導力”ってのはそういう察知する能力に秀でているんだろう。
そんなことをつらつらと考えながらも、精霊を人差し指でツンツンと突いた。
「お前……何か最初会った時より萎んでないか?」
何か今はピーチ・ハートというよりは。
タバコの吸い過ぎで傷んだ肺の模型でも見せられてるみたいだ。
結構グロテスクに見える。
それでもレイネは普通に可愛いって言うから、謎なんだけど……。
『パコ~。以前にも言ったかもしれないけど、この世界、魔力がかなり薄いパコ。パコ達みたいな精霊にとっては存在を維持するだけでも辛い環境なんだパコ~』
「ああ……確かにそんなこと言ってたな」
魔力が最初から溢れている異世界とは違い。
この地球は元々は魔力が無かった。
そこに魔力というエネルギーを蓄えた、ダンジョンという箱・構造物がそのまま輸入されたみたいなもんなのだ。
だから、一度ダンジョンの外に出ると、そのダンジョンから漏れ出た魔力を元に精霊は存在を維持するしかないと。
『パコ。精霊はこの世界にもまだまだいるはずだパコ。でも外は中々居辛い場所だから、いるとしたらやっぱり前みたいに魔力の濃いダンジョン奥だと思うんだパコ』
「なるほどな……」
つまり、今後もレイネは精霊と仲良くなるためには精霊と出会わなければならない。
ただその精霊は普通にそこらへんを探してもいるわけじゃなく、ダンジョン奥がいる可能性は高いんじゃないかと。
そうすると、今後ダンジョン攻略は織部をサポートすることと同時に、精霊を探すことにも繋がるというわけだ。
「――ただいま」
リヴィルの声だ。
玄関の扉が開く音と共に、賑やかな話し声が届いてくる。
「ただいま……あれっ? ご主人の靴あるよ!」
「ルオ、今日で試験が最後って、マスターが朝言ってたでしょ?」
「そうだっけ? えへへ……ご主人! ただいま!!」
ルオは玄関から直ぐにリビングまで駆けて来た。
顔を覗かせ、俺の姿を認めるとソファーの後ろから飛び込んでくる。
「うわっ、お帰り……ただ、首はちょっと勘弁してくれ。締まる」
「えへへ……」
と、笑いながらも首に回した腕を離してくれない。
「ただいま」
「……おう、リヴィルもお帰り」
後から入って来たリヴィルはキッチンを一度覗いた後、こちらに戻ってくる。
そして椎名さんから支給されているスマホを取り出す。
それからササっと何度か操作して、地図アプリを表示させた。
「マスター。ルオと二人で出かけたんだけど、幾つかダンジョン見つけた。場所を記録しといたから」
「お、そうか、分かった」
俺も横に置いていたスマホを持ち、リヴィルの方の画面に記されていた〇を追いかける。
そして、自分のスマホに同じ印をつけておいた。
全部で3つか……結構多いな。
「――二人とも戻りましたか。丁度いいです、おやつにしましょう」
そういってキッチンから顔を出すラティア。
振り返ると、レイネがお盆を持ってこちらに来る。
二人でリビングにそれを運んで、テーブルに置いた。
「簡単にですが、プリンを作ってみました。ご主人様はお茶で良かったですか?」
「ああ、ありがとう」
試験期間中はコーヒーばっかりだったからな。
そういうところも見ていて、気を使ってくれたんだろう。
一人一つプリンが配られ、飲み物もそれぞれ手に取る。
皿を少し左右に動かすだけで、プルンプルンと揺れた。
カラメルもきちんと作られていて、プリンの頂上の平ら部分は美味しそうな茶色に彩られている。
「じゃあ食べようか――」
スプーンで一掬い。
簡単に切れる。
口に運ぶ。
……うん、丁度いい具合に甘い。
「美味いな……」
「フフッ、そうですか。ありがとうございます!」
嬉しそうに笑って、ホッとしてから。
ラティアも自分のプリンを口に運んで行った。
リヴィルはあまり顔色を変えないが、黙々と食べ続けているところを見ると、美味いんだろう。
「うぅぅ……美味しかったから、直ぐに食べちゃった……」
誰よりも早く食べきってしまったルオは、そのせいで楽しみが早く終わってしまい、しょんぼりしている。
「……ったく、しょうがねぇな……ほらっ、半分やるから」
レイネはそういって、自分のプリンを器用にスプーンで縦に割り、ルオの皿へと移した。
「え!? 本当!? うわぁぁ、やったぁ!! ありがとう、レイネお姉ちゃん!!」
「……いいから、さっさと食っちまえ、じゃないと、気が変わって返してもらうかもしれないぞ?」
「うん!」
……何だ、いいお姉ちゃんしてんじゃねえか。
そうしてのんびりとしながら。
5人での時間を楽しんだのだった。
すいません、感想の返しは明日の午後には時間を取れると思うので、その時に!
ちゃんと読んではいますので、もう少しだけお待ちを!